238:【VERITA】迷い込んだ集落
前回までの「DYRA」----------
またしても、目の前で逃げられた! 今度こそ逃がすものか。DYRAとタヌは、ピッポを追って地下通路をひたすら走る。一体どれだけ走ったのか。ようやく出口が見えてくる。
(ここ、どこだろう?)
周囲をぐるりと見回すと、微かに明るい側と反対側に大きな森が見える。タヌはこれが恐らく、あの森だろうと察する。
DYRAに合図しようとタヌが思い立ち、もう一度井戸へ戻ろうとしたときだった。
「あっ!」
井戸の底から青い花びらが、続いてDYRAが蛇腹剣を手に舞い上がり、姿を現す。彼女が井戸の横に降り立つと、蛇腹剣が青い花びらを舞わせながら霧散する。
「は、はやっ」
「剣を上段の梯子の足に巻き付けて、巻き取っただけだ」
意外な上り方に、タヌは目を丸くして驚いた。
「あ、そうだ。DYRA、あれ見てよ。灯りが見えるんだ」
「行こう。もし見ず知らずの誰かに見つかったら、私が話す」
「うん」
方針を決めたふたりは、灯りが見える方へと歩いた。森を背に歩くと、ほどなくして少し先に木でできた高い柵が見えた。まるで区画全体を囲むような大きな柵は、遠目に見ても、その向こうにあるレンガや石造りの家々と高さが変わらないか、それ以上はある。一方で、柵には2、3か所、扉らしきものがあった。一体ここはどういうところなのか。遠くの方からサーッと水か、波を思わせる音が聞こえてくる。
「DYRA、見て」
タヌが小声で呼びながら、柵の向こうを指差した。
「レアリ村より、何か寂れている感じだよ」
タヌの言葉で、DYRAは柵の向こう側にある建物をじっと凝視する。家々の外側が焼かれたらしき黒い跡が松明の炎に照らし出されている。ただ、馬小屋だけは焼かれた形跡がない。火災後に作ったか、または作り直したものではないか。DYRAはそう考えた。だが、馬がいるかどうかはここからでは見えない。
「村、いや、集落か。家の前に皆、松明がある。一応。人が生活しているのだろうな」
話している間にも空が少しずつ明るくなり、DYRAとタヌはお互いの顔やあたりの様子がよりハッキリと見えるようになった。ふたりとも、服が泥と埃とで汚れていた。
「あ、朝だ」
DYRAはもう一度、柵の向こう側や森の方を見る。この集落が森の東南側に位置していると気づいた。
(地図で確認したいが、海が近いのか?)
DYRAがあれこれ思い巡らせるときだった。
「誰かいるぞー!」
突然、柵の向こうから声が聞こえた。みすぼらしい服を着た男だった。その声を合図に家々から次々と男たちが姿を見せる。何人かの手には鍬や棍棒らしきものが握られている。DYRAはタヌを守らなければと身構える。
だが、現れた面々は誰ひとり、柵の外へ出てくることはなかった。
「大丈夫だ。若い女と子どもだけだ!」
出てきた男の1人がそう告げると、鍬や鋤を持って出てきた面々はそれらを家の前に置いた。その間、最初に声を出した男が柵の前に近づいてきた。
「何しにきた」
若い男がDYRAたちへ声を掛けた。外に出てくる様子がないのを察すると、ふたりもおそるおそる柵へ近づいた。
柵の向こうではさらにあと2人、男が近づいてくる。DYRAは柵越しにいる3人の男と、その後ろで見守る男たちを観察する。彼らは全員、アレキサンドライトを彷彿とさせる緑とも紫とも取れる瞳と、髪が特徴的だ。土気色の肌は屋外生活で多少日焼けした感じだからか、一層顔色が悪く見える。髪の長さは多少ばらつきがあるが、極端な長髪はいない。皆、短髪か、申し訳程度に結べる程度だ。
DYRAは見た瞬間、本能的に不快感を抱いた。だが、今はピッポを捜すために彼らが何かを知っているなら聞かなければならない。それ故、グッと堪えた。
「迷った、だ?」
最初の男が交渉役よろしく、柵越しの話相手となった。
「聞きたいことがある。ここに、男が1人来なかったか? この子と同じ、茶色い髪の……」
「!」
「──!」
「!?」
DYRAが言い終わるのを待たず、3人の男たちがバケモノか何かでも見たのか、さもなくば信じられないとでも言いたげな奇声を発した。これにはふたりも驚いた。
「えぅぁ?」
あまりの大声に、タヌはビビった。
改訂の上、再掲
238:【LAFINE】口答えする売春婦? 2022/08/08 20:00
238:【VERITA】迷い込んだ集落 2023/02/08 15:17