237:【VERITA】ピッポを追え!
前回までの「DYRA」----------
東の果てにある建物にタヌの父親ピッポがいた! ふたりに気づいたピッポは飼い慣らした獣をけしかけるが、DYRAの相手ではない。今度こそ身柄を押さえようと迫るが、またしても……!!
DYRAとタヌは長い階段をひたすら下りた。体感で1階や2階とは思えない。どんなに少なく見積もっても、地下3階とか4階、もっとだろうか。途中、扉をバタン! と閉める音が聞こえた。階下に扉があり、ピッポがそこを潜ったのだろう。二人は急いだ。
下りきったふたりは、目の前に現れた分厚いガラスを鉄の枠にはめ込んだ扉の、丸い取っ手に手を掛けた。だが、開かない。ガラスの向こうは長い通路になっているのが見える。
「鍵が……!」
「これ……!」
タヌが取っ手の下を指差す。そこには取っ手と同じくらいの幅をした黒い板がはめ込まれていた。そこには二列で0から9までの数字が整然と並んでいる。DYRAは知らないが、タッチパネル式の鍵だ。
「何だ、これは」
DYRAが驚いた顔で尋ねた。タヌは並んでいる数字の板を見るや、ハーランに攫われたときのことを思い出した。
「数字を押して扉を開けるヤツだよ。これ。良く似たのがハーランさんのところにもあったもん」
「正しい数字がわからないと、開かない、そういうことだな?」
「そ、そうだよ」
DYRAは数字が描かれた板を見ながら考える。仮に4桁程度でも1万通りだ。試している暇はない。
「タヌ。下がっていろ」
「え、あ、うん」
言われた通り、タヌが階段を2段ほど上がって距離を取ると、DYRAは扉に手を押し当てた。同時に、その手の周りから凄まじい量の青い花びらが舞い上がった。
タヌはDYRAが何をやっているのかわからなかった。しばらくすると、DYRAが扉から手を離し、足の裏を扉に押しつけるように蹴飛ばした。すると、鉄枠に填め込まれていたぶ厚いガラスがバッタン! と大きな音を立て、向こう側へ倒れた。
「タヌ。行こう」
ここでようやく、彼女が何をしたかをタヌは理解した。
(扉を錆びさせたんだ!)
ガラス板を挟んでいた鉄が錆びれば挟む強度が落ちる。割らないでも中に入ることができれば良い。そのため、鉄の経年劣化を誘発させてガラスを外したのだ、と。
扉の向こうの通路は、人が2人なら並んで歩ける程度な幅で、テカテカした廊下だった。
しばらく歩くと、行き止まりにあたった。今度は、分厚い鉄の扉が現れた。扉枠の上部には非常口を表すピクトグラムが描かれている。
扉の丸い取っ手を回して押し開ける。恐ろしく重かったが、タヌと二人掛かりで押して、ようやく開いた。
「あれ?」
扉の向こうを見るなり、タヌは何かに気づいた。
「ここ……ウチの井戸の下とかの、あれと同じじゃ?」
「地下通路」
目の前に広がっているのは、レアリ村の家にあった井戸の下に広がる、あの地下通路と良く似た道だった。だが、夜だというのに、あのときなどとは比べものにならないほど明るい。ヒカリゴケが壁や床にびっしり生えているからだろうか。さらに有り難いことに、石畳の床には今しがた作られたのが明らかな足跡があった。
「DYRA。これを追えば!」
タヌのハリある声に、DYRAは大きく頷く。
「歩けるか」
「大丈夫!」
「急ごう。幸い、しばらく一本道のようだしな」
ふたりは足跡を追って地下通路を走り出した。
時折、懐中時計に目をやっては、少しずつ休憩を取って進むこと数時間。最初に歩き始めたときと比べ、ヒカリゴケの量が減っているからか、少しずつ通路が暗くなっていた。それでも、ふたりの目が周辺の暗さに慣れてきたせいか、あたりを見るには困らなかった。長い移動だが、足跡がまだ続いている。逃げたピッポもまた、ここを移動し続けていることは間違いない。むしろ、逃げおおせたと思ったのだろう。足取りが少しずつゆっくりになっている。証拠に、足跡の形が最初の方と違い、だんだん、足の形がよりハッキリしたものになっている。
「あれ?」
前方に、微かに光が漏れているのを見つけると、タヌは声を上げた。指差した先は少し先で左折できそうだ。
「光?」
「もしかして、出口かな?」
「行ってみよう」
DYRAは、タヌの明るい声と、歩き通して疲れているはずなのをそんなことをおくびにも出さず歩く様子に頼もしさを感じた。
左折できる角がハッキリ見えたところで、DYRAは足を止めると、タヌへ口元に指を充てて静粛を要求した。タヌは歩くのを止めて、二度ほどコクコクッと頷いた。
DYRAは足跡を確かめる。足跡はここで切れていた。次に、角からそっと覗き見る。
(これは……)
上へと続くひどく錆びついた梯子があった。今したが使われた形跡もハッキリ残っている。足下に錆びた開閉式の扉もあるが、こちらに使われた形跡はない。
DYRAは梯子を掴むと、強めに揺らす。ほとんど揺れなかった。強度は十分だ。
「タヌ。ここから上へ上がれるようだ」
「DYRA。ボクが先にいくよ。身体小さいし」
足を滑らせる、などの不測の事態を考えれば、現実的だ。
「わかった」
「うん。大丈夫だったら外に出る。何か雰囲気悪そうだったら、戻る」
タヌは梯子へ歩み寄ると、慎重に、だがテンポ良く上った。
あと2、3段で上りきれるところで、タヌは気づいた。
(出口が丸いのに、上が四角い? ってことはまた、井戸っぽいのかな?)
外は朝が近づいているからか、少し明るかった。タヌは残りの段をゆっくり上ると、そっと外を覗き見た。周囲に人の気配はない。
(あっちの方が少し明るい。でも、何か見えるかな)
タヌは梯子を登りきって外へ出た。そこは使用感のない、埃まみれの古井戸だった。それでも、雨風避けの屋根がついている。
改訂の上、再掲
237:【LAFINE】見つからないわけだ 2022/07/18 20:00
237:【VERITA】ピッポを追え! 2023/02/08 15:15