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236:【VERITA】小さくて大きな決断

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌは、東の果てへ繋がる森へたどり着いた。迷うかと思いきや、事前のマイヨからの助けもあり、あっさりと通り抜けることができる。目的地は見えにくい奇怪な建物だった。本当に、ここにタヌの父親がいるのだろうか?

「うーん……」

 タヌは考えたが、答えとなる言葉が出てこなかった。DYRAはタヌの気持ちをいくばくかながらも察する。

「では、今、ふたつ、約束事を決めよう」

「うん」

「お前の持っている『鍵』だ。お前の父親には渡せない」

「そうだね」

 タヌは『鍵』のついたペンダントを外そうとするが、DYRAが止めた。

「奪うような真似をするなら、私はお前の父親でも容赦しない。ケガくらいさせる。良いな」

「えっ……こ、殺さないよね?」

「お前の父親がお前へ危害(・・)を加えるなら、そのときは確約できない」

 タヌの本懐は父親を見つけ出し、日常を取り戻すことだ。だが、DYRAはすでにそのピッポと会っており、彼にそんな気などさらさらないことや、『文明の遺産』入手などを目的とし、DYRAを手中に収めることを手段として設定していることを知っている。認識の温度差から出る齟齬をなくしきれないまでも、小さくし、約束事化して善後策を講じるのは必須だ。それだけではない。DYRAはRAAZから「優しすぎる」と言われたことも思い出す。あれが良い評価でないのは明らかだ。「優しさ」が仇になる状況を回避しなければならない。場合によっては、RAAZやマイヨ以上に冷たく、厳しくなる必要がある場面に遭遇するかも知れない。DYRAなりに考えてのことだった。

 そのときだった。

 カチャリ、という音と共に建物内のどこかの扉が開いたのか、光が漏れてきた。DYRAとタヌはハッとして、隠れることができそうな場所を探す。ホールの隅に演台を思わせる立ち作業用机を見つけると、DYRAはその下へタヌを押し込み、自身も身を屈めた。

 足音と共に、人影が見えてくる。DYRAはそれをじっと視線で追う。

(ピッポだ)

 背格好と雰囲気とから、見覚えある人物──タヌの父親、ピッポ──だと直感したDYRAは、一層目を凝らす。

 人影が足を止めた。

「ん?」

 不審な点に気づいたのか、つかつかと人影が外への扉へと近づく。そこで突然、ピタリと歩を進めるのを止める。

 タヌは人影の正体を覗き見て、一瞬、目を見開いた。

「その声、と、父さん!?」

「ん? ……ちっ!」

「ピッポか!」

 舌打ちの声と共にDYRAとタヌが飛び出したのと、ピッポが全速力で外へと走り出すのは同じタイミングだった。

 今、取り逃がすわけにはいかない。今度逃げられたら、どこを追えば良いかわからなくなってしまう。絶対に捕まえなければ。ふたりはピッポを追って外へ出た。外は先ほどまでの真っ暗闇ではなく、建物自体が柔らかい灯りのように輝き、周囲を優しく照らしている。

 外へ出るなり、大声が夜の森に響き渡る。

「お前ら! 掛かれ! あいつらを食い殺せっ!」

 ピッポが大声で言うと、先ほどは置物のように動かなかったアオオオカミが突如、DYRAとタヌに向かって襲いかかる。

「甘いな」

 DYRAは何事もなかったように、青い花びらを舞わせて2本の剣を両手へ顕現させるや、蛇腹剣を大きく水平に振るった。弧を描くようにサファイア色の刃が共に舞い、さらにその動きに応えるように、青い花びらが彼女の背中を守らんと猛烈な勢いで壁のように広がる。10数頭の獣たちは阻まれると同時に屍へと変わった。

「ぇぇっ……!」

 獣たちはもはやDYRAの相手にもならない。屍の山を前に、ピッポがほんの数秒前とは別人のように引き攣った声を上げた。

「ここまでだ。今ここで大人しく一緒に来るか、死ぬか、選べ」

 DYRAが蛇腹剣を手にした右手を、ピッポへ向ける。すると、鞭のようだった蛇腹剣の刃が直列状に変化し、刃の先端がピッポへ向けられた。

「くっ」

 タヌの声を聞くや、ピッポが条件反射的に逃げ出した。

「父さん!」

「待て!」

 DYRAは建物の外周沿いに走って行くピッポをすぐに追う。タヌも走る。

 建物の角が見えたときだった。ピッポが身をのけぞらせ、すぐにズボンのポケットから何かを取り出し、投げつけた。

 廊下に真っ白な光と大量の煙が広がり、視界が遮られた。DYRAはとっさにタヌの目を守ろうと庇った。

 ほんの数秒で、真っ白な光は消え、それまでの優しい光に照らされた夜の世界に戻った。DYRAは最後にピッポがいた場所まで走った。

 床にぽっかりと穴が開いており、そこは地下へ繋がる階段だった。

「タヌ!」

「行こう!」

 駆け寄ったタヌも階段を見ると、DYRAの手を引いて階段を下り始めた。


 DYRAとタヌが駆け下りていく瞬間を、少し離れたところで人影が見ていた。

(ふぅん。DYRAがあの親父を取り押さえると思ったが、この非常階段を使って逃げたとはな。……ヤツはあそこ(・・・)へ逃げる気か。面倒になりそうだ)

 人影はもうここには用はないとばかりに、赤い花びらを舞わせながら姿を消した。


改訂の上、再掲

236:【LAFINE】東の端で見たもの 2022/07/11 20:00

236:【VERITA】小さくて大きな決断 2023/02/08 15:13


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