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235:【VERITA】東の果てで見たもの

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌはルガーニ村の食堂で食事をしつつ、錬金協会の影響がここにまで及んでいないか、タヌを捜す人物が現れなかったか、店主に聞いてみた。やはりというか、案の定というか。ふたりは先を急ぐ。


 食堂の店主の助力で、馬を用意できたDYRAとタヌは、夜の道を一路、東へと走り出した。夜走ることでの余計な恐怖を与えないためと、ランタンの光で目を潰さないようにするため、目隠しをし、走ることに集中させたことが幸いして、レアリ村の東側、森への入口には思ったより早く着いた。幸い、随分使わなくなって久しい馬留め場が近くにあった。恐らくレアリ村がその昔、それなりの人口があった頃に使われていたものだろう。ふたりは馬をそこに繋いだ。

「森かぁ。昔、知らないで入りそうになっちゃったとき、すごい怒られたんだよね」

「そう、か」

 DYRAは懐中時計を取り出し、時間を確認する。11時を指していた。

「タヌ。森へ入ったら、私から離れるな」

 地図のない、東側の森を抜ける道順を知っているのはDYRAだけだ。タヌはしっかりと頷いた。

「急ぐぞ」

 ふたりは、森の中へ足を踏み入れた。ここでアオオオカミが出たら面倒なことになるかも知れない。とにかく急がなければならない。時間を無駄にするわけにはいかない。

 森は、恐ろしいほど静かだった。動物の鳴き声も、足音も何も聞こえない。考えようによっては、文字通りの「死の森」だ。

「本当に、道、大丈夫?」

 タヌが心配そうに声を掛けた。

「ああ。理由はわからないが、まるで生まれたときから知っているような感覚だ」

 DYRAは、時折確認するようにタヌの手を引きながら、森を進んだ。

(確かに、これは迷えば終わりだ)

 タヌは、DYRAが最短で迷路を抜ける道順を知っているかのようにすいすいと歩を進める様子にすごい、などと思う。一方、DYRAは歩きながら、朝、マイヨが何をしたのかを何となく理解した。自分の手を握ったら現れた金色の光に、地図という情報が入っていたのではないか。そしてそれはRAAZやマイヨたちの文明ならではの目印らしきものではないか、と。

「ねぇDYRA」

「何だ」

「この森、ランタンで照らしても、本当に真っ黒だね」

「そう、だな」

 理由はわからない。木の表皮も枝も、そして落ちている枯れ葉すらも黒い。だが、目を取られ、意識をまわしている暇はない。DYRAは時折タヌがいることを確認しつつ、黙々と進む。

「……あれ、か」

 時間の感覚がなくなりかけた頃、ふたりは、森の向こう側に微かな光を見た。出口だ。このときふと見上げた空は、森の黒さも相まって、モリオン(黒水晶)のような色合いだった。

「DYRA! あれ!」

 森から抜け出るや、視界に飛び込んできたものに、ふたりは面食らった。そして森が恐ろしく静寂だった理由にも納得した。

「あれは……」

 視界の先に、10数頭のアオオオカミがいた。襲ってくる気配はまったくない。横並びに座ってじっとしており、良く躾けられた犬のよう、いや、剥製さながらだ。

(見た感じ、死んでいるとは思えない)

 こんな数のアオオオカミが暴れ出せば人間の1人や2人、ひとたまりもない。森に踏み入れば生きて帰ることはできないとは言ったものだ。DYRAは何となくからくり(・・・・)を察した。教えられた森のルートから逸脱して動くものを察知すると動き出し、排除するのではないか、と。理由や理屈はわからないし、これを言葉で説明しろと言われてもできない。それでも敢えて言うなら、RAAZたちが属する文明ならではの仕掛けに支えられているのではないか。根拠を無理矢理でも探すなら、マイヨが道順を教えたその方法だ。少なくともあれは普通の人間相手に教え、教えられる方法ではない。

 横並びになったアオオオカミを見ながら、DYRAとタヌは森を背に、真っ暗なはずなのに、空間が歪んで微かに建物らしく見える方向へと進んだ。

「DYRA。何かヘンだよね? 建物があるような、ないような」

 景色にとけ込んでいるように見える。しかし、良く良く見ると、確かに四角い箱形の建物が存在する。平屋のようだ。見ようによっては、建物全体の色合いが銀色というより、風景にとけ込んでいる感じもする。タヌやこの文明の人々はもちろん、DYRAも知らないが、RAAZやマイヨ、ハーランたちにとって光学迷彩(メタマテリアル)はありふれた技術だ。

「建物は、間違いなくある。だが、見つかりたくないから隠している。そういう印象だ」

 ふたりは建物の外周に沿って歩き、光が僅かに漏れている箇所を見つけた。

「入口? ここに父さん、いやぁ、せめて中に誰かいるかな?」

「灯りがついているなら、可能性はありそうだ」

 壁沿いに歩いて見つけた扉は意外にも、平凡な引き戸だった。DYRAがそっと触れ、罠などがないのを確かめてからゆっくりと開く。施錠されておらず、あっさりと開いた。

 最初にDYRAが、次にタヌが「おじゃまします」と小声で呟いてから入る。


 扉を開け、建物の中へ入ったDYRAとタヌ。タヌが扉を閉めようとしたとき、DYRAが手を添えてそれを止めた。タヌは気づいていないが、DYRAは手を放しても閉まらないようにと、扉と枠の間に足も挟んだ。

「タヌ」

「何?」

「お前の父親がいたら、どうする?」

「どうするって……」

 今は再会を素直に喜べる状態ではないことはタヌも理解していた。が、いざどういう行動を取るかと聞かれると、ピンと来ない。

「お前の父親が、もし私を殺そうとする行動に出たら?」

 殺せるわけがない。タヌは即答しようとしたが、喉のところで言葉を止めた。質問の意図が違うと気づいたからだ。DYRAはさらに呟くように小さな声で続ける。

「お前の父親が、もしお前を殺そうとしたら?」

 父親が自分を殺す。そんなバカなことがあるものか。タヌは一瞬、言い返そうとしたが、喉の奥にしまった。日記を読んで以来の一連の流れを思い出したからだ。



改訂の上、再掲

235:【LAFINE】敵が、見えた 2022/06/27 20:00

235:【VERITA】東の果てで見たもの 2023/02/08 15:12



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