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233:【VERITA】DYRAとタヌ! 東へ、向かえ!

前回までの「DYRA」----------

ピルロの双子の施政者の再会の結果が出た。「わかりあえない」ことがわかり合えた、と。100年後の未来のために今暮らしを営む市井の人々に犠牲を強いるなど、絶対に許してはいけないのだ。アントネッラは腹を固めた。


 DYRAとタヌは、RAAZやマイヨと別れた後、一気に山を駆け下りて移動した。当然だが、移動ペースをタヌに合わせていたのではいつまで経っても下山できない。時間を無駄にはできない。どうせこんな曰くありげな山、誰も見ちゃいない。DYRAは何と、タヌを抱きかかえると、人も荷物も載せていない馬が全速力で走るが如き速さで移動、川を挟んでピルロの対岸で出て、道の駅パオロへ向かった。そこで馬を借りると、トルド村を含め、2か所の道の駅などで馬を交換、ペッレを経由して、ルガーニ村へ着いた今、時計の針は7時に迫りつつあった。空はすでにチャコールグレーに変わっていた。

「でも、DYRA。ボクを抱えて、すごい速さだったよね。重くなかった?」

「正直、そこそこ重かった。それでも、そんなこと言っていられなかったからな」

「ごめん。でも、ありがとう」

 下山中、DYRAは足下に青い花びらを舞わせながら走った。自らの能力を引き上げたことで、急激に消耗する体力や累積するダメージに対し、大地の生命力を吸い上げてそれを転換、回復させながら移動したのだ。

「ああ。とにかく時間を無駄にできなかったからな。ネスタ山を下山して、馬を借りた時点で11時。そこから馬を乗り継ぎながら走って、ペッレに着いたら夕方だった。それからここからさらに2時間近く使ったからな」

 馬車を使えば徒歩の半分程度の速さだ。馬ならもう少し短くなる。全速力かつ、乗り継ぐことで平均速度を落とさなければ馬車よりも速く移動できる。それでもこれだけ時間を要した。

「でも、ちょっと疲れはあるけど、馬車が揺れたときみたいな感じだけで、歩き通したとかじゃないから、足も全然動くし、大丈夫」

「馬を交換できればまだ移動できるが、現実的かと言われると」

 DYRAの言葉に、タヌは少し肩を落とした。正直、父親が追った先にいるかも知れないのだ。疲れたとか泣き言を言っている場合ではない。夜中になっても構わないから、早く行きたい。それが偽らざる本心だ。

「タヌ。いったん、面倒に巻き込まれずここまでたどり着けたことを良しとしろ」

 どの道、馬を休ませるか交換する必要がある。

「でも時間がないんだよね? RAAZさんの口振りとかからも」

 早く父親を捜さなければならない。もう、休み休みなどと言っていられない。悠長に休んで、ハーランに先を越されて最悪の結果になってしまったら、それこそ悔やんでも悔やみきれない。タヌは息を整えながら、首を横に振る。

(随分、変わったな)

 初めて会った頃の、失踪した両親を捜そうなどとは夢にも思いつかず、他者に依存して生きることしかできなかった少年はもういない。今いるのは、目的完遂のためにできる選択肢に限界まで挑もうとする行動力と胆力とを持ち合わせた、肝が据わった少年だ。DYRAはタヌがどこか危なっかしいところは残っているが、随分頼もしくなったなと感心した。

「夜中に森に入るようなことになるんだぞ? どれだけ危険か、わかっているか?」

 DYRAが問うと、タヌは気持ち強く頷いた。確かに、DYRAのようにアオオオカミを瞬殺するような力は持っていない。だが、灯りを始め、然るべき準備さえすれば、たとえ夜中でも進むことはできる。父親がもうすぐそこにいるかも知れないなら極端な話、森を焼いてでも道を作りたいとさえ思う。

「わかった。だが、『馬があれば』という条件になるぞ?」

「うん!」

 方針を決めたところで、ふたりは村に足を踏み入れた。少し歩くと、まだ灯りがついている食堂が見えた。木造で、自宅の一角を店にした感じだ。

「あれ。そう言えばここ、ボクが前、地図をもらったお店だよね」

 看板でまだ営業しているのを確かめると、タヌは扉を開いた。

「こんばんは」

「らっしゃーい」

 奥から声がした。4人席が四組入る程度の小さな店で、他の客の姿はない。カウンターを挟んで厨房があり、エプロンを掛けた、店主とおぼしき中年男性が皿洗いの手を止め、DYRAとタヌを見ている。

「おや」

 店主が懐かしそうな目でタヌを見た。

「きみ、前に地図をもらいに来た子だよね?」

「え、あっ……はい!」

「元気そうで良かった。ささ、奥の席へ。お連れさんも。入口の近くじゃ寒いからね」

 店主の勧めに応じ、DYRAとタヌは、店の一番奥のテーブル席に着いた。その間、店主は扉に『本日終了』の看板を掛ける。

「いやぁ、元気そうだし、何より、無事で良かった。ほら。ピルロが燃えたとか、地震があったとかで、ここのところ、色々大変だったからね」

 着席したふたりに改めて店主が話し掛けた。

「ああ、はい。おじさんもお元気そうで」

 タヌは小さく会釈しながら答えた。

「さて、ご注文は何が良いかな?」

 店主の問いに、DYRAが即答する。

「この子には、温かくて美味しいものを頼む。代金の心配は無用だ」

「えっ。すると、食べられないものとかは、特にない、で?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 タヌはそう答えると、店主が笑顔で頷いた。

「じゃ、美味しいものを作ってあげよう。そちらのお姉様は」

「私は野菜があれば良い。今は、肉を食べたら身体が重くなりそうで」

 いらない、と言えないDYRAが彼女なりに店主へ気遣っているんだろう。タヌはそれが良くわかった。

「食べられない野菜などはないで、よろしい?」

「ああ。案ずるな」

「かしこまりました」

 店主が告げると、DYRAは財布を開き、店主へアウレウス金貨50枚で代金を支払う。これには店主が驚いた。


改訂の上、再掲

233:【LAFINE】それでも信じる道を進む 2022/06/13 20:00

233:【VERITA】DYRAとタヌ! 東へ、向かえ! 2023/02/08 15:06



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