231:【VERITA】見てきたものが違いすぎる
前回までの「DYRA」----------
ルカレッリを助けたのはハーランだった! アントネッラは彼が難を逃れた顛末をにわかに信じることができない。話を聞くに連れ、兄はもう、自分が知る兄ではないかも知れないと思い始める。
「待ってよ! まるでRAAZだっけ? あの会長やマイヨこそ倒すべき相手みたいな言い方じゃないっ!! 髭面に何吹き込まれたのか知らないけど、お兄様こそ攫われて、ものの見方がおかしくなっているわよっ!!」
「君は知らないから無理もない。でも、君が言うマイヨって人こそ、『文明の遺産』を開く鍵みたいな存在なんだよ」
「確かにマイヨはどこか人間離れした雰囲気で、感情を一々引っ張らない。怖いくらいに色々と割り切りができる人。『文明の遺産』にかなり深く関わっている人かもってことも言葉の端々や振る舞いでわかる。でも、敵みたいに言うのは違うわ!」
「ふうん」
ここで、アントネッラはわかったとばかりにルカレッリを睨む。
「そういうこと? 錬金協会を乗っ取った騒ぎの後ろにも髭面がいるのね。マイヨは言ったわ。髭面は『絶対に排除しないといけない』って」
「乗っ取って? 僕たちの世界にちゃんと役に立つ組織へ変革して、だよ?」
「何言っているわけっ?」
「それだけじゃない。『文明の遺産』からたくさん学ぶために、僕たちは彼らと対峙するしかないんだ」
ここまで言い切ったルカレッリに、アントネッラは尋ねる。
「彼ら? 対峙? 殺すってこと?」
「彼らこそ、僕たちの世界そのものの足枷だ。彼らが何をしたか、わかっている?」
静かで穏やかだが、ルカレッリの、有無を言わせぬ迫力にアントネッラは息を呑む。
「『文明の遺産』があった時代が滅びて、再建して、その途中でもう一度なくなって、ボロボロになって。ここまではピルロにある図書館でも書いてあることだった。けど、続きがあった」
ルカレッリが続ける。アントネッラは聞くことしかできない。
「続きと言っても、それでも1300年かそのくらい前だけど。文明を取り戻しつつあったトレゼゲ島で『事件』が起こったんだ。何の前振りもなく、大地が枯れて」
どうしてここでトレゼゲ島が出てくるのか。話を逸らすつもりならそうはさせないと思いつつも、アントネッラはいったん聞くことにした。
「トレゼゲ島って、デシリオから随分遠いところじゃない。それがどうして繋がるのよ?」
「君がさっきちょっと言った、ラ・モルテ誕生の、瞬間の話だよ」
アントネッラは反射的にDYRAのことを思い出した。まさか、彼女がトレゼゲ島出身だったとでも言いたいのか。
「僕もハディットさんから聞いて、それで、トレゼゲ島にも連れて行ってもらった。そして調べた。1年あったからね」
「お兄様は……」
「身を隠している間、歴史をたどって、自分なりに調べた。トレゼゲ島って、当時は今よりもっと大きかったんだって知って驚いた。そして、今こうして暮らしている人たちの中には、島が滅びるからって命からがら逃げてきた人たちの子孫もいる」
「何ですって」
「だんだん忘れられた島になっていって。割と最近、トレゼゲ島に人がまだいるとわかって、交易での交流が始まっているけど、経緯はそんな感じ」
「トレゼゲ島はじゃ、その、ラ・モルテが現れるまでは……」
「今の僕たちの世界くらいには文明が再建されていたんだよ」
意外な話にアントネッラは驚きつつも、マイヨが敵扱いされなければならないこととどういう関係があるのかは、わからなかった。
改訂の上、再掲
231:【LAFINE】世界の見方が変わるとき 2022/05/23 20:00
231:【VERITA】見てきたものが違いすぎる 2023/02/08 15:03