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230:【VERITA】有り得べからざりし

前回までの「DYRA」----------

突然、アントネッラの前に現れたのは死んだはずの双子の兄ルカレッリだった。どうして生きていたのか。いや、どうやって生き延びたのか。喜んで良いのか。複雑な再会劇となる。

「それで、周年祭の直前に、アレッポが君を殺そうとする計画を知った。それで、僕と君が入れ替わることを提案したつもりだった」

 ルカレッリの肝の据わりように、アントネッラは返す言葉が浮かばない。

「でも、周年祭が始まったところで、ハディットさんが仮装して乗り込んできた。そして『今すぐ逃げろ』って。背格好の似た替え玉まで用意してくれて、僕をそっと連れ出してくれた」

 確かに自分も状況を利用した。だから、ルカレッリがやったことを責めるつもりなど毛頭ない。しかし、兄妹すらも利用し、自身を死んだことにすらできるとは。

「アレッポが父の代から街を乗っ取ろうと兼ねてから狙っていたことくらい、僕だって知っていた。けれど、錬金協会とも繋がっていたとはね。それで、僕はわざとアレッポへ御しやすそうに見せて、動向を丁寧に見ていた」

「アレッポはそうだったとして。……どうして? そもそもどうして髭面に?」

「錬金協会の軛を切るためだよ。協会との直接対決を持ってきたのはハディットさんなんだ。アレッポの尻尾を掴むためもあったし、父の代からの計画を僕が完全に引き継いでいることと、手順を間違っていないか確かめるためとか。色々。なのに、三つ編みの人が来たとき、アレッポがその時点で前のめってくれた。話し合いの後、君とケンカになって。そのすぐ後だ。人目を忍んでハディットさんが来た。誰がどこで聞いているかわからないから、寝室で筆談した。つまり本当に必要な情報は、ほとんど口ではしゃべらなかったんだ」

 ルカレッリからの説明を聞いてもなお、アントネッラは信じられなかった。

「僕を死んだことにして、錬金術で生き返るみたいな適当なハッタリで君の心を引っ張っちゃったのは、悪いことをしたと心から思っている。君を傷つけた。悲しませた」

「本当に、お兄様なの? 街がどんな目にあったか知っている? 髭面がアレッポと街を乗っ取ろうとして、私は殺され掛けて、マイヨに助けてもらって……」

「街のことは把握している。錬金協会の会長に派手に焼かれたって。そのあとは……」

 ルカレッリが言葉を濁す。

「今度は、君の話を聞かせて」

「ええ」

 アントネッラが厳しい表情で話を始める。

「街が焼かれて、錬金協会の人たちが助けに来た。私がマイヨと出会ったのは、そんなときだった。街を再建するのは街の人たちしかできないけれど、髭面の排除だけは手を貸す、って」

「マイヨ?」

「ええ。三つ編み。でも、彼は言った。『親戚は自分とそっくりの顔ばっかり』って。でも、考え方がそれぞれ違っているって」

「その人は、僕が会った人と同じ人じゃないってこと? あのケンカの後くらいから何度か見かけた、小間使い?」

 ルカレッリが問うと、アントネッラは首を横に振った。

「髭面とグルだったアレッポに街を乗っ取られそうになったとき、マイヨは私を助けてくれた。アレッポが私に銃を撃ったときもその身で楯になって、守ってくれた。パルミーロとか街の人で、マイヨと話したことがある人は、彼を信じるに値するって判断してくれた」

「アントネッラ。アレッポは勝ち馬に乗ろうとしただけだ。あと、その、君を助けてくれた人をどうこう言うのは心苦しいけれど……君が言ったマイヨだっけ? 彼だけど、錬金協会のあの会長とも、繋がっている」

「それは……正直、何となく知っている。錬金協会の会長は、なんかこう、協会を本当にまとめている感じじゃなかった。むしろ、『いる』ことに意義があって、実際に仕切っている人たちが勝手に動いていることに呆れている感じだった」

「君、あの会長、RAAZと会ったの!?」

「ええ。会ったわ。街を焼かれた日と、土砂崩れで大騒ぎになった日」

 話をしていて、アントネッラ自身、頭がついていけなくなりそうだ、などと思いながら、ゆっくりと続ける。

「驚いた。正直、あんな若い人だとは思わなかった。けれど、ラ・モルテ(死神)のこととかも含めて、私の中で何となく、色々繋がった気がした」

「錬金協会が『文明の遺産』を独占する理由は、この世界を支配するため。僕たちの『進歩したい、発展したい』って気持ちを阻むためだ」

「それ、ケンカしたときに私が言った言葉よね」

「そうだよ。君を巻き込みたくなかったから、『断った』って言った」

「何よそれっ!」

 アントネッラは思わず怒鳴り、席を立ってテーブルを手のひらで叩く。

「君を騙すようなことをしたのは本当に悪かった。街の人たちにも申し訳ない。でも、ここまで仕込まないと、僕たちが本当に倒すべき相手の正体を可視化できなかったから……」

 ルカレッリが言わんとすることをアントネッラは怒りと共に理解した。


改訂の上、再掲

230:【LAFINE】有り得べからざりし 2022/05/17 00:17

230:【VERITA】有り得べからざりし 2023/02/08 14:59


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