224:【STRADA】レッドラインの設定
前回までの「DYRA」----------
キリアンを店へ入れるサルヴァトーレ。やはり彼を雇っていたのは西の都の大公だった。そこへマイヨも現れる。ついに、西の都アニェッリの大公アンジェリカと取引交渉が始まった!
「見返りはまだある。紡績技術が出る。俺たちから見れば、ある意味この文明にとって目玉だよ。あれは文明を一気に進歩させる」
「どうしますか?」
具体的な提示が終わったところで、サルヴァトーレが確認するように問う。アンジェリカはすぐに頷いた。
「会長には『いったんそれで良い』と」
「わかりました。会長からはそこらへん預かっているので、話を進めますね」
サルヴァトーレが話を進める間、キリアンはその様子をじっと見た。
(コイツを出し抜くのはほぼ無理や。正体バラしたら絶対に命はないだろうなぁ。それに……)
キリアンが視線を向けた先は、扉の脇に立っていたロゼッタだった。彼女は無言のまま、視線だけでアンジェリカやキリアンを追い続ける。
(あの給仕のおばちゃんは、ヤバイ奴だ。一発で仕留められなかったらタダじゃすまなそうだ。あの会長の警護だろうな)
(絶対に、会長に面倒を起こす奴らだ……)
何気ない雰囲気の中に、違和感があるのをマイヨは見逃さない。
(ったく、どっちもどっち、か)
しかし、こんな空気の中であってもサルヴァトーレはなお自然体だ。その胆力にマイヨは内心、感嘆する。
(伊達に影からこの文明世界を見ているわけじゃないか)
サルヴァトーレは誰が何を思っているかなど特に興味ないとばかりに、淡々と続ける。
「では、ご協力いただけるってことで良いです?」
問いを聞くと、アンジェリカが黙って頷いた。
「これから皆のやることの割り振りですけど。まず、アンジェリカさんを無事に都へ戻さないと。そこで何でも屋さんには道中で頼みたいことがあるんだけど」
「おう。言うて」
「ひとつ目は、大公のニセモノを見つけて、とっちめてほしいんだ。殺さず、生かして連れてくることが必須だよ」
「ニセモンとは言え、一応、大公演じているんだから、警護がしこたまおるやろ」
キリアンが難しい顔でぼやいた。しかし、サルヴァトーレは構わず続ける。
「もうひとつ。ある人を捜して、連れてきてほしいんだ」
このとき、アンジェリカとキリアンは互いの顔を見合わせる。
「その人は、ピルロのレンツィ大公の娘で、市長役の……」
「双子の、小娘?」
すぐにわかったアンジェリカは口にするが、その声は訝しげだった。
「説明すると長くなるから事実だけをシンプルに。ハーラン、いや、錬金協会を乗っ取った黒幕に身柄を取られた」
聞くや、キリアンが一層難しい顔をする。大公のニセモノにもだが、黒幕がわざわざ動いたほどのターゲットなら、近づくなどさらに厳しいのではと考えたからだ。
「……そっちは正直、『ついで』になる。だってそれ、会長にゃ関係なさそうだしなぁ」
「そこのマイヨさんが心配しているから、あからさまにその言い方はちょっと」
キリアンの呟きに、サルヴァトーレがマイヨにちらりと目をやってから答えた。アンジェリカとキリアンもその視線の動きに気づいた。
「あっ! ……そういうコトね」
キリアンが口角を上げた。それを見たマイヨは特に反応することなく、口を開く。
「綺麗事抜きで言えば、彼女を利用して俺たちを、大公を、そして人々全部を揺さぶるだろう。俺個人としては、もしアンタたちが彼女を目の前にして助けなかったとわかったら、会長さんへも『見返りを満額回答で出さない方が良くない?』って言うだろうね」
「愛しているのね。その、女としてかはともかく、人として」
アンジェリカが言うと、マイヨは肩をすくめた。
「まぁ、コレって話なら……」
キリアンがそう言って、小指を立てながらウィンクする。
「こっちのツテを使って『ついで』ってより、別件として引き受けたる」
「ありがと」
アンジェリカたちとマイヨのやりとりが一段落したところで、サルヴァトーレが話を締める。
「連絡役はそこにいるロゼッタにお願いする。何かあったら彼女に言ってくれれば自分へ届くから。アニェッリ市内に入ったら、カンボン通りのお店にいてもらうつもりだし」
「お任せを」
都の大公と、ハーラン排除への取引の話がここでまとまった。
「ロゼッタ」
サルヴァトーレが扉の脇に立っていたロゼッタを呼んだ。
「はい」
「アンジェリカさんと何でも屋さんを無事に街から出す手助けを」
「かしこまりました」
「大公の身柄を敵に渡さないこと。無事に逃がすためできうる選択肢を。上手くいかない可能性がある場合は最寄りの隠れ家へ」
「はい」
サルヴァトーレは言い終わると、ロゼッタからアンジェリカへ視線を移す。
「大公。変装するとか、荷台に隠れていただくとか色々やってもらいますんで」
「しょうがないわね」
「アンジェリカさん。無事にアニェッリに着いたのが確認できましたら次の策を。場合によっては会長が直接来るかも」
「そっちの方が助かるわ。何がどうなっているのか、正直本当のところを知りたいし。できるなら会長に伝えて。『私は政治家ですから』と」
「どうにかして、お伝えします」
サルヴァトーレの返事を聞いたところで、アンジェリカがキリアンを見る。
「じゃ、大公。動きましょうか。あと、えっとロゼッタさん。すんませんけど、途中まで」
「ええ。まいりましょう」
ロゼッタ、キリアン、アンジェリカが連れだって、部屋を出て行った。
改訂の上、再掲
224:【MORTE】そこはもしかして分岐? 2022/02/28 20:00
224:【STRADA】レッドラインの設定 2023/02/08 14:39