221:【STRADA】エルネスト・ジャカ登場
前回までの「DYRA」----------
マイヨが次のターゲットにした5人組はマロッタ中心街の居酒屋にいた! 旅人のフリをして店に入り、ついに接触!
「何がイイって、仕事デキマース! ってツラしないのが良いんだよ!」
「それある! ディミトリはガキのクセしてデキるヅラがウゼぇし」
マイヨはうんうんと頷き、|ライ麦の醸造酒を炭酸水で割った酒を5つ、ジョッキで注文しながら話を促した。ついに彼らのホンネが現れた。酒代で聞けるなら安いものだ。
「キエーザ様は! ヤバイときだけ、仕事ばばばばーっっ! ってな」
「いつだか都の大公とゴタゴタがあって、洋服屋さんメチャクチャ怒らせたやつ! キエーザ様がサクッと収めた!」
「そう言えばあの洋服屋も確か、サルヴァトーレって名前だったなぁ」
「そうそう! ディミトリが大公肝いりのお披露目をぶっ潰そうとしたアレだよな!?」
「キエーザ様の最後の平謝り、ディミトリの分まで地面にアタマ擦りつけちゃってさ」
「あれでキエーザ様、男を上げたよなぁ」
「普段はぼんやりして窓の外見ながら菓子食うか、突然森に走り出しに行くか、でっかい建築物見に行くか、そのどれかなのになぁ」
「あとさ! イケメンひけらかさない、性格イケメンだもんな!」
(普段存在感ないくせして、危機管理能力は恐ろしく高い、ってヤツか)
ある意味リーダーの器だ。さらに、人間として完璧すぎないところや、目線を低い方に合わせる能力もある。
「女にモテても、俺らみたいなオッサンとの付き合いも良いし。注意するときも絶対につるし上げとかやんねーし」
「若いヤツが次の会長って話なら、ディミトリとかバカ言うなよ。キエーザ様に決まっているだろうが! 都勤めだぞ」
「あの会長がくたばるワケねぇ。今頃裏でコッソリ、キエーザ様に『何とかしろ』って言っているぜ? 今にディミトリ、吠え面かくぞ」
仲良くなったところでタダ酒をたんまり飲ませれば本音が飛び出る。マイヨは苦笑したかったが、今は仕事だ。堪えた。
(それにしてもすごいな。下っ端からのディミトリの言われよう)
それなりであったとしてもひとりでも多くの人に幸せであってほしいと願うと言っていたディミトリの嫌われっぷり。今、その落差をマイヨは肌で感じる。
飲むだけ飲み、言うだけ言って満足したのか、テーブルが一気に静かになった。周囲の客たちのたわいもないやりとりだけがマイヨの耳に聞こえる。
(あれ? 寝ちゃった?)
マイヨは、4人が酔い潰れてテーブルに突っ伏したのを見て、どうしたものかと言いたげな笑みを浮かべた。
「なぁ。こんなに飲ましちまっ、いや、飲んじまったけど、良いのか?」
ただひとり、ツキアイ程度にしか酒に口をつけなかったジャカだった。言いながら、ジャカが視線だけを動かして周囲を見回す。マイヨも同じように把握できる限り店内を見た。いつの間にかすべての席が客で埋まっていた。ただ、こちらを見たり、耳をそばだてたりしている風の客はいない。
「お前さん。……何者だ?」
ジャカは言いながら、ポケットから錬金協会会員証代わりの鍵型のペンダントトップを取り出すと、ちらりと見せた。マイヨは内心、ガッツポーズを取りたくなるほど喜んだ。砲金色の、サファイアらしき石がついたあのペンダントだ!
(来た! 当たりだ!)
「さっきさ、パクッたヤツがいたんだよ」
ジャカが話す。
「俺があるところに鍵をつけて隠していたのに、受付に剥き出しで届けられていた。つけられているのはわかっていた。そいつがいなくなってほんの数分でお前さんがどこからともなく錬金協会の建物に入って、一瞬で出てきた。それ見て、すぐに受付にも聞いた」
マイヨはここで思い出し、理解した。自分が錬金協会の敷地から出るときにすれ違った人物こそ彼だったのだ、と。
四人が寝息を立て始めたのを見ながら、ジャカがさらに話す。
「アンタと良く似た奴を知っている。実はちょっと前に協会の出納係をやっていた女がいてさ。副会長の愛人のフリして、若い男と密通していた。そいつがアンタと良く似た男でさ。ただ、髪は長くって、一つ、細い三つ編みを作っていてさ。いや、アンタかな?」
言い終わったジャカから一瞬とは言え、殺気にも似たオーラを感じ取る。
(良く見ているな! それ、俺の生体端末じゃん。俺がいないときに悪目立ちしやがって!)
マイヨは内心、毒づくが、今は情報を取る、協力者を作るのが最大目的だ。そしてターゲットがまさに目の前にいるのだ。
「そんなに雰囲気似ている人がいるのかぁ。それで?」
「俺、その件からこの方、錬金協会内の不穏当なゴチャゴチャを色々見ている。ぶっちゃけ、同じ匂いがするんだな。お前から」
マイヨは敢えて何も答えず、見え見えの演技で作った、不思議そうな顔でジャカを見る。
「キエーザに会いたいんだろ? 場所を変えて話をしよう。あとで『アセンシオ』だ。その前にこの4人を送ったりするから。明け方から協会が色々あってな」
「それ、敵か味方か、事情知らないか、どれかもわからない俺に言っちゃう?」
「勝負しないと、身動き取れない場面もある。お前さんわかっていて来たんだろ?」
(確定だ! こいつ、同業だ!)
マイヨは眦を僅かに下げて頷いた。この言葉で、彼が何物かわかったからだ。
「お前さん、『運』に助けられた。けど、運は実力じゃない。実力こそ運を呼ぶ力だ。あればかりは執念と本気の行動、努力の方向すべてが重ならないと呼べないからな」
手詰まりを破るために自分の素性暴露が必要な場面は往々にしてある。マイヨは、彼の振る舞いを初対面なのに軽率と思う一方で、リスク取りの度胸に驚いた。自分が属していた文明ほど身バレリスクはないからこそなのか、それとも普段は顔を隠しているから良いのか、などあれこれ考えるがこの際、些末なことだ。
「じゃ、あとで」
マイヨは席を立つと、テーブルにアウレウス金貨10枚を置いて、店を出た。
改訂の上、再掲
221:【MORTE】ここでそうなる!? 2022/01/31 20:00
221:【STRADA】エルネスト・ジャカ登場 2023/02/08 14:34