022:【PELLE】ボクはサルヴァトーレさんの強さが羨ましい
前回までの「DYRA」----------
街を救った恩人を「死神」と蔑む人々がいる街など長居は無用だ。これからどうする? タヌはこんな調子で大丈夫だろうかと思うが、サルヴァトーレから「本当は何をしたいのか」と聞かれ、「両親を捜したい」と正直に答えた。
買い物を済ませ、新しい鞄を肩から襷掛けにしてペッレの町から出てきたタヌは、サルヴァトーレがいないことに少しだけ戸惑った。
「何か、『急ぎの用を思い出した』らしい。先に辻馬車で出発した」
素っ気ない口調で告げたDYRAに、タヌは一瞬だけガッカリしたものの、すぐに気を取り直す。
「そっか。でも、ピルロで会えるよね」
「行くぞ」
DYRAはおもむろにピルロへの道を歩き始めた。タヌも追うようについていった。
ピルロへの道は舗装されており、今までと比べ、格段に歩きやすかった。時折、二人の脇を辻馬車や郵便馬車が通り過ぎていく。
「ねぇ、DYRA。……あのときは、ごめん」
タヌは歩きながら、ペッレで人々が彼女に怯えたときのことを謝罪した。
あのときサルヴァトーレがやったことは、本当なら自分がやらなければいけないことだった。タヌにとって、あの場に響き渡った言葉、「自らの身の程を知ることすらもできぬほど哀れな無知蒙昧の輩」は、他ならぬ自分にも突きつけられたものだと痛感する。
「気にするな」
「あの人、強い。……正直、憧れる」
三人組に取り囲まれたとき、あっという間に撃退した腕っ節にも目を見張った。しかし、タヌの心に本当に刺さったのは、一瞬の躊躇もなくDYRAを守るべく群衆の中へ堂々と入った精神面の強さだ。そう、あの異様な群衆の中でも微塵も動じず、流されない強さ。
「そう、か」
DYRAは、自分には猿芝居にしか思えずとも、タヌの目にはそういう風に見えるのかと、その素直さが新鮮に映った。
しばらく歩いていくうち、タヌは道の先にある棒状の目印を見つけると、それが何か確かめようと走り出した。
「DYRA、これ!」
乗合馬車の停留所だった。棒の真ん中、タヌの胸の高さのあたりに、時刻表が貼られていた。
DYRAは停留所の時刻表を見ながら懐中時計を取り出して、時間を確かめた。
ほどなく、道の向こうから馬車の蹄の音が聞こえてくる。
「来た!」
乗合馬車が姿を現し、停留所の前で止まった。
「乗っていくかい? ピルロまで行くよ!」
年老いた御者が声を掛けてくると、DYRAは頷いた。
二人が乗合馬車に乗り込むと、馬車は一路、ピルロへの道を走り始めた。
その様子を観察していた者がいたことを、このとき二人は気づくよしもなかった──。
(あの子、タヌ君っていうんだ。この先を考えるとお近づきになっておくかなぁ。幸い、RAAZは一緒じゃないみたいだし、ちょっと見るくらいなら)
停留所から離れた場所で単眼鏡を使って見ていた男は、見るものはもう見たとばかりに、その場から姿を消した。去り際、黒い花びらがふわりと舞い上がった。
改訂の上、再掲
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CHAPTER 19 新しい一歩2017/02/13 23:00