表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/330

022:【PELLE】ボクはサルヴァトーレさんの強さが羨ましい

前回までの「DYRA」----------

街を救った恩人を「死神」と蔑む人々がいる街など長居は無用だ。これからどうする? タヌはこんな調子で大丈夫だろうかと思うが、サルヴァトーレから「本当は何をしたいのか」と聞かれ、「両親を捜したい」と正直に答えた。


 買い物を済ませ、新しい鞄を肩から(たすき)掛けにしてペッレの町から出てきたタヌは、サルヴァトーレがいないことに少しだけ戸惑った。

「何か、『急ぎの用を思い出した』らしい。先に辻馬車で出発した」

 素っ気ない口調で告げたDYRAに、タヌは一瞬だけガッカリしたものの、すぐに気を取り直す。

「そっか。でも、ピルロで会えるよね」

「行くぞ」

 DYRAはおもむろにピルロへの道を歩き始めた。タヌも追うようについていった。

 ピルロへの道は舗装されており、今までと比べ、格段に歩きやすかった。時折、二人の脇を辻馬車や郵便馬車が通り過ぎていく。

「ねぇ、DYRA。……あのときは、ごめん」

 タヌは歩きながら、ペッレで人々が彼女に怯えたときのことを謝罪した。

 あのときサルヴァトーレがやったことは、本当なら自分がやらなければいけないことだった。タヌにとって、あの場に響き渡った言葉、「自らの身の程を知ることすらもできぬほど哀れな無知蒙昧の輩」は、他ならぬ自分にも突きつけられたものだと痛感する。

「気にするな」

「あの人、強い。……正直、憧れる」

 三人組に取り囲まれたとき、あっという間に撃退した腕っ節にも目を見張った。しかし、タヌの心に本当に刺さったのは、一瞬の躊躇もなくDYRAを守るべく群衆の中へ堂々と入った精神面の強さだ。そう、あの異様な群衆の中でも微塵も動じず、流されない強さ。

「そう、か」

 DYRAは、自分には猿芝居にしか思えずとも、タヌの目にはそういう風に見えるのかと、その素直さが新鮮に映った。

 しばらく歩いていくうち、タヌは道の先にある棒状の目印を見つけると、それが何か確かめようと走り出した。

「DYRA、これ!」

 乗合馬車の停留所だった。棒の真ん中、タヌの胸の高さのあたりに、時刻表が貼られていた。

 DYRAは停留所の時刻表を見ながら懐中時計を取り出して、時間を確かめた。

 ほどなく、道の向こうから馬車の蹄の音が聞こえてくる。

「来た!」

 乗合馬車が姿を現し、停留所の前で止まった。

「乗っていくかい? ピルロまで行くよ!」

 年老いた御者が声を掛けてくると、DYRAは頷いた。

 二人が乗合馬車に乗り込むと、馬車は一路、ピルロへの道を走り始めた。

 その様子を観察していた者がいたことを、このとき二人は気づくよしもなかった──。


(あの子、タヌ君っていうんだ。この先を考えるとお近づきになっておくかなぁ。幸い、RAAZは一緒じゃないみたいだし、ちょっと見るくらいなら)

 停留所から離れた場所で単眼鏡を使って見ていた男は、見るものはもう見たとばかりに、その場から姿を消した。去り際、黒い花びらがふわりと舞い上がった。


改訂の上、再掲

022:【PELLE】ボクはサルヴァトーレさんの強さが羨ましい2024/07/23 22:37

022:【PELLE】ボクはサルヴァトーレさんの強さが羨ましい2023/01/04 22:10

022:【PELLE】蔑まれる死神(4)2018/09/09 13:32

CHAPTER 19 新しい一歩2017/02/13 23:00


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ