219:【STRADA】キエーザを探せ
前回までの「DYRA」----------
錬金協会の建物へ潜入したマイヨは、ロッカールームから聞こえてくる平構成員の悪口に苦笑しつつ、一人だけ、怪しいと思った人物に目を留める。次に幹部に変装して、受付嬢へ話を聞きに行く。そこで思わぬ収穫が……!?
「今話してくれたことは、他言無用で頼む。何があったか確かめてくるし、必要な情報はすぐに共有する。それまでは今後、自分にもこの話題を振らないこと。良いね。誰が聞いているかわからないから」
指示を聞いた受付女性が安堵した表情で頷いた。
「はい」
「じゃ」
小さく会釈して立ち去ると、マイヨは早足で廊下を移動、通用口から外へ出た。
(思わぬ収穫だ。次は……っと、そうだ。ペンダントをお返ししないと)
ニセモノのリマ大公はマロッタにいない。だとすれば、ハーラン側もキーマンである人物の側をこの段階で不用心に離れるとは思えない。要するに今マロッタにいないと見て良い。
マイヨは周囲に人の気配がないのを確かめてから、黒い外套を脱いだ。そして一辺だけ破ってから手早く畳み、手近な植え込みの片隅に隠す。次にペンダントの細い鎖を引っ張って千切る。外套の切れっ端と切れたペンダントを持って人目を避けながら表側へ出ると、今度は堂々と正面玄関の戸を叩き、建物の中へ入った。
「あの。お客様、本日は一切部外者の方、お断りしております。一体どうやって!」
たった今話した受付の女性が、恐ろしく事務的な口調で告げる。
「違います。落とし物があったので、こちらを」
マイヨは先ほどまで彼女と話していたことなどおくびにも出さず、切れっ端に包んだペンダントを女性へ預けた。
「まぁ。落とし物を」
切れっ端ごと受け取った女性は、中を確認した。
「あ、ありがとうございます! 持ち主に速やかにお返しいたします。お届け、本当にありがとうございます。謝礼をお渡しいたしますので、少々お待ちを」
女性が深々と頭を下げ、謝礼などを用意し始めた隙に、マイヨは素早く建物を去った。このとき、入れ違いでひとりの男が走って敷地内に入り、建物へ消えていくのをマイヨは見た。
錬金協会の建物を無事に出たマイヨは、マロッタの中心街に出ると洋服屋でオリーブ色の小洒落た外套を調達した。ついでに伊達メガネとかんざしも手に入れると、左耳の側から鎖骨下まで垂れている三つ編みをまとめ、短髪に見せた。
(じゃ、さっきの5人組に会いに行くか)
マイヨは冴えない旅人を装い、中心街にある目当てのバールを探す。途中、《アセンシオ》の前を通ったとき、店の入口脇に置かれたA型の看板に赤と黒の布でできた旗が立てられていたのが目に留まった。
(確か、《アセンシオ》の近くって)
昨晩何が起こったかをわかった上で飲むのだ。恐らく店は被害がより少ない方にあると見て良い。《アセンシオ》より東側か、東南側だろう。マイヨは普段より何となく少ない人通りの中に溶け込み、歩いた。
しばらく歩くうち、それらしき店を遠目で見つけた。ちょうどひとり、入店するのも見える。
(あれ、かな?)
中心街やや東南側に、大箱の酒場があった。マイヨは早速店の入口へ近寄ると、入口越しに店内を覗いた。店内はまだ陽が落ちていないにも拘わらず、すでに7割ほど埋まっており、労働者と言った風の男たちばかりだ。昨日の騒ぎなどまるでなかったとばかりだ。例の5人組の姿も見える。空いているカウンター席のそばにある8人席を陣取っている。1人は今来た、と言った感じでちょうど座ったところだ。直前に入店した客だろうか。
(あれ?)
マイヨは5人組が飲み物を給仕に頼んだのを見たところで、素知らぬ顔で店内へ入る。
「いらっしゃいませー。カウンター、空いております」
出迎えた別の給仕が告げると、マイヨは空いている席のどこが良いかな、と言った風に見渡す。もちろん、彼らの飲み物を運ぶ瞬間を待つためだ。ここで一計を案じる。
5つの、麦酒が注がれたジョッキを手にした給仕が出てきたときだった。
「じゃ、あそこで」
マイヨは自分に対応した給仕に告げると、ジョッキを持った給仕と鉢合わせになるタイミングを測るため、気持ちゆっくり5人組のそばのカウンター席へと歩き出した。近づくに連れ、5人組の会話が耳に入る。
「……ディミトリさんの件、実はキエーザ様に出ていただかないと」
「……ああ、それしかない。おれもそれは賛成だな」
マイヨは耳をそばだてる。声から、話しているのは4人で、1人が無言だ。
「……ってか、ディミトリさん、会長を勝手に殺して何なんだアイツ」
「……ああそうそう、その会長だけど」
会話の声が小さくなる。マイヨは、自分が近づいてきたと気づいたんだと察した。ここでジョッキを持った給仕がテーブルとカウンター席の間に立った。
「お客様、麦酒お待たせしましたー!」
この瞬間を狙い澄まし、マイヨは自分が座るためにカウンターの椅子をずらし、給仕の足下にぶつけ、椅子の脚を給仕の足に絡めた。
「うわっっっ!」
突然、給仕の身体が傾いてずぶ濡れになった。同時にマイヨの肩や背中も一気に冷たくなる。
「ああ!」
「おい!」
この様子に5人組が驚いて席を立ち上がった。
「に、兄ちゃん、大丈夫か!?」
5人組がいる方へこぼすまいと、給仕がとっさにジョッキを自分の方に寄せたのだ。そのとき、勢い余ってマイヨの外套まで濡れてしまった。
改訂の上、再掲
219:【MORTE】後手後手の果て 2022/01/17 20:00
219:【STRADA】キエーザを探せ 2023/02/08 14:29
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2週連続の連休も終わり、ようやく通常運転に戻れそうな感じですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
是非、ブックマークなどよろしくお願いします!
次回の更新ですが──。
1月24日(月)、20時予定です!
日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆