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218:【STRADA】マイヨ、味方を探す

前回までの「DYRA」----------

マイヨは荷馬車の荷台にまぎれて、騒ぎの震源地・錬金協会の建物へ潜入する。目的は「危機管理担当」を見つけることだ。するとそこへ、5人組の協会員が通り掛かる。不思議な雰囲気を持つこの一団に紛れて、マイヨはついに建物内へ。


 着替えが終わったのか、5人が次々と姿を現し、階段を上がっていく。残念ながら顔を見ることはできなかった。

「……ディミトリさん、正直マジムカつくんだよな」

「……けど、わからんこと多いんだよなぁ」

 全員の姿が完全に見えなくなったところで、マイヨはカーテンの向こうへ足を踏み入れた。大人1人ほどの高さの、|細長い鍵扉のついた戸棚ロッカーが壁の両側、平行に10台ずつ並んでいる。

(20人分、か)

 鍵穴を見ると、マイヨは口角を上げた。簡素な作りの、ないよりマシな程度の鍵だった。そっと、だが、片っ端から開けては中を確認し、ターゲットのそれでない箇所を手早く閉じるを繰り返すうち、5か所だけ残った。いずれも衣紋掛けに掛かった黒い外套がまだ温かかった。目当ての5人のそれだ。ロッカーには貴重品や、協会内での階級を表す鍵型のペンダントが無造作に入っている。ペンダントの石は珊瑚石。

 5人のロッカーで見つけた、鍵型ペンダントに填められた石を確かめては閉じる。そのとき、そのうち1人のロッカーから、鍵が掛かった貴重品入れが見つかった。マイヨは器用に解錠して中を見た。黒い外套と一緒にぶら下がっているペンダントとデザインこそ同じだが、金色ではなく砲金色。おまけに石も違う。

(そういうこと、か。……こいつだけはただの下っ端じゃないってことか)

 マイヨは一計を案じてそれを失敬すると、そのまま1階への階段を上がった。そして、受付へ向かった。

「お疲れ様です」

 黒ずくめな格好のまま、顔も見せずにマイヨは受付席の女性へ声を掛けた。若くはないが、落ち着いた雰囲気から育ちの良さが窺える。

「昨日は大丈夫だった?」

 挨拶でもするように言いながら、黒い鍵型ペンダントをちらりと見せる。サファイアか、ネオンブルーのトルマリンを思わせる青の石がキラリと輝いた。

「おかげさまで。自分はこの建物にいましたが、難を逃れました」

 受付女性は恐縮そうに頭を下げながら応じた。彼女の様子に、マイヨは一つ上手くいったと直感した。あとは誰かが来る前に聞くことを聞いて立ち去るだけだ。本当の持ち主が万が一にも戻ってきたら面倒になる。

「見たまま、聞いたままを話してくれる?」

「はい。昨晩は2階から大きな音がしました。火とか煙がそんなになかったのですが、どうなるかと。何でもディミトリさんが飛び降りて助けたとかって」

「大公と副会長は、ご無事?」

「はい」

「副会長は近くの病院に?」

「いえ。『騒ぎになってはいけない』とのことで、リマ大公の計らいで明け方、マロッタの外、別の病院へ運ぶって」

「そうだったんだ。じゃ、大公様たちも無事にマロッタを離れて戻ったと?」

「ええ」

「ありがとう。仕事の邪魔してすまない」

 ひとつ情報を取れた。マイヨはこれ以上の深追いは不要と判断すると、会釈してからその場を離れることにした。が、女性が黒い外套の袖口をそっと掴んで止めてきた。

「あの……キエーザ様」

 ペンダントの持ち主の名はキエーザと言うのか。マイヨは記憶に留める。

「ん?」

「ちょっとお耳に入れたいことが」

 べらべらしゃべって正体を疑われてもいけない。マイヨは慎重に、だが、少しだけ威厳がありそうに構えた。

「何かな」

「あれだけ副会長を慕っているディミトリさんですが、いきなり会長って……。皆、表だって声にしていませんが、深夜、居合わせた人たちからの反発がすごかったんです」

 先ほどの5人組の会話からもそれはわかる。マイヨは仕草で続きを促した。

「おまけに、現場にいなかった会長を勝手に生死不明と言いふらして……。示し合わせたように大量の瓦版が出てきて。それも見たこともない紙に、生きた人間を貼り付けたみたいな絵」

 ピルロの人間たちもだが、写真(フォトグラフ)を初めて見るとこんな反応なんだな、とマイヨは思う。

「あと、その……あの、これは私だけが思っているかも知れないことですけど」

 女性はあたりを見回してから、耳打ちする。

「私、今は父が亡くなったのでこちらに戻ってお仕事をしていますが、私、何年か前まで都にいたときは、リマ大公と協会最上級幹部との連絡役をやっていました」

「え?」

 思わぬ人物からの、思わぬ言葉。マイヨは、これは聞く価値がありそうだと直感する。

「お休みの日にお会いしたときとか、大公はお声を掛けてくれました。でも、昨日は私のこと、気づかなかった。それに……」

 普通に考えれば、久し振りに会ったなら声を掛けそうな場面だ。

「身長が違うんです。昨日の騒ぎですれ違ったときに気づいたんですけど」

「続けて」

「立ったときの私と大公は、ちょうど、口元あたりが私の目線の高さです。けれど、昨日その、明らかにもっと大きくて。靴も、大公はいつもすっごい踵の高い靴を履きたがるのに」

 マイヨは彼女の言葉が意味することをすぐに理解した。

「今話してくれたこと、誰かに言った?」

「いいえ。誰にも。言う人を間違えたら怖いから。それで、大変失礼とは思いましたが、ディミトリさんと関係が難しいキエーザ様ならって。多分、会長がいらっしゃれば、今回の騒ぎもきっと、キエーザ様に対応をお願いしているはず、って思いまして」

 鍵の持ち主キエーザ。顔を隠しているのにペンダントだけ見てズバリ名前を出し、丁寧な言葉で話し掛ける。恐らくこの鍵を持てる唯一の立場にある人物なのだろう。ディミトリなど比べものにならない階級だとすれば、探していた危機管理担当の責任者ではないのか。


改訂の上、再掲

218:【MORTE】後手後手の果て(0) 2022/01/10 23:40

218:【STRADA】マイヨ、味方を探す 2023/02/08 14:26





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 東京地方も激烈な雪が降ってから、猛烈に寒くなりました。ガスファンヒーターないと無理な日々が続いております。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!

 是非、ブックマークなどよろしくお願いします!


 次回の更新ですが──。


 次こそ月曜日! 1月17日(月)、20時予定です!

 日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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