217:【STRADA】マイヨ、錬金協会へ潜入する
前回までの「DYRA」----------
サルヴァトーレの言葉は非常に示唆に富んでいた。ディミトリはさらに彼に忠告を呼応とするが、店長に止められる。このことで、周囲は自分よりも自分のことをよく見ていると知る。その頃、マイヨも動き出した。
マイヨは錬金協会へ医療用資材を届ける荷馬車を見つけると、どさくさまぎれに乗り込むことに成功。そのまま錬金協会の敷地への潜入に成功した。敷地に入ると、荷台からそっと飛び降り、広い前庭の一角にある木陰へ姿を隠す。
(非対称透過素材のスーツも考えたが、ハーランがいたら気休めにもならない)
いわゆる光学迷彩の類は、熱源センサーや赤外線などに強いとは決して言えない。さりとて、本来の文明で着用していたステルス素材のスーツは本来、電子の目を誤魔化すもの。ここまで退化しきった文明では何の役にも立たない。
(あちらが立てば、こちらが立たず。おかげで今は本当に『見に行く』ことしかできない)
それでもせっかく乗り込んだのだ。その危機管理担当とやらを探さなければならない。最悪、物理収穫なしでも、せめて受付とやらと話して情報を取らなければ。
そのとき、顔を隠した黒服姿の5人組が入口の門を潜って入って来た。受付と危機管理担当しか来ないと聞いている。彼らがその担当で間違いないだろう。マイヨはごく自然に、一団の後ろについていき、流れに乗る。
「……そう言えば、都に出張していた会長筋に近い人から聞いたんだけどよ」
「……ん?」
黒ずくめたちが小声で話を始めた。マイヨは耳を凝らす。
「……もともとリマ大公って、錬金協会に距離を取っていた人だろ」
「……それがここに来て、か」
「……けど、ディミトリさんが会長ってなぁ」
「……副会長のお気に入りだったのはそうだけど、それだけでなぁ」
「……そのことだけどよ」
5人が思い思い話しているのをマイヨはじっと聞く。最初に話を切り出した人物がまた仲間に話題を振る。
「……ピルロへ救援物資を送っていたヤツから聞いたんだけどさ」
「……ああ」
「……ディミトリさんがかなりヘンなヤツといたって話だ」
「……何だよそれ」
「……見たこともないような髭面の男といたって話なんだ」
「……え」
「……山崩れ騒ぎが起こった後、そいつと一緒に海の方へ行ったって話が出ているんだ」
どこに誰の耳があるのかわからないとは良く言ったものだ。それだけではない。伝達スピードが想像していたよりずっと速い。いみじくも聞いている限り、錬金協会で幹部であれば守秘義務があるはずだ。それが自分からわざわざ話題を振ってしゃべり出すとは。
(もしかして……?)
マイヨはできる限りついていくことにした。内門前に守衛らしき男が2人立っていたが、6人で戻ってきたと勘違いしたのか、リーダー1人の身分証確認だけであっさり通された。
(ガバガバなセキュリティに助けられたか)
建物へは外部の人間も使う正面玄関からではなく、庭の一角に生えている木がその存在を隠す、構成員用の通用口から入った。
一緒に中へ入ったマイヨは、被りを取ることもなく、さりげなく建物内を見回す。一度来たことがある場所なので、勝手はある程度知っている。今いる場所は構成員用の通用口。廊下を真っ直ぐ行けば、以前使った来客用の正面玄関と大きな階段がある方へ出て、そこに受付の女性がいたはずだ。
(これと言った被害はなし。火事騒ぎは建物の一角、いや、2階の部屋だけか。せいぜい小火だろう。それにしても、聞いてた話と随分違う。……爆発を演出しただけだった?)
本物のリマ大公を救出した時点で、ハーランが絡んでいるだろうことは何となく予想できる。ニセモノの大公、地下通路へ繋がる井戸に落ちていたという電子タバコのカートリッジ。クーデター成功後の量子通信での制圧宣言。状況証拠はそれなりに揃っている。
(リマ大公のニセモノを立ててきた以上、いきなり市民へ乱暴をする気はないかな。となると、すぐにでも会員や市民の心を掴む『何か』をやる必要が出るはずだ。でないと、古参幹部あたりから、せっかく立てた案山子が猛烈な巻き返しを喰らう)
マイヨは効率良く情報を集める手立てを考える。
(上層部、現場の中堅どころ、そして出入りする人間でそれぞれ欲しい)
良い立ち位置の人間を押さえたい。そう考えるうちに、先ほどからの5人が次々と地下への階段を下りていった。マイヨも何食わぬ顔で彼らに続く。
5人組は、厚手のえんじ色のカーテンが扉代わりに引かれた向こう側へと消えた。ちらりと見えた様子から更衣室かロッカールームのようだ。マイヨは中へ入らず、素通りするフリをして少し離れたところで目立たぬように順番待ちを装った。ほどなくして会話が聞こえる。
「……それにしても」
「……おい! ここで話すなよ」
「……今日はもう終わりだ。飲みに行かないか?」
声から、全員男だ。先ほど話題を振ってきた人物の声は聞こえない。それでも、彼らが飲みに繰り出すことはわかった。マイヨは口説くチャンス到来を確信した。
「……じゃ、中心街のバールへ行こう。段取り決めるぞ。街は騒ぎになったが、被害はないしな。それに、今ならディミトリもすぐそこの食堂にいないだろうし」
「……サルヴァトーレ様が使う有名店ってガラじゃねぇだろ。あのガキはよぉ」
行く場所がわかればそこへ向かうまでだ。お目当てのバールは中心街で食堂のすぐそば。恐らく《アセンシオ》の近くだろう。マイヨはそっと物陰に隠れ、彼らが出てくるのを待った。
改訂の上、再掲
217:【MORTE】揺れるピルロ 2022/01/04 00:31
217:【STRADA】マイヨ、錬金協会へ潜入する 2023/02/08 14:23
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