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216:【STRADA】信念を持つ者だけに道は開かれる

前回までの「DYRA」----------

ディミトリはサルヴァトーレに相談というより、半ば泣きつきモードだった。だが、サルヴァトーレは至って冷静で、ディミトリが「背中を押して欲しいだけでは」と気づいていた。そして、残酷で優しい忠告をする。

 困惑するディミトリへサルヴァトーレは告げる。

「キミは誰についていきたいの? 誰を信じたいの? どうしたいの? 何より『自分の人生の選択』に対して、責任を持とうよ」

 サルヴァトーレの指摘はその通りだ。ディミトリは返す言葉が浮かばない。

「キミは何をしたいの? そこから逆算して考えなきゃ。そして、その対価として今の状況が妥当かどうかも」

 ここまで言うと、サルヴァトーレは衝立に手を掛ける。

「言っておくけど、今、自分とこんなことを話していたのがバレたら、その時点で選択肢からモグラとコウモリが消えて、イヌか死だけになるよ? それじゃ」

 サルヴァトーレは衝立の向こうに消えた。

「待ってくれっ」

 サルヴァトーレを追うように、ディミトリも席を立って衝立の向こうへ出る。しかし、サルヴァトーレの姿は店内にはもうなかった。

 そこへちょうど、店長が通り掛かった。

「あ、あのっ」

 ディミトリはすぐに声を掛けた。

「すみません。あの、今、サルヴァトーレは……」

「ああ。御代はいただいていますから、大丈夫ですよ?」

 店長の言葉で、サルヴァトーレがすでに店を出たことを察したディミトリは入口の方へ走ろうとしたが、店長に腕を掴まれた。

「うわっ」

「隠れてきたのに、中心街側なんて目立つところから出て良いんですか?」

 店長の言葉でディミトリはハッとなり、冷静さを取り戻した。

「従業員用の出入口から出て良いですよ?」

「ありがてぇ」

「ああ、そうそう」

 店長は外套を羽織るディミトリを見ながら忠告する。

「錬金協会の人なら言っておきますけど、あの方の助力を得たいなら、自分の逃げ道とか保身の下心なんてすべて捨てないと、ダメですよ? あの方はとても聡明です。姑息な誤魔化しは通用しません。すぐに見透かします」

(わかっている! 会長相手にそんなことできたら苦労しねぇって!)




 RAAZと別れたマイヨは、いつもの白い立て襟の上着の上に、錬金協会の構成員らしく見せるための外套に身を包んで被りで頭部を隠して変装すると、マロッタ市内に潜入した。

 歩きながら視線だけで周囲を見回しつつ、頭の中でマイヨは優先順位を整理した。

(まず現状確認だ。で、味方探し。その上で、できればあの爺さん、でなきゃ世間知らずのガキから話を聞きたいところだな)

 DYRAから聞いた話では、昨晩の錬金協会での火事騒ぎの際、しわがれた声の男が面倒に巻き込まれたという。居合わせたメンツはどうやら、ディミトリ、大公のニセモノ、それにハーランかも知れない、とも。巻き込まれたのがいつぞや会った副会長の老人なら、見せしめよろしく権力を削がれた可能性が高い。無事なら聞けることはそれなりにあるだろうが。一方、ディミトリの場合、新体制の錬金協会でお飾りだとしても、一応トップ役だ。据えられるまでの経緯を正確に聞き出せれば何か見えそうなものだ。

 だが、当座の問題は、どうやって建物に入り込むか、だ。

(御用聞きとかか? それとも)

 あれこれ考えていると、大八車を引いた若い男が通る様子が目に入った。

(荷物運びのフリが単純で……ああ、そうか!)

 今日なら錬金協会の敷地に踏み入れても絶対に怪しまれない業種があるのではないか。マイヨはあたりを見回すと、荷馬車が集まっている場所に目を留め、そちらへ歩き始めた。

(あれ? ここって、あの食堂から割と近い?)

 マイヨは昨晩マロッタから脱出するために走った経路を思い出す。この道をもう少し走れば、中心街を東西にぶち抜いている大通りのはずだ。

(マロッタは都市計画がしっかりできていて、中心街は放射状に作られているのか。ふむ。あの食堂のオヤジさんは、文字通りの一等地経営か)

 マイヨは記憶を喚起、中心街の主要な位置関係をイメージする。マロッタの東門から入る道は中心街へとそのまま繋がっている。中心に位置するところには細長い時計塔があり、中心街西側に公共施設や役所などの行政区画がある。中心から2区画東よりの開けた商業街に《アセンシオ》、北東へ少し行ったところに錬金協会。東北側の端、それも東側から街の外周沿いに移動し、街の外との境界にあたる森を抜けたさらに向こうの丘にサルヴァトーレの邸宅だ。

 考えながら移動するうち、荷馬車が多く停まる馬車留めに着いた。そこは荷馬車業者の拠点だった。時代が時代なら、運送会社兼郵便局の地域集配所だ。マイヨは街の景色に溶け込むように気配を消し、錬金協会の建物へ物資を運搬する馬車がないかと耳をそばだてる。

 待っているうちにダイヤモンドのように輝く陽が高くなる。それでも、焦ってはいけない。数刻のうちに必ず錬金協会の建物へ行く馬車が動き出すはずなのだ。

 陽の輝きが南を越え、ゆっくり西へと向かい始めた頃だった。


改訂の上、再掲

216:【MORTE】これからのこと 2021/12/06 20:00

216:【STRADA】信念を持つ者だけに道は開かれる 2023/02/08 14:20






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 突然(いや、予定調和的に)年末になったわけですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 お知らせです。

 次回更新は、コミケへの新刊入稿準備に伴い、来週12月13日はお休みになります。


★コミックマーケット99 #C99A 当選しました★

2日目(12月31日) 西2ホール く-10a 「11PK」

※当日は「DYRA 9」が新刊で登場! さらに特大B1キラッキラポスターも登場します!※



 次回の更新ですが──。


 コミケ準備のため、来年1月3日(月)、20時予定です!

 日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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