214:【STRADA】ディミトリが縋る先
前回までの「DYRA」----------
RAAZやマイヨが山の中腹で話していた頃、ディミトリはマロッタの食堂で、「昨晩までの流れ」を思い返していた。それは、ハーランが一気呵成に勝負をかけ、そのコマとして自分を利用した顛末とも言う。
今思い出しても、ぞっとする顛末だ。あのとき副会長を投げたのは本当に大公なのだろうか。にわかに信じることができない。
(ヤバイ。このまま何事もなく終わるとは思えねぇ! オッサンが絡んでいる以上、会長とかあのマイヨが動く! それに協会だって、古参幹部とか黙っているとは思えねぇ!)
このままでは潰されてしまう。何とかしなければ。どうしたら良いのか。ディミトリは焦りを隠せなかった。
(今、この状況で相談できる相手なんて……!)
プライドも外聞も捨て、然るべき相手に相談するしかない。ディミトリは現状で唯一相談できる可能性がある相手に接触できないかと思い、この店へ来た。
「な、なぁ。すまない」
ディミトリは給仕役として近くを通り掛かった店長を呼んだ。
「はい。追加のご注文ですか?」
「あ、あのさ、この店って、ときどき、都の洋服屋が来るよな?」
たどたどしい口調で告げるディミトリへ、店長が不思議そうな顔をして答える。
「ときどきいらっしゃいますけど?」
「連絡を取ってもらうことはできないか? 昨晩の錬金協会での騒ぎのことでと言えば、わかるはずだ」
ディミトリの言葉で、店長は何となく彼の置かれた立場と状況を察した。
「お気持ちはわかるんですけど、何せほら、昨晩のあの騒ぎですしねぇ。まぁ、あの人のことだから無事とは思いますけど。連絡ですかぁ」
店長が顎に手を添え、どうしたものかと言いたげな顔で俯き、考え込んだときだった。
「聞こえたよー」
突然、一番奥の席から声が聞こえた。
「!」
「探す手間が省けるって、こういうのを言うんだろうなぁ」
聞こえた声に男が驚くと、仕切り越しに、ディミトリは一番奥の席を覗き込む。そこには葡萄色のコートに身を包んだレンガ色の髪の男がひとり、注文を待っているようにゆったりと着席していた。
「うおっ!」
「如何されましたか!?」
男の素っ頓狂な声を聞きつけ、店長が顔を上げた。このとき、男の顔や頭部を隠していた被りが外れ、金髪の若い男の顔が露わになった。
「あーれまっ」
店長が何が起こったのか、そして黒ずくめの客の正体がそこそこ程度に常連のひとりだとわかると、目を丸くした後、目尻を下げた。
「サルヴァトーレさん。いらしてたんですか! 申し訳ございません!」
店長が深々と頭を下げると、着席して何かメモを書いていたサルヴァトーレは顔を上げた。
「自分も裏口から入っちゃったから、気にしていないよ、全然。それに自分も今来たところだし。でも、まだ用事があるから、すぐに出ちゃうんで」
すぐに出る、と言いながら、サルヴァトーレは店長へメモ紙を渡した。
「昨晩は本当にご無事で何よりでした。ところで、そちらのお客さんなんですけどね……」
店長が切り出すと、サルヴァトーレは笑顔で制した。
「聞いていたからわかっているよ。若いからこそ、色々事情があるんだろうね」
「サルヴァトーレさんはそうやって、色んな人の色んな言葉に耳を傾けたり。お心が広い。それで人脈ができていく、と」
「そして、『お店も儲かる』んだから、良いじゃない?」
「おっしゃるとおりです」
満面に笑みをたたえ、店長が深々と頭を下げた。
「店長」
「ああ、はい」
「彼は顔を隠したいみたいだし、衝立、つけてあげられる?」
「かしこまりました。すぐに」
それからすぐ、奥側ふたつの席に客が近寄れないよう、店長が小洒落た衝立を持ってきた。
「ありがとうね。何かあったらこっちから呼ぶから」
「はい。かしこまりました」
何食わぬ顔と明るい声で答えてから、店長がその場からいなくなった。
「ご用件は何かな?」
サルヴァトーレは自席を立ち、ディミトリのテーブルの向かい側の席に座ると、何も知らないと言った風な口調で尋ねる。
(も、もしかして、ここで『会長』とか言ってくれるなってことか?)
ディミトリが胸に右手を置き、深呼吸をしてから天井を仰ぎ見る。その次にサルヴァトーレに視線を移した。
改訂の上、再掲
214:【MORTE】鉄砲玉集め? 2021/11/15 20:00
214:【STRADA】ディミトリが縋る先 2023/02/08 14:14
-----
急に寒くなってきましたね。皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
まず、お知らせです。
★コミックマーケット99 #C99A 当選しました★
2日目(12月31日) 西2ホール く-10a 「11PK」
※当日は「DYRA 9」が新刊で登場! さらに特大B1キラッキラポスターも登場します!※
当日は是非、ご来場お待ちしております! と言いたいところですが、今回は今までと違って
①各日ごとで、事前チケット購入制(当日ブラリ、はできない)
②東館と西&南館、それぞれでチケットが異なる
③入場時間も指定される
④ワクチン接種証明 or PCR検査での陰性証明、どちらかが必須になる
など、政府の実証実験とトレードでの開催らしく、一般で参加する場合も準備が必要となります。
ご注意の上、ご来場いただけたら嬉しいです!
次回の更新ですが──。
11月22日(月)、20時予定です!
日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆