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213:【STRADA】カタに嵌められたディミトリ

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌがネスタ山の中腹から出発したのを見送ったRAAZとマイヨも、事態打開のために動き出す。そのためにはハーランと大公を組ませないことと、錬金協会の内情把握だ。

 昼前。

 マロッタの錬金協会を出て、《アセンシオ》の奧から2番目の席で、黒ずくめの外套を脱がずにひとり昼食を取っている男がいた。

(どうして俺が錬金協会の会長になっちまうんだよ……)

 ディミトリは心底から困っていた。いつもなら麦の香りとちょっとクセがあるライ麦ならではのパンの味がまったくしない。焦っているからか、心に余裕がないからか、外套の被りすらも取っていない。

 アニェッリのリマ大公の後ろ盾を得たことで、「出世できるかも」と淡い期待を抱いた覚えはある。だが、現実は自分の想像をはるかに超えていた。

(あんな爆発騒ぎが起こったのだって、聞いてねぇ!)

 ディミトリはここまでのことを時系列で思い返す。


 ハーランと別れた後、フランチェスコにある錬金協会の建物へ明け方に戻ったディミトリはその翌日、まさかの人物と遭遇した。

「リ、リマ、た、大公?」

 午後。錬金協会へ予想外の来訪者が現れた。西の都アニェッリの施政者リマ大公だった。傍らにはボディーガードらしき男。

「きみがディミトリかしら?」

「ええと、お茶をご用意っ!」

 ディミトリが反射的に受付嬢に告げたが、リマ大公が制した。

「気遣い無用よ。ちょっとそこで話さない?」

「結論から言うが、キミ、次の会長になってくれない?」

 リマが値踏みをするような視線でディミトリを見る。

「1000年会長って話の真偽はともかく、組織が硬直化するのは良くないのよ。現にあの会長や副会長は、『文明の遺産』を隠しまくっている」

「ま、まぁ、でも、それだったら……」

「きみが考えていることくらい想像ついている。でも、それじゃダメなの」

 リマが間髪入れず、まくし立てるように続ける。

「1000年会長の後任が100歳の副会長じゃ何の意味もないの」

 ディミトリは、先回りするようにリマが自分の言いたいことを封じてきたため、困惑する。こうなってしまうと、今は聞くしかない。

「若いキミが新しい会長になることに意義があるの」

 リマの隣にいる男が言葉こそ発さないものの、ニヤニヤと笑みを浮かべ、どこか楽しげにディミトリを見つめている。ディミトリは視線に少し不快感を抱くが、そこは今気にするところではないと、割り切る。

「もちろん、こちらとしては目一杯支援させてもらうわ」

 降って湧いたような話だが、どこか虫が良すぎやしないか。ディミトリは訝るような目でリマを見る。

「時代はもう変わったの。ピルロを見ればわかるでしょ。あそこは事故っちゃったけど、新しい技術をいくつも使っていた。しかも、錬金協会ヌキで。となると大幅世代交代しかない。そこで働きモノのキミならちょうどいいから」

「いや、俺は……」

 会長に相応しくない。ディミトリはこれを言いたかったが、できなかった。

「明日の夜、マロッタの協会へいらっしゃい。推挙するから」

 それだけ言い残し、リマの姿はいずこかへと消えたからだ。


(会長を勝手に生死不明とかにして良いのかよ。このままじゃ絶対、俺がブッ殺される)

 ディミトリは、リマ大公がRAAZの『本当の恐ろしさ』を知らないからこんなことをやれるんだと思う。

(ってか、オッサンどこにいるんだよ!)

 ハーランの姿が見えなくなったことも、不安を煽った。

(ってかさ、都のエラい協会幹部もまとめて一足飛びでなんて……)



 指定された翌日の夜、マロッタの錬金協会へ顔を出した。受付から「副会長の部屋に来客があること、そこに自分も参加するように」と言づてされた。言われた通り、2階へと上がり、部屋へ入った。

 部屋に入るや否や、ガチャリと音がした。鍵を掛けられた音だった。だが、ディミトリはそちらへ意識を向けることができなかった。

「イスラ様!」

 年老いた副会長がリマ大公に頭を机に何度か乱暴に押しつけられ、後ろ手にされた右手を捻り上げられているではないか。何が起こっているのか。ディミトリが老人を助けようとするが、何もできなかった。

「やぁ。待ってたよ」

「えっ」

 聞き覚えのある声だった。ディミトリはすぐさま部屋にいる顔ぶれを見た。窓際に年老いた副会長とリマ大公。そして彼女の傍らにボディーガードらしき男。声を掛けてきたのはその男だった。が、その姿は声を知る人物とは似ても似つかない。

「『ちゃんと連絡するから大丈夫』って、言っただろう?」

 その声を聞いた瞬間、ディミトリは顔を引き攣らせた。

 次の瞬間、男が自分の顔をバリバリと剥いだ。もちろん、ゴムかラテックスの類だ。しかし、そんなものが存在しない文明に生きるディミトリは、何が起こっているのか理解できなかった。

 バリバリ剥がれた顔の下から、見覚えある髭面の顔が現れた。

「オッ……サン……!」

 ディミトリは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でハーランを見つめるのが精一杯だった。

「これで、明日の朝から錬金協会はキミのものだ。オニーサン。おめでとう」

 言いながら、ハーランが机のそばに置いていた鞄から何かを取り出した。何かの小さな容器と、導火線のついた筒だった。ディミトリはそれが火薬の入った何かだとすぐにわかった。

「止め……!」

 言い掛けた言葉は続かなかった。

「動かないで。大きな声を出さないで。言うことを聞いてれば、あなたは錬金協会の頂点に君臨できるんですよ?」

 ディミトリはどこか幼さが残る少年の声と、背中に細い筒の先端を押しつけられる感触とにハッとした。まさかもう一人いたとは。恐らく、副会長たちに気を取られ、扉の脇などに目立たないように待機していたのだろう。それにしても、この少年の声をどこかでディミトリは聞いたことがあった。錬金協会で仕事をしているときだ。だが、とっさの出来事のせいか、思い出せない。

 ハーランが動揺した顔のディミトリを見ながら微笑みつつ、手持ちの真鍮製ライターでおもむろに導火線に火を点けた。

「じゃ、お祝いを始めよう。オニーサン。今すぐ窓から飛び降りて人助けをしてくれるかな?」

 その言葉と共に、リマ大公に頭を押さえられていた老人の身体が彼女と共に窓の外、宙を舞った。

「ちょっ!」

 尊敬する副会長へ何という恐ろしいことをしてくれたのだ。ディミトリは反射的に窓際の方へ走り出した。

 ディミトリが飛び降りたそのとき、部屋の中から窓の外に向かって導火線に点火された筒が投げられ、空中で爆発した──。



改訂の上、再掲

213:【MORTE】人の口に戸は…… 2021/11/08 20:00

213:【STRADA】カタに嵌められたディミトリ 2023/02/08 14:11






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 33年ぶりの二次創作の同人誌即売会へ参加し、色々アレアレアレレでした。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 213話になりました。

 前回に続く、情報セキュリティガバガバ編です。作者も一時、ナーバスな職場にいたことがありますが、こういうの本当に危険です。情報漏洩とは往々にして、ロッカーでの悪口大会が多いとは誰の言葉か知りませんが言ったものだと思います。


 次回の更新ですが──。


 11月15日(月)、20時予定です!

 日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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