210:【STRADA】反撃の足場はどこにある?
前回までの「DYRA」----------
マイヨがピルロ入りした本当の理由。それは静かに、「どうしても確かめたい」ことを見にいくためだ。問題の場所にあったのは「証拠隠滅」という答え。だが、見たいものを全部見ることはできなかった。
マイヨがピルロから姿を消し、山の中腹まで戻ると、RAAZの他にDYRAの姿があった。
「マイヨさん」
タヌはマイヨが無事に戻ったのを見て安堵した。
「どうだった?」
RAAZが問うと、マイヨは首を横に振った。
「一足遅かった。錬金協会の連中が来て、アントネッラをどこかへ連れ出した後だった」
アントネッラが連れ出されたのはどうでも良いが、錬金協会が動いていると聞けばそうも言ってはいられない。RAAZは無言で続きを促す。
「連中、ピルロに対して、『文明の遺産』発掘と、俺の身柄引き渡しを要求してきた。当然だけど、拒否したら援助打ち切り、ってな」
聞いていたタヌは、声にこそ出さなかったものの、内心、仰天した。よもやそんな、困っている人へ追い打ちを掛けるようなひどい要求をするとは。
DYRAだけは状況を把握しきれていないからか、男3人へ交互に視線をやるだけだった。ほどなく、マイヨの報告に少しだけ俯き、考える仕草をしたRAAZが視線を上げた。
「昨晩から今朝方までの流れだ。警察犬での襲撃、合成写真、オンデマンド印刷。ハーランは遠慮なく禁じ手投入だ。『オーパーツによる異文明干渉』ってな。それ以上に恐ろしいのは、技術ほしさに新体制で一気に世界が固まるのが目に見えていることだ」
RAAZの言葉で、DYRAとタヌが互いの顔をちらりと見てから、もう一度向き直る。
「RAAZ」
ようやく少しずつなりとでも状況を把握し始めたDYRAは、言葉を探しながら切り出す。
「どうしてピルロが狙われる? それに昨晩からの錬金協会乗っ取り騒ぎ。どちらにも後ろにハーランがいるなら、あの男の思惑がわかれば、タヌの父親捜しに繋がるんじゃないか? あと、何故マイヨの身柄を」
そこはタヌも知りたかった。何より、DYRAが自分のことも考えて質問を組み立ててくれたことに内心、感謝でいっぱいだった。
DYRAがさらに続ける。
「タヌの父親は、都の大公と組んでいた。だが、やろうとすることの本質はハーランと変わらない気がする。だから、私は知りたい」
質問を聞き終わったところで、RAAZが真顔で答える。
「時間はいくらでもあると思っていた。だが、今はもう違う。ISLAも言ったが、『時間が経つほど』こちらが『追い込まれる』と。もう、この星とダラダラ付き合う時間も理由も完全になくなりつつあるんだ」
「どういうことだ!?」
質問と答えがまるで合っていない。はぐらかされたと思ったDYRAは、鋭い声を上げた。しかし、言葉は続かなかった。マイヨが制する仕草をしたからだ。
「RAAZ。ここから先は、アンタの手札もタヌ君やDYRAに出す必要があるんじゃないか? むしろ、出さないことには説明ができなくなるぞ?」
DYRAとタヌはRAAZを注視する。
「あまり言いたくなかったが、ことがここまで一足飛びで来たなら、仕方ないか」
そう言ってから、RAAZが簡単な説明をする。
「ちょうどピルロの地面からずっと地下深くに、私の妻が遺したものにたどり着く、言うなれば『入口への手掛かり』があると奴が勝手に思っている、ってことだ」
「ピルロのどこかに、そんなものが?」
「どこかじゃない。文字通り、ピルロの足下だ。そして、思い込んでいるだけだ」
まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったDYRAとタヌは、何と言葉を返せば良いかわからなかった。だが、今言える言葉はひとつだけだった。
「RAAZ。ハッキリ言う。私とタヌが今、ここにいる必要があるか?」
DYRAは核心の部分だけを告げる。
「いなくて良いなら、タヌの父親捜し、続きに出たい。こうしている間にもハーランから狙われることになりかねないのだろう?」
DYRAの言葉でタヌは何かを思い出したのか、ハッとした。
「そうだ。ハーランさんはボクの父さんを知っているみたいな口振りだった。でも、話の流れでいけば……」
今の時点で、父親とその周辺関係でタヌがわかっていることは、父親がRAAZから大切なものを盗んだこと。縁あって行動を共にしていたハーランを裏切ったこと。そしてアニェッリの大公が後ろについており、キリアンも大公の一派らしいこと。そのくらいだろうか。
「RAAZさんは何て言うかその、父さんのことを放置してくれた。けれど、ハーランさんはそうじゃない。捜し回っているっぽいし」
ハーランより先に父親を見つけ出さなければならない。でなければ、最悪、父親が殺されてしまう。タヌは焦りの色を僅かだが浮かべる。
「言っただろう? 今までならこちらの目が届く範囲である限り、ほっつき歩いてもさしたる問題がなかった。だが、今は違う。同じ場所でも敵陣まっただ中だ」
「そういうこと」
言葉を引き継ぐようにマイヨも話す。
「もう、今までみたいに場当たり的に『じゃ、行ってみよう』だけで動くわけにはいかない」
「じゃあ、どうしろと?」
DYRAが切り返す。
「錬金協会はもう、『敵の組織』だ。もっと言えば、ハーランの組織。そして、俺たち3人とタヌ君狙いもハッキリしている」
よもや錬金協会を敵、それも、ハーランの組織とまで言い切ることになろうとは。昨晩までとは本当に世界が違うのだとDYRAもタヌも実感する。
改訂の上、再掲
210:【MORTE】一応、報連相? 2021/10/18 20:00
210:【STRADA】反撃の足場はどこにある? 2023/02/08 14:02
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いきなり冬の寒さがやってきました。羽毛布団がないと凍えそうな感じですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
210話になりました。
サルヴァトーレさん絶対、話す気ないだろう感、満々ですね。
ちょっと、作者も締め切りが重なったこともあり、過労で体調持たず、ここんとこ分量減って進みが遅いことが申し訳ないと思っているんですが、これでもひとつずつ、進んでいる感じです。
次回の更新ですが──。
10月25日(月)、20時予定です!
日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆