209:【STRADA】ワンミスが証拠隠滅に繋がった
前回までの「DYRA」----------
アントネッラが連れていかれたのと、マイヨがピルロ入りしたのは入れ違いだった。事態を知ったマイヨは、街と彼女へ渡された手紙類に目を通すと、1枚だけもらう。そして、街の人々に自分を裏切って構わないとも告げた。
ピルロの住民たちと別れてひとりになったマイヨは、周囲に人の姿や気配がないことを確かめながら、今にも全壊しそうな市庁舎の建物を素通りした。
(確認したいのは、アレだよ)
「タヌ君が言った内容からヤツがやりたいことを考えれば、ヤツにはどうしても必要なものが出てくる。それは、日陰者だったヤツでは持ち得ないものだ」
「必要なもの?」
「あーあ。ったく、俺もアンタの甘さをゴチャれる身じゃないな。アンタがハーランに気づかなかったように、俺もこの鄙びた文明を甘く見て、とんでもない見落としをしたかも知れない」
数日前、デシリオの邸宅でRAAZと話した「とんでもない見落とし」を確かめるため、マイヨは屋敷がある方へ向かった。目的は明確だ。
「おいおいおい。俺としたことが、あの騒ぎのとき、一番肝心なものをチェックしていなかったとはね」
デシリオでRAAZに話した件を確かめる。これだけだ。マイヨは注意深く、人の気配がないのを確かめると、屋敷へ足を踏み入れた。
屋敷内は無事な場所は片付けてあるが、一部崩れた場所はそのままだ。床に穴が開いた箇所は応急処置ながら修繕されており、そこから下へ行くことはできない。
(確か、この辺だ)
以前ピルロへ送り込んだ生体端末から、この屋敷の構造はすべて情報回収してある。マイヨは近くの隠し扉がある場所へ行くと、そこから地下へと下りた。
(やっぱり、か!)
マイヨは自分の嫌な予感が完全に的中したと思い、舌打ちした。
地下室は一部の天井、上の階で床を修理した箇所から漏れてくる光のおかげで、真っ暗ではない。何ひとつ置かれていない地下室を隅々まで見渡すには充分な光源だ。
以前置いてあった大量の氷は当然だが、もうない。それどころか、文字通りのがらんどう。床にものが置かれていた跡もない。何より、ハーランが現れたときに撃たれた飛び道具の痕跡すらも残っていない。
(ホルムアルデヒド液漬けの死体は、どこへ行った?)
地下室にはアントネッラの双子の兄で、本来ピルロの支配者だったルカレッリの死体が保存されていたはずだ。あのとき、火事とハーラン出現とで大混乱になり、タヌが攫われる騒ぎになったことで、自分を含め誰ひとりそこに気が回らなかった。普通に考えれば、焼け落ちて丸焦げになったか、頑丈な容器のおかげでそのままか。そのどちらかだ。だが、目の前の現実は違う。地下室は使用形跡なしの空き部屋状態。人為的に誰かが証拠隠滅よろしく、痕跡を消したとしか考えられない。
(街の人間はあれの存在を知らなかったはずだ)
知る限り、地下室の秘密を知っていた人間はほとんどいなかったはずだ。あの火災騒ぎでアントネッラは怪我を負った。接していたときの印象で、あれ以来どうなったかを知っている様子はなかった。積極的に痕跡消しに加担していることも考えにくい。
(アレッポが処理した、か?)
証拠隠滅のため、行政官アレッポが秘密裏に手を回したのか。だが、マイヨは違和感を抱く。
(容器は? どう処分した?)
思い返せば、街乗っ取り騒動の際、あろうことか『ルカレッリがアントネッラに殺された』とアレッポは言い放っている。亡くなったことは結果的に街の人々も知るに及んだ。それにしても墓の場所くらいは街の人々の間で多少、話題に上がって良いはずだ。しかし、そんな話を一度たりとも聞いたことはない。
マイヨは嫌な予感を抱くと、きちんと洗い直さねばと改めて思う。地下室を隅々まで歩いて見て回り、何かを移動させた跡なども残っていないかを探しながら、反対側の出入口、つまり植物園へ繋がる扉まで移動した。
扉を開けて地下室を後にし、植物園へと繋がる薄暗い通路を歩き出す。
(待てよ)
マイヨはあることを思い出す。
(このあたりに確か、隠し部屋があったはずだ)
アントネッラとルカレッリ、そして彼女の愛犬しか知らない部屋のことだ。その部屋も何か情報があるかも知れないから確かめておきたい。そんなことを考えながら、隠し扉の開閉に使う何かがあるあたりの壁に手を伸ばそうとしたときだった。
突然、足下から犬の鳴き声が聞こえた。
「えっ」
いつからいたのか、どこから入ってきたのか。足下をすっかり見慣れた白い子犬がクルクルと回っているではないか。マイヨはとっさにあたりを見回した。植物園側の出入口が土砂崩れのせいか、壊れたまま開いていたではないか。恐らく、先ほどまで外にいたことを考えると、植物園に戻ってきて、自分がいることを察知したのだ。
(たとえ子犬君でも)
不確定要素が多すぎる現状で、自分が隠し部屋に入ったことを知られるのは喩え子犬であっても得策ではない。マイヨはいったん、出直すことにした。
「大丈夫だ。アントネッラはちゃんと戻ってくるから」
マイヨは膝を落として、子犬の頭をそっと撫でた。そのときだった。
「おーい!」
「どこいったー!」
植物園の外の方から、幼い少年たちの声が聞こえてきた。
マイヨはここが潮時だと判断すると、子犬へ外へ出るように優しく促す。子犬が勢いよく外へと走り出す姿を見たところで、黒い花びらを舞わせながら、姿を消した。
改訂の上、再掲
209:【MORTE】幽霊部隊対秘密部隊 2021/10/11 20:20
209:【STRADA】ワンミスが証拠隠滅に繋がった 2023/02/08 13:59
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寒暖の差が激しいですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
209話。動き出しました。
終章へ向けた話し合いが、ひとつずつ、進み始めます!
次回の更新ですが──。
10月18日(月)、20時予定です!
日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆