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207:【STRADA】アントネッラへ届いた謎の手紙

前回までの「DYRA」----------

朝、錬金協会の使者が復興途上のピルロへやってきた。方針転換で、条件を呑まなければ復興支援を打ち切るという。その条件を聞いたアントネッラと街の人たちは難しい対応を迫られる?

「マイヨ・アレーシを引き渡せ。今いるなら今すぐ」

 男の言葉を聞いたアントネッラは、芝居がかった溜息を漏らしてから、答える。

「マイヨはもうここにいません。山崩れが起こったすぐ後、姿を消しました」

 これだけは言っておきたいとばかりに、ひときわ大きな、その場に集まった住民たちどころか、街の広場や時計台あたりにいる人々にも聞こえそうな声で言い放った。

 聞いていた男たちは、アントネッラの凄まじい迫力に狼狽えた。

「ウソだと思うのでしたら、探してみますか?」

 アントネッラと話す男は押し切られるように、首を縦に、何度か小刻みに振った。

「わ、わかった。わかった。ア、アンタを信じる」

 老若男女、子どもに至るまで皆、声にこそ出さないものの、血を流す覚悟で彼女を守ろうと構えているではないか。アントネッラはもちろん、パルミーロとジャンニも内心、住民たちの心意気に感謝した。

「じゃ、わ、悪いが、アンタにはこれから同行してもらう」

「本当に今すぐ、出掛ける支度もダメってこと?」

「悪いな」

 男は言いながら、持っていた封筒をアントネッラへ手渡した。

「けど、それを読んだら、今すぐご同行いただけると思うけどね」

 アントネッラは開封し、中からメッセージカードを取り出した。黒いカードだった。

「……!」

 カードには見たこともない白いインクで、たった3文字が書かれているだけだった。アントネッラは見るなり、驚き、肩をびくりと動かした。だが、すぐに何事もなかったかのようにカードを封筒へ戻すと、ジャンニへ手渡した。

「わかりました。では、パルミーロも一緒で良いですか?」

 アントネッラが承諾したことで、彼女からの要求も男は承諾した。

「わ、わかった」

 ここでパルミーロが不安げな表情で何かを言おうとするが、アントネッラが同じくらい不安そうな目つきで彼を見ながら小さく首を横に振り、制した。

「じゃ、行くぞ。乗ってくれ」

「ジャンニ。アントネッラ様と行ってくる。あとは頼んだ」

「ええ。確かに」

 ジャンニは万事了解とばかりにアントネッラへ深々と頭を下げた。その様子を見た住民たちも静かに頭を下げた。

「ビアンコ。お留守番ちゃんとしているのよ? すぐに帰ってくるからね」

 アントネッラは膝を落とし、子犬の頭を撫でた。子犬は心細そうに鼻を鳴らした。

 銃を手にした男たちとアントネッラ、パルミーロが乗ると、紙を手に話をした男がジャンニへもう1枚、忘れてたとばかりに慌てて残った紙を手渡してから荷馬車に乗り込んだ。その後すぐ、荷馬車は跳ね橋を渡ってピルロを出発した。

 アントネッラを乗せた荷馬車が視界から消えるほどに遠くなったところで、ジャンニの指示で住民が跳ね橋を上げる。

 広場で、ジャンニが集まる住民たちに頭を下げたときだった。

「おじさーん!」

 火災や土砂崩れの被害で半壊状態の植物園の方から幼い少年たちが走ってきた。住民たちが彼らのためにジャンニの前まで道を作る。先頭の少年がジャンニの前で膝に手をつき、息を整えてから、来た方を指差した。すると、住民たちも皆、そちらを見る。

「あ!」

「ああっ!」

 数名の幼い少年たちに連れられて、三つ編みが印象的な男が現れた。

「マイヨ! いつの間に」

 ジャンニが尋ねた。住民たちが歓喜の声を上げると、あっという間に輪の中心がマイヨへと変わった。

「今さっき山側から下りてきた。植物園のところまで来たら、この子たちに見つかっちゃって」

 マイヨの第一声で、住民たちが顔を見合わせてからジャンニを見た。彼らの一連の様子と彼らの表情から、相当な面倒が起こったのだろうとマイヨはすぐに察した。事実、山の中腹からただならぬ様子を見ている。

「大変なことになった。今、錬金協会の使いとか言う奴らが来て、アントネッラ様を連れて行っちまった」

 ジャンニの言葉に、マイヨは一瞬、僅かだが目を見開いた。

「何だって? どことか言っていたか?」

「いや、何も。ただ、一緒に来いと。念のため、パルミーロさんが同行していますけど……」

 言いながら、ジャンニはアントネッラが読んだカードが入った封筒も、もらった紙も、すべてマイヨへ差し出した。

「アントネッラ様は、『今すぐ来い』と言われたことに難色を示しました。でも、その封筒の中身を見たら、いきなり『行く』と。何でもあの連中、『それを読んだら、今すぐ』行くって言い切ってきて」

 マイヨは聞きながら封筒を開き、中身を見る。黒いメッセージカードだった。

(白いインク! おいおい。この文明に酸化チタンなんかないだろ!)

 内容より先に、マイヨの目は白い文字に向いた。

(ハーランか? それとも……?)

 タヌの父親とハーランが反目している。このせいで、マイヨは犯人の予想を立てきれない。しかも、この文面ではなおさら予想もできない。


  L.A.R


 手書きの文字だった。いつどこで誰が、いわゆる5W1Hの類は何も書いていない。マイヨは見つめながら考え込む。何かの暗号か。

「これだけど、少しの間だけ預かって良いかな?」

「もちろんだ。というより、情けない話だが、俺たちじゃ皆目想像もつかないから」

「じゃ、預かるよ?」

 言っている先からカードを封筒へ戻し、次に、紙切れの方に目を通す。

「アントネッラや君たちは、全部に目を通している?」

「いや、恥ずかしい話だが、今渡した紙だけはまだだ」

 ジャンニの答えに、マイヨは怪訝な表情をするが、住民が集まっていることに気づくと、「そっか」と言うだけに留めた。


改訂の上、再掲

207:【MORTE】『トリプレッテ』への道 2021/09/27 20:00

207:【STRADA】アントネッラへ届いた謎の手紙 2023/02/08 13:55






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 気がつくと、1年が2/3おしまい。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 207話。『トリプレッテ』についての話題が本格的になります。

 つまり終盤が見えてきたってことになります。

 トリプレッテ、ISLA、ミレディア殺し、タヌの父親……謎を抱えて物語は佳境へ!


 次回の更新ですが──。


 10月4日(月)、20時予定です!

 日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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