206:【STRADA】ピルロ、運命の選択なのか?
前回までの「DYRA」----------
夜の騒ぎでマロッタから脱出したRAAZやマイヨたちは、ネスタ山の中腹で錬金協会が乗っ取られたことを知る。ハーランはご丁寧に「彼らに知らせるために」量子通信をラジオのように使ったからだ。だが、RAAZとマイヨが気にするところは、そこではなかった。
復興が遅れ気味ながらも土砂などを片付け、建物などの再建が始まったばかりだった朝のピルロがちょっとした騒ぎになっていた。
どこから来たのかわからぬ荷馬車が二台、跳ね橋を渡り、災害の爪痕が著しい街へと入ってきた。馬車が止まるなり、手に猟銃や鉄の棒などを持った男たちがぞろぞろと現れる。
この様子に驚いたピルロの人々が皆、降りてきた10人ばかりの男たちと馬車との周りに集まり始めた。
「おい!」
押しかけてきた男たちのリーダー格が声を発した。中肉中背よりやや小柄で、見るからに気が弱そうだ。しかし、銃があるからと強気になっているのが一目瞭然だった。右手にピストル、左手に何枚かの紙。封筒も混じっている。
「読め」
男が挨拶抜きに、持ってきた紙の1枚を住民とおぼしき若い男へ手渡した。
「な、何ですかこれっ!!」
受け取った若い男が見出しを見るなり、驚きの声を上げた。その声に呼応するように人々がどんどん集まり、紙を回し読み始めた。集まった面々の中に、パルミーロとジャンニもいた。
「ああ、パルミーロさん!」
若い男が気づいて呼ぶと、回し読みの紙がジャンニへと渡った。ふたりが目を通そうとしたとき、紙を渡した男が声を出す。
「話せる奴は誰だ?」
「取り敢えず、俺が聞く」
パルミーロが淀みない口調で即答した。住民たちも、この状況のピルロでまとめ役を勤める彼が相応しいとばかりに見守る。
男がおもむろに切り出す。
「錬金協会の体制が変わった。それで、この街への援助に3つ、条件がついた」
「条件!?」
「ひとつ目だ。この街の最高責任者に、今から同行してもらう。然るべき方のところへ行ってもらい、現状説明のためだ」
「アントネッラ様にピルロを離れろというのか? 今から?」
パルミーロとジャンニは難しい顔をした。互いの顔に、悪い予感がする、と書いてある。
「ああそうだ。別に永遠にじゃない。話をしたらそれで終わり。そのまま返す」
この言い方に、住民たちは反発しそうになるが、我慢する。自分たちの置かれた状況を考えれば、今、援助を打ち切られるわけにはいかないからだ。何より、本当に説明だけで終わるなら数日で済む。
男がさらに続ける。
「二点目は『文明の遺産』の発掘手伝いに人員を出すこと。と言っても、この街を掘り返すだけだから、遠くへ行けとかじゃない。復興の作業ついで、くらいに思ってくれれば良い」
面白くないが、あくまでついで、と言われれば大声で反対できないのか、住民たちはここでも堪える。
「最後のひとつだ──」
もうひとつの条件が告げられた。
「えっ……」
聞いた瞬間、住民たちは静まりかえった。内容が意味するところを把握するまでに少し時間が必要だった。パルミーロとジャンニも顔を見合わせた。動揺を隠せない。
「この条件を守れないなら、食料、資材の援助すべてを止める」
男が言ったときだった。
「狂っている!」
「どういうことだ!!」
「そんな条件を出した奴らが『アントネッラ様をすぐに戻すから』なんて言って誰が信用するんだゴラァ!」
それまで堪えていた住民たちが反発した。そのときだった。
バン! バン! バン!
数発の銃声が鳴り響いた。通告役の男の周りにいた面々が一斉に手にした猟銃を天に向かって数発ずつ放ったのだ。場が水を打ったように静かになる。
「取り敢えず、最高責任者を連れてこい! 今すぐ!」
パルミーロたち以上に激しく動揺する住民たちへ男がそう告げると、周囲にいる9人の男たちが猟銃を水平に構えた。人々と男たちがにらみ合ったときだった。
突然、その場に犬の鳴き声が響いた。声がした方へ何人かが振り返る。翡翠の首輪を填めた白い子犬が全速力で走ってきた。
「アントネッラ様の犬だ」
集まった住民たちがその声で冷静さを取り戻したのか、子犬のために道を作る。子犬はパルミーロの足下で止まった。子犬が何かを訴えたそうにパルミーロを見る。
「どうした? どうしたんだ?」
しばらくすると、茶色の外套に身を包んだアントネッラが早足で姿を見せた。
「何の騒ぎですか?」
アントネッラの登場に、住民たちが口々に何かを言いそうになるが、すぐさまジャンニが静まるよう合図した。
「お前が最高責任者か」
男が尋ねると、アントネッラは頷いた。
「そうです。アントネッラ・ルキーナ・レンツィです」
凜とした声で告げると、紙を手にした男が彼女の前に立った。さらに、周囲の9人が銃口を一斉に彼女へ向ける。
「この野次馬共が騒がないなら、アンタを撃ったりしない」
「随分、お行儀が悪いことで。少なくとも、お話し合いに来たわけではなさそうですね」
「話が早くて助かる」
男は嬉しそうに続ける。
「俺たちがアンタに命令する立場だ。話し合いできるご身分なんて思うんじゃねぇよ。黙って言うこと聞けばアンタを殺さないし、街の奴らもそうだ」
「ご内容は?」
「アンタに色々状況を説明するために、今から一緒に来てもらいたい」
「他にも何かおっしゃってませんでした? 街の人が騒ぐほどの何かを」
「ああ」
9人の男たちの目つきが変わり、住民たちへ銃口を向けた。安全装置と引き金に指が掛かっている。アントネッラは彼らの本気を察した。これから言われる何かを自分が拒否をすれば、彼らは住民を傷つける気だ、と。同時に、突きつけられた『何か』が住民を怒らせるに十分な内容だったとも理解する。
改訂の上、再掲
206:【MORTE】ピルロの足下 2021/09/13 20:00
206:【STRADA】ピルロ、運命の選択なのか? 2023/02/08 13:52
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暑いとか寒いとか、どっちかハッキリしてほしい日々が続く9月ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
206話、RAAZがついに色々と語り始めました。
ピルロの街とRAAZは色んなわだかまりを乗り越えて、組めるんかいな、です。
次回の更新ですが──。
コミティア137参加のため、20日更新はお休みです!
もしよろしければ、20日(月祝)、東京ビッグサイト青海展示棟にてコミティアにサークル参加しておりますので、ご来訪いただけると嬉しいです!
9月27日(月)、20時予定です!
日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆