205:【?????】組織を乗っ取られたことより死んだ妻のこと?
前回までの「DYRA」----------
瓦版を見て驚愕したマロッタの食堂の店長。顛末を報告すべく、店で匿っていた西の都の大公へ報告する。だが、大公は内容よりも、瓦版で描かれた「写真」に驚愕した!
空に上がるダイヤモンドの輝きが何となく高くなり始めた頃、赤い花びらを舞わせながら、ネスタ山の中腹にRAAZが姿を見せた。肩に意識のないタヌを担ぎ、片手に大型の布製鞄。
「遅くなった。屋敷は火災に偽装して処分、パージした。地下通路も屋敷周辺に繋がる道をすべて潰した。私の手の者へも指示を済ませてある」
RAAZが言いながら、倒木に腰を下ろしていたマイヨへ鞄を突きつけた。
「中は迷彩テントと寝袋だ」
「組み立ててそこにタヌ君を寝かせろってことね」
言っている先から、慣れた手つきでマイヨは四角錐の天幕を張り、中へ寝袋を放り込むと、その上にタヌをそっと寝かせる。
「次はDYRAを連れてくる」
「待った。その前に」
マイヨがその場から立ち去ろうとしたRAAZを呼び止める。
「何だ?」
「聞いた? ハーランのヤツ、錬金協会乗っ取り宣言を俺たちへ聞かせるために量子通信をラジオみたいに使ってきた」
「ああ? こんなものまでマロッタでバラ撒かれていた」
RAAZがそう言って、赤い上着のポケットからぐしゃぐしゃにした紙を出すと、これまた突きつける。受け取ったマイヨは不思議な表情をしてみせる。
「え? 写真? 見事な合成写真ってこと?」
「だが、愚民共にこれが合成写真かどうかなんてわかるわけがないだろう? まず写真だけでひっくり返る。それ以上に、印刷してから配るまでが恐ろしく早い」
「ハーランのプロデュース力もなかなか、ってことか」
マイヨは溜息にも似た吐息を漏らして苦笑する。
「RAAZ。俺たちに残された時間は、思っているよりずっと少なくなったかもな」
「ああ。いっそこの星諸共吹っ飛ばした方が早そうだ」
「まぁ待てよ。ハーランは『トリプレッテ』狙いなんだろ。だったらみだりに出すのも見せるのもどうかね」
マイヨはタブレット端末を扇子か団扇よろしく、ひらひらとさせた。
「それにしてもさ」
マイヨがテントで寝ているタヌを見ながら切り出した。RAAZも視線の動きで何を話そうとしたか察したのか、肩をすくめて苦笑する。
「火事場のナントカとは言ったもんだ」
RAAZは山崩れの爪痕濃い、山の麓を見つめて切り出した。
「タヌ君?」
「ああ。マロッタから脱出したとき、良く走ったもんだ」
「へぇ。見直したんだ」
「ああ。ガキの執念は本物だ」
ここでマイヨが画面を見えるようにタブレットを差し出す。そこには地図が映っている。
「ハーランがマロッタを取りに来たってことは、まぁ、当時から唯一政府連中にバレていた、『トリプレッテ』の秘密ファクトリーへの通路を探しに来たってことだよな?」
「だが、あれを確保しても、たどり着くことはできない。切断もしてあるからな」
「あのさ。俺も前にアンタの作業部屋みたいなところへ行ったとき、何となく『あそこだろう』くらいまではわかった」
隠し場所を特定させないための仕掛け。RAAZはマイヨの話を聞きながら、彼はもう気づいていると確信した。だが、マイヨは独り言のように話す。
「ドクターも考えたもんだ。『トリプレッテ』所在地への道を重力調整シリンダーを何本も通らせて特定させない。そしてシリンダーへの道自体も量子テレポートでしか行かせない。RAC10プログラムやナノマシンを暗号鍵にして、俺たちしか事実上使えない仕様だ」
RAAZは無言のまま、山の麓を見つめる。マイヨはさらに続ける。
「ところがだ。俺は入れない。理由は簡単だ。俺のRAC10プログラムの紐付けを超伝送量子ネットワークシステムの実験日にやる予定だったから。そう、あの日に」
マイヨはそう言って、雲がないのにアクアマリン色か、くすんだパール色かわからない色合いの空を仰ぎ見た。
「あの日に何が起こった?」
RAAZが静かに尋ねた。
「俺が覚えているのは、ドクターが超伝送量子ネットワークシステムの起動実験を始めた。しばらくしてドクターの部屋の呼び鈴が鳴った。彼女は誰が来たのかわかると慌てて戻ってきた。で、突然、俺のケースにシールドを掛けて、そのまま隠した。俺が覚えているのは、ここまで」
「待て。お前はいつだったか、『動かぬ証拠』があると言った。話が合わない」
「動かぬ証拠があるのは、ドクターの部屋にあるカメラだ」
「防犯カメラなら再生している。なかった」
「違う違う。超伝送量子ネットワークシステムに繋がっている方のカメラだ」
そんなものがあったのかと言いたげに、RAAZはマイヨを見る。
「ドクターも自分の身に多少危険があることを察知していて、記録とか証拠は全部そっちへ回していたんだ」
「ということは……」
RAAZがハッとする。だが、その後に言葉は続かない。
「何だ!?」
RAAZは麓の風景を指差す。
「ん?」
マイヨも立ち上がると、指差す先に目をこらした。ドーナツ状に人だかりができているのが遠目からでもわかる。
「何だあれ……って、ピルロじゃないのか。何の騒ぎだ」
「昨晩からの流れのせいなら、ハーラン、予想以上に動きが速い」
言いながら、マロッタでバラ撒かれたビラをひらひらさせる。
「アンタはタヌ君を頼む。ピルロは俺が様子を見てくる」
マイヨが言ったときだった。
「見に行くだけだぞ?」
RAAZはあっさり告げると、マイヨも頷く。
「ああ。『何が起こっているか』を見るだけだ。アントネッラが面倒に巻き込まれれば気にはなるし、騒ぎの原因が本当にハーランなら、ノコノコ俺が出向いたらカモネギだ」
「わかっているなら、良い」
「ちょっと、行ってくる」
マイヨはその身の周囲に黒い花びらを舞い上がらせた。
改訂の上、再掲
205:【MORTE】味方はまだいた 2021/09/06 20:00
205:【?????】組織を乗っ取られたことより死んだ妻のこと? 2023/02/08 13:50
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9月に入った途端、寒い日々ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
205話、マイヨが動き出します。
味方がいれば、まだ戦える!
次回の更新ですが──。
9月13日(月)、20時予定です! あとは「DYRA 9」進行次第で。
日程、詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆