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199:【MAROTTA】そして世界は敵になる

前回までの「DYRA」----------

サルヴァトーレ邸で、今度はタヌがマイヨへ、フランチェスコで目撃した出来事を話す。ハーランが動いているのではないか。提示された情報から興味を示したマイヨは早速、事実確認をしようと事件現場へと動き出す。


 4頭立ての馬車が夜になったマロッタの中心街に現れた。馬車の客室には、DYRAとタヌが隣同士に、サルヴァトーレが向かいに座っている。

「DYRA」

 タヌは言葉を切り出した。

「ふと思ったんだけど」

「どうした?」

「ボク、自分で話して変かも知れないけど、すごい引っ掛かったことがあるんだ」

「何かな?」

 サルヴァトーレが自分も聞きたいと言いたげな表情で話に加わる。

「父さんがハーランさんと出会ってから、その、いなくなっちゃうまでなんだけど」

「ああ」

「父さん、ずっと(・・・)レアリ村にいたと思う?」

 タヌの問いかけにDYRAが少しだけ目を見開く。

「そうじゃないのか? だが、言われて見れば……」

「ボクだって生まれたばっかりの頃まではわからないし」

 人間誰しも、3~4歳より前の記憶が、と言われれば覚えていない方が普通だ。タヌはそのことを言った。

「つまり、今となってはそれがわかる人間は、お前の父親自身とハーランしかいない、か」

「母さんもいないし、うん」

「日記からもわからないのか?」

 DYRAの問いに、タヌが父親が残した日記を出して、めくりながら答える。

「家を新しくしたとか、引っ越したとか、生活変えた、みたいなことは全然書いていない。その、村の水車を修理したより前のページだけど」

 ここで、サルヴァトーレがDYRAとタヌを見る。

「そこは調べたいよね。けど、村は全部焼かれてしまったから、村の人からも聞き出せない、か。誰に聞けば良いだろう」

 サルヴァトーレの言葉に、タヌは頷いた。

「それでボク、ここをもう一度調べるために村へ……うわああっ!」

 タヌの言葉は突然、外から聞こえてきた大きな低い音に遮られた。音だけではない。地響きにも似た揺れも起こり、馬が驚いたため、客室も揺れる。御者が慌てて馬を引いて落ち着かせようとした。

「爆発っ!?」

 DYRAが声を出すと、サルヴァトーレがふたりへ動かないよう手で制してから、扉を開いて馬車から下りた。

「何事だ」

 サルヴァトーレがあたりを見回した。そう遠くない場所が火事になっており、もうもうと煙が上がっているのが見える。歩いていた人々も皆足を止め、同じ方向を見つめている。

「あれは……」

 火と煙が見える方角。それは錬金協会の建物がある方だった。大の大人で多少足に自信があるなら、ここから本気で走れば数分で行ける距離だ。

「サルヴァトーレさん!」

 タヌは少しだけ身を乗り出して、外を見た。

「タヌ君。危ないから」

 サルヴァトーレが言ったときだった。立ち止まって火の手が上がった方を見ている人々の間を縫って、ひとり、馬車の後方から走ってくる人物の姿がタヌの目に入る。

「あっ」

 タヌは見覚えがあった。金髪の中年男。食堂アセンシオの店長だ。タヌが声を上げたことで、サルヴァトーレが振り返る。

「あっ! あっ! ああっ!」

 走ってきた店長もまた、誰がいるかわかったからか、馬車の横で足を止めると、膝に手を置き、肩で息をする。

「サ、サルヴァトーレさん!」

「店長。一体、どうした?」

 タヌもDYRAも、店長の様子を見る。服がすす(・・)や埃まみれになっており、現場周辺から逃げてきたのが一目瞭然だった。

「た、たた、大変です! 錬金協会の人から頼まれて、葡萄酒をお届けに行ったんですよ。受付でちょうど渡したところで……はぁ、はぁ。そ、そこへ、リマ大公が2階から下りてきたんです」

 リマ大公と言われて、DYRAとタヌは顔を見合わせた。対照的にサルヴァトーレは耳を疑い、鋭い表情になる。

「どうして都の人間がマロッタなんかに!?」

「さぁ。わかりませんよぅ。でも、下りてくるなり、『今すぐ出ていくように』って。そうしたら急に口論みたいな声が聞こえて。何とか、何が起こっているか知ろうと食い下がったんですけどね、大公の付き人みたいなのに蹴り出されて、そのときに2階から火の手が上がり始めて……ふぅ、はぁ」

 店長の様子を見かねたタヌは、水の入った瓶とか手近にないか客室や自分の鞄を探すが、残念ながら持ち合わせがなかった。

「付き人は、『見たもの聞いたこと、大公がいたこと、絶対誰にも言うな』って」

「何だって!?」

 まさかの内容だ。サルヴァトーレが目を丸くする。タヌはその表情を見て、大変なことが起こったと理解した。DYRAは表情を変えることなく、じっと聞いている。

「それで店長、口論みたいなやりとりって?」

「そりゃもう、『会長に殺される』とか、『会長に勝てる』とか、すごい声でしたよ」

 タヌは目をまん丸くしてDYRAを見ると、小声で話す。

「DYRA。RAAZさんがどうこうって、すごい話になっている。まさか父さんかな……」

「いや、それはないだろう。だいたい、錬金協会からも姿を消しているのだろう?」

 小声でのDYRAからの答えに、タヌは「そうだよね」と呟いた。

「自分が見てこようか?」

 サルヴァトーレが聞くと、店長が大きく首を横に振った。

「いやいやいやいや! サルヴァトーレさんは有名人ですし。それにあのさっきの付き人、ちょっと面倒くさそうな人ですから!」

「面倒くさそう?」

「色付きの、板きれみたいな眼鏡掛けた人なんですけど……」

 サルヴァトーレ、DYRA、タヌは同時に、もくもくと煙が上っている方向を凝視した。

(一体、どういうことだ!?)

 何がどうなっているのだ。話が要領を得ない。事実としてわかったのは、リマらしき人物とハーランがマロッタの錬金協会に現れ、建物は火事になった。これだけだ。

(ハーランめ。状況を一気に変えに来たということか!)

 相手の石を自分の石で挟むことによって自分の石へと換え、盤上の石の個数を競う対戦ゲーム──リバーシ──よろしく、気がついたら今の状況が根底から変わるかも知れない。そんな予感を抱く。

「私が見てくるか?」

 DYRAは様子を見かねて申し出た。

「シニョーラが?」

「ああ。その男の言う通りで、有名人のお前がむやみに行くのは良くない。それにその話だと、()がいるかも知れないんだろう?」

「奴って?」

 何となくわかってはいるが、それでも、誰のことか確認するようにタヌは質問する。

「ハーランだ。『色付きの、板きれみたいな眼鏡掛けた』って言うから、疑うくらいでちょうど良い」

 DYRAの話を聞きながら、タヌは改めて、十中八九ハーランで間違いないと思う。そしてサルヴァトーレもきっとそう思ったに違いない、と。それでも今は目の前に店長がいる手前、RAAZとして動けないのだろうなと察する。

「サルヴァトーレ。タヌを頼む。ちょっと様子を見てくる」

「ああ。待って」

 サルヴァトーレがDYRAを制する。

「万が一があったら大変だから、顔を隠した方が良い」

 言いながら、馬車の客室に置いてあった白い四角い鞄を出すと、サルヴァトーレは中から黒い外套を取り出すと、DYRAへ渡した。

「男ものだ。顔も隠せる」

「すまない」

「現場ではまず、目立つな。見つかるな。もし、見つかりそうな気配を感じたらすぐに離れろ。つけら(尾行さ)れるなよ」

「わかった。戻るときは遠回りをして食堂へ行く」

 DYRAは野次馬が足を止めているマロッタの中心街へと溶け込んだ。

「DYRA。大丈夫かな」

 タヌは心細げにDYRAが消えたあたりをじっと見つめて呟いた。

「大丈夫だよ。タヌ君。マイヨさんのこともあるから、自分たちはいったん、先に行こう。店長も乗って。店へ行く途中だったから、良いよ」

 DYRAに代わって、客室に店長が乗り込むと、馬車は再び走り出した。


 野次馬に紛れて馬車が走り去ったのを視線で見届けたところで、DYRAは火の手が上がっている錬金協会の建物へ、気持ち早足で歩いた。走って一刻も早く現場へ行くことも考えたが、かえって悪目立ちして、黒い外套で隠した意味がなくなってしまう。何より野次馬たちもほとんどが立ち止まって見ているか、少しだけ近寄る程度で、走って現場へ、と言った人間の姿はない。それでもDYRAは、街灯の光が届きにくい場所や路地裏などを走ることで、少しでも時間を縮める。

「あれ、か」

 野次馬の輪と、火を消そうと水が入った桶を持って集まる人々が見える。外套の被りで顔が隠れているのを確認してから、DYRAは関係者のそぶりをして敷地の裏手に回り込み、中へと入った。

 DYRAが入り込んだ場所はちょうど、建物から離れたところで、裏庭のようになっていた。炎が明かりとなっているおかげで、木の陰に井戸があるのも見える。

 2階から煙と火の手がハッキリと見える。さらに、空の桶を持った若い女が再び水を汲むためか、走り出している様子もDYRAは目撃する。

(そこに井戸があるのに、見向きもしない、か)

 それが何を意味するのか。DYRAはすぐに理解した。次に2階をじっと見た。火事ならではのパチパチと焼ける音が聞こえるだけで、上からは何も聞こえない。

(もう中にいた人間は無事に避難したのか)

 DYRAが視線を戻したときだった。ざざっ、ざざっ、と裏庭の奥の方から土を踏みしめる音が耳に入った。

(誰か来る? それも、ひとりやふたりじゃない)

 少なくとも3、いや4人はいそうだ。DYRAはすぐ陰のある方へ移動し、息を殺した。音が近づくに連れ、何やら穏やかならぬ響きが耳に入る。続いてドサッという音が近くで聞こえた。DYRAは見つからないよう、ゆっくりと陰の端へと移動した。幸い、そこは先ほどの敷地の隅で、野次馬の一団も見える。これ以上近づいてくるようならタイミングをみて彼らの中に紛れるしかない。

 やがて、人影が見えて、声が聞こえるようになる。

「──どういうことだ!」

「──彼をこんな風にしたのはアンタよ?」

 若い男女の声だった。男は怒っているのか、話すときの身振り手振りも大きい。DYRAは人影を数えた。わかるだけで4人だ。

「──良かったわね。これでアンタは堂々と大出世」

 人影の動きが止まった。DYRAは目を懲らす。

(何かを踏んでいる!?)

 人影のひとりの足下が確かにおかしい。膨らんでいるように見える。DYRAはもう一度、人数を見ながら、それぞれの背の高さなども確認する。

(これは……5人か!)

 あとはやりとりの内容を聞くだけだ。

「──こいつが死ねばアンタは『恩師を失った悲劇の愛弟子』で同情される」

「──って、アンタがイスラ様の隣でタバコに火を点けたらいきなり!」

「──あら。タバコって、火を点けたらあんな風に燃えるの? 部屋が?」

 身を潜めて聞いていたDYRAは、何が起こったのか何となく理解する。

「──ま、アンタは何も損をしていないんだから、上手く立ち回りなさい。『文明の遺産』の支配者になれる絶好のチャンスよ?」

「──……い、いかん! ディミトリ……いか……」

「──ジイサン。黙った方が身のためだ」

 老人の声と中年とおぼしき男の声だ。前者は地面の高さあたりから聞こえ、もうひとりは後ろの方に立っている。炎の照り返りで時折、顔の位置が一部光ることがある。少なくとも、女を含め、どの声の主とも全員、DYRAは面識がない。いや、無理矢理でもあると言えば、脅した中年の男の声だ。それでも人々の声や悲鳴や火が燃える音に紛れているので、確証を持てない。

「──殺すんじゃない。縛っておけ」

「──はい」

「──止めろって!」

「──や、止めたまえ!」

「──この子がアンタの言うことを聞くと思ったら、大間違いだ」

「──ど、どういうことだよっ!?」

 少年の返事に若い男の声と、老人の声が被さる。さらに中年らしき男と若い男が口論を始めた。が、この後はガサゴソとした音がうるさくなり、DYRAには聞き取れなかった。

(引き時だな。野次馬がいなくなれば、身動きが取れなくなる)

 DYRAはそっと、その場から立ち去った。


改訂の上、再掲

199:【?????】変わる、空気の匂い 2021/07/19 20:00

199:【MAROTTA】そして世界は敵になる 2023/02/07 23:37






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 梅雨が明けて、今年もドバイのような暑さがやってまいりました。それにしても東京は相変わらず新型コロナ禍なのにオリンピック中央突破作戦開催ってことで、なんだか穏やかではない雰囲気な今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 聞いて下さい!

 次回で200話ですよ! 第200話!

 何か祝ってほしいですが、物語はとんでもない方向へ進んでおります!


 次回の更新ですが──。


 7月26日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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