表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/330

197:【NOTE】あのとき、何が起こった? 後編

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌは宿屋を出てサルヴァトーレの邸宅へ移動。何と、マイヨがいるではないか。まさかのゲスト登場にタヌはうれしさに頬を緩める。マイヨからの報告に、「ピッポがハーランと出会ったとき」の話題が上がる。

「ハーランとお前の生体端末、隠してあった場所は一緒だった」

 確認するようにRAAZが尋ねた。

「そうだね」

「ハーランはあの騒ぎの後、私が仕留めようとしたところで憲兵隊が乱入し、取り押さえたはずだ!」

「ああ」

「その後、政府が身柄を拘束した」

「その通り。だけど」

 空気の流れが、潮目のようなものが変わったのが、聞き役のDYRAとタヌにも肌感覚でビリビリと伝わってくる。

「クソの役にも立たない憲兵隊が上層部からの解放禁止通達が届く前に身柄引き渡しに応じちまった」

 暴言に似合わない事務的な口調で話すマイヨの姿に、タヌは一瞬、どう反応したら良いのかわからず、ぽかんとする。

「あいつらが……!」

 RAAZが苛立ちを露わにする。

「そ。だから、警察省のエラいさんから『死刑相当で施設に収容しました』って話が来ても、現実は違う。ハーランは自由の身だ」

 ドン! と、突然壁を叩く音が響いた。

「ふざけろ!」

 RAAZが壁に拳を打ち込み、叫ぶ。

「お前の話で行けば……!」

「あの日、あのとき、あの瞬間、そう、証拠をアンタに見せられない現状で、敢えてそれ以上は語らない。だから真実がアンタが確かめろ。それでもこれは言える。アンタに、ドクターが超伝送量子ネットワークシステムの試験をやろうとした日に連絡をした女憲兵は、アンタへの引け目があったからこそ、できる限りアンタの役に立とうと、ドクターの一番近くでの警護を担当し続けた」

 マイヨに言われ、RAAZは当時のことを思い出した。



「まずは所長の無事を喜んで下さい! テロリストには必ずこちらで然るべき処罰を与えますので!!」


「──言いにくいのですが……ドクター・ミレディアは、研究室どころか、研究所の建物にさえ護衛が入ることを嫌がります。護衛というか、御自身とほんの一握りの関係者以外と言いますか。それで、いつかのようなことが起こったらと思うと……」



 RAAZが思い出している間の沈黙が、DYRAとタヌは恐ろしいほど長く感じた。

「あ、あのっ」

 とうとう重苦しさに耐えられなくなったタヌは、流れを変えたいと、突然、話に割って入った。DYRAが止めに入ろうとしたが、一瞬タヌの方が早かった。

「あの……」

 タヌが懸命に言葉を探す。

「あ、あの、その、ボクの父さんは、そのことにも……RAAZさんの奥さんの件にも……」

 タヌは声を震わせ、声を絞り出した。耐えられないのはこの空気だけではない。もし父親が、RAAZの一番ナーバスな部分にも踏み込むようなことをしていたらと思うと、何をどう詫びても許してもらえるとは思えない、その重さからだった。それでも、何か自分にできることがあって、ほんの少し、爪の垢ほどでも償えることがあるのなら。そんな気持ちで切り出した。

 RAAZとマイヨがタヌを見たときだった。

「私も、良いか?」

 タヌを、RAAZの妻ミレディアなる、死んだ女絡みの十字砲火に晒す真似など真っ平だ。DYRAは庇うように話す。

「今まで私が見たものや聞いた話、今のお前たちの話を聞いて私も引っ掛かることがある」

 RAAZとマイヨ、そしてタヌも注目した。

「マイヨ。私がお前の部屋へ行ったときのことだ。お前が休んだ後、私は帰ろうと思って隠し昇降機で上に戻った。あのとき最初、暗くてよく見えなかった。けれど、目が慣れて、床も壁もまだら模様(・・・)の部屋だとわかった。あそこは血の海だった場所じゃないか? 床も壁も、そして机も椅子も」

 DYRAの話を聞くにつれ、RAAZの表情がみるみるうちに変わって、心なしか顔色も悪くなっているのをタヌは見た。

「部屋の奥に机があった。あれは恐らく固まった血だろう。だが、物色された形跡があった。引き出しを開けたら、指輪か何かを入れる箱があった。中には何も入っていなかった」

 DYRAがここまで言ったときだった。

「ああっ!」

 タヌは思わず、素っ頓狂な声を上げた。すぐに鞄から小さな箱を取り出す。

「どうしたガキ?」

「タヌ君?」

 タヌはここで、あるやりとりを思い出した。

「DYRA。キリアンさんと話したときのこと! 覚えている?」

 タヌはDYRAとデシリオで夜、3人で食事をしたときの会話を告げた。



「『もともと、指輪を入れた箱に入っていた』って。けど、その箱かどうか、箱に入っていた中身か確かめる方法がもうないって」

「何故だ?」

「話の流れ的に、どうもピッポさんが中身だけ持ってきたらしい。で、問題の箱のものか確かめる方法がないんだとさ」



 タヌは箱をDYRAへ渡した。DYRAは、受け取った箱を開き、マイヨの方へ向けて中身を見せる。

「中身はもしかして、これなんじゃないか?」

 DYRAが言うのと、マイヨが覗き込むのは同時だった。そのとき、マイヨの両目が短い間ではあるが、緑がかった輝きを放った。

「どこにあったんだ!? それっ!」

 驚くマイヨをよそに、RAAZが呟く。

「今、生体認証が反応したな。……ISLA。聞かせろ」

 そう言うと、テーブルに近寄り、置いてあった手つかずのグラスを手に、RAAZは発泡水を一気に流し込んだ。その間に、DYRAは箱を閉じ、タヌへ返す。

「お前、もともと、妻から預かったもの、もしくは預かる予定のものはなかったか?」

「予定はあった。あの日(・・・)の超伝送量子ネットワーク試験終了後、俺の体調の回復を待って、ね」

「具体的に聞いているか?」

「『鍵』だ。前に俺、言ったよな? ドクターへ『身体も魂も売り飛ばした。その見返りで今、こうしてマイヨ・アレーシは生きている』って」

「言ったな」

「その『鍵』は、俺の魂を売り飛ばした先にして、ドクターが俺に要求したものの答えだ」

「ISLA。もう良い。素直に『トリプレッテ』の鍵の一部だと言え」

「ちょっと違う」

「え?」

「正確には、『トリプレッテ』をドクターが考えていた本来の目的で使うための、言ってみれば……」

 マイヨは適当な言葉を頭の中で探してから、続ける。

「そう。起動システムを起動させる目的の、別のシステムを起動させるもの、だな」

「鍵の中に別の鍵があるみたいなものか?」

「そうね。それが近いイメージだ」

 ここまで聞いたところで、RAAZは考える仕草をした後、呟く。

「話が、だいたい、繋がった。それにしてもガキ。お前もよく調べ、良く食い下がった。親父を捜す執念は本物だったわけだ。そこは褒めてやる。だが、とんでもないことをしてくれた」

「えっ……。父さんは、やっぱり、たくさん迷惑を」

 RAAZが言いたいことをほぼ把握したのか、マイヨが頷き、言葉を引き継ぐ。

「そうだね。集まった情報からタヌ君にわかるように説明するよ? まず、タヌ君のお父さんと錬金協会の副会長は、あの山の向こうの地下深くで俺からパクッた生体端末(バイオ・ターミナル)を起動した。この時点で恐らく、お父さんはハーランとも出会っているんだ。きっと、何も知らずに地下深くへ潜ったとき、冬眠を解除したんだ。そして、行動を共にするうち、俺の生体端末(バイオ・ターミナル)と共に部屋へ忍び込むことに成功して、さっきの耳飾りを盗んだ。で、俺はその当時のやりとりがきっかけで、目を覚ました」

 タヌに量子通信ジャックのくだりを言ってもわかるわけがない。マイヨはそのあたりの説明をはしょった。

「……父さんは、マイヨさんの部屋にも入っていたなんて!」

 RAAZが話に割って入ろうとするが、マイヨが手で制してから話を続ける。

「そして、お父さんとハーランが袂をわかった理由は、お父さんが『文明の遺産』を独占したくなったからだろう。でも、決定打になった何かがあるはず」

「その鍵となるのは文字通り、タヌが持っている『鍵』、か」

 DYRAは納得した、と言いたげに独り言を口にした。

「これまででわかったことから詰み上げた仮説だけど、だいたい説明がつく」

「だけじゃない」

 RAAZだった。

「もうひとつ、わかったことがある」

「何?」

「何だ?」

 マイヨとDYRAがRAAZを見る。タヌは自分の父親が面倒の中心にいるとハッキリわかった落胆で、正視できない。

「ISLA。お前が私に何度か言ったな? 『本当のことを知らず、恨む相手を間違えて生きるのは、精神衛生上オススメしない』と」

「言ったね」

「ミレディアを殺したのはお前じゃない、と言い張った話だ。今のまま認めるのは悔しいし、腹立たしいが、その可能性が出てきたわけか」

「世界をぶっ壊して、アンタも気持ちが壊れる。ドクターはそんなこと望まない……なんてカッコ良いことを言いたいけど、自分のココロってのは、自分自身でしかどうにかできないから」

 マイヨは言い終えると席を立ち、空気を入れ換えようとばかりに換気窓を開く。

「キリが良いし、少し、食べ物を口にして一休みしよう。続きはその後」


改訂の上、再掲

197:【?????】始まりは、欲にまみれて 後編 2021/06/28 20:00

197:【NOTE】あのとき、何が起こった? 後編 2023/02/07 23:30






-----

 気がつけば1年の半分がおしまいです。今までにもまして時の流れが速くて参ってしまっておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 さて。ついにマイヨまわりをめぐる謎がひとつ解けました。そしてあの、恐ろしく存在感が薄かった「耳飾り」も実はとんでもないアイテムだとわかってきました。

 そう。終盤への重要な手掛かり登場です。


 次回の更新ですが──。


 作者というか、ブリュンヒルデの中の人が誕生日を迎える都合で、5日はお休み。

 7月12日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ