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193:【NOTE】ようやく情報共有へ

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌがフランチェスコにいた頃、マイヨはネスタ山の向こう側にある「ハーランのヤサ」へ潜入、家捜しを始める。そこで自分の生体端末が4基ここにあったことを知る。呆れたとも怒りとも言えぬ感情を堪えつつ、机からメモリーカードも失敬してくる。

 夜。9時を回るか回らないかの頃──。

 DYRAとタヌはマロッタに到着した。

 中年男と共に近くにある馬貸し屋へ馬の返却を済ませてから、中心街大通りにある《アセンシオ》という洒落た食堂へ移動した。

 ふたりは2階にある、8人は利用できそうな高級そうな個室へと案内された。タヌにとっては、以前マイヨと共に来た、勝手知ったる場所だ。

「クタクタだよぅ……」

 タヌはぐったりした感じで着席した。DYRAが心配そうにタヌを見ながら、隣の席へ座ろうとしたときだった。

「すみません。お姉さん。ご紹介が遅れました」

 金髪の中年男が黒いエプロンを掛け直すと、改めて背筋をピンと伸ばしてDYRAたちの正面に立ち、深々と頭を下げた。

「改めまして。自分、このアセンシオで店長をやっている者です」

「店長。ああ、さっきタヌがそう言っていたな」

「まずはあの、大変なご負担の掛かる移動を、ありがとうございます」

「いや、こちらが願い出たんだ。気にするな」

「とんでもないことです。サルヴァトーレさんが気に掛けている大切なお客様ですから。これからお食事をご用意いたします。もちろん、本日のお代は結構で……」

 中年男、もとい、店長が言いかけたときだった。

「ああ、シニョーラたちの食事代は、自分が出すから大丈夫だよ」

 突然聞こえてきた覚えのある声に、DYRAとタヌが扉の前に立っている人物を見る。店長も頭を上げた。

「えっ!」

 タヌは一転、嘘のようにしゃん(・・・)となる。

 一体いつからか、個室の出入口に赤い牛革の洒落たシングルロングコートに身を包んだサルヴァトーレが立っているではないか。

「店長ありがとう。朝、海の方で地震騒ぎがあったって噂も聞こえてさ、シニョーラとタヌ君のこと、本当に心配だったんだ」

 言いながらサルヴァトーレが中へ入ると、ポケットから小さな革袋を取り出し、店長に手渡した。

「色々臨時出費とかあっただろう? これ、手間賃代わりに」

 ずしりとした感触に、店長が驚いた。小石のような金が詰まるほど入っていた。

「えっ! こ、こんなに良いんですか?」

「だからさ、シニョーラとタヌ君を店長が見つけてくれて、自分としては感謝しかないんだよ」

 なんと空々しい芝居だ。DYRAはやりとりを聞いてそんなことを思うが、それを言葉や表情には出さなかった。この中年男、もとい、店長のおかげで無事に再会できたのは事実だ。RAAZも表だって依頼などができない中、結果的に使えるツテが上手く回ったのだから。

(タヌへの気遣い、マロッタへ移動する段取りの良さ。あらかじめそれとなく話していたんだろう。それにしても本当に、上手い具合に(・・・・・・)来るとはな)

「じゃ、お言葉に甘えて、ありがたくいただきます」

「受け取って。明日も多分、色々面倒掛けるし」

「面倒だなんて、とんでもないことです。サルヴァトーレさんのお願いなら、多少のご無理でも、できる限りのことはいたします」

「そう言ってもらえると助かる。ああ、そうそう忘れないうちに。今日は食事終わったら、近くの宿屋だ。明日の朝、自宅へ移動するための馬車を2台、用意しておいてくれる?」

「ええ。お安い御用です」

 店長がサルヴァトーレから受け取った小さな革袋をエプロンのポケットへ収めると、食事の準備のため、部屋を出ていった。


「それでは、どうぞごゆっくりお過ごし下さい。お食事が終わる頃にデザートをお持ちしますので」

 DYRAとサルヴァトーレの前には、鴨肉と蒸し野菜のオレンジソースがけ、大麦入りのコンソメスープ、ブロッコリーやレタス、それにトマト、きのこなどが盛られ、オリーブオイルがけしたサラダ、そしてライ麦パン。タヌの方はメインメニューが塊のような厚みの、仔牛赤身肉香草焼き。飲み物には発泡酒と発泡水が共に用意されている。もっともタヌの分は酒ではなくぶどうジュースだ。

「無事で良かった。まずは、お疲れ様」

 サルヴァトーレのその言葉を合図に乾杯し、3人は食べ始めた。

「……お、美味しい!」

 出された食事を、タヌは疲れと空腹からか、猛烈な勢いで食べていく。その様子はまさに『食べ盛り』と言った感じだ。みるみるうちに肉も野菜もなくなっていった。

「私の分も、食べて良いぞ?」

 ライ麦パンをちぎり、スープに軽く浸して食べていたDYRAは、タヌの食事の様子を見ながら切り出した。

「DYRA、本当に良いの?」

「ああ。むしろ、肉はいらな……」

 言いかけた言葉は続かない。

「きつい移動で身体がしんどいのはわかるけど、シニョーラも肉を食べなきゃ」

 サルヴァトーレが言いながら、使っていない取り皿をDYRAの前に置いた。DYRAはタヌへと自分の皿から半分ほど分け、盛った取り皿をタヌの前に置く。その間、別の取り皿にサルヴァトーレが自分の分から蒸し野菜と少しばかり肉を盛り、それをDYRAの前に出す。

 食事中、誰もこれまでの顛末を話題にしなかった。タヌがとにかく美味しそうに食べていたからだ。そんなところで重い話をして不味くする必要などどこにもないのだから。


 食事をすべて終えた後、3人は食堂から、サルヴァトーレが予約を取っていた「看板のない宿屋」へ移動した。部屋は2階全部を使った一部屋だけ。4人用で、寝室と浴室がふたつずつ、居間、それに簡素なキッチン。1階の帳場と食堂を除き、事実上全館貸切が前提の宿だ。

「うわぁ……」

 タヌは部屋へ入るなり、寝室のベッドへ倒れ込むと爆睡した。緊張の糸が切れ、疲れが吹き出たのは明らかだった。

「無理もない。昼からほぼ休憩なしで走り通したのだから」

 DYRAはタヌの靴を脱がせてベッドの足下に置いた。さらに隣のベッドから毛布を剥がすと、それをタヌへ掛ける。一通り終えると、ベッドから離れて居間へ移った。

 居間では、部屋の灯りをつけ、コーヒーの入ったマグカップを用意したサルヴァトーレがソファに座っていた。

「聞きたいことや、伝えたいことが色々ある」

 DYRAはそう言いながら、向かい側の長いソファに座った。

「全部、聞く。知っていることなら、可能な限り答えてやる」

 そこにいるのが姿こそサルヴァトーレだが、間違いなくRAAZだ。言い方でDYRAは理解した。

「デシリオで起こった地震だ」

「地震は……普通は運だが、あれは違う」

「運ではない地震があるのか?」

「ある。人工地震だ。私たちの時代では地震すら兵器(・・)として使おうとしていたからな」

 自分の都合で大地を揺らし、建物を崩すなどどうやってできるのか。DYRAは疑問をぶつけようとしたが思いとどまった。今聞くべきはそこではないからだ。

「ハーランか」

「やったのが誰かだが、言えることは『私じゃない』、だ。それ以外についてはわからん」

 コーヒーが入ったマグカップを取って、DYRAは一口飲んでから質問を続ける。

「デシリオのあの家だ。キリアンはタヌの父親が物置代わりにと言っていたが、結局あそこは本当のところ、誰が何のために用意していたんだ?」

「それを調べる準備をするために私は先に戻った。アニェッリが動いているんじゃないかと確認するために」

 サルヴァトーレの表情が歪み、下唇を噛んでいる。まさにRAAZならではの表情だ。それでもDYRAは、気になることを先に全部吐き出す。

「あのとき、タヌの父親が書いた日記らしきものを見つけて持ち出した。昨晩さらっと目を通したが、私やお前のことを含め、散々な書きようだった。まったく、あの男の本心はどこにあるんだ?」

 DYRAはそこで首を小さく横に振ると、残ったコーヒーを流し込んだ。質問がまとめられず、愚痴のようなことを言ってしまったからだ。サルヴァトーレがクスッと笑って席を立つと、DYRAの隣に移動して腰を下ろした。そして、いったん全部聞くとばかりに視線で続きを促す。

 DYRAは考えをまとめようと少しの間天井を見た後、再び口を開く。

「昨日デシリオを出た私とタヌは、マロッタへ行こうとしたが、辻馬車の御者から時間的なことを言われて、フランチェスコへ寄った」

「それで?」

「朝、食事をした後のことだ。タヌと街を歩いていたとき行政事務所とかいう建物の前に、大きな馬車が来た。通行人の言葉を聞くと、『アニェッリから来た馬車』で、『リマ様』と」

「リマ様?」

 サルヴァトーレの眦が上がる。おそらく重要なことなのだろうと、DYRAはサルヴァトーレに顛末を伝えた。

「入ってきたときと出てきたときで、顔触れが変わっていた、と?」

「ああ」

「そして靴跡も違う、と。その後は?」

「ちょうどそのときにさっきのあの店長が現れた。で、『事務所は今日開いていないはずなのに、おかしい』とも言い出したから中を見に行ったんだ。廊下に、誰かを殴って連れ出した痕跡があった。おまけに裏庭に例の井戸(・・・・)があって、使われた形跡があった」

「何?」

 どうして早く教えてくれなかったのだ。DYRAは、サルヴァトーレの表情からそう言いたいのだと読み取る。

「まだあるか?」

 DYRAは首を小さく横に振った。すると、サルヴァトーレがすぐさま立ち上がり、身体を支えるように肩を抱いた。

「キミも休め。井戸の件をもっと早く聞きたいところだが、致し方ない」

「タヌの父親の件も正直、まだ次への突破口が見つからない……」

「起きてからゆっくり洗い出せば良い」

「わかっ……」

 DYRAはそのまま、サルヴァトーレに介抱されて、眠った。

(いつものことだが……キミは本当に無防備すぎる)


改訂の上、再掲

193:【?????】神輿は軽くてパァが良い 2021/05/31 20:00

193:【NOTE】ようやく情報共有へ 2023/02/07 23:20






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 緊急事態宣言ファイナル延長とのことですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 6月6日(日)、東京ビッグサイト青海展示場で行われる予定の「コミティア136」へサークル参加します。

 サークルスペースは「お 24b」。サークル名は「11PKイレブンピーケー」です。

 新刊となります、「DYRA 8」はWeb版から大幅に加筆、再構成されたリッチな内容です。ピルロ再訪~マイヨとアントネッラの話です。さらに、「DYRA 2」が大幅改訂されて登場です。Web版と違い、表現などあちこちに手を入れました。結果として、164P⇒192Pへ大幅増となっております。

 この機会に、単行本版の「DYRA」是非、お手にとっていただければ幸いです。

 何と言っても! 神絵師と称するに相応しい、みけちくわさんの超絶美麗な表紙イラストがたまらなく魅力的です! どうぞよろしくお願いいたします!

 サークルスペースには、豪華なアントネッラのポスターも貼り出します! よろしくお願いします。


 次回の更新ですが──。


 6月7日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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