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192:【TRANSIT】マイヨ、ハーランのヤサへ

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌが事件らしきものの現場を目撃し、気になって見にいこうとすると、そこへマロッタの食堂の店長が通り掛かる。あまりにも都合良いタイミングでの登場に、DYRAは「RAAZは見ているのだろう」などと勘ぐる。


 DYRAとタヌがフランチェスコの街で動いた頃。

(以前、移動のピン打ちをしておいて良かった)

 ネスタ山を挟んで反対側、廃墟のような場所で、マイヨは手のひらを見つめながら呟いた。黒いグローブを填めた手には、普通の人間の視力で見つけることは困難なほど細かい金粉らしきものが一粒あった。

(タヌ君を助ける騒ぎのとき、最初から一緒に行かなくて良かった。そういう意味では、DYRAとRAAZに感謝しかない)

 マイヨは先日、DYRAがタヌを助けに行き、RAAZとハーランが直接対決したその場所を歩く。目の前に広がる風景は、見覚えがある場所だった。地面には最近爆発した跡もあり、さらに地面の下から金属類が剥き出しだ。

(政府側に種明かしされていないドクターの遺産が多いのはホント、有り難い限りだね。超伝送量子ネットワークシステムまわりとか。アナタは死んでもなお、俺たちを守ってくれている)

 穴が開いた場所をマイヨは厳しい表情で覗き込む。

(けど、《トリプレッテ》をハーランに奪われてしまえば……)

 もう、残された時間が多いとは決して言えない。むしろ、ハーランとの競争だ。調べられることを調べられるのは今しかない。動ける限り、動かなければ。マイヨは意を決して、壊れた螺旋階段の手すりを伝い、階下へ向かった。

(この一帯はもう、軍の敷地じゃない、気をつけないと)

 下りたところで、廊下を見回した。ひどい状態だった。強化樹脂製の床や壁、天井もめちゃめちゃだ。爆弾がここで爆発したのが容易に想像できる。

「あっちゃー」

 マイヨは、ぼやきとも何とも言えぬ声を上げながら、奥へと進む。

(ここは確か、死刑囚を収監するフリして匿う施設だったはずだ。できた当時はどうして軍の施設の近くに作るかね、ってメチャクチャ叩かれたアレなんだよな)

 あの頃、軍は政府を信用していなかった。そんな軍を政府は許せないと、粛正に動き出そうとしていた。互いが互いをどこかで信じていなかった。ここはそんな中で作られた曰く付きの施設だ。一時は「秘密トンネルを掘っていた」などまことしやかに囁かれていた場所のひとつだ。

(確か、政府の連中はこの施設を見張るために監視小屋を3つ作っていたはず。2つは俺たちで見つけて憲兵連中が急襲して潰している)

 障害物状態の破片などを避けながらマイヨは廊下を進んだ。L字の角を曲がると扉が3つ見える。どの部屋の扉も施錠ランプは点いていない。手前から開けて中を見る。最初の扉の向こうは狭い部屋だった。足と天板だけの素っ気ないテーブルと、転がった丸椅子があるだけ。他に目に留まるのは、樹脂製の壁に傷がついているくらいだろうか。マイヨは次に真ん中の扉を開いて踏み込む。こちらも狭い部屋で、利用形跡のあるベッドだけ。だが、壁に先ほどの部屋と同じ傷が見えた。

(お。ああ、なるほど)

 手前の部屋にあった樹脂製の壁の傷が、奥側の部屋からもヒビとして見えるのだ。

 マイヨは廊下に戻ると、一番奥、最後の扉を開いた。

(あれ?)

 扉の向こうは下へ続く折り返し階段だった。マイヨはここで異変に気づく。廊下を歩いていたときは破片などが多く気づかなかったが、階段に泥が付着している。それもごく最近のものだと一目でわかる。

 マイヨは一層気を引き締める。

(RAAZのとこの密偵さんか、考えなしの山賊くらいであって欲しいんだけどね)

 愛用の武器で防具でもある鉄扇を取り出すと、マイヨは忍び足で階段を下りる。階段を下りた先にある扉は開いていた。

 扉の向こうは廊下だった。微量の土が別の人物がどちらへ行ったかを告げている。マイヨはそれを見ると、侵入者がひとりであること、汚れの付き方から恐らく女性だろうと判断した。

(ああ、そういうこと(・・・・・・)なら。反対側から見ていくかな)

 マイヨは、土の汚れがついている方とは反対側へと走った。突き当たりまで走ったところにまたしても扉。こちらにはドアノブについている初歩的な回転鍵すらない。

(何だよ? セキュリティがガバガバだろ)

 マイヨは罠がないかざっと見回してから、扉をそっと開いた。またしても下り階段。ただし、直階段である。人の気配もないし、下を見ると、電子施錠システムはあるものの、扉は開けっぱなしだ。マイヨは手すりに腰を下ろすと、一気に滑り降りた。

 ありふれた平凡な引き出し付き机と椅子、それに大型モニターが壁に3列で合計9台設置された部屋だった。

(ハーランが使っていたのか)

 机に置かれた電子タバコの使用済みカートリッジと、電源がついたままで、映像もしっかりと映っているモニター。

(電源供給はどこからだ? やっぱり離れた場所から太陽光か? それとも、非常用のディーゼル自家発電が残っているってことか?)

 電源まわりはRAAZがそれなりに押さえているはずだが、現にハーランも人工衛星からの情報を取っている。マイヨは目を引かず、かつ、使い勝手の良さそうな電力確保手段を考えつつ、モニター画面を見た。

(ここの中と外か。なるほどね。ネスタ山の向こう、軍のエリアは本当にリアルタイム解析機能なしの、旧型カメラでしか見られない、と)

 マイヨはモニターに映し出された地図と該当箇所の映像を見ながら確かめた。

(人捜し屋なんてやっていたときは、ログ映像からそれっぽいヤツを追跡して、ローカルで突合していたのか? 奇特なことで)

 マイヨは内心、ネットワークを利用できない不便さの中での作業に対し、敵ながら少しだけ同情しつつ、今度は施設内が映っている映像に視線を移した。

 モニター映像の1枚が最下層、大深度フロアの部屋を映し出している。冷蔵庫のように寒い部屋らしく、空気がやや白い。そこには人が入りそうな円筒形の容器が4台あり、それぞれに大きくハッキリと、01、03、04、15の文字が見える。

(おい!)

 見た途端、マイヨは顔色を変えた。

生体端末バイオ・ターミナル! 4基パクッてここにかよ!)

 ドクター・ミレディアを殺して奪い取った真犯人は、ここに一度隠し、ほとぼりが冷めるのを見計らって持ち出すつもりだったのではないか。だが、RAAZの激しい怒りが事件から僅か半月後に世界を焼いたことで、それどころではなくなった。いや、3000年以上放置したと考えるのが妥当だろう。

(待った。4基全部起動済み(・・・・)だと?)

 マイヨは唯一残った手持ちの02をピルロで失い、奪われた端末のうち一基もフランチェスコで処分済みだ。残りは3基で、自分と同型が二基、市内などの偵察に特化した違うタイプが一基。生体端末がすべて起動している。残りを見つけなければならない。それでも、今はいったんここまでわかったことが収穫だ。マイヨは割り切った。

 次に、机の脇にある3つの引き出しを下から開いた。一番下と真ん中には何も入っていない。上段引き出しには丸い小さな鍵穴がある。

(良くある普通のシリンダー錠か)

 開けるのは造作もない。マイヨはボディスーツのポケットから薄い金属製の板を出すと、角を鍵穴に差し込み、手早く解錠して開いた。

 中には無造作に散らばった文房具類と、使い捨てライターをねじ込んだ紙巻きタバコが入った箱、それに数本の小さな鍵。マイヨはまず、タバコの箱に目を留めた。ライターに偽装した記憶媒体の存在を考慮してだ。しかし、杞憂だった。ありふれた平凡な使い捨てライターだ。マイヨは次に鍵に目をやった。

(お?)

 シリンダー錠用の鍵に交じって、小さな記憶媒体変換器があるではないか。マイヨはめざとくそれを見つけると中を開けた。小指の爪の半分程度の書き切り型媒体が入っている。

(失敬しとくか)

 マイヨは中身だけ抜いてスーツのポケットに収めると、引き出しに戻してから閉め、施錠した。

(RAAZにも土産になりそうな情報ができたし、あとは密偵さんを連れて帰る、か)

 先ほどの映像で見た限り、この施設はもぬけの殻。さっさと出よう。マイヨは気を引き締め直してからそっと部屋を出て階段を上がり、ロゼッタを探した。


改訂の上、再掲

192:【?????】潮目が変わるとき 2021/05/24 20:00

192:【TRANSIT】マイヨ、ハーランのヤサへ 2023/02/07 23:16






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 文フリが終わりました。次はコミティア136です。

 緊急事態宣言またまた延長のようですが、緑の都知事は「資金がショートしているから補償金出さない」みたいなことを言い出しておりますし、もう、誰も言うことを聞かない予感しかしません。確実に「2020年3月以前の生活」モードへ戻りつつありますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 6月6日(日)、東京ビッグサイト青海展示場で行われる予定の「コミティア136」へサークル参加することとなりました。

 サークルスペースは「お 24b」。サークル名は「11PKイレブンピーケー」です。

 新刊となります、「DYRA 8」はWeb版から大幅に加筆、再構成されたリッチな内容です。ピルロ再訪~マイヨとアントネッラの話です。さらに、「DYRA 2」が大幅改訂されて登場です。Web版と違い、表現などあちこちに手を入れました。結果として、164P⇒192Pへ大幅増となっております。

 この機会に、単行本版の「DYRA」是非、お手にとっていただければ幸いです。

 何と言っても! 神絵師と称するに相応しい、みけちくわさんの超絶美麗な表紙イラストがたまらなく魅力的です! どうぞよろしくお願いいたします!

 サークルスペースには、豪華なアントネッラのポスターも貼り出します! よろしくお願いします。


 次回の更新ですが──。


 5月31日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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