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186:【DeSCIGLIO】子どもに犠牲を強いるなよ

前回までの「DYRA」----------

ハーランとディミトリは、RAAZたちのもとを頃合いを見て立ち去った。デシリオの港でスリルな時間だったと振り返り、笑いながら、再会を約束した。

「いやはや。ピッポさん無事で良かった」

「すまない。ヴェントゥーラ。助けられた」

 キリアンの助けでDYRAとRAAZから逃れたピッポは、ふたりでデシリオのカジェホン港に来ていた。ここは近隣の街や近くの島へ往来する際に利用する小さな港だ。

 キリアンとピッポは、何度も何度もあたりをチラチラ見ては、話せば声が聞こえそうな近場に人の姿がないのを確かめる。

 ピッポはキリアンへ不快感を露わにする。

「だが、どうしてここへアレ(・・)を連れてきた?」

 キリアンはピッポから顔を逸らし、わざとらしい溜息を漏らした。

「タヌ君が不憫だからに決まっている。それに」

「カネで動くお前の口からそんな言葉を聞くとはな」

 キリアンの言葉を遮ってピッポが告げる。

 だが、キリアンも引き下がらない。

「は? ひでぇ言われようだ。ピッポさんはそう簡単に言うけど、オレはこの先のことも考えて、タヌ君の動向をどうにか突き止めようと思ったんだ。ヤマはって待ち伏せた甲斐はあったよ。そりゃこっちも最初は一儲けのネタにするかくらいの下心はあったけど、全然違った」

 そう言うと、港の近くで買った2本の酒瓶を開けると、1本をピッポへ渡した。そしてもう1本を美味しそうに飲みながら、キリアンは言葉を続ける。

「タヌ君はアンタを捜すのに、本当に、必死だったんだな。その必死さが通じたからこそ、こっちが度肝を抜かれそうな相手まで味方にしてた。ある意味、アンタが『文明の遺産』に本気になる以上の本気だ。オレだって心も動くさ?」

「らしくないな。首狩り屋。おかげでハーランが追い付いてきちまった」

「ハーラン? ああ、押し掛けてきた野郎か。にしても、錬金協会の会長サンに、三つ編みの兄ちゃん。……ピッポさん。アンタ、ドエラい相手まとめて敵にしているの、わかっている?」

 キリアンの指摘に、ピッポが気に留める様子はなかった。美味しそうに酒を一息に飲むと、瓶を海へ放り投げた。

「さて。アレのおかげで時間を稼げたんだ。今のうちに証拠を消さないと(・・・・・・・・)アレ(・・)も一緒に」

「ちょっと待った!」

 ピッポの話をキリアンが止めようとするが、無駄だった。

「あの家を潰す。朝一番に間に合えば、証拠が消えて、アレ(・・)も死んでくれるかなぁ」

「それは誰に対して言っている?」

アレ(・・)も、一緒にいたトロイア(売女)も、それ目当てに近づいただろう三つ編みも」

「待てや?」

 キリアンが真っ向から否定する態度を露わにする。

「息子を家の下敷きにしたいってか? それと言っておくけど、トロイア(売女)ってまさか、あのオネエチャンか? なら滅多なこと言わない方が良い。べらぼうに強いぞ?」

 キリアンはまくし立てた。だが、ピッポは意にも介さない。

「ヴェントゥーラ。俺はこの世界に明るい未来と、広い世界へ踏み出す力と希望をもたらす。そのために俺は『文明の遺産』を見つけようと、持てる力も生涯も捧げている。『遺産』を手に入れるために、どんなひどいことでもしようと心に決めた」

 キリアンは一瞬、忌々しげな表情になるが、ピッポはお構いなしに続ける。

「錬金協会の奴らは『文明の遺産』を隠している。おまけにハーランもグルと来た。それ以上に、皆がラ・モルテ(死神)と恐れるあの女だ。何のことはない。トロイア(売女)だったんだ。彼女とヤッた(・・・)ら、欲しいものは手に入ると言われる、トレゼゲ島に伝わる伝説のな! 証拠が、1000年以上生きている、錬金協会のあの会長だ!」

 聞き苦しいとばかりにキリアンはピッポの言葉をぶった切る。

「ピッポさん! それが本当でも、タヌ君を守ったのは間違いなくあのオネエチャンだ。息子を守った恩人への冒涜は、ピッポさんがどんなにすごいことをやっていようが、エラい人だろうが、相手が誰だろうが、それ、絶対ダメなやつだ!」

「ヴェントゥーラ」

 今度はピッポがキリアンの言葉に被せる。

「仕事を、頼みたい」

 キリアンは淀みない口調で即答する。

「オレは確かに雇い主から、『ピッポさんを守れ。全力で支えろ』って言われている。けど、『タヌ君を殺せ』ならオレは受けないよ? 子どもを攫ったり殺したりってのはオレの信条に反するからな。どんなにカネを積まれても、だ」

「証拠を潰した後、もう一度あの家へ行ってくれないか? 無事に死体があれば、貴重品一式回収してきてくれ。カネがあれば、それは好きにしろ」

 依頼内容を聞いた途端、キリアンは憮然とした。

「あのべらぼうに強いオネエチャンといるんだ。そう思い通りになるとは思えないけどな」

「誰の子かもわからないガキなんか興味ない。なぁ、ヴェントゥーラ。頼まれてくれ。アレが、『鍵』を持っているなら危険な存在になる」

「『返してくれ』って、素直に言えば良いじゃないか」

「言えるか。トロイアや錬金協会の会長、怪しげな三つ編み、ハーラン。面倒にしかならない。それにアレ(・・)が彼女とヤレた日には、最悪だ」

「タヌ君があのオネエチャンとヤッたら? 寝言は寝て言え、だ。そんな気持ちで近づいたら、オネエチャンの後ろにいる、もっと恐ろしいモンが切り刻みに来る」

「は? 俺が不老不死になるのは、すべての知識を吸収するためにも必要なことだ。何より、俺を助けるためにお前をよこしてくれたあの御方は、文明の進歩を望んでいる。アレ(・・)が邪魔になるなら排除するのはあの方のご意向に沿う」

「それは屁理屈だよ? 息子殺しの依頼なんて、まずおかしいだろ?」

「世界のためだ、頼む!」

「ちゃちゃっと取り返す、これで良いじゃないか。で、『鍵』の特徴は?」

 キリアンは星明かりで輝く海を見つめ、妥協点を告げた。

「ダメだ! どうか……この世界を、世界の未来を救うために、受けてくれ!」

 もはや正気じゃない。キリアンはピッポを見ながら困り果てた。


改訂の上、再掲

186:【DeSCIGLIO】捜す。それだけだ 2021/04/05 20:00

186:【DeSCIGLIO】子どもに犠牲を強いるなよ 2023/02/07 22:56






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 4月に入り、急激に暖かくなってきているのを実感しています。このままだとまた、一足飛びに夏になりそう。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


 DYRAが決して口にしない、そしてキリアンすら驚愕した、あの部屋で見たものは結局何だったのでしょうか。そして、無事に持ち出すことができた日記には何が書いてあるのでしょうか。

 気になるのはRAAZが地震について胸騒ぎを感じたこと。

 まさか、その地震って……!

 色々あります。でも、話は進んでいるのです!


 次回の更新ですが──。


 4月12日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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