185:【DeSCIGLIO】大人のイタズラ後みたい?
前回までの「DYRA」----------
ハーラン対策を考えるRAAZとマイヨ。だが、あれこれ状況整理をしていくうち、マイヨは自分が重大な見落としをしていたことに気づき、ハーランが考えている計画はそこを突いてくるのではないかと思い始める。
「オッサンもケガなかったみたいで」
ディミトリがランタンを灯しながら、ハーランへ尋ねた。ふたりは、ピッポが使っていた邸宅でRAAZやマイヨなどがいたことを確認した上で退散すると、デシリオから北へ向かう街道の入口まで走って移動した。奇しくも数時間前の昼間、DYRAやタヌが移動で使った道だ。時間はすでに深夜だが、傍らに移動用の馬車が停まっている。
「ケガなんかするわけないだろう。ははは」
ハーランは手に、先端がランタンより明るい光を放つ太い筒を握っている。ディミトリは興味深そうに見つめる。
「あれ? オッサン何それ?」
「これ? ああ、懐中電灯だよ。俺たちの時代じゃ、どこでも買える。それこそキミたちが使うランタンよりも簡単に」
「へぇ……どうやって光るんだ?」
ディミトリが興味深そうに見つめる。
「正面から見ると目をやられる」
ハーランが注意すると、ディミトリは正面に回り込もうとするのを止めた。
「これが光る理由は、キミたちの文明ではまだわからないだろうな。でも、RAAZを排除できれば、教えることはできる。彼が止めているだろうから」
「会長が、止めている?」
ディミトリが呟くと、ハーランが笑顔で彼の肩をポンと叩く。
「じきに、アレは終わるんだ。会長なんて称する必要もないよ?」
「え? そうなの? オッサンは何を考えているんだ?」
「あのクソガキ……RAAZをこの世界から引きずり下ろして、この世界をキミたち自身の手に取り戻すこと」
ハーランの言葉を、ディミトリは一瞬、呑めなかった。
「待ってくれよ。それだと、オッサンの探しもの、何とかって箱? それさえあれば良いってコトか?」
「ああ。ラ・モルテの棺桶になり、キミたちを怯えさせるRAAZや、振り回すアレーシ坊やを永久に封印できる」
「封印って」
「そういうものだよ」
はいそうですか、とすんなり納得などできない。ディミトリは半分興味と好奇心、もう半分は真意を問うておこうという気持ちでさらに質問する。
「オッサンは、会長、いや、RAAZに代わりたいのか?」
「まさか」
ハーランはディミトリの問いに対し、軽く手を振って一蹴する。
「俺はこの世界にいる。ここは俺の知らない世界だ。目が覚めたらここだった。オニーサンだって例えば、ある日目が覚めたら石器しかない時代だったらどうする?」
ディミトリは、言われてみればそうだと納得した。目が覚めたら日常とあまりにもかけ離れた世界だったら激しく動揺するだろう。しかも、その世界で生きていくしかもう方法がないと言われれば、どうだろうか。
「えっ……もしそうだったら? ……でもそれって、選り好みなんてできないだろうな。そこで生きるしかないってことだろ?」
「そういうことだ。だからこそ、敬意をもって接してもらえるなら、俺だってキミたちの文明が進歩するためのお手伝いくらいなら喜んでする。悪いが、俺はRAAZみたいな分不相応な生き方はできないからな」
「分、不相応?」
「そうだよ。商人の器でない人間が商売をやっても上手くいかない。同じように、王様に相応しくない人間が王様になっても最終的には国を滅ぼすだけだからな」
「オッサンは、じゃ」
「俺は人の上に立つ器じゃない。けど、『人の上に立つ器を見つける』ことならできる。人ってのはね、自分にできることしかできない、そういう生き物なんだよ」
ハーランはそこまで言ってから話題を変える。
「ところでオニーサン。明日、明後日のご予定は?」
「会合。多分、それなりにバタバタするんじゃないかな」
「じゃ、イスラ君に伝えておいてくれるかな」
「何て?」
ディミトリが問うと、ハーランはポケットの中から小ぶりな封筒を2通取り出すと、両方ディミトリへ手渡した。
「まとめて渡しておいてくれ」
「ああ。わかった」
「オニーサンへもちゃんと連絡するから大丈夫」
「え? どこにいるかわかるの?」
「大丈夫だよ。それにね、何日かしたらもう、世界はキミのものかも知れないよ? オニーサン。それじゃあまた」
「えっ! 『それじゃあまた』って」
ディミトリが言い終わるよりも早く、ハーランはその場から去った。周囲の空気に溶け込んでいくように姿を消して──。
その場に残ったディミトリは、封筒をじっと見つめて考え込む。
(仕事中の俺と、オッサンはどうやって連絡するつもりなんだ?)
怪訝な表情を浮かべると、上着のポケットに封筒を強引に入れ、馬車の客室へ乗り込んだ。
「馬を止めたところまで頼む」
「ディミトリさん。でも、こんな時間に移動なんて、大丈夫ですか」
「そのための、アオオオカミ除けの護符だろ?」
「いや、盗賊とか出ても困りますし」
「巻き込まれたら俺が何とかするって。急いで出してくれ」
「ええっ。もうっ。わかりました。……でも、知りませんよ?」
馬車が走り出すと、ディミトリは深い息をついて目を閉じた。
(おいおい。あの庭で銃を撃ったヤツってまさかとは思うけど……)
ディミトリは馬車が揺れることなど気にもせず、客室の角に背を預けると、寝息を立てた。
改訂の上、再掲
185:【DeSCIGLIO】人でなし 2021/03/29 20:00
185:【DeSCIGLIO】大人のイタズラ後みたい? 2023/02/07 15:45
1年の1/4が終わろうとしている中、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
タヌとDYRAは、辛うじて次手への手掛かりを掴みました。
しかし、次から次へと色々起こりますね。本当に。
部屋にあったものは、何だったのでしょうか。「人間が目にするには」ってものだそうですが……
次回の更新ですが──。
4月5日(月)予定です!
日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆