184:【DeSCIGLIO】超、緊急対策会議?
前回までの「DYRA」----------
DYRAとRAAZはタヌやマイヨが待つ家へ戻る。だが、顛末を気にするタヌへ、DYRAは口を開くことはなかった。RAAZとマイヨはこれからのことを話し始める。自分たちが思っているより、ハーランの動きが早く、思うほどに時間が残っていない、とも。
マイヨの頼みに答える形で、タヌは山の向こうへ攫われたときの、ハーランとのやりとりを思い出し、告げた。
「あの、信じられないかも知れないですけど」
タヌは一言、そう前置きしてから告げた。
「キミには、俺のことを誤解してほしくなかったからだよ」
「俺だって人間だ。嫌われ、蔑まれるより、たとえささやかでも敬意を払われ、静かに暮らせる方が良いに決まっている」
「キミたちの時代の文明の発展に寄与できるなら、俺の知っていることを教えるくらいはできる。間違った道に進まないためにも」
タヌの話を聞いたサルヴァトーレとマイヨは難しい表情をした。
「本当に? 影で恐ろしいことを呟いていたとか、言葉と態度がどうも噛み合わない気がするとか、そういうことはなかった?」
「にわかに『信じろ』と言う方が難しい。でも、タヌ君がお父さんの居場所を知らない以上、ハーランが大嘘をつく理由もない」
マイヨはここで、「考える時間をくれ」と言うや、空になった水の瓶を持って部屋を出る。しばらくして、コーヒーの香りと共に戻ってきた。
「タヌ君。キッチンでコーヒーを沸かしていたんだ。持ってきてくれるかな」
「はい」
タヌが部屋を出ると、マイヨは口を開いた。
「ハーランが何をしたいのか。さっきアンタと話したときに出たもの以外で考えられる限りの可能性の選択肢を考えた。俺があの男なら何が欲しいかとか、そういうのも含めてね」
「それで?」
サルヴァトーレが聞くと、マイヨは静かに頷いてから話す。
「言いたいことは色々あるだろう。けど、いったん、俺の考えを一通り聞いてくれ」
「聞いてやる」
「ハーランは言わば国家の汚れ役を一身に引き受けたファンタズマ。で、その隊長まで上り詰めた。情報取りをするために無茶振りしまくって『知りすぎた男』になった俺や、秘密裏に一国の軍隊をひとりで脅かせるバケモンになったアンタとも違う」
「それで?」
「つまり、あの男は変な野心も持たず、実績を積み重ねた。アイツが殺した相手の立場や人数を考えれば、もっと出世しているか、口止めも兼ねてかなりのカネが動いたはずだ。けど、俺が調べ上げた限り、そんな話は全然なかった。なぁ。そんな男が『世界が変わったから』ってだけの理由で、いきなり『権力者になりたい』とか言い出すと思うか?」
「長い間、日陰者であることにストレスを感じていたなら、誰よりも『なりたい』という思いを強くすると思うけど?」
サルヴァトーレからの答えに、マイヨがわかっていないと言いたげに首を横に振った。
「そこだ。『日陰者であること』にストレスがたまっていたなら、そもそもファンタズマなんか続けられない。言い方を変えれば、選抜もされない。まして、身体に負担が掛かるケミカロイドに改造されるのも御免被るはずだ」
「表だって支配者にならず、『トリプレッテ』に隠れてアガリだけ取ることもできるぞ?」
「恐怖を楯に、貢ぎ物を要求? それ、本質は体の良い恐喝だよ? そりゃ、ハーランは確かに、法と秩序を守らせるために暗がりから闇討ちする男だ。けどさ……」
「何が言いたい?」
サルヴァトーレが今にも詰め寄りそうな雰囲気に、マイヨが苦々しい表情を見せそうになる。と、そのときだった。
「サルヴァトーレさん。マイヨさん。コーヒー、淹れてきました」
タヌが銀色の盆に3人分のカップと水の入った瓶4本、それにコーヒーケトルを載せて持って戻った。少しの間だけ、部屋に流れ始めていた硬い空気が消えた。
サルヴァトーレが先、マイヨが後からカップを受け取った。2つのカップにはすでにコーヒーが注がれていた。タヌはコーヒーを淹れるため空のカップを手にした。しかし、起きる様子がないDYRAをちらりと見ると、カップを盆へと戻した。
「話を戻すよ?」
マイヨはコーヒーを口にしてから仕切り直した。
「ハーランの目的について考えるとき、すべての選択肢を排除できない。俺たちの先入観だけで決めつけるわけにはいかない。俺なりに昔、調べ上げたハーラン関連の情報もある。そこへタヌ君の話だ」
マイヨは鋭い視線をサルヴァトーレにぶつけた。
「俺たちへ並々ならぬ排除の感情があること、『トリプレッテ』を要求したこと。それと迷子になったタイムトラベラーよろしく、こんな鄙びた文明に飛ばされてこれからどうするか。ただ、最初のふたつと最後のひとつは、別で考えた方が良いんじゃないか?」
聞いてはいるものの、タヌは話にまったく入れない。そこに聞こえてきた、鄙びた文明の一言。彼らが本来所属していた文明はいったいどんなところだったのかと興味がわいた。
「くっ」
サルヴァトーレは返す言葉に詰まった。マイヨはそんな様子を、RAAZがド正論であると頭ではわかっているのだと解釈する。そう。腹に落ちていないだけで。
「何が、言いたい?」
絞り出すようにサルヴァトーレが問う。
「『良かれ』と思ってやっていることだって、違う視点から見れば『余計なお世話』かも知れない。さらに別の視点で見れば『許されざる振る舞い』だと見られているかも……」
マイヨはコーヒーをまた一口飲む。その後、深呼吸でもするように大きく息を吐いた。
「RAAZ。敢えて聞く。アンタは俺たちの文明をぶっ潰した。その後もまた、ぶっ潰した。で、今度は今の文明で何をしたい?」
「言わずもがな」
その口調は、サルヴァトーレではない、RAAZのそれだ。
(RAAZさん)
聞き役に徹するタヌは、表情や仕草に出さないように気をつけた。下手のことを言って睨まれるくらいならマシな方だ。それに、話の内容が内容だ。最悪、DYRAが寝ているのを良いことに、殺される可能性だってゼロとは言い切れない。
「なるほど。……厄介なことになりそうだ」
マイヨは腑に落ちたのか、いつもの柔らかい表情に戻った。
「俺たち3人だけの話なら、俺たちかハーラン。どちらかが完全に機能停止するまで、ってだけの話だ。けど、この文明の人たちから見て、何をやりたいかって話。俺は『文明の遺産』を考えなしなこの文明の奴らには渡したくない。アンタはカミサンの件がある」
「ミレディアを殺したヤツらだぞ。渡す理由もない」
「そこは色々言いたいことがあるが、本題じゃないから割愛。それで、タヌ君が話してくれたことだけど、多少差し引いて考える必要があっても、かなりヤバイかも知れないって」
「ヤバイ?」
サルヴァトーレがマイヨを睨む。
「ハーランは案外、本気なんじゃ? 経緯はともかく、30年近くアンタに気づかれることなく活動できている。その時間がすべて、『準備』に使われていたなら?」
サルヴァトーレは難しい表情のまま耳を傾ける。事実だ。マイヨからの警告がなければハーランがいるなど夢にも思わなかっただろう。
「恐らく……」
「待て」
サルヴァトーレはマイヨの言葉を制止すると、タヌを見る。
「タヌ君。お父さんのことで、厳しいことを言うよ?」
「大丈夫です。父さんがDYRAを傷つけたかもってわかった時点で、ある程度覚悟はできていますから」
「良い覚悟だ」
タヌの返事を聞いてから、サルヴァトーレは視線でマイヨへ続きを促した。
「ハーランは、アンタが影から支配するこの世界の仕組みそのものを潰そうとしているんじゃないのか?」
「別に支配した覚えはないぞ?」
「それはアンタの言い分だ。この文明の連中から見れば、錬金協会が『文明の遺産』を管理、独占している。それだけでも余計なお世話だし、進歩的な人間には結構な締めつけだ」
そう見えるのか。マイヨからの指摘に対し、サルヴァトーレは僅かながらも表情を和らげつつ、考える。マイヨは続ける。
「で、その締めつけに対して、わかりやすかったのがピルロだ。事実、あそこは錬金協会の軛から逃れようといち早く動いたからな。結果はともか……ぁっ」
マイヨは言葉を止めた。タヌは、突然目を見開いたマイヨの様子に、何かすごいことに気づいたのだろうかなどと考える。
「どうした?」
マイヨは喉まで出掛かった言葉を必死になって押さえるようにコーヒーを流し込んだ。サルヴァトーレもマイヨの異変に怪訝な表情を浮かべる。タヌは、マイヨの様子にただならぬ雰囲気を感じ取る。
「おい……RAAZ。ハーラン排除を決めたなら、早めにやった方が良いかもな。時間が経つほどアイツが有利になり、アンタは追い込まれる」
予想もしなかったマイヨからRAAZへの言葉に、タヌは信じられないと言った面持ちでマイヨを見る。
「アンタが愚民とバカにする人々には少ないが、とても強い武器があるからな」
自分たちがRAAZを倒せるほどの強力な武器があるだろうか。冗談でもそんなものが存在するとは思えない。タヌはそんな風に思いながら、一体それはどんなものかと考える。
「愚民に、私をも倒せる武器があるだと?」
「人の心と団結力、それに、数の力だ。俺たちはDYRAを入れても3人しかいない。だが、連中は……」
「ダニやゴキブリのように無数にいる、か」
「彼らだって人間だ。見くびった瞬間、アンタ負けるぞ?」
こんなことを言いたくない。マイヨの表情や雰囲気の端々から、タヌはそんな風に読み取る。
「アンタとこうやって話していて、裏を取りたいことが出てきた」
「裏取り?」
サルヴァトーレが少しの間、マイヨをじっと、射るような視線で見つめる。
「ISLA。何を考えている?」
「タヌ君が言った内容からヤツがやりたいことを考えれば、ヤツにはどうしても必要なものが出てくる。それは、日陰者だったヤツでは持ち得ないものだ」
「必要なもの?」
「あーあ。ったく、俺もアンタの甘さをゴチャれる身じゃないな。アンタがハーランに気づかなかったように、俺もこの鄙びた文明を甘く見て、とんでもない見落としをしたかも知れない」
自らに毒づくように呟いたマイヨは、コーヒーケトルから2杯目を注ぎ、流し込むように一息で飲む。そして、暖炉の側へと歩いた。
「おいおいおい。俺としたことが、あの騒ぎのとき、一番肝心なものをチェックしていなかったとはね」
マイヨは暖炉の側、DYRAが横たわっている長椅子の背もたれにほんの少し背を向けると、独り言を呟いた。
金色の瞳に自らの後ろ姿を捉えられていることに、マイヨは気づかなかった──。
(タヌの父親と、ハーラン。思っているような関係とはもしかしたら、違うのかも……)
長椅子に横たわっていたDYRAは、再び目を閉じた。
改訂の上、再掲
184:【DeSCIGLIO】ブービートラップ 2021/03/22 20:00
184:【DeSCIGLIO】超、緊急対策会議? 2023/02/07 15:43
3月、春分点をすぎ、あと少しで1年の25%が迫ろうとしています。皆様いかがお過ごしでしょうか。
まずは、2週お休みしたことをお詫び致します。
実に申し訳ございません!
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
一体何が起こったのか。これからどうなるのか。DYRAは何を見たのか。
タヌの父親は何をするためにいなくなって、何の秘密を抱えているのか。
次回の更新ですが──。
3月29日(月)予定です!
日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆