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181:【DeSCIGLIO】罪悪感の欠片もない変態親父

前回までの「DYRA」----------

突然現れた「銃を手にした男」を森へと追い掛け、身柄を押さえたDYRA。だが、男はDYRAを売女呼ばわりし、自分と今すぐ関係を持つように要求する。そのやりとりを聞いたRAAZが激怒した。

「私の可愛いDYRAをトロイア呼ばわりとはな。そんなお前はクズ以外の何者でもない」

 声を聞くや、何が起こったのかDYRAはすぐに把握する。

「RAAZ。お前、いつの間に」

「そのクズがキミをニヤついた顔で見たあたりからだ。ただ、声を掛けるタイミングを見つけられなくてな」

 RAAZの表情を見ることはできない。だが、その背中から怒りのオーラがあふれ出そうなのを堪えているのをDYRAは察した。

「RAAZ。本当に、この男がタヌの父親なのか?」

 RAAZがゆっくりと男の方へと歩き出す。DYRAも動いて、RAAZと男、両方が視界に入る位置へと移動した。

 大木を背にしゃがみ込んでいる男の顎を掴んでRAAZが持ち上げる。男の足は、地面から浮いている。

「ああ。ピッポこと、フィリッポ・クラウディージョ。何年か前、私から『鍵』を盗んだヤツだ。……久し振りだな。この数か月、コソコソ逃げ回っていた気分はどうだった?」

「離せ!」

「ったく。私の可愛いDYRAがお前の息子に振り回されたんだ。ようやく見つけたと思ったらクズ丸出し、穢らわしい手でDYRAに触れるとはな」

 RAAZが言い終わるや、男、もとい、ピッポが後頭部から大木に叩きつけられる。

「私を追い落とそうとしていた連中と組んでいただけなら笑って許したが、ハーランと組んでいたんだからなぁ。ガキの父親でないなら、今ここで殺処分しているところだ」

 そう言ったRAAZの瞳に、怒りの色が浮かび上がっているのがDYRAにもわかる。同時に、この後の対応如何では、今すぐピッポを殺すかも知れないとも。

「その女とヤッたから今があるだけの馬の骨がっ! 俺の方がお前よりもっと『文明の遺産』を広められる! この世界が『必要』としているのはお前じゃない! 俺だ!」

「ったく。取るに足りないお前を良い意味で放置してやっていたのに、これまでだな」

 RAAZが赤い花びらの嵐を起こしながら、その手に諸刃の大剣を顕現させた。それを見たDYRAはハッとする。

「悪いが私はそこまで寛大じゃない。お前の息子の命を助けた上に面倒まで見てやったDYRAへ、クズそのものの振る舞いをしたんだ」

 RAAZが言い終わるなり間髪を入れず、大木を背に膝を落としているピッポへ剣を振り下ろした。

「まずい!」

 見ると同時か、見るより早くか、DYRAが反射的に飛び出した。背中に痛覚と奇妙な涼しい感覚とが伝わった。このとき、RAAZとピッポが同時に息遣いとも声とも言えないような何かを発したが、DYRAの耳に入ることはなかった。

「──!」

「──!」

 何が起こったかわかったRAAZがすかさず空いている手を伸ばし、DYRAの腕を掴もうとしたときだった。

「うっ、動くな!」

 信じられないような速さで立ち上がるや、ピッポがDYRAの背中に腕を回して抱き寄せた。普通の人間とは思えぬそれだ。生存本能がなせる業と言うべきか。大木に背を預けたピッポがDYRAを自身の楯にする。

「勘違いするなよ? 彼女を人質に取ったつもりなら、何の意味も無いぞ?」

「RAAZ。タヌが悲しむ。……斬るな」

 背中の激痛など少しも感じていないとばかりに、DYRAは恐ろしいほど冷静な口調で告げる。RAAZが反論しようとするが、その声は聞こえなかった。

「ぐはっ!」

 DYRAにしがみついたまま、ピッポが膝を落としていく。やがて、頭の高さがDYRAの腰のあたりにまでずり落ちた。そんな様子を見ながらDYRAは告げる。

「『女は最後には言うことを聞く』程度に考えていたなら、甘かったな」

 しかし、ピッポはずり落ちていった両手でDYRAの臀部にしがみつく。

「頼む……! 俺にも不老長寿を分けてくれ……! 俺は『必要な人間』なんだ。この世界で選ばれし者なんだ……。俺が持って帰らないと、いけないんだ……」

 RAAZが斬る体勢を取っているのをDYRAは背中越しに感じる。左手を少しだけ上げて待ってくれと伝える。

「お前、私へ言ったそんな要求、自分の息子の前でも恥ずかしげもなく言えるのか?」

「もちろん! もちろん! 喜んで。誰の前でも! 世界のためなら、俺の、男だの人だののプライドなんて、どうでもいいモンだ」

 欲しいものを得られるなら、人として守るべきものなど些末とまで言い切ったピッポ。しかも我欲からではなく、世界のためとまで言い切って。

「本気で言っている……?」

「そうだよ。だから……」

「そんなくだらない願いで、子どもの前でも堂々と羞恥心を捨てるとまで言い切るとはな」

 DYRAはこんな理不尽かつ、非礼極まりない要求を聞き入れる義理などないと思う。同時に、ピッポの執念は本気だし、本当にタヌの前で臆することなく言い切ったらどうしたら良いのかとも思い悩む。タヌにこんな救いようのない父親のザマを見せても良いのか、と。

 DYRAは片膝で、ピッポの顎を蹴り上げ、臀部にしがみついていた手が離れた瞬間、すかさず頭部から突き飛ばした。身体の自由を取り戻すと、さっと2歩ばかりRAAZがいる方へ下がった。

「ピッポ、だったな。お前には聞きたいことがいくつもある」

 DYRAは焚き火と星明かりの下でピッポを見下ろしながら、続ける。

「それに何より、タヌがお前に会いたがっている。待たせているんだ。来てもらうぞ?」

「冗談じゃないっ!」

 言い終わるなりピッポからの即答。これにDYRAは面喰らった。

「あそこには、奴ら(・・)がいるじゃないか!」

「ハーランと私が行動を共にしている、とでも?」

 RAAZを指差しながら言い放つピッポに、RAAZが冷たい一瞥を投げた。そんな様子を見たDYRAは何かを吐き出すかのように深い溜息を漏らす。

「なるほど。そういうこと、か」

 それでもDYRAは引き下がらない。

「タヌを、お前の息子を待たせていると言っているだろう」

「冗談だろうっ! ラ・モルテ!」

「まだ言うか」

 DYRAは殴るべく歩み寄ろうとしたが、RAAZに拳を作った手の手首を掴まれ、止められた。入れ替わるようにRAAZが前へ出て、ピッポの頬を殴った。

「面倒を掛けるな」

「自分だけが良い思いをして! いつまでも、お前だけが特別だと思うな」

「悪いが、DYRAをトロイア呼ばわりしたお前を私は今すぐ殺したい」

「だいたい! ラ・モルテがどこの男とも知らないガキを俺の息子呼ばわりとか、ワケわからないことを言うからだ! すっこんでろ! 手を出すなってラ・モルテも言っただろうっ!」

 ピッポの尊大な態度を見ているうち、DYRAは新たな疑問を抱く。この態度の根拠は何なのか。それ以上に、今の話だと、タヌを息子と思っていないようではないか。この点についても疑問をぶつけた方が良いだろう。DYRAは取り押さえることができたのだから、落ち着かせてからタヌのところへ連れて行っても問題ないのではと考える。RAAZもいるのだ。この状況で逃げ切れると思うほど、ピッポも愚かではないと信じて、DYRAは決める。

「そこまでタヌと会うことを嫌がり、私を死神だ売女だと言いたい放題なお前のことだ。根拠があるんだろう? むしろ、どうしてそこまで言えるのか、興味が出てきた」

 もちろん、本心ではない。冷静になってほしいからこその方便だ。

「じゃあ、ここで話を聞くだけだ。ガキを避ける理由も、DYRAを罵倒した理由も、な」

 RAAZがそう言って、タヌの父親を名乗る男の肩を掴むと、強引に手近なところにある倒木に腰を下ろさせた。そしてすぐ隣に自分も座る。DYRAは周囲を見回し、先ほど点けた焚き火がそろそろ消え始めていることに気づく。すぐに周辺に落ちている手頃な大きさの枝を拾い集め、消え始めた火にくべた。焚き火が明るさを戻す。

「まずはお前のガキを守ったDYRAへ、その非礼な言葉の数々を詫びるところからじゃないのか?」

「は? 何故? 事実を言っただけだ。それを『中傷』とは心外な」

 自分が殺される心配がないとわかったからか、開き直ったからか、ピッポはしれっと放言した。DYRAは内心呆れ、RAAZは苛立ちを隠そうともしなかった。ふたりは改めて、こんな人間のクズみたいな親からどうやったら常識も良識もそれなりに持ち合わせて礼儀正しい子が生まれてくるのだろうか、などと思う。

「『事実』の指摘は中傷なんかじゃない。非礼とは何だ」

 RAAZが冷たい、射るような視線でピッポを見ている。DYRAはその様子に、この調子だと話の流れ如何で今にも殴り殺すのではと予感を抱く。

「さっきから聞いていれば、『DYRAにハメれば願いが叶う』みたいなモノの言い方をしやがって。ガキが聞いたら『親父が命の恩人に向かって』とさぞ失望するだろうよ?」

「俺は歴史の事実(・・・・・)を言っているだけだ。事実の指摘をまるで『中傷』でもしているかのように言うなんて、それこそ俺への非礼だろう」

事実(・・)、だと?」

 男からのまさかの切り返しにRAAZが反応するよりも早くDYRAは口を挟んだ。質問を聞いた男が真顔で頷く。

「そうだろう? ラ・モルテになる前のジリッツァだったお前は、1000年以上前の書物にあった『繁栄をもたらす金色の瞳の女神』だったのだろう?」

「は?」

 歴史の本に登場する誰かと勘違いをしているのか。それとも、妄想が限界まで膨らんでアタマがイカレているのか。返ってきた答えにDYRAは解釈に窮した。

(正直、本当にタヌの父親なのか?)

 それでも、自分への不愉快な言動に振り回されて質問できる時間を無駄にしてはいけない。DYRAは割り切る。

「お前は何か根本的に勘違いしていないか?」

 言ったのはRAAZだ。DYRAがあれこれ考えをめぐらせているとき、何かわかったのか、苦い表情で二度ほど頷いてから立ち上がる。次に、DYRAへ軽く手を上げて制し、言葉を挟んでくれるなと合図してから続ける。

「まさか、そんなくだらないおとぎ話(・・・・)にすらならない腐った俗説を信じる、いや、真に受けている奴がいるとは」

「お前なんかに『違う』と言われても説得力がない。だいたい、彼女とヤッたから1000年以上も生きて錬金協会を持たせているん……」

 冷静な即答で切り返したピッポの言葉が遮られた。RAAZが喉輪を掴んだからだ。

「いい加減、止めた方が身のためだぞ? だいたい、話題にしている女本人の前でヤる(・・)とか、下劣どころじゃない、破廉恥な言い草だ」

 RAAZが男の喉輪を掴んだまま一気に男の身体を持ち上げ、続ける。

「彼女は私が一番大切にしている(・・・・・・・・・)ものだ」

 あたりが柔らかい言葉と、RAAZの全身から放たれる殺気にも似たオーラとの落差に、DYRAはまずいと思う。喉輪を掴まれているからか、ピッポの顔色から血の気がなくなり始めているではないか。表情も若干苦しげなそれに変わっている。

「さっさと話せ。で? 何をしに来た? 何故ガキを撃った?」

 RAAZによる男への問いを聞いたDYRAは内心、困惑にも似た表情を見せる。タヌを撃ったのが本当にこの男なのか、と。

「し、失礼な。錬金協会のパシリ(・・・)野郎を撃っただけだ」

「流れ弾がガキに当たっても特に問題なかった、とでも?」

「ああ。庇ったヴェントゥーラに当たったのだけは計算外だった」

「ヴェントゥーラ? キリアンのことか?」

 これは話の流れ的に確認しておかなければいけない。DYRAはそう思いながら反射的に口を挟んだ。

「そうだ」

 ピッポの返事を聞いたところで、RAAZが空いている方の手でもう一度、横槍無用とDYRAを制した。

「私が本当に(・・・)聞きたいことが何か、わかっているな?」

「な……?」

 RAAZの口調ががらりと変わっていることにDYRAは気づいた。ハーランの件を話すときのような、恐ろしいほどの暴力性を隠した、極めて厳しいそれだ。ピッポも気づいたのか、唇のまわりや目のまわりの筋肉を僅かに震わせる。


改訂の上、再掲

181:【DeSCIGLIO】気まずい時間 2021/02/08 20:00

181:【DeSCIGLIO】罪悪感の欠片もない変態親父 2023/02/07 14:14






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 2月になり、旧暦でも2021年になりました。寒いような、春が近いような、三寒四温な感じが少しずつ伝わってきておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!



 さて。

 ぼんやりしたやりとりのようで、次に繋がる情報を得たマイヨですが、タヌはどうもそうではないようです。デタラメの似顔絵つき手配書を撒くのに母親が一枚噛んでいたと聞いたらそりゃそうですよね、と。


 次回の更新ですが──。


 来週15日はお休みで、2月22日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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