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178:【DeSCIGLIO】DYRAとタヌの前にハーラン現る!!

前回までの「DYRA」----------

マロッタの食堂でRAAZとマイヨが直接話し合う。自身が無実であると主張し続けるマイヨは、不本意だが、真犯人にまつわる情報を伏せ続けるも、状況証拠を積み重ねて潔白を証明する。RAAZは自らが如何に真実から目を背けていたかを痛感する。


「誰か……来る」

 DYRAの目の前で、玄関の大扉がゆっくりと開く。同時に両手の周囲に青い花びらを舞い上がらせると、両手に剣を顕現させた。

(来る!)

 DYRAはゆっくりと開く扉を睨み付けるように見つめた。外から入ろうとする人影が見えたときだった。

 突然、扉の外から三発の銃声が響いた。

 DYRAは自身の周囲に壁となるように青い花びらを舞わせた。放たれた銃弾はすべて、足下に転がっている。タヌと出会って以来、ようやく本来持っている能力をある程度思い通りに使えるようになった今の彼女にとって、この程度は造作も無いことだ。

「泥棒ではなく、強盗だったとはな」

 そっと開きかけていた扉が勢い良く全開になると、DYRAの前に二つの人影が現れた。

「奇遇だなぁ。まさか、お嬢さんがここにいるとはね」

 DYRAは声で、銃を手にして現れた人物の一人がハーランだと理解する。

「RAAZと同じ文明の人間と謳う割には、空き家へ強盗とは、やることが小さいな?」

 青い花びらを舞わせたまま、DYRAは直列状の蛇腹剣をハーランへ向けた。

「ちょっと、ここで待っててくれ」

 ハーランが外にいる、もう一つの人影に告げた。だが、DYRAは気にもしない。

「お前にも仲間がいたのか。意外だな」

「その言い方はひどいなぁ。まるで私がトモダチを作れない、社交性が欠落した人間みたいな言い方だ」

 ハーランの軽口にDYRAは特に反応しない。

「で、何の用だ?」

「お嬢さんはここが誰の家で、何があるか、知っているんだろう?」

「そんなものは知らない。空き家で寝泊まりしているだけだ。悪いが満室だ」

 ハーランが銃を下ろすことなく、言葉を続ける。

「お嬢さんがいるってことは、タヌ君もいるんだろう?」

「お前に会わせる必要もない」

 DYRAが言い終わると、銃声が再び、今度は立て続けに六回響き渡った。弾自体は撃たれるたびに青い花びらが舞う壁に遮られ、DYRAの足下へ次々と落ちていく。だが、DYRAは違うことで驚いた。

(あんな小さなピストルで、何発発射されるんだ!)

 自分に向けられる分には何発だろうが構わない。だが、あんなものをタヌやキリアンに向けられてはたまったものではない。

 撃ち終わると、ハーランが聞こえよがしに言い放つ。

「タヌ君! いるんだろう? ここはキミのお父さんの別荘だ! お父さんに会いたくはないか!? お嬢さんと交換で、お父さんに会わせる!」

 DYRAは内心、苛立った。RAAZやマイヨだけではない。ハーランまで知っているのか。自分だけが何も知らずにタヌと共に彼の父親を捜しているのがバカみたいだ、と。

 一方。

 廊下で物陰に隠れて声のやりとりを聞いていたタヌは動揺した。だが、声を上げたり飛び出したりしないよう、キリアンが身体と口元をしっかり押さえていたことが幸いした。

「タヌ君」

 小声でキリアンが耳打ちしながら、タヌを連れて音を立てないように食堂部屋へと戻る。

「あいつはお父さんの居場所なんか知らない。知っていればとっくに見つけているはずだ」

 物陰か、少なくともこの家にタヌがいると確信するハーランがさらに続ける。

「お父さんは俺と一緒にいた! 一緒に、二〇年以上だっ! お嬢さんや、彼女につきまとうRAAZより、俺はお父さんのことを知っている! お父さんに会いたいんだろうっ!!」

 聞いていたDYRAは、ハーランが本当のことを言っているとは爪の垢ほどにも思わない。ネスタ山の向こう側で遭遇したときにわかった。この男は狡猾だ。嘘を言わないだけで、本当のことも言わない、と。もっとも、これはマイヨにも言えることだが。必要なことであれば断片的ながらも話すRAAZの方がよっぽどマシだ。

「お前の言葉ほど、空疎に響くものもない」

 吐き捨てるようにDYRAが言ったときだった。

 ハーランの後ろに、先ほどとは別の人影が現れ、扉を潜って入ってきた。

「良くわかっているじゃない?」

 別の、聞き覚えある声が外から聞こえてきた。

「汚れ仕事しかできない悪党に、誠意だの期待する方がおかしいわけでさ」

 自身の背中へ声がぶつけられた形となったハーランが振り返る。人影が靴音を立てて近づいて来た。同時にふわふわと風に乗って、DYRAの近くに何かが舞ってくる。

 舞ってきたものが黒い花びらだと気づいたとき、今度はDYRAの真横で赤い花びらの嵐が巻き起こった。

「ガキを押さえている奴がいるんだろう? ああ、正しい判断をしたな」

 赤い花びらの嵐が止んだとき、そこには、左耳に大粒の耳飾りを填めた、銀髪と銀眼の大柄な男が大剣を手に立っていた。ルビー色の輝きを放つ剣は、一方の刃にあたる部分から時折、雷のような白く細い閃光を発している。

「DYRA。キミはガキを連れてさっさと離れろ」

「RAAZ……その格好」

 いつもの赤い外套姿ではない。初めて見る、首から下が色調違いながらもほぼ赤一色、布とは思えぬ作りでできている服装だ。それは陶器のようにも、赤く色づけした琥珀のような材質にも見える。

「RAAZと色々話していたら心配になってね。追ってみたら、案の定だ」

 RAAZとハーランの間に姿を現したのはマイヨだった。だが、こちらもDYRAが見たこともない格好で、首から下が色調違いながらもほぼ艶のない黒一色。持っている双剣も、ブラックダイヤモンドのような輝きとは違う、漆塗りを彷彿とさせる奇怪な材質のそれだ。

「ISLA! お前もDYRAと」

「わかった」

 マイヨが走り出す。このとき、RAAZとすれ違った一瞬、耳に届いた小声。だが、聞き返している場合ではないとばかりに、何事もなかったようにDYRAの方へ駆け寄る。

「DYRA、行け!」

 近づいてくるマイヨと、RAAZの声とで、DYRAは我に返った。そして言われた通り、マイヨと共に廊下を走り出した。角を曲がり、食堂部屋の方へ向かった。


「やれやれ」

 RAAZとハーランの二人だけになると、ハーランが肩を竦めて笑った。

「フル装備でご登場とは、嫌われたもんだなぁ」

「お前は色々目障りだからな。殺処分は早めにしておきたい」

 RAAZは手にした大剣をハーランへ向かって振り上げる。剣の刃部から白い閃光だけが放たれる。ハーランが反射的に、その光を手の甲側についた装甲で振り払う。服が焦げ、内側の手甲が露わになった。

「ったく、クソガキが」

「ここに何をしに来た?」

 RAAZが剣の切っ先をハーランへ向ける。剣の周囲に赤い花びらが舞い始めた。

「探しものがてら、寄り道しただけだ」

 ハーランが両手を構える。まるで、剣で戦う相手でも素手で十分とばかりの自信を漲らせて。だが、睨み合いは続かなかった。

「何だ!?」

「何事だ!?」

 二人を狼狽えさせたのは突如として起こった、爆発にも似た二度の音だった。こんなところでおおよそ聞くはずもない音に、RAAZもハーランも思わず構えを解いてしまう。

「余計なことを!」

 RAAZはすぐさま剣を構え直すと、ハーランへ斬り掛かる。

「おいおい。今日は残念だけど手ぶらだよ」

「ふざけろ!」

 刃を回避しつつ、剣が振られた一瞬を狙い、ハーランが的確に反撃を試みる。そのどれもが武器がない故か、はたまた勝ちきれないことを理解しているからか、仕留めることが前提でない、次手を牽制する動きだった。それでもRAAZはそんな動きは読めているとばかりに、どの一撃ももらわない。

「ったく。今日は退散だ。あんな音を聞いたら、探しものどころじゃなさそうだ」

 ハーランが告げるなり、その場に溶け込むように姿を消す。RAAZはハーランの気配が完全に消えたところで、剣を手にしたまま、音が聞こえた方へ走り出した。

(奥の部屋? いや、庭あたりか!)

 ハーランが敷地から完全にいなくなったなどと間違っても思わない方が良いだろう。少なくとも、連れがいたのだ。むしろ、何が起こってもおかしくない。それにしても、爆発まがいの音とは一体どういうことか。よもやこの家に爆弾でも仕掛けられていたと言うのか。

 長い廊下を駆け抜け、食堂らしき部屋へたどり着くと、RAAZは窓の方を見る。

「何だ……?」

 庭の半分に炎が広がっているではないか。不幸中の幸いは、風が吹いていないことだ。建物へ延焼する心配がない。それにしても何が起きたのか。RAAZは炎に照らされる庭をじっと見た。DYRAとタヌの姿が見える。炎の向こう側にマイヨらしき人影ともう一人。恐らくハーランの連れとされる人物だろう。誰かはわかっている。別に気にすることもない。

「ん?」

 もう一人、森の方に誰かいるような気がする。

(一体どうなっている!?)

 そのとき、何人かの人影が一気に森へと動き出した。RAAZも庭へと踏み出そうとする。が、思い止まった。

 RAAZは今少しの間、警戒を怠ることなく、意識を集中させ続ける。建物内と庭の境目にあたるここなら、どちらへも動くことができるからだ。ハーランの気配が完全に消えたと判断してから動いても遅くはない。だが、もう自分への敵意にも似た気配を感じることはなかった。

(逃げるのが早い。何の目的で来たんだ?)

 RAAZは内心、拍子抜けした。ハーランを一気に仕留めようと長時間戦闘を想定し、武器はもちろんのこと、前回と同じ轍を踏まぬよう、一部だけながらも、本来の文明下で使用していた戦闘用のプロテクターギアまで着用して準備をした。にも拘わらず、ああもあっさり逃げるとは。RAAZは両手の周囲に赤い花びらを舞わせると、剣を霧散させた。

 RAAZはハーラン追撃を考えたが、今ここで一人ではできないことだとすぐに気づく。

(それにしても、何もかもこちらが後手後手とはな)

 ハーランが何をしに来たのか、次に何をするのか。それも考える必要がある。善後策を練らなければならない。RAAZは改めて、庭へと足を踏み出した。

(照明代わりにランタンの油で火を放ったか)

 RAAZは様子を見回し、状況を把握した。タヌとマイヨ、首狩り屋の姿があった。

(DYRAは?)

 正直に言えば、RAAZが本心から気に掛ける人物は彼女だけだった。




「キリアンさん! キリアンさんっ!!」

「痛って……」

 タヌを抱きしめたまま、キリアンがその場に膝を落とし、呻いている。タヌは激しい動揺を露わにして、身体を震わせ、涙声で名前を呼んだ。

 マイヨと共に庭へ出たDYRAは、無粋な来訪者が現れる少し前までの静かな光景から一転している庭の様子に言葉を失い掛けた。庭の一角で、炎が壁のように燃えているではないか。DYRAとマイヨは何が起こったのか状況を把握しようと、炎の方へ目をやった。改めて見れば、状況は何となく理解できる。タヌ以外の三人がペッパーボックス式のピストルを持っている。キリアンと、ハーランの連れらしき賊、そして──。

(誰だ?)

 炎の輝きがほとんど届かぬ森のところにもう一人いるではないか。距離があるため顔形はほとんど見えない。一体何者で、どこから現れたのだ。

「DYRA! タヌ君を」

 言い終わるより早く、マイヨが賊と対峙すべく、炎で作られた壁の向こう側へ走って行った。DYRAは、タヌの方へと走る。

「ったく、どうして……」

 膝を落としたキリアンがタヌを抱きしめたまま、呻きながらも呟く。DYRAはすぐにキリアンを助け起こそうと手を添えた。

「大丈夫か!? 一体、何が起こっている!?」

 DYRAは誰が撃ったと言いたげに、庭に立っている人間たちへ視線をやる。炎の向こう側が時折見える。マイヨの傍に、先ほどの賊とおぼしき輩の姿があった。黒い服で、金髪の男だ。続いて、森の方へ視線を向ける。人影だけ見える人物はもう銃を構えていない。ただ、タヌやキリアンをじっと見ているだけと言った感じだ。DYRAはキリアンの手当てが先か、問題の人影が誰か突き止める方が先か、考える。

 そのときだった。

「ふざけるなっ!」

 声が飛び込んできた。DYRAとタヌ、キリアンが声が聞こえた方を見る。マイヨが金髪の男の頬を剣の柄で殴っているではないか。DYRAは、視線を人影へ、耳をマイヨたちの方へ向けた。


改訂の上、再掲

178:【DeSCIGLIO】DYRAとタヌの前にハーラン現る!!2025/07/03 23:43

178:【DeSCIGLIO】一堂に会して大混乱? 2023/02/07 14:08

178:【DeSCIGLIO】支離滅裂混沌劇場 2021/01/18 20:00



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 寒い日々が続く中、緊急事態宣言が「どこ吹く風」になってしまったりで何だかgdgd感全開な今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!



 タヌの父親、ついに現る! DYRA、どうする?

 次回からはいよいよ物語の核心の一角が現れます。


 次回の更新ですが──。


 1月25日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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