178:【DeSCIGLIO】一堂に会して大混乱?
前回までの「DYRA」----------
DYRAとタヌはキリアンに連れられてたどり着いた家で、食事をしながら話を聞く。キリアンは思ったよりたくさんの情報を出してきた。だが、そこへディミトリと共に「盗まれたものを取り返すために」ハーランがやってきてしまう。
「ガキを押さえている奴がいるんだろう? ああ、正しい判断をしたな」
赤い花びらの嵐が止んだとき、そこには、左耳に大粒の耳飾りを填めた、銀髪と銀眼の大柄な男が大剣を手に立っていた。ルビー色の輝きを放つ剣は、一方の刃にあたる部分から時折、雷のような白く細い閃光を発している。
「DYRA。キミはガキを連れてさっさと離れろ」
「RAAZ……その格好」
いつもの赤い外套姿ではない。初めて見る、首から下が色調違いながらもほぼ赤一色、布とは思えぬ作りでできている。陶器のようにも、赤く色づけした琥珀のような材質にも見える。
「RAAZと色々話していたら心配になってね。追ってみたら、案の定だ」
言いながら入ってきたのはマイヨだった。だが、こちらもDYRAが見たこともない格好で、首から下が色調違いながらもほぼ艶のない黒一色だった。持っている双剣も、ブラックダイヤモンドのような輝きとは違う、漆塗りのようにもみえる奇怪な材質のそれだった。
「ISLA! お前もDYRAと」
「わかった」
マイヨが走り出す。このとき、RAAZとすれ違った一瞬、耳に届いた小声。だが、聞き返している場合ではないとばかりに、何事もなかったようにDYRAを追った。
「DYRA、行け!」
マイヨが近づいてくるのと、RAAZの声とで、DYRAは我に返ると、言われた通り、マイヨと共に廊下を走り出した。角を曲がり、タヌたちがいるはずの食堂部屋の方へ向かった。
「やれやれ」
RAAZとハーランのふたりだけになると、ハーランが肩を竦めて笑った。
「フル装備でご登場とは、嫌われたもんだなぁ」
「お前は色々目障りだからな。殺処分は早めにしておきたい」
RAAZは手にした大剣をハーランへ向かって振り上げる。剣の刃部から白い閃光だけが放たれる。ハーランが反射的に、白い閃光を手の甲側についた装甲で振り払う。服が焦げ、内側の手甲が露わになった。
「ったく、クソガキが」
「ここに何をしに来た?」
RAAZが剣の切っ先をハーランへ向ける。剣の周囲に赤い花びらが舞い始めた。
「探しものがてら、寄り道だけだ」
ハーランが両手を構える。まるで、剣で戦う相手でも素手で十分とばかりの自信を漲らせて。だが、睨み合いが続かなかった。
「何だ!?」
「何事だ!?」
ふたりを狼狽えさせたのは突如として起こった、爆発にも似た二度の音だった。こんなところでおおよそ聞くはずもない音に、RAAZもハーランも思わず構えを解いてしまう。
「余計なことを!」
RAAZはすぐさま剣を構え直すと、ハーランへ斬り掛かる。
「おいおい。今日は残念だけど手ぶらだよ」
「ふざけろ!」
刃を回避しつつ、剣が振られた一瞬を狙い、ハーランが的確に反撃を試みる。そのどれもが武器がない故か、はたまた勝ちきれないことを理解しているからか、仕留めることが前提でない、次手を牽制する動きだった。それでもRAAZはそんな動きは読めているとばかりに、どの一撃ももらわない。
「ったく。今日は退散だ。あんな音を聞いたら、探しものどころじゃなさそうだ」
ハーランが告げるなり、その場に溶け込むように姿を消す。RAAZはハーランの気配が完全に消えたところで、剣を手にしたまま、音が聞こえた方へ走り出した。
(奥の部屋? いや、庭あたりか!)
ハーランが敷地から完全にいなくなったなどと間違っても思わない方が良いだろう。少なくとも、連れがいたのだ。むしろ、何が起こってもおかしくない。それにしても、爆発まがいの音とは一体どういうことか。よもやこの家に爆弾でも仕掛けられていたと言うのか。
長い廊下を駆け抜け、食堂らしき部屋へたどり着くと、RAAZは窓の方を見る。
「何だ……?」
庭の半分に炎が広がっているではないか。風が吹いていないので、建物へ延焼する心配はないのが不幸中の幸いだ。それにしても一体何が起こっているのか。RAAZは炎に照らされる庭をじっと見る。DYRAとタヌの姿が見える。炎の向こう側にマイヨらしき人影ともうひとり見える。恐らくハーランの連れとされる人物だろう。誰かはわかっているのだ。別に気にすることもない。
「ん?」
もうひとり、森の方に誰かいるような気がする。
(一体どうなっている!?)
そのとき、何人かの人影が一気に森へと動き出したのを見ると、一体何が起こっているのか確かめるべく、RAAZも庭へと踏み出そうとする。が、思いとどまった。
RAAZは今少しの間、警戒を怠ることなく、意識を集中させ続ける。建物内と庭の境目にあたるここなら、どちらへも動くことができるからだ。ハーランの気配が完全に消えたと判断してから動いても遅くはない。だが、もう自分への敵意にも似た気配を感じることはなかった。
(逃げるのが早い。何の目的で来たんだ?)
RAAZは内心、拍子抜けした。ハーランを一気に仕留めようと長時間戦闘を想定し、武器はもちろんのこと、前回と同じ轍を踏まぬよう、一部だけながらも、本来の文明下で使用していた戦闘用のプロテクターギアまで着用して準備をした。にも拘わらず、ああもあっさり逃げるとは。RAAZは両手の周囲に赤い花びらを舞わせると、剣を霧散させた。
RAAZはハーラン追撃を考えたが、今ここでひとりではできないことだとすぐに気づく。
(それにしても、ここに来て何もかもこちらが後手後手に回っているとはな)
ハーランが何をしに来たのか、次に何をするのか。それも考える必要がある。善後策を練らなければならない。RAAZは改めて、庭へと足を踏み出した。
(照明代わりにランタンの油で火を放ったか)
RAAZは様子を見回し、状況を把握した。タヌとマイヨ、首狩り屋の姿があった。
(DYRAは?)
RAAZは、異変に気づきつつも視線でDYRAを探した。
改訂の上、再掲
178:【DeSCIGLIO】支離滅裂混沌劇場 2021/01/18 20:00
178:【DeSCIGLIO】一堂に会して大混乱? 2023/02/07 14:08
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寒い日々が続く中、緊急事態宣言が「どこ吹く風」になってしまったりで何だかgdgd感全開な今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!
タヌの父親、ついに現る! DYRA、どうする?
次回からはいよいよ物語の核心の一角が現れます。
次回の更新ですが──。
1月25日(月)予定です!
日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆