表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/316

171:【LEARI】何でも屋キリアンは、転んでもタダでは起きない!

前回までの「DYRA」----------

 RAAZが姿を消した後、DYRAとタヌはふたりで再出発するべく準備する。父親の研究を悪用されないよう、書類をすべて焼き、あの井戸の地下通路を通って移動する。


「ここは……」

 DYRAは見たことがあるような、ないような風景を前に、ここはどこだろうと記憶の糸をたどった。目の前に広がっているのは牧場だ。

「あれ。ここ、確か、えっと」

 タヌは言いながらランタンの火を消し、鞄へ入れてから地図を出した。

「DYRA。そうだよ。ここ、確か、ルガーニ村だよ。食堂のおじさんがこの地図をくれた」

 DYRAはようやく思い出した。そうだ。あのときは面倒事がまた起こるかも知れないと、敢えて村の外で自分は待った。そのとき、郵便馬車の御者が懐中時計などいくつか必要なものを手渡してきた、あの場所だ。

(やはり)

 読み通りだった。今通ってきた地下道は、ほぼ街道沿いに作られているのだ。DYRAは、村人が起き出す前にここを離れた方が良いと直感した。この井戸は村の入口からそれなりの距離がある。今ここにいるのを村人に見られてしまえば、物盗りの類と誤解されかねない。

「タヌ。いったん村の外へ出よう」

「うん」

 二人は村の入口の看板がある場所まで走った。幸い、村人は起き出して来なかった。それでも、誰にも見つからなかった、とは言えない。

 村の入口に、二頭立ての馬車が停まっていたのだ。御者がいるだけで、客の姿はない。こんな夜明けどき、どこの誰かは知らないが、関わらないで済むならそれに越したことはない。DYRAがタヌへ急ぐよう声を掛けようとしたときだった。

「ぃょぅ。昨日はどーも」

 御者の姿を見た途端、タヌは目を丸くし、DYRAは睨み付けた。

 短い髪、躑躅色の瞳。そして裾の長い上着に首にくるりと巻いた細長いストール。

「キリアンさん!」

「よっ。タヌ君。昨日はゴメンな。けど、ラ・モルテにはちゃんと挨拶しておきたかったから、待たせてもらった」

 キリアンが言い終わるより早く、DYRAが剣を出すべく構えた。

「ちょっと待った、待てって!」

 キリアンが大きく手を振ってDYRAを制止する。

「そんなバケモノみたいに強いオネエチャン相手にケンカしに来たんじゃない! オレはただ、仕切り直しの挨拶がしたくてさ。オネエチャン、昨日は本当に、驚かして悪かったって!」

 昨日遭遇したときはとび口を持っていたが、今は違う。両手を胸の高さで広げ、大きく振っている。DYRAは、見る限り武器を出して何かをする意思はなさそうだと判断すると、警戒しつつも、じっと目の前の男を見つめた。




「いったん、そういうことにしておいてやる。だが、どうしてここにいる? いや、どうして待ち伏せまがいのことを?」

 キリアンがよくぞ聞いてくれましたとばかりの表情でDYRAを見た。

「あのヤローがいたから昨日はあの場を退散した。けど、村から出たワケじゃない。ま、アンタらがタヌ君の家でダベッていたときに見つかりそうになったのはビビったけどな」

 DYRAはタヌの家でRAAZが話していたとき、一瞬、警戒心を露わにしたことを思い出す。あのとき、この男がどこかで見ていたと勘づいたんだろうと気づいて納得した。

「オネエチャンがあの地下道から来た。タヌ君の家であのヤローとの話も少し聞かせてもらった。タヌ君の状況もわかったし、お父さん捜してて面倒を避けたいならあのヤローとオネエチャンが使ったここを通るしかないって、ヤマを張ってたってわけさ」

 キリアンの躑躅色の瞳が鋭い輝きを放つ。それをタヌはじっと見ていた。DYRAは話の続きを黙って聞く。

「あそこの地下道は、かなり距離が長い。で、人間が半日ばかりの時間で歩ける距離なんて知れてる。で、ここにいればタヌ君に会えると踏んだ、ってだけ」

 DYRAはキリアンの説明に、何か感じるところがあったのか、鋭い視線を向ける。

「そうか。ではそれも、そういうことにしておいてやる。こちらからも、聞いて良いか?」

「答えられるんだったら」

「……首狩り屋。お前は私やタヌを狩るつもりだったのか?」

 DYRAの質問に、タヌは一瞬、我が耳を疑い、キリアンを見る。

「おいおいちょっと待ってくれよ? その『首狩り屋』って言い方、人聞き悪い。オレは何でも屋だから」

「人殺しが生業と聞いたが?」

「頼まれればやる。けど、タヌ君を襲う理由なんかない。そんな依頼を受けておったら、最初に会ったときにさっさと殺した。それに、ラ・モルテを狩れるならとっくの昔にオネエチャンと一戦交えているって。けど、オレは誰からもそんなこと頼まれていないし、家族や友人、住んでいた土地が、とか恨みもない」

 タヌはキリアンの言葉を聞いてホッとした。対象的に、DYRAは厳しい視線を向けたままだ。

「で、そんなことを言うために待ち伏せていたのか?」

「まっさかっ!」

 キリアンが頭を振った。

「あの地下道を知っているなら通る。通ってくるなら歩くしかない。そしたら疲れる。オレは十分すぎる報酬をもらったからな。ま、御礼や」

 御礼なんて払っただろうか。タヌが覚えている限り、キリアンはレアリ村で散らばった貴金属類を片っ端から拾っていた。ひょっとして、それが結構な金額になったのだろうか。タヌはあれこれ思いめぐらせた。

「取り敢えず、乗りな。オレの地元、デシリオまで送ったる。攫ったり売ったりなんてしないから」

 キリアンが言うと、DYRAがいきなりタヌを自分の後ろに回す。そして、一歩前へ出てから睨み付けた。

「おい。お前、本当は何者だ?」

「何者も何も、デシリオで何でも屋をやっているだけだ」

 答えを聞くなり、DYRAはタヌへ「下がってろ」とだけ告げると、キリアンへ近寄るや、彼の胸ぐらを掴む。

「おいおい、オネエチャン乱暴だなぁ」

 DYRAの金色の瞳に気圧されたキリアンがすぐさま両手を自らの頭のてっぺんに置く。だが、DYRAは警戒心を微塵も緩めない。

「お前は地下道のことを知っている。本当は何者だ? ハーランの手下の類か?」

「誰?」

「お前、ハーランに言われて私やタヌを追っているんじゃないのか?」

「いや、いやいや! ホントに知らないって。誰だそいつ? オレの人生で少なくとも、そんな名前の男にも女にも、出会ったことないワ」

 DYRAは突き飛ばすようにキリアンの胸ぐらから手を離した。だが、キリアンの身体に自由が戻ったわけではなかった。

「うぐぁっ!」

「ではどうしてお前は地下道のことを知った? 私と一緒にいた男を何故知っている!? 何故、こちらの行き先を聞かず、『デシリオまで送る』と言う!?」

 片手で首を直接掴まれたキリアンの顔色が少しの間だけ、紙のように白くなった。DYRAは首を絞めながら、どう出るかじっと観察する。

「おい、おいおい! 待てって! 待てってば! オレの話も聞けって!」

 キリアンが声を上げたそのときだった。

「何かありましたか?」

 村の方から若い男の声と、数人分の足音が聞こえてくる。

「タヌ君。オネエチャン。ちょ、オレが話つけるから! いったん離せってば」

 キリアンの言葉に、DYRAは手を離した。すぐさまタヌの側へ行くと、DYRAはいつでもタヌを守れるように身構える。

 四人の若い男が村から出てきて、馬車の方へ近寄ってくる。彼らは手に鍬や鋤などを武器代わりに持っているではないか。DYRAはキリアンの出方次第では面倒になるかも知れないと下唇を噛む。

「何か、もめているような声が聞こえたんですが」

「朝駆けの山賊にでもあったか?」

 心配そうに尋ねる村の男たちへ、キリアンがストールを直しながら笑顔で答える。そんな様子をDYRAとタヌは馬車の陰から心配そうに見つめる。

「いやいや違います違います。行き先のことでちょっと親戚の子とモメちゃって」

 キリアンが大げさなくらい、ぺこぺこと頭を下げて村人に詫びた。

「大丈夫なら良いんだけどね」

 リーダー格らしき男がそう言ったとき、キリアンがすかさず懐から財布を出すと、アウレウス金貨二枚を掴ませる。これには陰から見ていた二人も目を疑った。

「何か、サルヴァトーレさんみたい」

 タヌはDYRAへ耳打ちする。

「ああ。手っ取り早いけどな」

 二人がヒソヒソ話している間に、キリアンと村人の話は無事に終わりそうな気配となった。

「ビックリさせてスンマセン。これで、皆さん美味しいもんでも食べて下さい」

 キリアンは、渡したカネを受け取った男へ軽く会釈をしてから去り際に尋ねる。

「ところでオニイチャン。この辺で珍味が美味い店って知らん?」

 三人の男が戻っていく中、リーダー格らしき男が立ち止まった。キリアンの方へ振り返ると、左右を見回してから、心なしか険しい表情で答える。

「ああ、海が見える丘ですかね。気をつけて行って下さい。老舗の店はもちろん、新興の店も開店するみたいです。この村にも店を開けるかどうか、客足の調査が来ましたし」

 男は言い終わるや、早々に村の方へと走った。タヌは男の背中を黙って見送った。一方、DYRAは今の話はどういう意味かと考える。

(珍味が美味い?)

 食べ物が美味しい店を聞いているのに、答えが漠然としている。にも拘わらず、新しい店がどうこうとも話している。どういうことなのか。それだけではない。飲食店の話をしているのに、その表情は警戒感が露わで、硬いそれだ。何か、まったく別の意味を含んだ会話ではないのか。

(だが、あの男は何かを知っている。地下道のことを知っている以上、乗ってみるか)

 DYRAは、先ほどの地下道をめぐるやりとりから、キリアンが何かを知っていると勘づいていた。こうなったら思い切って話に乗るのもアリかも知れないと思う。

(それに、タヌは地下道を一晩中歩き通しだ。疲れを隠しているつもりだろうが)

 タヌの消耗を考えれば、乗せてもらうだけなら、悪い話ではない。

「タヌ、お前、あのキリアンという男のことをどう思う?」

 DYRAが小声で尋ねる。

「いい人だけど、あの人、観察眼が怖いくらいすごくて」

 タヌの意見を聞いたところで、DYRAは次の行動を決めた。四人の姿がなくなったところで、DYRAとタヌは馬車の陰から姿を見せた。

「私たちを突き出さなかったな」

「そりゃそうだ。何で? 出す理由もないし」

 キリアンがタヌを見ながらDYRAの問いへ答えた。

「さっきお前は、デシリオへ乗せていく、と言っていたな」

「言っただろ。タヌ君の家での会話を聞いた、って」

 そうだった。DYRAとタヌは顔を見合わせる。

「で、そんとき、錬金協会がいないところがって話していただろ? なら、フツーに考えて、次はデシリオかチェルチだ。けど、チェルチは小さい漁村。おまけにデシリオとゴタゴタがって評判だ。その状況で情報を取りに行くならデシリオで決まりだ」

 ご明察。聞き終えたDYRAとタヌは、それぞれ内心でそんなことを思った。

「オレの地元ってこともあるけど、何か役に立つと思うぜ?」

「着いたら、色々話を聞かせてもらうが、それでも良いか?」

「オレの情報は商品だよ、って言いたいけど、オレも聞きたいことがあるし。じゃ、決まり!」

 二人を乗せたキリアンの馬車が出発し、ペッレ経由で、デシリオへの道を走り出した。


改訂の上、再掲

171:【LEARI】何でも屋キリアンは、転んでもタダでは起きない!2025/07/02 23:59

171:【LEARI】思わぬ同行者、現る 2023/02/07 13:18

171:【DeSCIGLIO】宝探しのお誘い? 2020/11/16 20:00



-----

 気がつけば久し振りの一次創作のイベント「文フリ東京」と「コミティア134」が近づきつつありますが、新型コロナ再爆発リーチとなり、本当に開催されるのか心配な今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

-*-*-*-*-* 宣 伝 *-*-*-*-*-


 BOOTHで頒布中の単行本は、何と言ってもフル校正は入っているものなので、webで文章を綺麗にまとめきれなかった場所など含めスッキリ状態! 是非、お求め下さいませ!


 即売会イベント類ですが、当面の参加予定は以下の通りです。


 【直接】 11月22日(日) 文フリ東京

 【直接】 11月23日(月) コミティア134


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。


-*-*-*-*-* こ こ ま で *-*-*-*-*-

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 何か成り行きでキリアンと行動を共にすることになりそうなDYRAとタヌです。それにしてもタヌはすごくヤバイものを今、オールで持っていないか? と率直な疑問です。道中どうなることやら感が全開です。


 それにしてもDYRAとタヌの食事はいつも何か豪華だなぁ。



 次回の更新ですが──。


 11月30日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ