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170:【LEARI】DYRAとタヌ、ここから再出発!

前回までの「DYRA」----------

 まさかRAAZがタヌと行動を共にすることを許すとは。DYRAは彼を質問しまくって真意を把握しようとするも、さすがに一筋縄ではいかない。それでも、彼がOKしたのだからいったん、よしとする。


「タヌ」

 DYRAがタヌの家へ上がると、書斎へ足を踏み入れた。

(これを全部燃やせというのか)

 書斎は本棚に少なくない数の本が、机には綺麗に積み上げられた書類の山があった。書斎を何となく整理していたタヌは戻ってきたDYRAへ視線を移す。

「DYRA? あれ、RAAZさんは?」

「次の用があると言って、さっさと出て行った。それで、お前宛の伝言を預かった」

「ボク宛?」

「ああ。『この部屋にある書類や本を燃やせ』だそうだ。ここに色々なものがあると、父親捜しをするにあたってまた邪魔をするヤツが出てくるかも知れない、と」

 DYRAの言葉を聞いたタヌは困ったなと言いたげな表情をしてみせる。

「勝手に燃やして良いのかなぁって」

 タヌの疑問ももっともであるとDYRAは思う。しかし、これを残して誰かに見られてしまえば、どこかで次の惨劇が起こるかも知れない。事実、すでに見てしまった人物がいるのだ。

「悩む気持ちはわかる。だが、本は集め直せる。お前の父親が書いたであろう紙の束も、書いた本人がわからないはずがない」

 DYRAの言葉はその通りだ。だが、貴重な本だったら、買い直そうにも、お金が掛かるのではないか。焼いたと知った父親にそれを指摘されたら、一生掛かっても弁償できそうにない。そう考えるとタヌは決断できない。

「タヌ。RAAZが言うには、書類や本の中身は『文明の遺産』関連だそうだ」

 聞いた途端、タヌは一気に表情を硬くする。

「あの男が言うには『第二のピルロを生みたくない』と」

 DYRAの言葉に、タヌはRAAZの恐ろしさを改めて垣間見た気がした。あの人は、やると言ったらやるだろう。知る限り、これまでのやり方からタヌにも察しがついた。どこか別の場所がピルロのようになってしまうくらいなら、燃やした方が良いのは間違いない。

「書類を燃やすのは良いとして、本は、せめて庭に埋めるとか……」

 今のタヌに思いつく、ギリギリの折衷案だった。

「掘り返されたら、面倒くさいぞ? RAAZから聞いたが、ハーランもこの村に来た、と」

 DYRAが放った最後の言葉に、タヌは燃やさないと本当に危険かも知れないと理解した。

「そうだDYRA」

「何だ?」

「書類を燃やすことだけど……火が」

 タヌは、家にマッチなど火を熾すものが見当たらないとDYRAへ告げた。

「RAAZが言うには、食事を残した馬車を畑に留めてあると。一緒にあるだろう。取ってくる」

 そう言って、DYRAは外へ出た。彼女の後ろ姿を見送ったタヌは書斎の大きめの窓越しに外を見る。ちょうど、シーツなどを干すときに利用していた庭が見えた。大きな木から枝が伸びて、日陰になる場所がある。そこなら目立たないし、ちょうど良い場所だろう。タヌは手袋を取りに台所へ移動してから外へ出ると、庭へ回り込んだ。

(掘棒とか鍬とかあれば良いけど……)

 農家なら普通にありそうだが、そもそもタヌの家は農家ではない。そんな道具があるだろうか。あまり期待できないかもと思いながら庭を見回した。

(あ!)

 庭の片隅に、恐ろしく埃を被った鍬が無造作に転がっているではないか。タヌは早速、手袋を填めてそれを手にした。

 しばらくの間、一心不乱に庭の一角で穴を掘った。落とし穴と呼ぶには結構深めだ。堀り終えると、今度は書斎へ上がり、本や書類を庭へと出していく。そのうち、DYRAが手に箱状の荷物を持って戻ってきたのが窓越しに見えた。

「タヌ。あったぞ」

 タヌは、庭から窓の方へ駆け寄った。

「燃やすものを燃やして、食事をしたら出発しよう。長居は無用だ」

「うん。それなんだけど……」

 タヌはDYRAを庭の方へ案内した。

 庭に着くと、DYRAは少しだけ目を丸くした。書類と本がすでに穴の横に積み上げられているではないか。

「結構な量だな」

 DYRAがちらりと目をやった。

「タヌ。私が燃やしていく。お前はその間、食事を済ませろ。私の分は気遣い無用だ」

「ボクも手伝うよ?」

「いや、未練を持ったり気にしたりする時間すら惜しい」

 DYRAは言っている先から書類を数束ほど穴へ入れた。次に、火打ち石を使って火を熾すと、手元にある書類数枚に点火し、穴へ放った。火が穴の底で先に入れた書類へ燃え移り、めらめらと燃え始める。それを見たDYRAは、火が消えない程度のペースで次々と書類を、続いて本をビリビリと破りながら放り込む。タヌは彼女の様子を見ながら、軒先で箱を開く。中には皮の薄いライ麦パン二枚でレタスとトマト、それに薄く切った豚肉を多めに挟んだものが三つ入っており、タヌは一つ手に取って食べ始めた。

 燃やす作業が終盤を迎える頃には、空がスギライトのような紫とも黒とも言えぬ色へ変わっていた。

「食べたら出発だ」

「うん。でも、どこからどうやって捜せばいいだろう。何て言うか、始めに戻ったみたいで」

「いや。初めて会ったときのお前は、両親を捜すことにさえ受け身だった。でも、今は違う。お前は自分の意思で『捜す』とハッキリ言っている」

「……ありがとう、DYRA」

 タヌが言った、『始めに戻った』感じは、自身の率直な感想だった。初めてDYRAと出会ったときは、もうここでは生活できないからどこかへ行かないと、くらいの考えだった。無力な自分が両親を捜すなど、冗談でも口にできなかった。今は違う。確かにあまりに非力だが、無力ではない。DYRAと行動を共にすることで、自分の意思をハッキリ示せるようになった。もう一度村へ戻ってきたのは、見落としや、捜していない何かがまだあったのではと思ったからだ。それは的中した。DYRAに助けられたばかりの頃の自分では見つけられないものやことを、見つけることができた。

「それに、大きな手掛かりもあった」

 RAAZから言われたことなどおくびにも出さず、DYRAは手を止めることなく告げる。

「あの井戸の地下道だ。お前の父親が、何をしにどこへ行ったかわからないのは、あれを使って移動したからじゃないのか?」

「つまり……」

「家から痕跡を消して、行き先を特定させない。地下道の出口が手掛かりじゃ? 数日で戻ってきたなら、そこから馬車を使った可能性もある。せっかく『始めに戻った』んだ。それを調べ直すんだ」

 調べ直す。言われてみればそれはやってみる価値が十二分にある。タヌは大きく頷いた。

 タヌは、今度こそ絶対に見つけると、心に誓った。母親については言葉にできぬ結末だったが、父親は絶対に見つけ出す。そして、自分を助けてくれたDYRAやRAAZに対し今なお迷惑を掛けているなら、何としても止めよう、と。タヌは食べながら、そんな気持ちも一緒に腹へと流し込んだ。

 食事を終えたところで、タヌはランタンに火を灯してから、DYRAと一緒に掘った穴を埋めていった。鍬を使って周囲も均し、できるだけ何もしていないように装う。

「人に嫌われ、蔑まれるだけの力だが、こんなときくらい役に立つかも知れない。下がっていろ」

 DYRAがそう言って、穴を埋めた場所へしゃがむと、地面にそっと手を置いた。

「あっ!」

 タヌは息を呑んだ。地面に置いたDYRAの手の周りに一瞬だけ青い花びらが舞い上がり、その場所の土だけが砂のように乾いていくのをランタンの灯り越しに見たからだ。確かにこれなら、パッと見で掘って埋めたとはわかりにくい。剣を振るう以外でDYRAの能力を初めて見たタヌは、戸惑いにも似た感情を抱いた。

「タヌ。出発しよう」

「うん」

 振り返ったDYRAにタヌは頷く。そうしてタヌは、再びこの家から旅立った。




 DYRAとタヌは家の裏にある井戸へと回り込んだ。井戸に着くと、タヌは襷掛けにした鞄にランタンを引っ掛けてから、先に梯子で井戸の底へと下りた。DYRAは、タヌが無事に底までたどり着いたのを確認したところで、井戸の中へと飛び込んだ。

 文字通り飛び降りてきたDYRAは、続いて自らの右手周囲に青い花びらを舞わせながら蛇腹剣を顕現させると、一気に振り上げた。梯子がバラバラに切り刻まれて、底へと落ちてきた。そんな様子を見ながら、タヌは彼女の人間離れした身体能力に改めて驚いた。だが、良く良く考えてみれば、剣を出したり、草木や花を枯らしたり、それこそ銃弾が命中しても死なないのだ。井戸を飛び降りるくらいできても、全然おかしくない。

「大丈夫? 脚、痛くない?」

「ああ。大丈夫だ」

 剣を霧散させながら、DYRAは続ける。

「『誰もいない』とは言い切れない。タヌ。この先、この地下道にいる間、『話すな』とは言わない。けれど、不必要に大きな声や物音を出すな」

「わかった」

 DYRAはやはり少し変わった。再会した直後は漠然と、強くなった気がすると思った程度だが、今はわかる。納得した上で自分の意思で動いているのだ、と。脚を治している間、彼女に何が起こったのかはわからない。それでも、DYRAが心の距離を少し詰めてくれた気がしたことがタヌは嬉しかった。

 DYRAはランタンをタヌに預けたまま、あたりを見回した。光蘚があるせいか、完全に真っ暗でもなかった。

(左手を壁に付けて、歩いてみるか)

 DYRAが自身の左側が壁になる位置で歩き、タヌがランタンをかざして一歩後ろに続く。二人が再会したまさにその場所から数歩先がT字路になっており、左右へ分かれていた。壁の向こう側から微かに水が流れてくる音も聞こえる。

(ここは水が流れた形跡もないのに、水の音がする)

 DYRAはT字路を左へ行った。ちなみに、RAAZと共に現れた場所はこのT字路を右に行ったところだった。ただ、それは恐らくRAAZが他言無用と言った内容に含まれているだろう。だからこそDYRAは左を選んだ。

 左へ曲がると、長い一本道だった。二人は、ひたすら歩いた。歩いても歩いても変わらない風景。どれほど歩いただろうか。時間も距離も感覚が麻痺し始めた頃だった。

「どこまで続くんだろう」

 それまでずっと黙って歩き続けていたタヌは、たまりかねて口を開いた。

「恐らく……」

 DYRAは何となく、この道がペッレへ続く街道のほぼ真下にあるのではないかと感じ始めていた。根拠は、地下道自体が人為的に作られたものだからというのが一つ。もう一つは道中、ネズミにすら遭遇していないことだ。警戒心の強い生き物はそう簡単に出てこない。つまり、人間がそれなりの頻度で往来しているのではないか。だとすれば、次の出入口も当然、井戸かそれに類似したものだろう。だが、打ち捨てられた場所で、井戸だけあからさまに使用形跡があれば、「疑って下さい」と言っているようなものだ。自然に隠すなら当然、家々の一角になるだろう。それこそ、タヌの家のように。

「この道をずっと歩けば、どこかの街か、村へ出る」

「ランタンが消える前に着けば良いけど」

「そうだな。少し休むか?」

「ゴメン。休んで良い?」

「もちろんだ」

 DYRAの返事を聞くと、タヌは彼女にランタンを渡してから壁に寄りかかるように腰を下ろし、脚をさすったり、揉んだりし始めた。

「痛むか?」

「ううん。痛くはない。けど、ちょっと疲れちゃって」

 タヌは靴を脱いで、足の裏まで揉んだ。少し楽になったのか、息を整えると、鞄から水の入った瓶を出して、一口飲んだ。

 しばらく休んだことで落ち着いたのか、タヌは立ち上がった。

「もう、大丈夫」

「かなり速いペースで歩いたからな。しんどかったら言え」

「うん」

 これ以後、細かい休憩を入れながら二人は歩いた。時折、タヌは瓶の水を一口飲む。

 風景が変わらぬ地下道を延々歩き続けるうち、二人の視界に初めてそれまでとは違うものが目に入る。ほんの微かな、光の線だ。

「あ。出口かな?」

 タヌが明るい顔つきで光の線を見つめる。

「ちょっと、見てくる」

 DYRAは走って、光の線があるところへ向かった。上の方から光が見える。だが、梯子などの類がまったくない。それどころか、床には瓦礫が散乱している。

(そういうことか)

 ここがどこかわかったDYRAは、タヌが走ってくる足音が耳に入ると、振り返った。

 タヌは、ようやく追い付いたとばかりに、肩で息をした。その後で、散乱した床とDYRAを交互に見る。

「どうやらピアツァのようだ」

「え!」

 聞いた途端、タヌは声を上げた。最初にDYRAと立ち寄ったところで、火薬で爆破されてしまった小さな町ではないか。だから井戸が壊れてその残骸が落ちて散らばっているのか。

「ってことは」

「もう少し行けば、町なり村なりに出られるということだ」

 DYRAの言葉で、地下道の作りを何となく理解したタヌは、出口があるとハッキリわかれば頑張れるとばかりに、「行こう」と言った。

 それからまたしばらく歩いた二人は、ようやく鉄の梯子が掛かった場所を見つけると、それを使って外へ出た。外は地平線の向こうから輝きが見え始め、空はアメジスト色が薄まっていくようだった。


改訂の上、再掲

170:【LEARI】DYRAとタヌ、ここから再出発!2025/07/02 23:57

170:【LEARI】ふたりで再出発! 2023/02/07 12:54

170:【DeSCIGLIO】首狩り屋と呼ばれる男 2020/11/09 20:00



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 気がつけば久し振りの一次創作のイベント「文フリ東京」と「コミティア134」が近づきつつありますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者はとても喜びます。多分踊り出します!


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

-*-*-*-*-* 宣 伝 *-*-*-*-*-


 BOOTHで頒布中の単行本は、何と言ってもフル校正は入っているものなので、webで文章を綺麗にまとめきれなかった場所など含めスッキリ状態! 是非、お求め下さいませ!


 即売会イベント類ですが、当面の参加予定は以下の通りです。


 【直接】 11月22日(日) 文フリ東京

 【直接】 11月23日(月) コミティア134


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。


-*-*-*-*-* こ こ ま で *-*-*-*-*-

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 手配書に書いてあったので合致するのはタヌの父親。なのにフォトグラフっぽい謎の似顔絵は似てない別人。一体ことはどういうこと。おまけに誰も知らない筈のことが書いてある。罠の予感しかしない。これを書いたのは誰? どういう目的? って感じですね。


 それにしてもDYRAとタヌの食事はいつも何か豪華だなぁ。



 次回の更新ですが──。


 11月16日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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