166:【LEARI】タヌ、実は生家で手掛かり探していなかったじゃん!
前回までの「DYRA」----------
単独行動でレアリ村へ向かうタヌ。道中出会ったキリアンという何でも屋と共に村へ、生家へと足を踏み入れた。
村を見て回り、時折、金銀宝石や現金など、金目のものを拾い集めるキリアンに、タヌは少し軽蔑にも似た感情を抱いた。しかし、無償でここまで同行してくれた上、廃墟となった村の異変を物証から冷静に指摘した男に対し、それ以上のマイナス感情を抱けなかった。
(火をつけて村を焼いた人たちの本当の目的は、何だったんだろう?)
タヌは自宅の前にある木の柵に背中を預けると、今一度、自分の運命が変わったあの日から、今までのことを思い出す。感傷に浸るためではない。父親を捜すにあたり、どうしてこんなことになったのか、誰が何のためにこんなことをしたのか、言わば動機にあたる部分の手掛かり、ひいては突破口を見つけるためだ。
真っ先にタヌの中である言葉が浮かぶ
「村を焼いてほしいと言ったのはソフィアだ」
つまり、レアリ村の人々が死んだのはタヌの母親が望んだ結果なのだ。フランチェスコでマイヨと同じ姿を持つ生体端末、アレーシがそう言った。RAAZもそれを認めていた。
父親と母親は、本当のところ、何をしていたんだろうか。
「お前の父親は、ラ・モルテと呼ばれる者が青い花びらを舞わせるたびに周囲が枯れ落ちていく現象の研究をしていた。平たく言ってやる。DYRAの不老不死を断ち切り、殺すための研究だ」
タヌはアレーシが言ったこの言葉を最初、まったく信じなかった。不老不死が現実にあるということや、父親がそんな研究をしていることも。けれど、ネスタ山の向こうへ攫われた自分をDYRAが助けにきたとき、町を吹き飛ばすような爆弾を自身の身体に抱えて爆発を受け止めたときさえ、彼女は死ななかった。それどころか、RAAZをも救った。あのとき、RAAZは「今日を入れて一五日」後に、DYRAとの再会を約束した。しかし、実際はほぼ半分の時間でDYRAをピルロへ連れてきたという。つまり時間さえあれば、あんな、脚が無くなってしまった状態からも回復できるのだ。少なくとも不死は本当のことだった。そして、いくら研究を重ねてもそんな存在を殺すなど冗談でもできると思えない。
「文明の遺産を探したり、それを元に何かを産み出そうとしている人に俺も出会った。君のお父さんとかね……」
そういえば、ハーランはタヌの父親を知っていると明言した。他にも、とタヌは思い出す。
「お父さんと一緒に、遺跡調査へ行ったりもしたもんだ」
ハーランだけじゃない。錬金協会の副会長も、行動を共にした時期があったと言っていた。
(DYRAと出会ってボクは助かった。けど)
これまで聞いた話などを総合したタヌは改めて、何も知らないのは自分だけだったと痛感する。根拠はない。だが、RAAZやマイヨも恐らく父親に関して手掛かりを持っているだろう。RAAZに限るなら、核心に迫る情報さえ持っているのではないか。
(これからも父さんを捜すとなると、今までみたいな考え方じゃダメかも)
何故いなくなったのか。ここがわからなければ、突破口すら見えない。そして、今、無事だとして、何をしようとしているのか。これがわかれば自ずと居場所もわかるのではないか。
(とすると……)
タヌはキリアンが戻る気配がないのを見ると、今のうちとばかりに家の中へ戻った。そのまま書斎の前まで行くと、足の踏み場もないほど散乱した書類を見つめる。やがて、身を屈めると、手が届く一枚に手を伸ばした。
(内容は良くわからないけど……)
紙の右下の方に小さく、『01/63』といった風に番号が振ってあるのがタヌの目に留まった。すぐさま別の一枚を見る。これも同じように右下に『02/24』と番号がある。散らばっているうちの何枚かをランダムで拾って見たが、どれも同じように、だが違う番号が振られている。
(これもしかして、上から番号振ってある、みたいな!?)
タヌは靴を脱いで書斎に入ると、一枚ずつ拾い始めた。そして大まかに順番通りになるように並べる。枚数はかなりあったが、タヌは被る番号がいくつもあることに気づいた。
(右側の数字は後から書いている? もしかして!!)
タヌは拾った書類を今度は、右側の数字が同じものごとにグループ分けしていった。やがて、二〇種類ほどのグループができあがった。その他、グループと同じ数だけ、数字が刻まれていない紙が手元に残る。
(表紙かな?)
タヌはいったんこの紙はこれで別の山にした。紙の束を縦横交互に重ねて山にしていって、飛ばないように重石を乗せる。
(確かに)
タヌは改めて床を見た。キリアンが言った通り、無数の足跡とおぼしき汚れが見える。
次に、机の引き出しを下から開いた。机の右側に三段ある引き出しは、一番下だけが深い作りだ。すっと開いたが、中には何もない。逆に、何も入っていなかったことでタヌはハッとすると、あたりを見回し、最後に先ほど重ねた書類の束に目をやる。
(もしかして、これを片っ端から取り出して見ていたとか?)
一瞬、タヌは中へ入れようかと思ったが、どれがどれだかわからなくなりそうなので、止めた。一番下の引き出しを閉じると、次に真ん中の引き出しを開く。が、ある程度まで引いたところで、開かなくなった。
(開かない?)
普通に引き出しを開いて探しものをするのであればこれで十分だ。しかし、タヌは腰を落とし、視線の高さを水平に合わせて中を覗き見た。
(あれ?)
何か引き出しの一番奥に引っ掛かっているようだ。タヌは机を見回して、鉄尺を見つけると、それを引き出しの奥へ入れた。やがて、コトン、と音が聞こえ、引き出しが全部開いた。
引っ掛かっていたものの正体は、マッチ箱より薄く、小さな潰れかけた紙箱だった。タヌはそれを手に取った。パッと見、引き出しの内側とほぼ同じ色だったので、注意深く見なければ気づかない。今まで誰にも見つからなかったのも納得した。同時に、探しに来た人たちは相当雑な探し方をしたのだろうなどと思う。タヌは、箱をそっと開いてみる。
小指ほどの黒い小さな板と、金属製の小さな飾りが二つ、顔を出した。
(同じ物? でもこれ、耳飾りみたいだし、ここにあるってことは、父さんが母さんにあげるものだったのかな? でもこんな粗末な箱なんて……綺麗に包む前だったのかなぁ?)
細いアズキ状の鎖は、長さが耳たぶの高さと同じくらいだった。その鎖に紫色の小さな石が二つと、それに爪ほどの長さがある細長いねじった棒のような飾りや米粒ほどの乳白色の石がぶら下がるようについている。留め金のところには見るからに高そうな宝石。
父さんが用意した贈り物を誰かに盗まれたりしたら嫌だな。タヌはそう考えながら引き出しを閉じた。自分がこれを守ろうと決めて、耳飾りを箱に戻し、箱ごと肩掛け鞄の底に収める。
(他には……)
次に、タヌは一番上の引き出しを開いた。羽根ペンやインクなどが入っているだけで、取り立ててめぼしいものはなかった。
机周りで見るものはもうない。タヌは次に、本棚を見回す。古びた分厚い本が、天井まで高さがある壁一面の本棚に綺麗に収まっている。
(あれ?)
本棚は、自分がかつて持ち出した箱の場所以外、触れられた形跡がない。
(探しものは本じゃなかった?)
タヌは、もう一度、件の場所を凝視する。
(も、もしかして!)
嫌な予感を抱いたタヌは、書斎を出ると、靴を履いて家の外へ出た。周囲を見回し、キリアンの姿がないのを確かめると、村外れの小屋の方へと早足で歩く。
タヌの視界の先に小屋が見えたときだった。
キン、キン、と金属が不規則にぶつかり合う音が聞こえてくる。
(何だろう?)
タヌは近くの木の陰に身を寄せると、そこから音が聞こえた方を見る。奇しくもこれから行こうとした小屋の近くにある、井戸のあたりからだ。目を凝らすと人影も見える。
(あれ……えっ!?)
どちらも見覚えのある人物だった。タヌは目の前の光景に混乱した。
(どうして!?)
タヌは、見ている場合ではないと思うと、走り出す。
足音に気づいたのか、人影の動きが止まった。すぐさまタヌと二つの人影の間に激しい白煙が立つ。
「タヌ君っ!!」
白煙の中から走って姿を現したのはキリアンだった。タヌの前まで駆け寄ると、タヌを守るように立ち、手にしたとび口を構える。
だが、煙が晴れたとき、もうそこには誰の姿もなかった。
「大丈夫だったか? タヌ君?」
何が起こったのか。まったく把握できぬタヌは内心、困惑した。そうだ。あれは──。
(あの人、もしかして!)
「やっぱり人がいやがった!」
タヌは、二度目のキリアンの声で我に返った。
「けど、タヌ君にケガがなくて良かった」
膝を落として目線を合わせたキリアンに、タヌは何も言えなかった。
「しっかしまぁ、先客が女の泥棒だったとはね」
キリアンの言葉を聞いたタヌは、質問されても今は知らぬ存ぜぬで通した方が良いと直感で判断する。先ほど書斎で彼の鋭さに触れたときは巻き込んではいけない気持ちからだったが、今は違う。彼の強さと知性が思わぬ方向に敵意を向けかねないことがわかったからだ。
「女の、泥棒?」
タヌはいかにも信じられないと言いたげな表情をしてみせた。
「ああ。けどおかしい。オレたちより先に来ていたのに、どうしてあんな散らばっとった金目のモノ、拾わなかったんだ? だいたい、女なのに宝石も拾わないなんて」
聞いていたタヌはすぐに気づいた。キリアンは、女の泥棒は明確な目的を持って家捜しに来たと仄めかしている。
「タヌ君。この村、いや、タヌ君の家、何があるん?」
「え。ウチは別に何も。お金持ちじゃないし」
「いや、皆のお目当てが金目のモノじゃないのはわかったんだ」
キリアンは何かに気づいたかも知れない。タヌの背中に冷たいものが走る。万が一、狙いであっただろう『鍵』をタヌが持っていると勘づかれたらどうすれば良いのか。今ここにDYRAもマイヨもいないのに。
「今までの経験から多分……な。実際、メチャクチャ興味を引くものもあったしな」
「興味を引くもの?」
「タヌ君。村に住んでいたならわかるだろうから、教えてほしいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「村の人、水汲むときにどの井戸を使っとった?」
質問に安堵すると、タヌは周囲をキョロキョロと見回してから指をさす。
「え? そこの井戸と、村長さんの家の裏にある井戸。それに、麦畑の隅……ちょうど、村の入口やこのあたりからは見えにくいんですけど」
「タヌ君の家の裏にも井戸があったっぽいけど?」
「あれは、あるだけって感じです。母さんに昔聞いたけど、ボクの家の井戸は、最初に住んでいたときから全然水が出なかったって」
「なるほど。それで納得した」
キリアンは首を縦に振った。
「え? 何かあったんですか?」
「まぁ、ね。さっき、靴跡の話、しただろ?」
「はい」
「変な溝の跡も、女物も、皆、タヌ君の家にあった井戸に来ていたからな」
タヌは、どうしてだろうと不思議に思う。
「思い当たることは、本当に何もない?」
「ええ。全然」
タヌは、井戸の話を聞いた時点で、何を言われているのかまったく理解できなかった。井戸に一体何があるというのか。
「改めて見にいこっか。けど、タヌ君が下りるのはナシ。万が一、落っこちたりしたら大変なことになる」
タヌは、使われていない井戸を見てどうするのだろうと疑問を抱いたが、キリアンの要望を断る理由も思い当たらない。早速、自宅の敷地内にある井戸へと案内した。
「木も枝とか切らずにボーボーにしとったのは、使ってないから、だったのか」
タヌは井戸から少し下がって、井戸と周囲をジロジロ見て回るキリアンを見つめた。
「はー。ちょうど、人一人通れるくらい、か」
キリアンは井戸の前に立って、麻紐にくくりつけられたまま埃を被っている桶や、井戸そのものを見る。
「あーあーあー」
タヌは、キリアンが井戸の中を覗き込むなり抑揚のない声を上げたので何か見つけたのかなと興味を示す。
「どうしたんですか?」
「井戸に梯子があって、それに思いっ切り土汚れがついとった」
それが意味することは一つしかない。しかし、誰が何故。キリアンではないが、井戸を下りたら宝の山でも隠してあるのだろうか、などとタヌは想像する。
「ちょっと、見てくる」
言い終わるより早く、キリアンがとび口を持ったまま、井戸の内側にある鉄の梯子を下り始めた。タヌはそんな様子を興味深いとも心配そうにともどちらにも取れそうな表情で見つめた。
改訂の上、再掲
166:【LEARI】タヌ、実は生家で手掛かり探していなかったじゃん!2025/07/02 22:31
166:【LEARI】家捜しの目的 2023/02/07 12:31
166:【LEARI】父さんの闇(1) 2020/10/05 20:00
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10月に入ったらいきなり涼しい日々です。皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者は多分とても喜びます。
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-*-*-*-*-* 宣 伝 *-*-*-*-*-
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即売会イベント類ですが、当面の参加予定は以下の通りです。
【委託】 10月11日(日) 北海道コミティア13
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こちらへ参加予定です。
ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。
また、ピクトスクエアさんで開催の一次創作オンライン即売会へも年内はそこそこ参加しております。併せてよろしくお願いいたします。
【オン】 10月26日(水) 月夜咄会#04
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今更1話~追い切れない人、「序盤のあれってどうなったの?」状況、「あの伏線は?」の回収や疑問消しなども兼ねた論点整理と「物語の目的確認」、そして「で進捗確認」の回でもありました。如何でしたでしょうか。
井戸の底で無事にDYRAとタヌは再会しました。どうやらRAAZがここに連れてきてくれたからはわかりましたが、その間DYRAとRAAZに何があったのか、そして「850」の謎。これらは解けていません。一体どうして? どうやって? という感じです。それにしても、タヌのお父さん、ひどい言われようですね。The disられ、と言いますか。
次回の更新ですが──。
10月12日(月)予定です!
日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆