表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/330

164:【LEARI】タヌの道中、新しい出逢いで進んでいく

前回までの「DYRA」----------

マイヨの部屋で見つけたおぞましいものにDYRAはショックを受ける。彼の部屋を出て、外へ出ようとするが出口がない。必死に探して見つけたのは、地下へ行く階段だけ。だが、階段を下り進めていくうち、突然、謎めいた空間を彷徨うことになった。

 タヌを乗せた荷馬車がペッレに着いたのは、ちょうど陽が暮れた頃だった。

 無理をして夜道を移動するのは得策ではない。タヌはそう判断すると、手近な宿を探して、泊まることに決めた。以前、サルヴァトーレと出会った宿を利用することも考えたが、一人では却って目立つかも知れない。それが自分を追っているであろう誰かの目や耳に入れば面倒なことになる。今は、DYRAも、サルヴァトーレも、マイヨも、ロゼッタもいないのだ。絶対に目立ってはいけない。

 タヌはペッレの街を歩くと、町役場の看板を掲げた建物を見つけた。一軒家よりは大きいだろう程度の平屋の煉瓦造りの建物だ。役場なら、宿屋を紹介してくれるかも知れない。タヌは早速、建物の扉を叩いた。

「こんばんは」

 ほどなくして扉が開き、地味な身なりの若い女性が姿を見せた。

「あらこんばんは。もう夜だけど、どうしたの? 迷子?」

 女性が尋ねると、タヌは首を横に振った。

「あの、親戚と会う予定だったんですけど、予定が変わっちゃったから、宿屋を探していて」

 怪しまれないため、タヌはでまかせを言って助けを求めた。

「一人?」

「はい。あ、でも明日には親戚が来ますし」

 若い女性は話を聞きながら、手を顎において考える素振りをした。ほどなくして、何か思いついたと言いたげな顔でタヌを見た。

「明日親戚が来るなら、ここに泊まっていく? 私、ここに住み込みなんだけど、明日の朝まではもう誰も来ないし、部屋も余っているから」

「ありがとうございます!」

 タヌは厚意に甘え、役所の建物で一泊した。

 翌日。

 夜明けと共にタヌはそっと起き出して役場を出た。食事用とおぼしきテーブルに「お世話になりました」と書いた置き手紙と三枚のアッス銀貨を置いて。

 そしてペッレの東門からすぐ近くに、乗合馬車が集まる停留所を見つけると、タヌは早速そちらへ走った。

「東へ行く馬車はもう、皆、ルガーニ村止まりしかないよ」

 停留所の片隅で、タヌは何人かの御者にレアリ村の方へ行く馬車がないかを聞いてまわったが、異口同音の答えが返ってくるばかりだった。

(そうだよね)

 レアリ村は焼き討ちに遭い、ピアツァは火薬で吹っ飛ばされたのだ。誰一人助からなかった場所へ行く理由などない。歩いて行くか、辻馬車を利用するしかない。

「おい坊主」

 タヌへ声を掛けてきたのは、停留所の隅で腰を下ろして茶を啜っている、でっぷりとした体型の御者だった。

「何でまたそっちなんか行きたいんだ? 何もないどころか、廃墟だぞ」

 聞かれると、タヌは自分の出身地のことを正直に言うべきか、それとも内容が内容だけに伏せた方が良いか、どちらなら自然に話を聞いてくれるだろうかと迷った。とにかく目立つことを避けなければならない。タヌがあれこれ考えたときだった。

「乗せてってやろっか?」

 張りのある男の声だった。タヌは声がした方を見る。たむろしていた御者たちもぎょっとした顔で声が聞こえた方を見ているではないか。

「おい。アイツ確か」

「ああ、『首狩り屋』じゃないか」

 そんなヒソヒソ声と共に、御者たちが一斉にその場から離れ、いなくなった。御者達がどうしてそんな行動に出たのか、タヌにはわからなかった。

 一体いつからそこに立っていたのか。パッと見、男女の区別がつきにくい容姿をした若い人物がタヌの横にいた。背はDYRAより少し高いくらい。ハッキリした目鼻立ちと、日焼けした褐色の肌色、躑躅色の瞳、そして刈り上げに見えそうな短いツーブロックの、ところどころワンポイントで紫紺色が混じった青磁色の髪が特徴的だ。

「ワケアリだろ? こんなところで話すのは何だ。来な」

 タヌは、歩き出した人物をじっと見た。長い幾何学模様のストールを靡かせ、指先が開いている手袋を填めた手で手招きしてくる。声で改めて男だとわかる。タヌは停留所から離れ、彼の後に続いた。その様子を、先ほどの御者たちが訝るような目でやや遠巻きに見ていた。

「あいつらに『行きにくいところへ連れてけ』なんて言っちゃダメだろ?」

 年齢はRAAZやマイヨより年上そうだが、ハーランよりは若そうだ。恐らく両親とそう変わらないとタヌは推測する。

「そういうのは、面倒ごとを生業にするヤツに頼まないとダメだって」

「お兄さんは、一体」

「オレ? オレはキリアン。南の港町デシリオから来た。まぁ、何でも屋だ。けど、地元はチェルチ村とのゴタゴタで商売あがったりでな。それより『ラ・モルテが現れた』とか色んな物騒なウワサが聞こえ続けたから、こっちの方がよっぽど商売になると思って、最近出てきた」

 デシリオは、ペッレから南の方にある港町で、西の都アニェッリやトレゼゲ島との交易や水上輸送の拠点だ。一方のチェルチは漁村で、沿岸漁業で生計を立てている。二つの町村はトレゼゲ島との交易利権を巡り、ここ最近、一触即発状態と評判だった。

 タヌはキリアンと話し、中性的な見た目と違い、気が強そうだと印象を改めた。

「な、何でも屋さん? 御者もしてくれるんですか?」

「ああ。ヤバいヤマとか面倒事とかもカネ次第だ。で、何だっけ? どこ行きたいって?」

「レアリ村です」

 タヌは言いにくそうに告げた。一瞬だけ、キリアンが鋭い眼光でタヌを見るが、すぐに先ほどまで同様の笑顔に戻る。

「そりゃ確かにその辺の御者じゃ嫌がるな」

 キリアンが箱型客室のついた二頭立て辻馬車を指差しながら答えた。

「乗んな。オレが引き受けた」


改訂の上、再掲

164:【LEARI】タヌの道中、新しい出逢いで進んでいく2025/07/02 20:51

164:【LEARI】タヌ、1周まわって始めに戻る 2023/02/07 12:26

164:【LEARI】疑惑だらけの我が家 2020/09/21 20:00



-----

 まだまだ残暑はそれなり程度に厳しいけれど、8月のドバイみたいな暑さを思えばこれでも涼しいと思えるのだから人間の身体は不思議です、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者は多分とても喜びます。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

-*-*-*-*-* 宣 伝 *-*-*-*-*-


 BOOTHで頒布中の単行本は、何と言ってもフル校正は入っているものなので、webで文章を綺麗にまとめきれなかった場所など含めスッキリ状態! 是非、お求め下さいませ!



 即売会イベント類ですが、当面の参加予定は以下の通りです。


 【直接】 09月27日(日) 関西コミティア59

 【委託】 10月11日(日) 北海道コミティア13

 【直接】 11月22日(日) 文フリ東京

 【直接】 11月23日(月) コミティア134


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。


 また、ピクトスクエアさんで開催の一次創作オンライン即売会へも年内はそこそこ参加しております。併せてよろしくお願いいたします。


 【オン】 09月22日(火) 幻想の宴2——ファンタジー小説限定イベント

 【オン】 09月30日(水) 月夜咄会#03


-*-*-*-*-* こ こ ま で *-*-*-*-*-

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 キリアンがいきなり観察眼と頭のキレッキレぶりとを見せております。けれどDYRAやRAAZ、マイヨと言った規格外の存在を知っているタヌは冷静で、かえって余計なことを知らせない方が良いと判断するほど。163話の御者たちの声をタヌは聞いていたのでしょうか。いや、声がタヌに届いていたのでしょうか、と言った方が良いのかな。これからキリアンがどう動くのかも見物です。

 そしてDYRA。

 マイヨが寝床代わりにしている部屋の正体がわかったこともあり、無言おいとま(笑)なワケですが、何やら見知らぬ場所で迷子になった様子。無事にタヌと再会できるのでしょうか。



 次回の更新ですが──。


 9月28日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ