163:【?????】お化け屋敷も驚く血まみれ部屋に、DYRAもドン引きせずにいられない
前回までの「DYRA」----------
DYRAはマイヨを助けた。自分たちの身体の源泉を巡る話を聞くが、彼女はRAAZとの確執の真相を尋ねる。だが、思うような答えは返ってこない。仕方がないので、マイヨの部屋を散策する。
「ここは……」
薄暗い、まだらの部屋で倒れていたDYRAは意識を取り戻した。起き上がってあたりを見回す。一体どれほどの時間が流れたのだろうか。
(そうだ、この部屋)
DYRAはここにいたるまでの流れを思い出した。RAAZと共にタヌと再会するべくピルロの北側、ネスタ山へ赴いた。そのとき、ハーラン戦を想定する必要があるからと、下山時、左脚に自己治癒能力を発動させた。それが発端でネスタ山の一角で土砂崩れが発生、一部がピルロにまで到達した。RAAZ曰く、事前にタヌへ逃げるよう伝えたと言うが、裏を返せば、RAAZは最初から自分を利用してピルロを潰す気満々だったことに他ならない。
(くそ!)
RAAZにまんまと利用された。それだけではない。ハーランと鉢合わせになり、その場には後がない状態だったマイヨがいた。彼を救うべく、肩を貸したつもりが、一緒に彼の根城とも言うべき部屋まで来てしまった。
今、何時だろうか。確かめようにも部屋に時計がない。
DYRAはスカートのポケットから懐中時計を出し、時間を確認する。
(もうすぐ九時、か)
文字盤の下三分の一、昼夜表示部分は夜を示していた。
(タヌは無事なのか? 今、どこにいるんだ? RAAZか、あの密偵女あたりと一緒に安全なとこに逃げていれば良いんだが)
とにかく心配ばかりしても始まらない。そして、マイヨが起きるまでここにずっといるのは時間の無駄だ。DYRAはこの部屋から出る扉がないか、壁伝いに視線で探し始めた。
(もしかして……)
それまで周囲の暗さとまだらの壁に気を取られてわからなかったが、DYRAが立っている場所から見て一番遠い突き当たりの壁のあたりに凹凸らしきものが見える。
(あれ、扉か?)
DYRAは僅かに身体をふらつかせながら歩き始めた。部屋はうなぎの寝床さながらに細長い構造だった。
別に捕まったわけではない。出口がわかれば勝手に出ても特に問題ないだろう。倒れたマイヨも多少気にはなるが、それ以上にタヌが心配だ。これだけの騒ぎに巻き込まれたのだ。RAAZが何らかの形で助けていればそれで良い。しかし、そうでなかった場合、タヌが自分で自分の身を守るなど、限界があるはずだ。DYRAはタヌを案じた。
(これ……な、何だこれ?)
突き当たりの壁にあったのは、扉ではなく、引き戸だった。良く見ると、この戸や壁はまだらにはなっていなかった。それにしても。引き戸なのに、引き手にあたるものがないとは。一体どうやって開けるのだろうか。
(これは……)
壁と戸の境に僅かな隙間があるのを見つけると、DYRAはそこに手を入れ、隙間を広げるように横に扉を動かす。扉自体が鉄のように重いものの、動かせないものではない。DYRAは、マイヨが本当にこんなところから出入りしているのだろうかなどと考えつつ、目一杯力を込めて、戸を少しずつ開く。ようやく、人一人が通れる程度まで開くと、身体を横に向けて、隙間をすり抜けた。そして、同じように扉を動かし、元通りにした。
廊下はロウソクよりも小さな灯りが等距離間隔で灯っており、床や壁に目印らしき線がところどころで光っている。これらのおかげで、壁にぶつかる、段差で転ぶなどの心配はなかった。DYRAは知らないが、線は蓄光塗料、あるいは夜光塗料と呼ばれるもので塗られている。
DYRAは左手の壁に手を置いたまま、壁に沿って歩き始めた。
(そう言えば……)
DYRAが歩き始めてしばらくして、出口を探すにあたり、疑問が浮かんできた。ここは平屋なのか、それとも二階か三階建てか、はたまた、地下か。それに通路が恐ろしく長い。
どのくらい歩いただろうか。初めて、壁に大きな凹みがある場所にあたった。さらに凹みに光る線が描かれており、扉か、引き戸らしきものがあるとわかる。真ん中から両側に開くものとわかると、DYRAは真ん中の隙間から両手で左右へ広げようとした。
(何だ!?)
部屋を出るときの扉と違い、びくともしなかった。DYRAは知る由もないが、立っているその場所は、大昔、エレベーターホールと呼ばれた場所だ。
(開かないのか)
DYRAはいったん諦めると、近くに別の扉がないか探す。凹んだ場所からもう少し先に進んだところに、明らかに壁と段差がある箇所を見つけた。腰の高さのあたりに丸い筒型の取っ手も付いている。DYRAは扉に違いないと確信すると、早速取っ手を押した。
(ここも、開かない?)
今度は引いてみるが、それでも開かない。だが、先ほどの両引き戸とは違い、ガタガタと音が聞こえる。何とかすれば開きそうだ。DYRAはもう一度、取っ手を見る。真ん中に何か小さな、縦棒のようなものがある。
(もしかして)
DYRAは取っての真ん中にある縦棒に触れた。横に動かせるようだ。九〇度横に倒してからもう一度、取っ手を押したり引いたりするが、やはり開かない。ガチャガチャ動かすうち、勢いに任せて取っ手を軽く捻ったときだった。
カチャリ、という音と共に、重い扉が動く感触がDYRAへ伝わった。
(そうか! これを回して、押すなり引くなりするのか!)
DYRAは扉の向こう側を見る。最小限の光源しかない空間で、高さの違う場所の壁に、廊下と同じような塗料で描かれた線が見える。
(階段?)
DYRAは何となく察すると、壁に左手を置き、あたりを見回した。扉を閉めたとき、扉の階段側に「B50」と書かれているのを見つけた。線と同じ塗料が使われているのもわかる。
(850、か)
最悪、戻るしかないときはこの扉を目印にしよう。DYRAは番号を覚えておくと、階段を下り始めた。
線状の目印が時折見えるだけの階段を一体どれくらい下りただろうか。下りても下りても次の扉が見えてこない。DYRAは階段が途切れた場所まで来たところで、ふと、戻った方が良いだろうかなどと考え始めた。と、そのときだった。
「あっ……あっ……!」
DYRAの身体が突然、落下し始めた。足を踏み外すような初歩的なミスなどした覚えがない。DYRAは悲鳴にも似た声を上げた。
「な、な、何だ!?」
落下していく感覚に身を任せるしかなかった。ただただ落ちていく。もしかしたら、底まで落ちて激突したら今度こそ死ぬのだろうか。ようやく死ぬことができるのか? 生きることに執着はなかった。具体的に何があったかはほとんど覚えていないが、RAAZに振り回されて一三四〇年も生き続けた。そんな関係もようやく終わるのか。DYRAの脳裏にそんな考えが浮かんだときだった。
それは、唐突に、前後の脈絡もなく、ただ、それまで浮かんでいたことをそっくり打ち消すかのように現れた。
「ボクは、父さんと母さんを捜したい」
「お前が、たとえ残った半分でも、その希望に縋るなら……」
「半分の、希望」
「うん……ボクは、縋る」
(タヌ……!)
そうだ。まだ、死ねない理由がある。タヌの父親捜しを手伝う約束だ。こんなわけのわからないところで、やり残したことを抱えたままで倒れるわけにはいかない。
まずは絶対、生きてタヌと再会する。DYRAは自分の中で気力を取り戻す。そうと決めたら何としても助からなければならない。まずはここから脱出することからだ。
(落ち着け!)
どうせ底はまだまだ見えないのだ。と、DYRAはここで、落下が続いているにも拘わらず、呼吸できることに気づくと、ゆっくり、意識して深呼吸した。
目が慣れてきたこともあり、少しずつ、周囲と自分が置かれている状況が見えるようになる。
(な、何だここは?)
DYRAは、自分がいくつもある、巨大な砲金色をした太い輪の内側を落ちているのだとわかった。内側と言っても、両手両足を広げれば届く程度の直径ではない。人が一〇人や二〇人まとめて潜ってもまだまだ余裕がありそうだ。太い輪の部分も含めた全体で見れば、ざっと五〇人くらい並んでようやく届くかも知れないほどの直径だ。。輪は螺旋階段を思わせるような並び方をしている。輪のど真ん中を真っ直ぐ落ちることができるなら、ぶつかってケガをすることはないだろう。
(何て大きさだ。しかも、浮かんでいるなんて!)
だだっ広い空間に輪投げの輪が浮いているようだ。一つ一つを良く良く見ると、内側は丸いが外側は角を削り、外周を膨らませた三角のように見えないこともない。
(あ、あれ?)
動揺していたときは気づかなかったが、今ならわかる。落下の速さが最初と比べて明らかに緩やかになっている。それに比例するようにDYRAも落ち着きを取り戻す。
「落ちているというより、これは……?」
浮いているようだ。この落下速度なら、着地してもケガの心配はない。とはいえ、いつまでこの状態が続くのか。階段を下りたときよりももっと下へ下へと向かっていることはわかる。落ちるところまで落ちた先に何があるのだろうか。この空間がどこに向かっているかも気になるが、それ以上に、無事にタヌと会えるのか。DYRAは目を閉じて、あれこれ考えた。
どれくらい経っただろう。目を開くと、DYRAは砲金色の太い輪の空間に『降りて』いた。いつの間にか、巨大な輪の内側に、人一人が通れる幅で光の道が敷かれている。
DYRAは周囲を見回しながら、落ちてきたはずの円筒形の空間に自分が立っていることに戸惑いを露わにした。
「何だここ」
落ちてきたはずではなかったのか。どうして落ちてきたはずの場所を歩いているのか。どういう理屈で輪の中に道ができているのか。DYRAは、わけがわからない、などと思いながら巨大な輪の内側に続く通路を歩いた。
「RAAZに、聞くか……」
これも『文明の遺産』と呼ばれるものだろうか。根拠はないが、RAAZなら何か知っている気がする。ここを無事に出られて再会できたら聞こう。そんなことを考えながらDYRAはスタスタと早足で歩く。
しばらく歩いているうちに、慣れない経験のせいで神経が高ぶったからだろうか、DYRAは疲れを感じた。
「少し休むか……」
DYRAはゆっくりと床に腰を下ろした。
「……あれ?」
疲れからいつしかうたた寝していたDYRAは、金属的な低い音が僅かに耳へ響いてきたことで目を覚ました。眠ったおかげで、疲れはかなり取れていた。
DYRAはすぐに立ち上がった。続いて、この先で敵意を持った誰かと遭遇することを想定し、先手を取るべく両手を前方にかざし、青い花びらを周囲に一気に舞い上げる。花びらの嵐が両手の周囲に舞い上がっていくと、太い諸刃状にまとまった状態の蛇腹剣と細身の剣を顕現させ、それぞれ右手、左手に握った。武器を手に歩き始めたDYRAは、どこをどう通ればこの空間から出られるのか改めて考える。何せ、上から「落ちてきた」のだ。どうやって上がれば良いのか皆目わからない。
しばらく歩き続けるうち、DYRAは、今歩いている場所は落下してきた巨大な輪が浮かぶ空間がそのまま横になっていることに気づいた。さらに光の通路の先に、前後に動く扉枠らしきものが見える。その扉枠は通路を前へ後ろへと規則的に動き、止まる都度、金属音を鳴らしては、赤い豆粒のような光を点滅させる。音と振動を発していたものの正体はあれだろう。DYRAは察した。
(からくり?)
扉枠が動く範囲の近くまで来たDYRAは、ここを潜って良いのかと考える。
(ここで立ち止まるわけにはいかない)
警戒しながらDYRAはゆっくりと潜った。特に何も起こらなかった。無事に通り抜けると、気持ち早足で先を急ぐ。
(それにしても、出口はないのか?)
DYRAはひたすら歩き続ける。だが出口らしいものが見えて来る気配がない。ふと、一体どれほど歩いたのか気になり出すと、懐中時計を取り出して時間を見た。
(三時、か。確かマイヨの部屋を出たときは九時だった)
もう五時間以上経っていたのか。DYRAはそんなはずはないと否定しそうになる。しかし、真っ暗な場所や見たこともない空間をずっと落ちてきたり歩き続けたりしていた。それだけの時間が経過したと自覚できないだけかも知れない。ただ、普通の人間なら確実に五時間以上飲まず食わずで歩き通せば行き倒れだ。だが、DYRAは違う。何事もないなら半日ばかり休み無しで歩いても問題ない。タヌと出会って以来、DYRAは彼女なりにタヌに合わせているだけだ。通常なら世間から急ぎ足とみられる速さでの移動も苦ではない。
DYRAはある程度移動したところで、周囲を見回した。
(?)
遠くの方から、足音らしき音が聞こえる。DYRAは聞こえてくる方向に目をやった。
(あ……)
大きな砲金色の輪に気を取られ、見落としていたものがあった。目を凝らすと、ところどころ、輪から輪へ移動する間に四角い境界線とおぼしき物があるではないか。四角の外周は人が一人か二人通れる程度の大きさ。
(もしかして、扉?)
しかも、その外周のすぐ外側、位置的には鳩尾の高さに、手のひらより一回り小さい黒っぽい板が填められている。手を広げなければ、手のひらが収まるくらいだ。DYRAはおそるおそる板を叩いた。しばらく待っていると、四角い外周の内側がストンと上から落ちた。まるで壁に穴が開いたかのようだった。これを見たとき、自動ドアを知らないDYRAは不思議そうな顔をするばかりだった。だが、それ以上に驚いたのは──。
「ここって……」
扉の向こうに広がる空間は、どこかで見たことがある。DYRAは瞬きし、じっと目を凝らした。
改訂の上、再掲
163:【?????】お化け屋敷も驚く血まみれ部屋に、DYRAもドン引きせずにいられない2025/07/02 20:31
163:【?????】聞くことは聞いたから退散 2023/02/07 12:25
163:【LEARI】懐かしのふるさと 2020/09/14 20:00
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世の中少しずつ新型コロナウィルス禍が下火に向かっているようです。願わくばこのまま終息して欲しい&プラズマクラスターが90%と言わず99%ウィルスを滅殺して欲しいと思う今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。
ブックマークしてもらえたり、感想とかいただけると作者は多分とても喜びます。
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-*-*-*-*-* 宣 伝 *-*-*-*-*-
BOOTHで頒布中の単行本は、何と言ってもフル校正は入っているものなので、webで文章を綺麗にまとめきれなかった場所など含めスッキリ状態! 是非、お求め下さいませ!
即売会イベント類ですが、当面の参加予定は以下の通りです。
【直接】 09月27日(日) 関西コミティア59
【委託】 10月11日(日) 北海道コミティア13
【直接】 11月22日(日) 文フリ東京
【直接】 11月23日(月) コミティア134
こちらへ参加予定です。
ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。
また、ピクトスクエアさんで開催の一次創作オンライン即売会へも年内はそこそこ参加しております。併せてよろしくお願いいたします。
【オン】 09月22日(火) 幻想の宴2——ファンタジー小説限定イベント
【オン】 09月30日(水) 月夜咄会#03
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タヌ、ついに地元レアリ村へ! しかもここで新キャラ「キリアン」登場の熱さよ! ちょっとクセモノの予感しかしないキャラですが、敵か味方か。そしてその正体を含め、楽しんで下さい!
次回の更新ですが──。
9月21日(月)予定です!
日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。
次回も是非、お楽しみに!
愛と感謝を込めて
☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆