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162:【?????】DYRAはマイヨに、「あの日」を問い詰めるが回答しない

前回までの「DYRA」----------

 DYRAはマイヨを助けた。このとき、自分たちの身体に入った自己回復プログラムが組まれたナノマシンこそが長い寿命など、人間離れした能力の源泉であることを改めて聞かされる。



「この間話した通りだから、あれ以上は、彼の基本情報は言い様がない」

「そうじゃない」

「じゃ、何?」

「RAAZと、ハーラン、お前。女が原因でいがみ合っているって話、どうも腑に落ちない」

「どういうこと?」

「本当のところ、何が起こったんだ? お前たちに」

 DYRAはマイヨの目を真っ直ぐ見つめる。

「俺については、事実だけを言えば『女が原因でハーランと』じゃない」

「お前は違うのか?」

「ああ。俺は仕事中、後ろからハーランに襲われた。それで両腕も両脚もズタボロにされて、担ぎ込まれた先がドクター・ミレディア、つまりRAAZのカミさんのいる施設だった」

「仕事で?」

「もともと、俺やRAAZとハーランは同じ国の人間で、別の組織にいたんだ。俺とRAAZは軍に、ハーランは警察だ」

「軍? 警察?」

 DYRAの不思議そうな表情を見ながら、マイヨが軍と警察の違いを説明する。軍は国家の外に対して自衛権を担う武力機関で、警察は国家内部の法に基づいて犯罪防止や法執行を行い、時に部分的ながら武力で治安維持をはかる機能を有する機関である、と。

「それで?」

「ハーランは警察の中でも変わった仕事をしていた。国家にとって都合の悪い奴を人知れず消していく組織、ってのがあってね」

 DYRAはすぐに矛盾を突く。

「お前に身元がばれている時点でちっとも人知れず、じゃないぞ?」

 マイヨが苦笑しながら答える。

「いや、俺は軍の中でも『情報』を『武器』として扱う部署にいた。敵のことも味方のことも調べ尽くすのが仕事」

「お前がハーランから狙われた理由は何だ」

「色々『知りすぎた』からだ。もう一つ、RAAZ絡みで別の理由もある。とは言っても、普通はハーランの部下の誰かが来るんだけど、よりによって本人が来やがった。それで、ね」

「だが、お前の身体は、見た感じ」

 DYRAはマイヨを見る。容器の大半が磨りガラス状のため、肩のあたりまでしか見えないが、傷だらけでひどい、と言った風ではない。

「ズタボロと言いつつ、傷がないのを気にした?」

 マイヨが問うと、DYRAはすぐに首を縦に振った。

「そりゃそうだ。俺の肉体は全部新品(・・)だから」

「新品?」

「そうだよ? ドクターがRAC10とナノマシンで俺の身体を新しく起こし直してくれたからね。新品だって証拠に、黒くない(・・・・)し」

黒くない(・・・・)?」

 DYRAがオウム返ししたところで、マイヨはクスッと笑った。

「大丈夫だよ。見せたりしないから」

 マイヨの言葉を皆目理解できないDYRAは、きょとんとした表情をするだけだった。

「それはともかく」

 真顔に戻ってマイヨが言葉を続ける。

「RAAZとハーランについては、色々複雑なんだよ。けど、他人のことだから俺の口から言えることじゃない。それに」

「待ってくれ」

 再びDYRAはマイヨの発言を遮った。

「では他人の話でない、お前自身のことを教えてくれ。その、ミレディアという女を殺したのはお前なのか?」

「ド直球だなぁ」

「どうなんだ?」

 ここで答えを絶対に聞く。DYRAはそう決めていた。

「俺じゃないよ。これについては動かぬ証拠もある」

「何故出さない?」

 DYRAは信じられないと言いたげにマイヨを見る。

「出()ないんじゃない。出()ないんだ」

 マイヨが視線を天井にやって、深い息を漏らしてから言葉を紡いだ。

「出せない?」

「この件は、RAAZの怒りっぷりからもわかると思うけど、断片的にチマチマ出すのはダメだ。『見た瞬間に納得させられる』、それこそパズルで言えば、完成した状態でないと」

「どうして?」

「考えてみてよ。証拠も揃えず俺が下手なことを言えば、RAAZが何をやらかすか。まして、ハーランまで出てきた。なおさらだ」

「その証拠は、どこにあるんだ?」

 タヌを守ってくれたことへの謝意も示したい。どこかにある『動かぬ証拠』を回収してくれば良いなら、代わりに引き受けるくらいの気持ちでDYRAは切り出した。

「ダメだ」

「え?」

 そんな答えが来るとは思わなかったDYRAは、意味がわからないとばかりに驚き呆れた。

「一歩間違えれば、ハーランを最悪の形で刺激する」

「待て。お前の身の潔白とハーランがどう関係……」

 DYRAはここで言葉を切った。

「まさか!?」

「申し訳ないけど、証拠は『条件が揃わなければ、出せない』。そして、『条件を揃えること自体が危険を伴う』、今はこの二つだけ覚えておいてくれればいい」

 こんな答えで到底納得できるものか。DYRAはなおも食い下がる。

「何故だ? お前は」

 マイヨは首をそっと横に振って、答える。

「時に、すべての条件が揃うまで沈黙するしかないこともある。DYRA、時が来たら、俺自身の手ですべてを明かすさ。それまでRAAZにはどうか、何も言わないでくれ」

「どうして!」

 勘違いされたままで良いのか。万が一、その証拠が消えたり潰されたりしたら、どうするのか。DYRAはマイヨになおも食い下がろうとするが、それはできなかった。

「RAAZはね、ドクターを失ったショックで文明を滅ぼしたんだ。それは君も多少なりともわかっているだろう……?」

 そう言ったところで、マイヨが目を閉じた。同時に締め切った容器の中へ透明の液体が入り始める。ただでさえ消耗しきっていたところに精神的に追い込むような質問をしてしまった。悪いことをしたかも知れないと、DYRAは反省した。

(起こすのも、酷、か)

 ざっと部屋を見回すが、椅子すらも見当たらない。DYRAは物音などで起こしても悪いと思うと、先ほどの昇降機を利用して上へと戻った。

 最初の部屋へ戻ったところで、DYRAはふと気づいた。来た当初より、部屋の様子をちゃんと見ることができるようになっていたのだ。目が慣れたからだろうか。それとも下の部屋で起こったような少しずつ明るくなる仕組みだったのだろうか。夜空の下よりはずっと明るく、家具などの配置や、大まかなものであれば見るに困らない。DYRAは改めてあたりを見回し、さらに耳も澄ます。すると、どこからともなく、風があると思わせる音が聞こえてくる。

(どこかに、窓がある?)

 DYRAは窓か、それに類するものがあるのかを探したが、見つからなかった。代わりに、微かな音が聞こえる方の天井の一角に正方形の小さな格子が二つあるだけだった。ここから人が出入りするのは無理な大きさだ。通れるとしたらせいぜいネズミくらいのものだ。

(そう言えば、出入口はどこだ?)

 ここで、DYRAは机と椅子を見つけると、一息つこうとそちらへ移動した。

「ん?」

 DYRAは部屋のあちこちを見るに連れ、違和感らしきものが心に芽生えた。

(壁に、模様?)

 まだら模様の壁をじっと見つめた。壁の模様に法則性などはまったくない。

(いや、違う!)

 壁だけではない。DYRAの目で確認できる限り、床も、そして机や椅子までもがまだらになっているではないか。

(これはっ……!)

 DYRAは朧気ながらその正体に気づく。ここには何か恐ろしいものがあるのではないか。それでも、誰もいないのだと自分自身に言い聞かせながら、机と椅子の傍へ近寄った。机の汚れ方を見る限り、コーヒーやインクを零してもこんな風にはならないだろう。

(何なんだ。この部屋は)

 DYRAは机を見回し、引き出しがあることに気づくと、机の天板のすぐ下にある薄い引き出しをそっと引いて開ける。汚れは引き出しの縁全体だけではない、引き出しの中の手前側にも固まってこびりついていた。だが、汚れた箇所の上に汚れていない文房具なども無造作に乗っているではないか。

(誰かが物色した?)

 触っていないなら、汚れがそのまま広がっているはずなのに、汚れたものと汚れていないものがごちゃごちゃと混ざり合っている。DYRAの目を引いたのはもう一つ、引き出しに入っていた書類がすべて汚れていることだった。DYRAは引き出しを閉じると、机の右端側にある三段の引き出しに目を留めた。一番下の、深さがある箇所を最初に開く。何も入っていなかった。続いて真ん中のやや浅めのそれを開く。最初の薄い引き出しと同様、何も入っていない。最後に、机の天板下と同じ高さにある、上段の引き出しを開いた。

(ん?)

 中に、まだら模様に汚れた小さな箱が入っていた。大きさ的には手のひらに収まる程度で、厚みもあまりない。天板の一角に蝶番がついており、ベルベットらしき布で覆われている。

 DYRAは手に取ると、蝶番の反対側から箱の蓋部を九〇度、持ち上げるように開いた。中には絹の布が見える以外、何も入っていなかった。

(指輪か何かが入っていた?)

 箱を閉じて、元あった位置に置き直してから引き出しを閉じたときだった。

(指輪……? 指……!)

 このとき、DYRAは自分の胸の内や、喉のあたりから重苦しい何かがざわざわと、だが凄まじい勢いでこみ上がってくるのを感じた。吐き気にも似ているが、何かを吐きたいわけじゃない。胸のあたりが恐ろしい勢いで締め付けられて息が苦しくなっていく。

 DYRAはとっさに口元に手をやった。あまりの息苦しさと嘔吐感とに、部屋の片隅でのたうち回り、やがて、まだら模様の床の上に倒れ、意識を失った──。


改訂の上、再掲

162:【?????】DYRAはマイヨに、「あの日」を問い詰めるが回答しない2025/07/02 20:14

162:【?????】ハーランは「あの日」を知っている? 2023/02/07

162:【LEARI】始めに戻る 2020/08/24 20:00



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 9月になったら台風来襲シーズン到来。最近極端から極端へ走ってるせいもあり、無茶苦茶だなぁと思う今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 まず、2週間のアイドルタイムをありがとうございました。

 無事に新章突入です!


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 即売会イベント類がどんどん中止になっておりますが、現時点での参加予定は以下の通りです。


 9月27日(日) 関西コミティア59

 11月22日(日) 文フリ東京

 11月23日(月) コミティア134


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。

 また、ピクトスクエアさんで開催の一次創作オンライン即売会へも参加しておりますので、併せてよろしくお願いいたします。


 タヌはペッレに戻りました。そう、サブタイトルで皆様お察しのことと思いますが、地元に戻る話になります。果たして何が起こるのか、お楽しみに願います。


 次回の更新ですが──。


 9月14日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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