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161:【?????】マイヨは思ったよりもギリギリで行動し続けている

前回までの「DYRA」----------

 ピルロの惨状も気がかりだが、父親捜しの手掛かりが途切れた形のタヌはここで一度「ここまで」を振り返る。そして、次にやることが見えてくる。

「ここは、どこだ?」

 DYRAは薄暗い部屋を前に、困惑していた。ほんの少し前までピルロにいたはずなのに、どうしてこんなところにいるのか。

「DYRA、ゴメンね。けど、ありがとう。あの場はあれ以上、俺の方が身が持たなかった」

 DYRAの足下では、両膝を床に落としたマイヨが肩で息をしている。

「マイヨ! 大丈夫か? どうしたらいい? 寝る場所とか休めるところはないのか!?」

 DYRAは膝を落とすと、マイヨを肩で担いで立ち上がった。マイヨの顔色はお世辞にも良いとは言えない。それどころか額に汗も浮いているではないか。

「真っ直ぐ行ったところに、隠し扉がある。そこを開けて下りれば……」

 DYRAはマイヨを連れて移動する。目がまだ慣れないため視界が暗いが、今は言われた通りにするしかない。

「ここ、か?」

 壁際へ着くとマイヨが壁の一角に触れた。すると、それまで壁だったはずの場所が無音で開く。最初から何もなかったかのようだった。しかも、直前まで壁だった箇所の奥にあるのは、廊下や階段ではない。

 それは人が一人入る程度の四角い箱らしき空間だった。二人でギリギリだ。男二人だったら入らないかも知れない。DYRAはマイヨを担いだままそこへ入った。二人が入ったところで、突然、落下するような感覚に襲われた。地に足が着いているのに勝手に落ちるとはどういうことなのか。DYRAは驚き、声を上げてしまう。

「な、何だ、これは!?」

「荷物用の昇降機だよ。って言ってもわからないか。上下に移動する機械ね」

 マイヨに言われてようやく、DYRAは四角い箱が下へ移動していると理解した。

 しばらく続いた下へ移動する感覚がなくなると、次に、背中を預けていた一角がなくなる感覚が伝わってきた。DYRAは箱が開いたと気づいた。

「出て良いんだな?」

「ああ」

 四角い箱を出たDYRAが見たのは、狭い部屋だった。最初のうちこそ真っ暗だったが、数秒もすると、部屋全体を見渡すに十分な明るさとなった。しかし、DYRAの目を引いたのはひとりでに明るくなった天井ではなかった。

「これは……」

 ほぼほぼ真っ白な部屋だった。中央に、人が二人入りそうな大型の半透明な円筒形の容器が一つ横倒しに設置されている。さらに部屋を見回すと、筒の脇に、腕ほどの長さがある銀色の箱らしきものが一つ置いてあった。箱からは色のついた細い紐のようなものが何本もまとめて伸びており、容器の端の近くにいくつもの先端が散らばっているのが目に留まった。DYRAは何となく、見覚えある場所に似ていると感じた。

「俺の、寝床」

 DYRAはマイヨの言葉で我に返ると、彼を容器の傍まで運び、ゆっくりと下ろした。

「DYRA。すまない。あと、悪いけど、服脱ぐから」

 聞いている先から、DYRAは手早くマイヨの靴や靴下を脱がせる。続いて白い上着の絹の紐でできた釦を外すのも手伝った。

「優しいね。脱ぐから離れて、って言うつもりだったのに」

「そんな状態で、こんな凝った釦をどうやって外すつもりだ? 千切ったら服がダメになる」

「言われて見れば、そうだね。サルヴァトーレさんに修理を頼んだら、高くつきそうだ」

「まったくだ」

 言いながら、DYRAはマイヨの上着を脱がせた。黒のアンダーシャツ姿が露わになる。

「ありがと。あと、頼みたいことが」

 マイヨが銀色の箱らしきものを指差している。その先をDYRAは見た。

「そこにまとめてあるコード、紐みたいな奴ね。一本ずつ解いて、こっちにくれないか?」

「わかった」

 DYRAが銀色の箱らしきものの方へ行き、まとめてあるコードを解いていく。

「これで良いんだな?」

「容器に差し込み口があるだろう? そこにコードの先端を差し込んでくれないか?」

「ああ。わかった」

 DYRAはコードを解き終わったところで容器の方へ振り返った。すでにマイヨが上半身裸、下半身は黒のアンダーウェア姿で中に収まっていた。DYRAはコードを一本ずつ、言われた通りに差し込んだ。

「目を離した隙に、すぐに脱いで中に収まるとはな」

「恋人でもない女性に、不必要に裸を晒したくなかったからね」

 マイヨがそう言いながら、容器の内側にあるコードの先端を自身の腕や肩、胸のあたりに次々と貼るように置いていった。そんな様子をDYRAは不思議そうに見つめる。

「それは、何だ?」

「ああ、これ? ナノマシンの充填状況を確認するためのもの。君たちみたいにリアクター持ちじゃないからね、俺は」

「ハーランも言っていたな。確か、ナノマシン何とか自己回復ナンチャラガタ」

 言葉の意味がわからないDYRAは、思い出しながら、棒読み気味に告げた。

「ああ。『ナノマシンリアクター内蔵の自己回復機能搭載型』だね。わかりやすく説明すると、君やRAAZは放出した分のナノマシンを自分の体内で生成できる機能がある。けれど、俺は色々事情があって、その機能を内蔵していない」

「その意味がさっぱりわからない」

「つまり君は放出した分のナノマシンを自分の身体の中で作れる。細胞をどんどん新生していくように。剣を出したり楯を作ったりはもちろん、自分の身体にダメージが発生しても、ほぼ同じ勢いで回復させ続けられる。おまけに原資となる生命力もナノマシン経由でシェアできる」

 DYRAは、マイヨが何を言っているのか理解できない。

「待ってくれ。私がいればそこかしこが砂になる。ラ・モルテとか、散々な言われようだ。生命力がどうとか、何の話だ。その生命力が尽きれば、普通は死ぬだろう?」

「君やRAAZの場合、そこら辺の事情がちょっと変わってくる」

「何だと?」

「人間の生命力ってのは、目に見えない分子で支えられている。君たちは、それが尽きないようにするため、その分子となりうるものが周辺外部に存在する限り、それを吸い上げる」

 哲学の話をしているのか何の話をしているのか、DYRAは理解が追い付かない。

「身も蓋もない言い方をすれば、『霞を喰ってでも生きられる』って思えば良いよ」

「か、霞だと?」

「つまり、君はこの惑星の生命力を吸い上げている……わかりやすく言えば、この世界そのものから生きる力をお裾分けしてもらっているってこと。だから、急激に消耗すれば、急激に吸い上げる。結果、花だの木だの、それこそ畑や山まで枯れる、と」

 言わんとすることを理解したものの、DYRAは複雑な表情を見せる。

「RAAZは大地を砂になんかしない……。私と同じなら、ハーランと戦ったときだって」

「ああ。アイツの生命力の補充方法は、知らない方が良い。君が聞いたらきっと、卒倒する」

 マイヨの口から次々飛び出す言葉の意味を今はわからずとも、ちゃんと聞いてさえいれば、いずれわかる時が来る。DYRAはそう信じた。

「良い機会だ。色々教えてくれ」

 話が一区切りついたところで、DYRAはマイヨへ切り出す。

「こんな言い方は嫌だが、私がお前を助けた以上、多少聞いても良いと思っている」

「いや、質問するのは別に、良いよ」

 容器の中に横たわったまま、マイヨが柔らかい表情で答えた。

「私やRAAZは、死ねないのか?」

「単刀直入に聞くね。……そうだね。仮死状態になることはあっても、普通のやり方で死ぬことはない。溶鉱炉に放っても、一欠片の細胞さえ残っていれば再生できる。RAAZのことだ。最悪の事態を想定して、君のそれも残してあるはず」

「ヨーコーロ?」

「わかりやすく説明するなら、そうだね、鉄を大量に作るための、火山みたいな熱い施設だ」

 マイヨの説明でイメージを掴めたDYRAは、信じられないと言いたげな表情をしてみせた。

「RAC10、ってそういうもんなんだよ」

「RAC10?」

 以前も聞いたが、今一つわからない。DYRAはこの機会を利用し、もう一度マイヨから聞こうと思い立つ。

「君にわかるようにもう一度説明するなら、RAC10とは、細胞の一つ一つに、自分の身体や記憶に関するすべての情報のバックアップをする機能っていうか、プログラム。他にも色々できることがたくさんあるけど。とにかく、それ自体は『形あるもの』じゃない」

 DYRAは、マイヨの言葉がやはり音の塊としてしか耳に入らない。

「そのプログラムが組み込まれた自己回復機能を持つ存在、それが俺たち。『不老不死の魔法』なんかじゃない。RAC10は体内に入れたナノマシンを通して実行される。これがあるから『人間の姿のままで人間を越えた何か』になるわけ。極論、さっきの喩えで言えば、霞を喰っても永遠に生きられる。有機と無機のイイトコ取り、みたいな」

 さっぱりわからない。DYRAは自分の頭の中がどんどん熱くなるばかりで、理解が到底追い付いていないことを実感した。マイヨが察したのか、苦笑を漏らしている。

「DYRA。そんな、RAC10の定義や構造の話を知ってもさしたる意味はない。雷が何かを科学的に説明できるかより、雷が怖いものと知る方がときに大事なのと同じでさ。便宜上、『不老不死が叶った存在』だと思えば良いよ」

 マイヨからの補足に、DYRAはいったん納得するが、同時にいくつも新たな疑問がわく。

「何かすると、花びらが浮かぶのは?」

「ああ、あれはドクター・ミレディアの趣味。あの人は絶滅した薔薇の花を『種』として蘇らせようとしていた。趣味が高じてナノマシン放出時に『そう見える』ようにプログラムしたのは彼女らしいよ。顕現するときに本物っぽいのが混じるのは、夢というか、ロマンがあるよ。そもそも物理的に存在するものは何であれ、突き詰めてしまえばただの分子が集まっているだけに過ぎない。なのに、『こういうものになるのか』って」

 ドクター・ミレディアの名前が飛び出したことで、DYRAの思考が一瞬、途切れそうになったが、今はそこが本質ではない。割り切って淡々と質問をぶつける。

「武器が出るのは?」

「ああ。あれもそうだね。RAC10とナノマシンの恩恵。生成、顕現で生命力を使うから、派手にやりすぎると君の場合、周囲が枯れる。ただし、RAAZの場合は最初からいくつかの武器を運用すること自体、プログラムしてあるからそれは起こらない」

 DYRAは、マイヨが自分にわかるように易しい言葉で答えていることに感謝した。それでもやはりわからないものはわからない。結局、難しい表情のまま、二度三度頷くことしかできなかった。

「お前は私やRAAZとは違ってその、ナノマシン何とかを……」

「ああ」

 マイヨが容器の中で小さく頷いた。

「そうだよ。俺はRAC10をまったく違う目的で入れているから、自己生成ができない」

「違う目的?」

「そう。君も見ているあの、俺の生体端末と情報をシンクするためとか、他にも、ね」

「……さっぱりわからない」

 DYRAは小声で呟いた。

「難しいことはわからなくて良いよ」

 マイヨが宥めるように告げた。

「俺の身体へナノマシンをある程度充填したら、君を送っていかないと。RAAZも多少は察しているだろうけど、ここに長居は良くないか……」

「待ってくれ」

 DYRAは、マイヨの言葉を遮った。

「ハーランのことだ」

 先日、山の中で話を聞いたときはタヌの件が昔の女絡みと知り苛立ったことで、何も聞けなかった。DYRAは改めて聞くなら今しかないと思っていた。


改訂の上、再掲

161:【?????】マイヨは思ったよりもギリギリで行動し続けている2025/07/02 20:10

161:【?????】ナノマシンで支えられる身体 2023/02/07

161:【?????】まだらの壁 2020/08/24 20:00



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 ドバイより暑い日々のせいで、コロナ罹患より熱中症で倒れてしまう人が多い今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 即売会イベント類がどんどん中止になっておりますが、現時点での参加予定は以下の通りです。


 8月29日(土) 第一回 紙本祭かみほんまつり(オンライン即売会)

 9月2日(水) 月燈マルシェ 第四夜(オンライン即売会)

 9月27日(日) 関西コミティア59


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。


 ピルロでのやることは全部おしまい。

 次回、RAAZは意外なところへ行きます。タヌはDYRAと再会できるのでしょうか。気になるところです。


 次回の更新ですが──。


 9月7日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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