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160:【Pirlo】DYRAもRAAZもいない。でも、できることはあるはずだ

前回までの「DYRA」----------

 山崩れに巻き込まれたピルロで、無事だった人々は一人でも多く助けようと救助活動に動く。そこへ、思わぬ人物が救助に手を貸した。同時にアントネッラはRAAZにハーランの件を詰められた。

「ガキ。待たせた」

 RAAZが生き埋めになった人々を助ける様子を見ていたタヌは内心、感謝した。

「いったん、ここは用無しだ」

 RAAZが足早に跳ね橋へと戻る。タヌも走って続く。

(RAAZさんの様子から見ると)

 恐らく、ハーランを見つけられなかったのだろう。しかし、早々にここを去って良いのだろうか。少し待てばDYRAとマイヨが戻ってくるのではないか。タヌは自分の中で次々と浮かぶ考えを口にしようとするが、できなかった。気の利いた言葉が浮かばなかったからだ。

「DYRAを待っているつもりなら、時間を無駄にするぞ?」

 タヌの心を見透かすようなRAAZの言葉に、タヌは困惑を隠せない。

「え? そ、それって、ここで待つのはダメってことですよね?」

「ISLAなら、しばらく動けないからな」

「えっ!?」

 タヌは一瞬、耳を疑った。

「ヤツはしばらく動けない、と言った」

「そんな……」

「どこぞのガキが山の向こうに攫われて、てんやわんやになっていたからな」

 遠回しに自分のせいだと指摘され、タヌは落ち込んだ。DYRAやRAAZに迷惑を掛けたのみならず、それに加えてマイヨにまで、と。

「ISLAはお前を救出した時点でかなり消耗していた。マロッタで多少休んだものの、ギリギリの回復しかできていない」

 そんな綱渡りのような状態だったのか。タヌは、困惑にも似た感情を抱く。

「ISLAのことだ。ここから移動しても、本気になればお前を探すことくらい造作もない」

 聞いていたタヌは、最後のくだりだけ、RAAZの口調にどこか棘を感じた。

(マイヨさんが、DYRAを連れていなくなっちゃったからかな)

 マイヨとDYRAはどこへ消えたのか。タヌはとにかく気になった。が、それをRAAZへ聞くのは止めた。自分など比べものにならないほどDYRAの行方を案じている男なのだ。わかっているならとっくに追っているだろう。追っていないことが答えなのだ。事情もわからない自分が下手なことを言って彼を苛立たせても、良いことなど一つもない。

「それより」

 RAAZが話題を変えようと切り出した。その言葉に先ほどのような棘はない。タヌは喉まで出掛かっていた質問を口にしなくて良かったと思った。

「せっかくできた時間だ。こんなところで突っ立っていないで有効に使え」

 言われてみればその通りだ。DYRAもマイヨも無事なのだ。父親を捜すために、今自分ができることを少しでもやって、手掛かりの切れっ端でも見つける方がよほど生産的だ。

「は、はい」

 返事をしてみたものの、今「一人で」できることは何があるだろうか。タヌはマロッタからここまでのことを思い返した。マイヨがピルロ行きを希望したため、やろうと思いついたが手を着けていないことがあるではないか。確かめたいことが一つある。ただ、問題がないわけではない。またハーランが出現した場合、DYRAがいない現状、今度こそどうやって身を守れば良いかを考えておく必要がある。

「あ、あの。ボク、行きたいところはあるんです。けど……」

「けど?」

 RAAZが鋭い視線で見下ろしてくる。身長がRAAZの胸元あたりまでしかない故、タヌは上から睨まれているように感じる。

「あの、ここからだと遠くて、その! あの、馬車とか通ってないし、歩いたらどのくらい掛かるんだろうって……」

 移動手段も懸案事項だ。DYRAがいつだか残した財布をそのまま預かっているので、交通費くらいの持ち合わせはある。しかし、物理的に移動手段が存在するかは別の問題だ。

「なら、空の荷馬車に乗せてもらえ。マロッタへ行くものとペッレへ行くものがあるはずだ」

 RAAZの助言を聞いて、タヌは表情を和らげた。

「あ、そっか! ありがとうございます! 乗せてもらえるか、聞いてみます!」

 タヌは深々と頭を下げた。

「って……」

 頭を上げると、もうそこにRAAZの姿はなかった。代わりに、数枚の赤い花びらが舞っているだけだった。

 ピルロで自分を助けてくれた人たちへ挨拶をせずに去るのは申し訳ないと思う。だが、彼らも今は救助活動で自分の相手などしている場合ではないだろう。そして何より、時間を無駄にするわけにいかない。タヌは荷馬車が止まっている場所へ走った。

 跳ね橋の近くにある馬車留めに行くと、数台の荷馬車が慌ただしく出発準備しているところだった。タヌはそのうちの一台に駆け寄った。年老いた御者が乗り込もうとしていた。

「おじさん! 荷台で良いから、ペッレまで乗せてもらえませんか。お金なら……」

「あ? どうせ何も積んじゃいないんだ。構わんよ。カネもいらん。ただ、すぐ出るぞ?」

「ありがとうございます!」

 タヌは年老いた御者に礼を言うと、すぐに荷台に乗り込んだ。タヌが荷台の片隅に腰を下ろしたところで、荷馬車が走り出した。

 道中、タヌは時折、幌の隙間から外の様子を覗き見た。のどかな風景が見える。しかし、外の景色を楽しむ心の余裕はなかった。どこで誰の目があるかわからない。万が一、ハーランに見つかってしまえばただではすまないだろう。だから、DYRAが傍にいない今、少なくともペッレに着くまで、見つからないようにと意識する。

(乗ったは良いけれど……)

 揺られている間、タヌは言葉にできない、漠然とした重苦しい空気に押し潰されそうな気がしてならなかった。

(父さんは、どこにいるんだろう)

 恐怖に呑まれてはいけない。心にわき上がってくる根拠のない恐怖を一つずつ、振り解こうと、タヌはこれまでのこと、特に両親がいなくなる直前を思い返す。

(母さんがいなくなって、追うように父さんもいなくなった)

 その直前に何か変わったことはなかっただろうか。タヌは記憶の糸をたどる。

(そっか。もう四か月以上になっちゃうのか……)

 両親が姿を消したのは、暑い夏のある日だったはずだ。

(何だろう。あのときは……)


「ちょっと、お父さんの忘れ物届けて来るわ」


 母親は何事もなかったようにそう告げて、家を出た。

(あれは、すごい遠出をするって感じじゃなかった。あのときは父さんも家にいる時期で、出かけても村の人から頼まれごとがあるくらいだった)

 タヌの記憶が確かなら、その頃の父親は遠出をしておらず、水車の修理や、狩りで使う鉄砲の点検を頼まれたときに出かけたくらいだった。母親もまた、村の小麦畑の手入れを手伝ったり、集会の準備を手伝うために出かけたくらいで、夕方には戻っていた。

(村の人たちから見れば……)


 タヌの家族はもともとレアリ村にいたわけではなかった。聞いた話では、タヌが生まれてすぐの頃、村へ移り住んだのだという。

 村人は皆、農作業か狩りで生計を立てており、行商人へ作物や肉を売り、その他の必需品を買う生活を送っていた。両親は学者だったので、最初のうちこそ村の人々から不思議な目で見られたが、村で困ったことがあれば知恵や技術を惜しみなく提供することで信頼関係を醸成し、受け容れられていた。何より、村に子どもがタヌ一人だったこともあり、何かと親切にしてくれた。事実上、タヌの存在が両親と村の人たちを繋ぐ役になっていた。

 タヌの一家が引っ越してきたことで村では一つ、大きな変化があった。郵便馬車と行商人以外が村を訪れるようになったことだ。


(でも、村に錬金協会の人が来たことはなかったはずだし)

 DYRAなら、サルヴァトーレなら、マイヨならこんな状況をどう考えるだろう。タヌは記憶に浮かび上がったことを、自分なりに吟味する。

(けど……?)

 たまに来たその人物は確かに、錬金協会の人間だと名乗っていない。しかし、果たしてその理由で錬金協会の人間ではないと『断定』して良いのだろうか。

(名乗っていない、だから違う、は……)

 等しいわけではない。ここで決め付けることは、「赤くて丸いものは絶対に林檎である」と言い切るのと同じくらいまずいのではないか。

(そっか!)

 やはり、自分の家に戻って手掛かりがないかを今一度探さなければ。そして、これだけは自分でやらないとだめだ。タヌは、家に戻ると決めた判断は間違っていないと確信した。


改訂の上、再掲

160:【Pirlo】160:【Pirlo】DYRAもRAAZもいない。でも、できることはあるはずだ2025/07/02 00:49

160:【Pirlo】自分で動かないといけない!2023/02/07

160:【?????】見せられないもの 2020/08/17 20:00



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 体調を崩してしまうと今や熱中症なのか夏カゼなのかコロナウィルス罹患なのかわからず疑心暗鬼になってしまう、そんな日々ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 即売会イベント類がどんどん中止になっておりますが、現時点での参加予定は以下の通りです。


 8月29日(土) 第一回 紙本祭かみほんまつり(オンライン即売会)

 9月2日(水) 月燈マルシェ 第四夜(オンライン即売会)

 9月27日(日) 関西コミティア59


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。


 今回、DYRAはついにマイヨへ物語の核心の一角を担う質問をぶつけました。けれど、「証拠を示せない」という理由で答えられないマイヨ。自身の身の潔白を証明する話だというのに、何やら複雑な何かがあるようです。


 次回の更新ですが──。


 8月24日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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