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159:【Pirlo】RAAZはハーランの行方探しのついでに人助けもする

前回までの「DYRA」----------

 ピルロ乗っ取りという陰謀は白日の下に晒された。しかし、突然の山崩れが街の一部を襲った。ピルロを救ったマイヨは自身のナノマシンが枯渇し始めたところを、DYRAに助けられた。

 DYRAがマイヨを抱きかかえ、二人は青と黒の花びらを舞わせて共に姿を消した──。

「DYRAとマイヨさんが……」

「ISLAが活動限界に来たのか……!?」

「げ、限界?」

 姿を消した瞬間をRAAZと共に目撃したタヌは、DYRAとマイヨに何が起こったのか尋ねた。

「ガキ。来い」

 タヌの質問へ答えることなく、有無を言わせぬ口調でRAAZは告げた。

「はい。……あの、RAAZさん。何が起こったんですか?」

「不運だな。山崩れに巻き込まれるとはな」

 質問と答えが合っていない。タヌは、RAAZが今は答えるつもりがないのだと理解した。それにしても、街を焼き尽くされた上に山崩れが追い打ちとは。タヌは改めて、ピルロの受難に戦慄した。

 RAAZがピルロへの跳ね橋を渡り、街へと足を踏み入れる。タヌも走って後を追う。

(……ハーランはどうした?)

 RAAZが忌々しげに舌打ちする。ほどなくして、タヌの視界にピルロで生き残った人々の様子が……山崩れに巻き込まれた人を助けようと懸命に走り回る光景が飛び込んできた。

「街の人を助けないと!」

「必要ない」

 にべもない態度のRAAZに、タヌはなおも食い下がる。

「だって、あの土砂の下敷きになっている人がまだ……」

「ガキ。DYRAを傷つけようとした愚民など、捨て置け」

 RAAZの視点に立てばその言い分も正しい。それでも、タヌは同意できなかった。

「アントネッラさんのことがあるなら……あの人は、反省していた」

「遅い」

「それに、大半の街の人は何の関係もないし」

「山が崩れたのは……DYRAの意思だ」

 タヌは、吐き捨てるように言い切ったRAAZのこの一言こそ、先ほどの質問への答えでもあると気づいた。

「えっ」

 まさか。驚いたタヌは足を止めた。

「わかったか? ハーランと組んだこの街への報復は、DYRAが『自分の足を回復させる糧にする』形でなされた。……結果的にだがな」

 どういう意味なのか。タヌは信じられなかった。彼女が自分の意思で率先してそんなひどい仕返しをするとは思えないからだ。

「ガキ。聞いていなかったのか? 私は言ったぞ? 『DYRAは兵器だ』と」

 それは、フランチェスコでRAAZが言い放った言葉だった。タヌはすぐに思い出す。あのときは、いや、今でもその意味をまったく理解できない。DYRAは人間だから、槍や斧、剣などでもなければ飛び道具の類でもない。では一体どんな兵器だと言うのか。

「兵器って……」

「彼女は生きるために『他者の』命を奪うことを好まない。だから代わりにこの星の生命力を吸い上げる。お前たちにわかるように言うなら、彼女が自らの身体を癒やしたり、力を振るえば田畑や山河が枯れ、時に砂になる。故に、ラ・モルテと蔑まれる」

 この説明でタヌはようやく、RAAZがDYRAを兵器と称する所以を理解した。意図してそんなことができるなら、DYRAを傷だらけにしてお腹を空かせて敵陣の農村にでも放れば刃物も飛び道具も使わずに敵を滅ぼせるではないか。田畑や牧場を枯らせば食料がなくなる。木が枯れれば弓矢も家も作れない。そうなれば戦うどころではなくなってしまう。

「でも、それでも」

 タヌはどうしても、DYRAが自分の意思でやったくだりだけは受け容れられなかった。

「何故私があのとき、あの日込みで一五日を要求したか、これでわかったか?」

 タヌはこれまでのことを思い返すうち、DYRAが表にこそ出さないが、彼女なりにラ・モルテと蔑む世間の目や声を気にして思い悩んでいたのに違いないと痛感する。常々DYRAは、自らの振る舞いで世界を枯らさないよう気遣っていた。実際、ペッレでも、フランチェスコでも、ギリギリの折り合いをつけていた。ピルロで捕まったときは、さぞかしひどい目に遭っただろう。タヌは自らの配慮不足を反省した。彼女が優しい人だとわかっていたはずだった。しかし、わかっていたつもりに過ぎなかった。山の向こうでハーランと戦ったとき、彼女が自らの能力を存分に発揮できていれば──。タヌが攫われたことで、RAAZにまでとんでもない迷惑を掛けた。そしてDYRAは、タヌとRAAZを助けたところで力尽きた。

 すべて、自分を含めた周囲に対する彼女の気遣いを察知できなかった結果だ。

「ガキ。彼女はお前を助けたい一心でここに来た。そのためには当然、治癒を少しでも早める必要があった」

 ピルロの山崩れは間接的に自分が引き起こしたのかも知れない。タヌは罪悪感で押し潰されそうだった。どの面を下げて市民の救助を手伝えば良いのだ。それどころか、自分に手を貸す資格があるのか。見方によっては、放火犯が消火を手伝うくらいおかしな話だ。

「愚民を助ける暇があったら、親父を捜すためにやることがいくらでもあるんじゃないか? 幸い、まだ昼にもなっていないからな」

 タヌは返す言葉がなかった。確かに、自分のやるべきことは別にある。何があってもやりたいことなのだから、ここで優先順位を間違えてはいけない。今さらながら自分はそういう道を選んだのだと、うつむき掛けたときだった。

「ガキ。ここにいろ。私と共に街の連中に顔を見せれば、いらん恨みを買う。目につかないところに隠れていろ。ハーランが目の前に現れたときだけ、大声を上げて良い」

 RAAZの指示に、タヌは彼なりの気遣いを感じ取り、黙って立ち止まった。そして街の広場へと歩いて行くRAAZの後ろ姿をじっと見守った。


 子犬が吼える先で、無事だったパルミーロたちが四人がかりで、手で土砂を掘り、生き埋めになっていた人を救出していた。彼らは、山崩れが収まった時点ですぐに四人一組で救助作業に掛かり、すでに何人も助け出している。

「げふげふ!」

 手首が土の中から現れると、パルミーロが掴み、力一杯引っ張り上げる。すると、中年女性の顔や身体が出てきた。

「大丈夫か!?」

「うほっ! ごほっ!」

「アントネッラ様! この人を休ませて! あと、水を」

 パルミーロが声を掛けると、アントネッラが駆け寄り、助け出された中年女性に肩を貸した。

「さ、もう大丈夫ですよ」

「ア、アントネッラ様……」

 アントネッラが土砂まみれにならなかった場所へ女性をゆっくりとした足取りで連れて行こうとしたときだった。

「DYRAを傷つけようとした罪の報い、どんな気分だ?」

 突然聞こえてきた声に、アントネッラは顔を上げた。彼女だけではない。パルミーロを始めとする人々もだ。彼らの目が背の高い、銀髪の男を捉える。

 アントネッラは目の前の人物が誰かわかると、助け出した女性から離れることなく真っ直ぐ見つめ、しっかりとした声で言い切る。

「私を笑うなら、責めるなら、どうぞいくらでも。でも、街の人たちの作業の邪魔なら止めていただけないかしら?」

 アントネッラの様子を、彼女の周囲の人々が作業の手を止め、心配そうに見つめる。

「聞きたいことがあって来た。その死に損ないを助けたら、こちらへ来い。危害を加える気もないし、どこかへ連れて行くようなこともない」

「良いわ」

 アントネッラは即答すると、中年女性を離れた場所へ連れて行った。パルミーロたちが尊大な態度を隠しもしないRAAZを睨み付ける。ほどなく、アントネッラが戻ってきた。

「ご用件は、何?」

「質問に答えろ。ハーランは何故、この街に来た? いや、お前たちに何を約束した?」

 RAAZは救助活動をしている場からも、タヌが待っている場所とも違う方向へ歩きながら、問う。歩きながら、アントネッラも即答する。

「ハーラン? 『髭面』のことよね?」

「そうだ」

「さぁ。直接話したのはアレッポだもの。私が知っていることなんて」

「何でも良い、聞いたことをそのまま話せ」

「そう言われても、言えることが全然ないわ。最初に『髭面』と接触をしたときも対応したのはお兄様。そのときは、ハッキリ断っていたし。だから、街を乗っ取るためとか、お兄様も知らなかっただろうことを聞きたいなら。アレッポから聞くしかないわ。でも、さっきマイヨが……」

「何? マイヨが?」

「突き落としたから多分、土砂の下。それにもし、万に一つ、あなたが無事に助け出したとしても質問はできないと思った方が良いわ。街の人たちが黙っていない。アレッポに一言だって喋らせないわよ」

 嘘を言っている素振りは微塵もない。これ以上聞くのは時間の無駄だ。RAAZは納得したわけではないが、深追いを避けた。

「今は信じてやる。では……」

 RAAZがアントネッラへ救助作業をしている面々を退かすよう手振りだけで指図する。有無を言わせぬ表情での指示に、アントネッラが走って戻ると、パルミーロたちを跳ね橋のある方へいったん、退避させた。

「……ったく」

 救助作業をしていた人々が土砂まわりからいなくなったところで、RAAZは自らの左手をかざす。赤い花びらが左手の周囲を中心に木枯らしのように舞い上がり、やがて嵐のように広がっていく。RAAZが声を発し、左手を大きく水平に振った。

 土砂の積もった一角に赤い花びらまじりの小さな竜巻が起こると、土砂の一部を払った。すると、払われた土の下から子どもたちを含む数十人の人々が露わになった。幸い、子どもたちや若者は体力も気力も残っているらしく、咳き込みながらも立ち上がると、自力で脱出した。まだ息がある大人たちも助かろうと腕を上げたり背中を浮かせたりする。跳ね橋の方へ退避していた者たちがその様子に気づくと、救助のため一斉に走り出した。

 RAAZはしばらくの後、くるりと背を向け、来た方へと戻っていった。──アレッポが死体で上がったのを見届けたところで。


改訂の上、再掲

159:【Pirlo】RAAZはハーランの行方探しのついでに人助けもする2025/07/02 00:50

159:【Pirlo】ピルロ、災禍のあと2023/02/07

159:【?????】夢見る未来2020/08/10 20:00


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 オリンピックなんかなくて正解だったと断言できるけれど、コミケのない夏は寂しくて空しいですね。そんな日々ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 東京のコミティア133が中止になってしまいました。

 現時点では、


 8月16日(日) みちのくコミティア(委託)

 8月29日(土) 第一回 紙本祭かみほんまつり(オンライン即売会)


 こちらへ参加予定です。

 ご縁ございました折には是非よろしくお願いいたします。


 さて、新章に入るアレ「?????」が来ました! そして今回はマイヨがDYRAに色々話しております。

 やっぱりDYRA(とRAAZ)の不老不死は魔法なんかじゃなかった。けれど、マイヨはまだ謎が残っている。彼は一体……?

 そしてハーランですよ。何かこう、日陰者でこじらせた人は日向に出たいと。RAAZとハーラン、申し訳ないがどちらもマトモには見えません。

 そして読者様にとってはここでもまた、『トリプレッテ』って? となるわけです。


 次回の更新ですが──。


 8月17日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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