表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/330

157:【Speciale】マイヨ劇場に市民は歓喜するも、フィナーレは!?

前回までの「DYRA」----------

アントネッラを取り返すため、マイヨは市役所の人たちの協力を得て、彼女が監禁されている部屋へと忍び込んだ! ピルロを舞台にした陰謀は必ず止められるし、止める。マイヨは心に強く信じる。

 炊き出しで広場に集まっていた人々が皆、鐘の音を聞いて、市庁舎の方へ注目していた。ピルロが栄えていた頃に比べると集まった人々ははるかに少ない。すし詰めではなく、広場の半分くらいが埋まっている、と言った感じだ。

「おい! あれ見ろ!」

 市民の一人が指差す先は、火災を辛うじて免れた市庁舎の一角だった。無事だった二階の、雨除け屋根がついたバルコニーへ皆、反射的に視線をやる。そのとき、バルコニーに人影が三つ、現れた。

「アントネッラ様だ!」

「アレッポさんよ!」

 だが、視力が良い市民の一人が異変に気づくと、すぐさま声を上げる。

「どうしてアントネッラ様が縛られているんだ?」

「おい! 口にも首にも縄が巻かれているぞ!」

 その言葉を契機に、さざ波のように広がっていく動揺の声、声、声。

 ほどなくして──。

「皆!」

 アレッポの声が響いた。市民が注目すると同時に、場が静まりかえる。

「大変な中、皆、すまない。今日は大事なことを伝えるために、どうしても皆に集まってもらいたかった」

 大事なこと、その言葉に、一瞬前に静まりかえったはずの広場が再びざわついた。

「それは……ルカ市長のことだ!」

 火災騒ぎで死亡したと聞いていた市民たちは、アレッポの言葉に、どういうことだとばかりに耳を傾ける。

「皆が愛したルカ市長を殺した人間が誰か、真実を告げるときがきた!」

 ざわめきが一層大きくなる。

「私は怖かった。一年の間、真犯人に脅され続けてきた。私は、皆のために耐え忍んだ」

 再び、広場が静寂に包まれた。集まった人々の反応を確かめながら、アレッポが話を続ける。

「けれども、すべてを失ったピルロにもう恐れるものは何もない! 私たちが愛したルカ市長は、先日の火災で死去したのではない!」

 またしても広場にどよめきが広がっていく。

「ルカ市長は……私たちの愛する市長は……一年も前に、亡くなっていた!」

「どういうことだ!」

「何言っているんだ!?」

 市民たちの反発の声が広場に広がっていく。

「テキトーなこと言うな!!」

「お前が火事のどさくさにルカ様を殺したんじゃないのかー!?」

 市民たちが口々に不満の声をあげていった。その様子は、事情を知らない者が見れば、今まさに革命でも起こりそうな勢いだ。しかし、アレッポは構わず続ける。

「アントネッラ・ルキーナ・レンツィ、そう、この女だ! あろうことか、ルカ市長を亡き者にし、入れ替わっていた!」

 アレッポが自信を持って言い切ると、アントネッラを縛った縄をまるで犬の首輪に付けた紐の如く引いてバルコニーの一番前へ突き出した。このとき、広場は水を打ったように静まりかえった。

 そのときだった。

「嘘をつくなー! アントネッラ様がそんなことをするわけないだろーっ!!」

 叫んだのは広場の片隅にいた、ジャンニだった。周囲の市民たちに彼が何者か知っている者がそれなりにいるからか、ジャンニに注目が集まる。

「証拠もなければ、証人もいないくせにーっ!!」

 ジャンニが叫ぶと、市民たちは口々に「そうだ」「証拠を出せ」などと反発の声を上げていく。しかし、そんな様子をアレッポはニヤニヤしながら見つめ、やがて、自信に満ちあふれた声を上げる。

「証人? もちろんいるとも! その者はこの女の最も近くにいて、信頼を得ていた人物だ!」

 証人がいる。これを聞いた市民たちが固唾を呑んで見守る。アレッポが自身の後ろに位置する、バルコニーの大窓に掛かっているカーテンを開き、そこに隠れるように立っていた人物に出てくるよう合図した。

「おお」

 姿を見せたその人物を見たとき、市民たちは小さな声をあげた。しかし、人数が多いため、それなりの大きさに響く。

「おい……あれ」

「アントネッラ様のお側にいた小間使いじゃないか……」

 市民たちの動揺の呟きを聞きながら、アレッポが一層口角を上げる。

「この者が何者か、ピルロの住民なら、誰もが知っているはず! そうだ。近くで顛末を見届けていたからこそ恐れ、脅され、怯える日々を過ごしていた! 言葉を発することもなく」

 市民たちの間に流れていた空気が「言葉を発することもなく」の下りで、アレッポの言い分に納得しそうな流れに傾き始める。

「この人物から、すべての真相を聞こうではないか」

 アレッポが勝ち誇った表情で、メイド服姿の人物へ前に出るように手招きをした。

「周年祭の日の夜、ルカレッリとアントネッラは仮装で入れ替わっていた」

 メイド服姿の人物がアントネッラの隣に立つと同時に、凜とした声がバルコニーから響き渡った。アレッポは勝ち誇った表情で市民たちを見つめて聞いている。

「……そのとき、目障りだったアントネッラを殺そうと、アレッポがパーティーでの事故に見せかけて、割れたグラスの破片を武器にして刺したんだ!」

 その瞬間、すべての流れが変わった。

「え?」

「アレッポが刺した? アントネッラ様じゃなくて…?」

「どうなっているんだ?」

 集まり、聞いていた市民たちは大きな違和感を抱き、すぐにその正体に気づく。

「アイツ、しゃべってないぞ!」

「じゃ、話しているのは誰なんだ?」

「おい、アレッポの後ろ、見ろ!」

 市民たち以上に動揺する人物が一人、いた。

「おい! 何を言い出すんだ!?」

 アレッポがメイド服姿の人物に掴み掛かった。しかし、凜とした声は続く。

「ルカレッリ、いや、ルカ市長は妹を守るため、最期の最期まで『アントネッラとして』振る舞い、死んだんだ! そしてアレッポがその凶行を隠すために、彼女に男装を強いて、ルカ市長に仕立てていたんだ!」

 これまでになかったどよめきが市民たちの間に広がっていく。

「上だ! 上、上っ!」

 市民の中に混じっていたジャンニがバルコニーの雨除けを指す。

 雨除けの上にメイド服の人物──マイヨ──がいるのを市民たちが皆、見た。この人物は立ち上がるとすぐさま、バルコニーへ飛び降りる。

 一体何が起こるのだ。市民たちは固唾を飲んで、見守った。メイド服姿の人物がバルコニーに飛び込んだことで、同じ姿の人物が二人、アントネッラの傍らに立ったからだ。


「アレッポ! この嘘つき野郎めっ!」

 突然、バルコニーの奥から大声が響き渡った。少年のような声だった。市民たちはすぐに誰が登場したか理解し、歓声を上げた。

「あれ、パルミーロさんじゃないの!?」

「そうだ! パルミーロだ!」

 市民たちの反応にアレッポが狼狽を露わにし、部屋の方へ振り返ったときだった。白い子犬を抱えたパルミーロがベランダへ入ってきた。その間、マイヨはアントネッラの側に寄ると、鉄扇を使って口元や首、手首を縛っていた縄を手早く切った。

「お前が連れてきたそいつは真っ赤なニセモノだ! だから、何も話せない!」

 パルミーロがアレッポを見ながら言い切った。

「何だと! この木っ端役人の分際で! 私に逆らうのか!!」

 アレッポが声を荒げたときだった。

「アレッポ!」

 声を上げたのはアントネッラだった。

「どちらか本物で、どちらがニセモノか。あなたでもパルミーロでもない! そう、ビアンコが証明できるわ! 人間より、犬の方が本当のことがわかるものなのよ!」

 パルミーロが抱きかかえていた白い子犬をそっと放した。すると、アントネッラの傍らに立っている方の人物に向かい、猛然と吠える。その様子に市民たちは納得したと言いたげな声を上げ、対象的に、アレッポは狼狽を露わにした。

「真相は本物の小間使いが話した通りだ! ニセモノに襲われて髪を切られて貧民窟に追いやられていたところを見つけたんだ! アントネッラ様のお側にいたなら、犬がこんなに吠えるはずがないだろうが!」

 犬が伝えた真実に、ついに市民たちの感情が爆発した。

「小間使いのニセモノまで仕立ててアントネッラ様を!!」

 市民たちの怒声を聞きながら、犬が吠え続けている方のメイド服姿の人物をパルミーロが取り押さえ、部屋の奥に蹴飛ばした。

 アントネッラが視線でマイヨへ謝意を示すと、すぐさま集まった市民たちの方を見る。

「ピルロの皆さん! 街が廃墟同然になって、ただでさえ不安な日々だというのに、心配を、いえ、ご迷惑をお掛けしてその挙げ句、こんな見苦しいところをお見せして、本当に、本当にごめんなさい!」

 アントネッラが下に集まっている市民たちに向かい、頭を深々と下げて騒ぎを謝罪した。このとき、マイヨは彼女と背中合わせに立ってアレッポを牽制する。

「パルミーロ! アレッポを!」

 マイヨが指示したときだった。

「アントネッラーッ」

 アレッポが呪詛の声を上げ、懐から隠し持っていたピストルを取り出すと、銃口を向けた。何が起きたかわかった市民たちが悲鳴にも似た声を上げる中、銃声が鳴り響いた。

「……なっ」

「ア、ア、アントネッラ様ーっ!」

 アントネッラの楯となるように、鉄扇を広げたマイヨが立っていた。広げた鉄扇の一か所に、銃弾が命中した跡が残っている。

「……スペクトラとCNT(カーボンナノチューブ)でできているのよ、この扇子。アンタらの文明のピストルくらいなら、負けないんだな」

 言いながら、マイヨが空いている方の手でヘッドドレスとかつらを外した。

「アントネッラ様を撃ったんだ!」

「アレッポを許すなーっ!」

 市民たちが口々に叫びながら一斉に敷地内へと雪崩れ込むと、市庁舎の焼け残った建物に向かって突撃した。

「気の小さいアンタが、どうしてそんな大それたことするかな」

 マイヨは鉄扇で、ピストルを握るアレッポの手を叩いた。ピストルが落ちる。すかさずパルミーロがアレッポを取り押さえた。

「アンタ、せっかくの人様が書いた筋書き通りにやらないで、くだらない保身を優先したからこうなったんだ。優しい市長は御しやすいから好きだった、違う?」

「ひ、人聞きの悪いことを……!」

「で、ハーランはどこだ?」

 アレッポが知るかとでも言いたげな表情でマイヨを睨む。

「ハーランはどこだっ!?」

 今度は声を荒げて尋ねた。そのときだった。

「ん?……何だ?」

 突然、地鳴りのような音が遠くの方から聞こえてきた。

「何だ!?」

「近いぞ! 山の方だ!」

 叫んだのは、パルミーロだった。


「な、何だ!? 山崩れ!?」

 ピルロのただならぬ様子に、RAAZと共にネスタ山を下りていたDYRAは、この頃、ようやく麓までたどり着いたところだった。しかし、ピルロのすぐ外側の川沿いまで来たところで突然、地面が滑り出した。RAAZがとっさに支え、横抱きして向こう岸へ逃げたことで事なきを得た。二人の周囲には、赤と青の花びらが舞っている。

「あの山の中腹は、考え無しに掘った奴らのせいで、何が起こってもおかしくなかった。そこへキミがちょっと脚の回復をしてくれたら崩れた。それだけのことだ」

 DYRAは、下山時に自分が回復を試みたからこんなことになったのかと激しく動揺する。

 RAAZがさらに続ける。

「DYRA! ガキを回収したら長居は無用だ」

「なっ……! 街の人間はっ!」

 DYRAはここでようやく、タヌ以外に気を回すなと言ったRAAZの真意を理解した。

(理由はともかく、ハーランがここにいるなり来るなり、最初からわかっていたのか!? わかっていてタヌを巻き込んだのか! マイヨッ!)

 DYRAは川の向こう岸に目をやる。地鳴りが響く中、地滑りを起こした山が崩れ、街の一部を呑み込んでいく様子が見えた。

「DYRA! 砂埃で目をやられるぞ! 閉じてろ!」

 このときRAAZは視界のはるか先で、遠目にではあるもののハッキリと見た。小柄な人影が橋を渡ってこちら側の岸にたどり着き、森の方へ走っていく様子を。

 やがて──。

 恐ろしい地鳴りが止んだとき、周囲の風景は激変していた。冬が迫りつつあることを告げていた伽羅色が混じった枯茶色の山肌は刮げ落ちていた。そして、砂色の乾いた土砂は、濁り、くすんでしまったピルロを容赦なく覆った──。

「RAAZ。下ろしてくれ」

 まだ距離はあるものの、ピルロへ繋がる跳ね橋がハッキリと見えるあたりでDYRAはRAAZに声を掛けた。二人とも土煙を被ったせいで、若干埃っぽくなっている。

「どうした?」

 RAAZが足を止め、DYRAを下ろす。二人はそれぞれ互いから一ないし二歩離れると、服や髪についた埃を手で何度も叩いて払った。

「やはり街の様子が気になる」

「ガキなら心配するな。さっき見えた。無事に逃げている」

「マイヨは一緒か?」

「いや、今、見えたのはガキだけだ」

「タヌは今、一人なのか!」

「『今、見えたのは』と言っただろう? ISLAはキミが心配するような雑魚じゃない」

 それでもDYRAは、タヌだけが助かって彼を助けたマイヨを見捨てて良いなどとはとても思えなかった。

「もし『街へ行く』とか言うなら、私が行く。キミはガキを……」

 RAAZの言葉をDYRAが遮る。

「いや。万が一ハーランがタヌを追うようなことになれば……」

 DYRAは、RAAZへタヌの保護を頼んだ。今の自分がタヌを連れた状態でハーランと遭遇した場合、守りながら戦い通せるか確信を持てないからだった。

「脚は治ってまだ間もないぞ? 見る以外は何もしてくれるな。まして救助活動なんざ加わるなよ? ガキを回収したら跳ね橋のこちら側まですぐに行く。そこで合流だ。良いな?」

 RAAZからの指示と念押しに、DYRAは納得したわけではない。それでも、脚についての指摘は紛れもない事実だ。何一つ反論できないDYRAは頷くしかなかった。

 DYRAとRAAZは二手にわかれた。RAAZがすぐに走り出すと、跳ね橋ではなく、そのまま森へと入った。DYRAは少しの間、跳ね橋を見つめる。

(マイヨ……)

 タヌの近くにいたなら、跳ね橋を渡ってこちらに来てくれ。DYRAは祈るような気持ちを抱いて、橋へと走り出した。

 橋へ近づくにつれ、金属が擦れるような音がDYRAの耳に入った。

(あれは!)

 橋の向こう側に二人の人物がいる。一人は双剣を手に、一人は丸腰に見える。DYRAは誰か確かめるべく、走り出した。


157:【Speciale】マイヨ劇場に市民は歓喜するも、フィナーレは!?2025/07/01 10:13

157:【Speciale】災いの名は、花色の死神2020/07/27 20:00



-----

 気がつけばけったいなGOTOキャンペーンをやりながら新型コロナウィルスの感染再拡大絶賛ヤバイ状態。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 9月の東京でのコミティア133、そして関西コミティア59、共に当選というか、参加できることに相成りました。体調と世情と相談した上での参加となりますが、よろしくお願い致します。


 今回がピルロ再訪編フィナーレ。何気ないセリフに、結構「あ」ってなりそうなアレがあったりコレがあったりします。


 次回の更新ですが──。


 8月10日(月)予定です! 新章に突入します!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ