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155:【Pirlo】DYRAとRAAZはピルロ入り! そして三人は今後を決める

前回までの「DYRA」----------

アントネッラが拉致された件を市役所の人から聞いて激しく動揺するタヌ。マイヨも入れて対応策を話し合う。そんな中、マイヨはタヌへ、自身がピルロへ行きたいと言った本当の理由にタヌの父親が絡んでいることをほのめかす。


「ここは、どこだ? 見たことがあるような……ないような」

 DYRAはあたりを見ながら困惑していた。星明かりの下、僅かながらも周囲の風景が見える。山の中、それもDYRAがピルロ滞在時、襲撃にあった現場だった。

「ギリギリまで寝ていろ。ガキを助ける気なら、最後まで回復に専念しろ」

 RAAZがすぐ側で、慣れた手つきで天幕らしきものを張る。

「お前が持ってきたその三角のは何だ? それに、いつの間にここに?」

「時間を有効利用しただけだ。寝ている間に目的地に着く。ラクでいいだろう?」

 部屋でRAAZから忠告とも指示とも取れる話を聞いたあと、DYRAは立ちっぱなしがまだ負担になるのか、疲れて座りこみ、そのまま眠ってしまった。そして、今、目が覚めたらこの場所。一体いつ、どうやって移動したのか。DYRAは気になった。が、RAAZはさらりとはぐらかす。

 RAAZが四角錐の幕を張り終えたところで、DYRAに中へ入るように指示した。三人くらいまでなら入れそうな大きさだ。

 DYRAは四角錐の一角で開閉部から首を突っ込んで中を見た。寝袋が置かれている場所の周囲にも幕が敷かれており、服が汚れる心配はなさそうだ。DYRAは中へ入ってから、寝袋を寝袋と気づくことなく床へ広げると、それをマットレスか何かの代わりにするようにして身体を横にした。

 ほどなく眠ったDYRAの様子を、RAAZが苦笑しながら見つめる。

(相変わらず……無防備にも程があるだろうが。まったく)

 RAAZは上着を脱いで、眠るDYRAの肩から下を覆うようにそっと掛ける。

(さて)

 RAAZは四角錐の幕から再び外に出ると、あたりを見回す。空はラピスラズリ色からアイオライト色に変わり始めていた。もうすぐ、ダイヤモンドの輝きが広がっていくに違いない。

(ISLAの動向も気になるが、錬金協会の奴らがバタつき始めた。何もないわけがない)

 錬金協会の動向など、自分の手の者がいくらでもいる以上、情報は直接、間接を問わず入ってくる。副会長とISLAが接触した頃からバタついている。それだけでもう『お察し』と言ったところだ。ディミトリを取り込み、目と耳になってもらっていることも幸いした。

(さて。ISLAから厳しい忠告を喰らったようだが、どう出るかな?)

 RAAZはここで、小馬鹿にしたような表情を一転、厳しいそれへと変えた。

(DYRA。キミの力を使って一つ、どうしてもやってもらいたいことがある。今のキミしかできない。代わりに、ガキを当面こちらからは処分しない。……ガキの手に『鍵』がある限り)

 夜明け前の僅かな時間でも、取れる情報は少しでも収集したい。フルアナログな世界そのものと言うべきこの文明下で、デジタルでの情報収集には限界がある。DYRAが寝ている間、少しでも今何が起こっているのか探ろうとRAAZは決めた。

(ロゼッタはどこにいる? それにガキとISLAだ)

 RAAZは四角錐の幕の外に置いた、持ってきた麻袋の入れ口の紐を解いた。そして中から透明のガラス板らしきものを取り出すと、電源を入れた。

(こういうものを表で使えば痕跡をハーランに気付かれるリスクがある。だが、それでも今は時間が惜しい!)

 端末を手にしたRAAZは身を屈めると、四角錐の端を地面に刺した杭の一つに触れる。すると四角錐の幕が周囲の景色に溶け込み、見えなくなった。幕にメタマテリアル素材を使っていたのだ。

(これで、一、二時間程度なら稼げる。それに、ハーランはここにはもう用無しのはずだ)

 RAAZは立ち上がると、四角錐の幕から数歩離れ、ピルロの街が見える山の麓の方へと歩き出す。途中、その身の周囲に赤い花びらを舞わせ、姿を消した。


 アイオライト色の空が少しずつ明るくなり始めた頃、RAAZは夜明け前のピルロへ入った。

(ISLAとロゼッタはどこにいる?)

 廃墟と化した区画の、瓦礫の山の一角に隠れてそこから様子を窺う。

(ここに来て、禁じ手を使わなければならないとはな)

 自分たちが本来属していた文明の利器を使えば、捜すのは格段に容易だ。手法は『人捜し屋』なる怪しげな商売をして資金を捻出していたハーランたちがやったそれ──人工衛星を使って捜す──と同じだ。ここまで来た理由は単純で、山中で衛星を使って捜しているのをハーランに見つかろうものなら、DYRAを発見されるリスクが上がってしまうからだ。

 RAAZは、ガラス板を慣れた手つきで操作し、映像を映し出す。万が一、周囲に人がいないとも限らないので、画面のバックライトを弱くした。

(ロゼッタが近くにいる、だと? すぐ近く?)

 画面が示す結果が何を意味するのか考えながら、RAAZはすぐに電源を落とした。そしてもう一度、あたりを見回す。ほどなく、少し離れた場所に人影が微かに見えた。足音も聞こえてくる。

(ん?)

 音からして一人だろう。ロゼッタだろうか。そう思いながらRAAZが耳を澄ましていたとき、別の方向からも足音が聞こえ始める。

(一人? いや、違う)

 やがて。

 小さいながら、男の声がRAAZの耳に入ってくる。

「……あとはサルヴァトーレか」

 聞いた瞬間、RAAZは我が耳を疑った。何故ここでその名が聞こえてくるのか。RAAZはさらに耳を傾ける。

「……お前の兄さん、どこほっついているんだ? まさか捕まったりとかしちゃいないだろうな」

「……すぐ来ます」

(ガキじゃないか。何が起こっている!?)

 状況がまったく呑めないRAAZは、もう少し近づいて話を聞こうと、忍び足ながらも速めに別の瓦礫の陰へと移動した。

 移動した先のそばの、別の瓦礫の陰にロゼッタが隠れている様子がRAAZの視界に入った。彼女の視線が何を捉えているのか知ろうと、同じ方向をRAAZも見る。

(ロゼッタは仕事をしている、と。さすがだな。だが……)

 RAAZはいったんロゼッタをこの地から脱出させたいと考えた。ISLAが向かい、さらにマロッタでの副会長とディミトリのやりとりからも、ハーランがピルロにいる確率が高い。これがわかったからこそ、DYRAが完治していない状況でも、後手に回ることを回避する方を選んだのだ。替えのきかない戦力たるロゼッタをここで巻き込むのは本意ではない。

(それにしても)

 ISLAは一体どこにいるのか。そんなことを思ったときだった。

 一瞬、ふわりと風が背中を撫でる。ロゼッタも同じものを察知したのか、反射的に振り返っていた。

「あれまぁ。お揃いで」

 RAAZのいた場所の後ろ、少し離れた瓦礫の陰で、黒い花びらを舞わせながら見覚えのある人物が姿を見せる。続いて、ロゼッタと目が合う。

「会長!」

 ロゼッタが声を出さず、口を動かした。RAAZはすぐさま自身の口元に人差し指をやり、静粛を求めた。続いて、ISLAを見る。

「話は後だ」

 マイヨが囁くような小声で告げると、何食わぬ顔でタヌたちの声が聞こえた方へと歩いて行った。RAAZはロゼッタと共に様子を見ることにした。

「……サルヴァトーレ。一体どこ行っていたんだ?」

 聞こえてきた男の声に、RAAZは面喰らった。どうしてお前がその名前を名乗っているのだ、などと思いながら続きを待つ。

「……パルミーロ、遅れて済まない。ちょっと用足ししていた」

「……それより、アントネッラ様だ」

 タヌとISLAの他に二人、男がいる。恐らく、ピルロの人間だろう。RAAZは彼らの様子を注意深く見つめる。

「……実は俺たち、お助けしようと夜、屋敷の部屋へ忍び込んだんだ。そうしたら、アレッポとお前のニセモノ野郎がいやがった。それに昨日お前を脅迫した『髭面の男』もだ」

「……何て無茶をしたんだ。彼女に危害が及んだらどうする?」

「……ああ、軽率だった。そう言えばお前に『髭面の男』が何か要求していたが、それを渡せばアントネッラ様は助かるのか?」

 RAAZの目に、ISLAが首を横に振る様子が見える。

「……あの男、君たちの言う『髭面の男』の性格上、助けるとは思えない」

「……あの『髭面』を知っているのか?」

「……ああ。そうだ。良い機会だから言っておく。『髭面』のことは俺に預けてくれ。君たちが挑んで勝てる相手じゃない。それから、彼女を助ける手立てだ。打つ手はある。タイミングがちょっと際どくなりそうな予感しかしないけど」

「……確実にお助けできるなら、ギリギリすぎなきゃギリギリでもいい」

「……何だそれ。ともかく、助けるにあたって、頼みがある」

 ここから集まった男たちが顔を寄せて話し始めたため、RAAZの耳に会話が届かない。あとでまとめて聞こうなどと思いながら、時折、ロゼッタの方をちらりと見る。彼女は扱いに困るとでも言いたげな表情をしていた。互いにもう一度、視線をタヌたちがいる方へ戻す。

「……よっしゃ。俺たちは早速、様子を見に行ってくる。八時に報告を兼ねてもう一度、ここで」

「……わかった」

 散会になったのか、RAAZが面識を持っていない、パルミーロとジャンニがその場から広場の方へと歩いて行くのが見えた。

 男二人が完全に視界から消えたところで、RAAZは瓦礫の陰から姿を見せた。その髪は銀髪から煉瓦色に、銀色の瞳もルビー色のそれに変わっていた。ロゼッタも続く。

「おいおい。名を騙るとはどういうことだ?」

「え!」

 突然聞こえた声に、タヌは振り向くなり、目を丸くした。

「サ、サルヴァトーレさん!?」

「やぁ。タヌ君。話し声が聞こえちゃったから、もしかして、って思って」

 一瞬前までRAAZだった男の変わりように、マイヨの表情が僅かな間とは言え、仏頂面とも半目で睨むとも取れるそれになったが、タヌは気づかなかった。

「色々事情があってね。話せば長くなる。結論だけ言うと、今の時点で『俺』がいることを察知されたくなかった。それと、敵か味方かわからない奴に名前を言いたくなかった」

 マイヨが小さく肩を竦めると、サルヴァトーレが呆れてものも言えないとばかりの顔をした。

「あの。っていうか、どうしてサルヴァトーレさん」

 置かれている状況があまりにも厳しいからか、タヌは再会を喜べなかった。

「自分も話せば長くなっちゃうから、結論だけ。ちょっと錬金協会の人たちが面白そうなことを言っていてさ。ロゼッタからも手紙が来たから、気になって来ちゃったんだよ」

「サルヴァトーレさん、あの……」

 タヌが言いにくそうに切り出す。

「あの、DYRAは、大丈夫なんですか?」

「シニョーラは大丈夫。安心して」

 サルヴァトーレが笑顔になったのは、この一言を答えたときだけだった。

「で、顛末を聞かせてくれないかな。何があったのやら」

「実は」

 タヌは話し始めようとしたが、できなかった。

「ここは場所が悪い。川向こうで」

 六時が過ぎたことを告げる懐中時計を見ながらそう告げたのは、マイヨだった。




 四人はいったん、ピルロの外へ出た。橋を渡って反対側の川岸へ移動した。馬車が通る道の両脇に広がる森へと足を踏み入れた。少し入ったところで、高い木もなく適度に光が入る、話すにちょうど良い場所を見つけると、タヌとマイヨ、それにサルヴァトーレはそこで話を始めた。ロゼッタは近づく者がいないか、川辺を中心に周囲を見回っている。

「ビックリするかも知れないけれど、実はボク」

 タヌは、クリストと再会したことをできる限り時系列で、かつ起こった事実だけを話していった。マイヨとサルヴァトーレはそれぞれ傾聴しているが、特に何かを言う風ではなかった。

「ボク、クリストのことでサルヴァトーレさんに聞きたいことがたくさんあるけど、アントネッラさんのことがあるし、今、急いで聞くことじゃないと思っています」

「タヌ君にそう言ってもらえると助かるよ」

 とってつけたようなサルヴァトーレの言い方に引っ掛かることはいくつもある。それでもタヌは「はい」と返事をするに留めた。

「それよりさっきの話。『アントネッラ様を助ける』って? どういうことかな? しかも、彼女と引き替えに『髭面の男』とやらに何か要求されたってくだり」

 サルヴァトーレが含むものがあるのを隠しもしない表情でマイヨを見ている。タヌはその表情を見つめるうち、腑に落ちた。かつてメレトで同じ表情を見たことがあった。あのときは、サルヴァトーレとは思えないと内心困惑した。だが、今ならわかる。これは、RAAZの表情ではないか、と。話し方はともかく、振る舞いはRAAZのそれだ、と。

「どうしてそういう流れになったのか俺にも良くわからない」

 マイヨはここで一度肩を竦めてから、話を続ける。

「『髭面の男』に市長の双子ちゃんが捕まった。現時点で彼女はピルロにとって、再興のシンボルアイコンだ」

 マイヨの言葉がタヌの心に引っ掛かる。言葉がというより、言い方が、というべきか。何となく他人事のような響きを感じずにはいられない。

「そのへんの事情はさておき、彼女を助けるためのタイムリミットは昼だ」

「で、その髭面サンは何を要求したって?」

 タヌはここで、サルヴァトーレとマイヨが自分に気遣って、話したいことを何一つも話せていないのではと推し量る。

「すみません。あの、ボク、ロゼッタさんの様子見に行って良いですか?」

「タヌ君。そうしたら悪いけど、これを渡しておいて欲しいんだ」

 サルヴァトーレが言いながら、ポケットから何かを取り出すと、タヌへ手渡す。小指くらいの大きさの、小さな蓋が付いた筒状の容器だった。タヌは受け取ると、ポケットに入れて、「じゃ、行ってきます」と告げて、川の方へ走った。


 タヌがいなくなり、長身の男二人だけになったときだった。

「一体、何がどうなっている」

 煉瓦色の髪とルビー色の瞳が銀髪と銀眼へ変貌し、サルヴァトーレが本来の姿へと戻りながら改めて尋ねる。

「ピルロへ着いたら、ハーランが先に来ていた。何をしに来たかはわからない。だが、『トリプレッテ』絡みが目的なのは間違いない」

「そうじゃない。どうしてあのアントネッラとかいう小娘絡みでお前が脅される? あの小娘と何かあったのか?」

 RAAZの問いにマイヨは首を横に振る。

「いや。ハーランは俺を脅しに来たとき俺がここにいることについて、『ヤマを張って』いたとか言った。どうせ、人工衛星で俺をストーキングしたか、六つ目のオオカミさんから聞いたか、錬金協会の手の誰かさんから漏れたか、どれかだろうよ」

「オオカミから? 遭った、いや、放っていたのか」

「ああ。三頭ばかり。可哀想に、パオロとかいうところの人間は皆殺しだ」

 マイヨの言葉を聞くと、RAAZは腕を組んで考え込む仕草をする。

「RAAZ。ハーランは俺に、『トリプレッテ』の『鍵』とDYRAを要求してきた」

「ISLA。悪いがハーランがお前に要求して何の意味がある?」

 RAAZは取り立てて気にも留めない。

「ま、ハーランは所詮、イヌでしかなかった奴だ。使う頭など持っていない、か」

「RAAZ。ハーランがバカかどうかを論じるのは無意味だ。ともかく、現に要求してきた。今日の昼までに差し出さないなら、アントネッラとタヌ君を殺すそうだ」

「で、お前はどうするんだ?」

「いや、どうするも何も、俺にどうしろと?」

「では放っておけ。まさか、愚民共のために『DYRAを人身御供にするつもりだった』とか言うなよ?」

「それはない。けど、ハーランは『トリプレッテ』を探している。ピルロが繋がる何かを持っているなら、ことはそう単純じゃない」

 マイヨが反論しようとしたが、RAAZは意にも介さない。

「簡単な解決方法があるさ」

「何? 俺の都合は全無視?」

「何を無視した? ハーランを潰すことが優先、だろうが?」

「『ハーランを潰すことが優先』なのは同意だ。けど、そのためにピルロの犠牲を顧みないなら、本末転倒だろうが?」

「おいおい。愚民共に気を遣うとか言い出すなよ?」

 RAAZはマイヨを睨み付ける。だが、マイヨもRAAZの視線を正面から受け止めつつ、厳しい視線をぶつける。

「肩を持つつもりはない。けど、ハーランを責任もって処分するためでも、この文明へ『無用な被害』という名の干渉をして良い道理もないだろう?」

「あの街に限って言えば、ハーランに与した。それだけで滅びても問題ない充分な理由だと思うが? それにあの小娘は」

「逆だ」

 マイヨが静かに首を横に振った。

「彼女こそ、『文明の遺産』を弄べばどれほどの災いが降り掛かるか、その身に恐怖を刻み込まれた。錬金協会のあのジイサンあたりと比べても、よっぽど生き証人として残す価値がある。あの街も、『恐怖を知った街』として」

 RAAZはマイヨの意見を一蹴する。

「私の可愛いDYRAを傷つけた愚民共に情けを掛ける必要はない。特に、あの小娘は」

「俺はもともとこの文明の連中が何をしようがどうなろうが、興味なかった。けれど、見れば見るほど、俺たちに振り回されてなお、必死になって生きようとする人たちを、ほんの少しだけど見直した」

「絆された、と? お前ほどの奴が?」

「違うな」

 話すことはもうないし、この件で話し合う余地はない。RAAZはそう判断する。しかしその考えを抱いたのは、彼だけではなかった。

「俺はアンタの復讐を邪魔するつもりはない。ハーランが敵なのも俺たちの共通項だ。けど、ピルロの処遇については相容れなかった、か」

「ああ。見解の相違が埋まらないとわかった。それが収穫だ。この街に今少しいるなら『ガキを責任持って守れ』と言いたいが、今のお前には無理な注文か。仕方が無い。ガキにはお前がやろうとしていることを特等席で見物させてやる、か」

 言い終えたところで、RAAZの髪が銀色から煉瓦色へ、銀眼もルビー色の瞳へと変わっていく。サルヴァトーレへと姿を変え、RAAZは川の方へと歩いて行った。

「じゃ、自分はこれで。それじゃ、またね」

 と言い残して。

 そのままサルヴァトーレの姿で森を歩いて行き、川の近くまで出る。そこにはタヌの姿があった。

「サルヴァトーレさん」

「タヌ君。気を遣わせちゃったかな。ごめんね」

「頼まれたものはロゼッタさんへ渡しました。『次の仕事があるから』って本当に、今さっき」

「自分から彼女への頼みごとが増えちゃって。別の街へお遣いを頼むことになってね」

「あと、あの。サルヴァトーレさん」

「ん?」

 タヌはサルヴァトーレの前に立つと、ぺこりと頭を下げた。

「その、ありがとうございます! ボク、ロゼッタさんに助けて貰って」

 タヌが謝意を伝えると、サルヴァトーレはタヌの肩に軽く手を置いた。

「大丈夫。そうだ。タヌ君。大事なことを言わないと」

 サルヴァトーレは少しだけ腰を落としてタヌと目線の高さを近づける。

「あのお兄さん、これから大立ち回りを演じるみたいだし、街に入らない方が良い。聞いたけど、タヌ君を攫った髭面のおじさんもいるって言うじゃない?」

「は、はい」

「どうしても街に入るなら、安全な場所、入口の近くだけだよ。それと騒ぎが始まったらすぐにここへ逃げ込むんだ。良いね? 巻き込まれてケガでもしたら割に合わないから」

 優しく諭すように告げるサルヴァトーレだが、タヌは内容について納得できないと思う。それでも、それを言葉にしてはいけないことも同じくらいわかっていた。どう答えるべきか考えようとしたところへ、サルヴァトーレがさらに畳みかけるように告げる。

「タヌ君は、お父さんを捜す。シニョーラと一緒に。そうでしょ? シニョーラもそれで脚を早く治そうと頑張ったんだよ」

「……わかりました」

 タヌが頷いたのを見ると、サルヴァトーレは「それじゃ」と言ってその場を去った。


 山の中腹へトレッキングでもするような感覚で歩いて戻ったRAAZの前に、DYRAが立っていた。彼女の手には赤い外套。周囲に四角錐の幕はどこにもない。

「起きていたのか」

「ああ。起きたらお前がいなかったから、見よう見まねで幕を畳んでおいた。奇妙な布でできた幕だな」

 DYRAの言葉に、RAAZは「ああ」と答えた。

「肝心なことがわかった。ハーランが近くにいる」

「なっ……」

 DYRAは一瞬、返す言葉を失った。

「ハーランがガキのいるあの街で面倒を起こしに来たそうだ」

「マイヨがいるんじゃないのか?」

「ああ。だが、今はアントネッラとかいうキミをバラそうとした小娘に熱を上げている」

 RAAZの言葉を聞いて、DYRAは何度か目をぱちくりさせる。

「何だそれは。どういうことだ」

「細かい説明は後だ。ガキにはあらかじめ逃げる場所を伝えてある。何でも昼頃、ISLAが騒ぎを起こす予定だ。今から動けばゆっくり下りても充分間に合う」

 RAAZはここで、証拠隠滅とばかりに持ち込んだ幕に火を点けて燃やしてしまった。燃え尽きて灰になるまでにそれなりの時間が掛かった。空はややくすんだ色ながらも、すっかり明るくなっており、麓の街の景色はもちろん、街の中心部にある時計台の文字盤までぼんやり程度ながらも見えるほどだ。

「おい。RAAZ」

「どうした?」

「あれを」

 言いながら、DYRAは山の麓を指差した。示した先はピルロの街並みだった。遠目からでも人が集まっているのがわかる。そして、静かとはほど遠い雰囲気であることも。

「様子がおかしくないか?」

 RAAZも目を凝らす。

「そうだな。私の目には、ISLAの大立ち回りが前倒しになったとしか見えない」

「RAAZ。私が街の様子を見に行く。ハーランがいて、タヌに手を伸ばしてきたら今の私一人では……」

「だから私にガキを守れと?」

 RAAZがクスッと、心底から嬉しそうな笑みを漏らす。

「素直なキミから頼まれたら、嫌とは言えないな。では代わりに脚を早く何とかしろ」

「山が枯れる」

「どうせ誰もいない山だ。気にするな」

 DYRAは異様な街並みを見たときから何となく嫌な予感を抱いていた。今はただ、タヌがあの中にいないことを、巻き込まれていないようにと願った。


155:【Pirlo】DYRAとRAAZはピルロ入り! そして三人は今後を決める2025/07/01 10:02

155:【Pirlo】起死回生の道の先に(3)2020/07/13 20:00



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 500年に一度の惑星直列×水星逆行、全国各地の豪雨災害、色々大変な情勢ではございますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 麗しいイラストでDYRAワールドを表現して下さる、みけちくわさんがYouTubeとニコニコ動画でチャンネルを開設をいたしました。

 DYRAイラストのメイキング動画が紹介されておりますので、この機会に是非ご覧いただければと思います! どうぞよろしくお願いいたします。

 っていうか、絶対チャンネル登録してね!


 今回のエピソードを以て、マイヨの立ち位置が明確になりました。敵か味方かわからないし、そもそも何をしたいのかもわからなかったマイヨ。それがついに、です! 彼なりにつぶさに観察を続けた結果とでもいうべきでしょう。

 次回ラストシーンあたりでDYRA、RAAZも登場、物語に戻ってきます。そしてアントネッラの話もクライマックスってことですね。


 次回の更新ですが──。


 7月20日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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