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152:【Pirlo】「誰かの絶望は、別の誰かの希望」マイヨは人間の残酷さを良く知っている

前回までの「DYRA」----------

クリストから「逃げた」タヌは、これからどうしたものかとあちこち見て回っているうち、市役所のパルミーロと出会う。

 パルミーロたちと別れたマイヨは、意外な人物との再会を果たしていた。

「錬金協会のお兄さんに、こんなところで会えるなんて」

 マイヨの台詞は棒読み調で、社交辞令を隠そうともしない。そこに立っていたのがディミトリだったからだ。

「な、何だよっ。お前もいたのか!」

「君さぁ、救援物資のお届けか何かで来ているのかな?」

「ま、まぁ、まぁそうだな」

 ディミトリが言った矢先、マイヨはさっさと彼の隣に立つ。

「お、おいっ。こんな暗いところで話すんじゃなくて、もっとどっかねぇのかよ?」

 何を言われるか、されるのかわからないと思ったのか、ディミトリが話の主導権を取り戻さんばかりの口調で告げた。

 二人は結局、ピルロの入口、跳ね橋に近い、馬車が集められている場繋場へと移動した。理由はもちろん、錬金協会からの救援物資を運んできた荷馬車が何台か停まっており、そこに食料と水、それにランタンなどもあるからだ。

 幸い、跳ね橋のあたりや荷馬車の周囲には、御者を始め、人の気配がなかった。

「来いよ」

 ディミトリが荷馬車の一台の荷台を指差したのを見たマイヨは、「じゃ、遠慮無く」と言って、荷台へ上がった。火を灯したランタンを真ん中に置き、向かい合うように二人が座る。

「何だよ。いきなり声掛けやがって。ええと、マイヨ、だったよな」

「お兄さん、ディミトリ、だよね」

「いきなり声を掛けてきて、ビックリしたじゃねぇか」

「ちょっとバタバタしているタイミングで知っている顔を見ちゃったからつい、ね」

 マイヨはディミトリの警戒心を解くため、心にもないことを告げた。その間、視線をディミトリの胸元に向けている。

「何だよジロジロ見て」

「何でもないよ。君、結構オシャレだよねって思っただけ」

「ん。ま、まぁな」

 オシャレと言われて少しだけディミトリは顔を引きつらせつつも、笑みをこぼした。

「夜にそんなオシャレなカッコして、何かあるのかな?」

「ま、ここだけの話。今日はちょっと別件だ」

 マイヨは知らないが、ディミトリは今回錬金協会の指示で動いているわけではないため、目立たぬよう朝から一日がかりで移動、先ほどピルロに着いたところだった。

「別件? 錬金協会のオシゴトじゃなくて?」

「うーん」

 ディミトリが少しの間だけマイヨを睨むように見つめる。その後、睨むのを止めて踏ん切りを付けたとばかりに深い息を吐いた。

「俺、アンタに質問したい、ってか相談したいことがあるんだけど?」

「ん? いいよ」

 マイヨは、ディミトリから頭を下げて相談したいと言ってきたことを、渡りに船になるかも知れないなどと、計算を働かせる。

「俺さ、この間の、マロッタでの話、イスラ様、ああ、副会長に色々詰め寄っちまった」

「そりゃまたどうして?」

「あんなワケわからないこと言われて、『はいそうですか』って、言えねぇじゃんか」

「気持ちはわかるよ」

「そしたら、『自分で真実を確かめて来い』って」

「それはそれは。それで、相談したいことって?」

「アンタも会長、いや、RAAZとかあのDYRAってのと同じようなことができるっぽいから聞くけどよ、アンタ、『髭面の男』って会ったことあるか?」

「は? ねぇ君。人生で『髭面の男』に会う確率どれくらいだと思う?」

 マイヨはディミトリにそうは言ったが、本心はもちろん違う。どの『髭面の男』を話題にしているのかも察しがついていた。

「そりゃそーだけどさ」

 ここで引き下がるわけにはいかない。ディミトリが食い下がる。それでもマイヨは軽く一蹴する。

「質問が上手くない。もっと明確な質問をしようよ」

 はぐらかしているわけでも誤魔化しているわけでもない。質問の仕方に問題があると言われたにすぎない。ディミトリがマイヨの意図に気づいた。

「ったく。んーと、目の前にいるのがアンタだからじゃ、ズバッと聞く」

「どうぞ」

「アンタやRAAZの知った顔で、『文明の遺産』絡みで、ガキの親父と関係がありそうな『髭面の男』はいるか?」

「今度はそこそこ良い質問だね」

 マイヨは口角を僅かに上げた。

「一人、いる」

「そいつは、俺たちと同じ世界の人間なのか? それともアンタやRAAZとかと同じ類なのか?」

「お、良い質問になってきたね。で、それを知ってどうするの?」

「それが答えか」

 ディミトリの言葉に、マイヨはクスッと笑った。

「回答を控える」

「じゃ、次の質問だ。ガキの親父は結局、生きているのか?」

「正直に言う。わからない」

「あともう一つ。アンタら結局、俺たちの世界で何したいんだ?」

「その質問には、俺の分しか答えられない。他人が何を考えているかなんてわからないから、答えようがないし、ね」

 マイヨはそう言って、一呼吸置いた。

「そもそも俺は叩き起こされただけだから、この時代のこの世界で何かをしたいとか、そういうのはない。……ご満足?」

「『ない』?」

「そうだよ」

 ディミトリにとって意外な回答だったのだろう。彼の表情から、マイヨはそう察する。

「じゃ、俺から逆に質問をしよう」

「お、おう」

「君はその『髭面の男』に会って、どうするの? 何をしたいの?」

「どうしてコソコソと関わっているのか知りたい」

「知って、どうするの?」

「『文明の遺産』の持ち主で、役に立つことなら堂々と教えてもらいたい。けど、会長以上に面倒くさくて、その気がないなら……」

 言いかけたディミトリの言葉にマイヨは苦笑した。

「そりゃ無理だ」

 マイヨはやれやれ、ともお手上げ、ともどちらとも解釈できる仕草をしてみせる。

「君、いや、アンタたちさ、RAAZどころか、DYRAや俺もどうにもできない。それで何をやるって? 本気で言っている?」

 目の前のこの金髪の青年は本当に何も知らない。マイヨは言葉と裏腹に、無知であるディミトリをある意味、羨ましいとさえ思った。知らないからこそ理想論のような言葉を放ち、直球勝負をするなどと言える。あれやこれやと知りすぎた自分には絶対に無理なことだ。

「アンタやあのジイサンとやらが生きてきた時間はもちろん、それより前の連中もいただろう。本当に錬金協会が一〇〇〇年以上続いてきた組織だとして、誰か一人でもRAAZを、DYRAを、追い詰めることに成功しかけた奴はいるか? え?」

 マイヨはディミトリに現実を叩きつけた。指摘の内容がその通りなだけに、ディミトリには返す言葉がないのか、溜息も似た深い息を吐くことしかできなかった。

「あのジイサン、恐らくそれなりに年齢がいっているんだろう?」

「いつだったか人づてにちょっと聞いただけ、だけど、確か一〇〇だか一〇二って」

 ふて腐れ気味の口調で告げるディミトリに、マイヨは厳しい目を向ける。

「あれで一〇二? アンタあの人がいくつに見えるよ?」

「正直、五〇か、もうちょっと? イスラ様は足腰しっかりしているし」

「そういうことだよ。アンタたちが相手にしようとしているのは」

「言っている意味がわからねぇ」

 ディミトリが食い下がる。

「じゃあ、わかるように言ってやる。アンタ、フランチェスコでコトの顛末を見たと言っていたよな?」

「ああ、言った」

「あそこにいた、タヌ君を襲った厚化粧のオバサン。あの人の年齢と見た目はどうだ?」

「オバサン言うなよ。ソフィア、だ」

「問題はそこじゃない。彼女はタヌ君の母親で……」

 マイヨからの指摘で、ディミトリはフランチェスコでの顛末の終わり際に耳にした、ある言葉を思い出していた。


「母さんは、年を取らない人なんじゃなくて、若いままで居続けようと努力をしていたってことなのかな」


 ディミトリの顔色が変わったのをマイヨはちらりと見る。

「そういうことだ。意味わかった?」

「わからねぇ」

 半ば開き直って言い切ったディミトリを、マイヨは素直で良いのか悪いのかと半分感心、半分諦めにも似た瞳で見た。

「俺たちの文明では、条件さえ揃っていれば、肉体の老化を極限まで遅らせたり、見た目を若返らせたりする、なんてのはそこそこフツーにできたことなんだ。アンタたち、『文明の遺産』なしでそれができるか?」

「できるわけねーだろ」

「だろ?」

 マイヨはここで一度話を切った。考えごとでも始めるように目を閉じ、ゆっくりと息を整えてから、おもむろに口を開く。

「もう一度聞く。君は『髭面の男』に会って、どうするの?」

 マイヨから同じ質問を突き付けられたディミトリは、少しうつむき加減になり、顎に手をやって考える。そんな様子をマイヨは静かに見守った。

(多分、俺の答え如何で、マイヨって奴も次の行動の選択をどれにするか決めるんだろうな)

 沈黙の時間は一体どれほど続いただろうか。ほんの僅かだったのか、それとも、空の星の位置が変わってしまうほどだったのか。マイヨはそれでも、時間のことなど気にもしないとばかりの雰囲気を漂わせてディミトリを見つめる。

 マイヨに見られながら、ディミトリはどう答えたらいいのかと思案する。この状態で、いつまでも黙っているわけにはいかない。

(俺はどうしたいんだ?)

 考えれば考えるほど、収まりの良い言葉がディミトリの脳裏に浮かぶことはなかった。

「なぁ」

 ディミトリが沈黙を破った。

 マイヨは苦笑しながら懐中時計を取り出すと、文字盤に目をやった。その後、もう一度ディミトリを見る。

「色々悩んでいるご様子で?」

「上手く言葉にまとめられないんだ」

「じゃ、まとめないで垂れ流しでも良いよ?」

 マイヨには、ディミトリが今すぐ誰をも納得させられる答えを出せないことなどわかりきっていた。それ故、自分の言葉で答えを聞かせてくれれば良い、程度しか思っていない。

「その……『髭面の男』に会ってどうする、って言われたら、やっぱり俺たちの世界がもっと良くなるために必要なモノやコトを知っているなら、教えてもらいたいと本心から思っている。そりゃ何だ、それこそ失敗談でもいいさ」

 ディミトリが言葉を模索しながらゆっくり、訥々と話す。

「俺が錬金協会に入ったのは、そりゃあまぁ、野心とかないわけじゃねぇ。けど、何かもっとできねぇの? とか、そういう感情があったから」

「ふうん。意外に理想主義者なんだ。君」

「何言われても別に気にしないけど、俺は、たとえ全員が完全ではないにしても、皆が『色々あるけど、まぁ幸せだよね』って心から思えるくらいの世界にしたいし、近づけたい」

「『誰かの幸せは別の誰かの犠牲の上に成り立つ』し、『誰かにとっての絶望が別の誰かにとって希望である』、とは考えないんだ」

「って、待てよ。そういうの、胸クソ悪くねぇのかよ」

「全然」

「アンタが絶望する側になったとしても、かよ?」

「ああ。俺は絶望を突き付けられた側だから」

「だからアンタ冷たいっていうか、そうやって、突き放した目でモノを見ているのか」

「そこは好きに言ってくれていい」

 マイヨはディミトリを難しい表情で見つめる。このとき、マイヨなる人物はRAAZやDYRAよりずっと冷酷な人間ではないかと、ディミトリの背筋が一瞬、寒くなった。それでも、ただ冷酷なだけなら自分の話を聞いてくれたり、僅かであっても情報をくれたりするはずがないと思い直す。

「理想主義がどうとかはともかく、君の答えに対して俺は一つ、大事な問いをぶつける」

「お、おう」

「君、いやアンタが言った言葉は『文明の遺産』を寄越せ、と本質は一緒だ……」

 マイヨの指摘がディミトリの胸に鋭く突き刺さる。

「なぁ? 『髭面の男』はそれをやって、何の得があるんだ?」

「えっ」

 マイヨからの質問は、ディミトリにとって、完全に虚を突くものだった。

「え? だって、RAAZ、いや、会長だっ……」

 ディミトリがきょとんとした表情で言い出した途端、マイヨは言い終わるのを待つことなく、すぐさまディミトリの胸ぐらを掴んで引き寄せた。

「アンタ! RAAZが何を考えているのか知らないから、そんなこと軽々しく言えるんだ。圧倒的に強い相手に明確な見返りもなしで、『文明の遺産』を寄越せとかお笑い草だ」

 さらにマイヨが続ける。

「あのジイサンもそんな下心なわけ?」

「ま、まぁ、イスラ様は、多少はそりゃ、会長になりたいくらいだから」

 マイヨがディミトリの胸ぐらを掴んでいた手を離した。

「あっそ」

「何だよそれ」

「超がつくほどの金持ちに向かって、『デナリウス銅貨一枚もやる気はないけど、家宝を寄越せ』って言ったのと何も変わりないって、どうしてわからないかな」

 マイヨが言ったたとえで、ディミトリはようやく自分が言ったことのまずさを理解したのか、苦い表情をする。

「けど、ひとりぼっちじゃなくなる」

「バカか。RAAZを見てもまだわからないのか? 『同化しようなんてこれっぽっちも思っちゃいない』と。それだけじゃない」

 マイヨが畳みかけるように続ける。

「アンタたちの世界はDYRAをラ・モルテと蔑み、受け容れようとすらしなかった。あれほどまで優しい彼女すら受け容れられないアンタたちが、『自分たちの世界に受け容れてやる』だと? 笑わせるのもいい加減にしろ」

「あっ……」

 マイヨは容赦なく厳しいダメ出しをした。すべて図星で、指摘はその通りだ。ディミトリが下唇を悔しそうに噛んだ。

「それでも、俺は!」

 ディミトリがマイヨに自分の思うところを言おうとする。マイヨは、聞く耳などないとばかりに睨み付け、彼の言葉を封じた。

「今、俺から言ってやれるのは二つ。一つは『髭面の男』に協力するな。ピルロが焼かれた地獄はその結果だ」

「えっ」

 どうして。詳しく聞きたい。ディミトリはマイヨから詳細を聞き出したかった。しかし、とてもではないが、それをできる雰囲気ではなかった。

「それともう一つ。俺は正直、RAAZにもアンタらにも、どちらにもつくつもりがなかった。けれど、アンタの言い分を聞いて、たった今、俺は考えを変えた」

 ディミトリはマイヨの言葉に動揺する。少なくとも、自分たちにとって、前向きな内容ではないことが今までの話の流れから想像できる。

「DYRAを蔑み、RAAZが同化していると思い上がった勘違いをするようなアンタらに、『文明の遺産』をこれ以上触れさせるわけにはいかない。ピルロどころじゃなくなるぞ。話は終わりだ」

 マイヨは吐き捨てるように告げると、おもむろに荷台から下りた。




 荷台に一人残ったディミトリは、マイヨが吐き捨てるような言葉で話を打ち切り、立ち去ったことへの理解が追い付かなかった。

 この世界に僅かではあるが、別の世界から来たような存在がいる。どうやら彼らはあらゆる分野で自分たちよりはるかに進んだ技術を持っている。ならば、その技術を提供してほしい。そう思うこと自体、間違っているだろうか。確かに、『完全無償』の響きを与えてしまったことはまずかったし、申し訳なかったとディミトリは反省する。呆れられても文句を言えない。

(けど、俺、そこまで怒らせるほどのこと、言ったか?)

 ディミトリは、マイヨがどの部分に対して、どうしてそこまで怒ったのかわからなかった。

(DYRAは、ラ・モルテと言われても当然だろ。それだけのことをやったんだ。だいたい、土地を砂に変えるなんて害虫より始末が悪い。それに『文明の遺産』を持っている風でもない)

 わからないことがまだある。ディミトリは、RAAZがサルヴァトーレだったと知ったことで、曲がりなりにもこの世界に同化していると信じた。だが、マイヨに真っ向から否定された。

(『同化しようなんてこれっぽっちも思っちゃいない』、か)

 では、そんなRAAZが実のところ何をしたいのか。ディミトリなりに考える。

(って……)

 思い当たる節が一つ、ある。フランチェスコで聞いたあの言葉だ。


「DYRAは私の大切な『兵器』だ」


 DYRAを『兵器』と言った。彼女はRAAZが「何か」を破壊するために存在するのか。ならば、RAAZは何の目的で何を破壊するのか。

 そしてマイヨだ。彼は自分のことを多く語らなかった。それでも、ディミトリは彼を観察していくつか感じたことがある。

(あいつ。何て言うか、本当に人間なのか?)

 情を持ち合わせているように見えて、そうでもない。むしろ、呼吸でもするように損得計算を行っているのではないか。

 頭の中で一通り思い浮かんだところで、火の点いたランタンを手にディミトリは荷台を下りた。

(せっかくここまでたどり着いたのに、『髭面の男』を見つけるには、どうしたら良いんだ?)

 今回は、ディミトリが調べたいから調べるに過ぎない。あくまで、錬金協会は預かり知らぬこと。それ故、誰も何も指示してこないし、情報もない。自分で考え、動かなければならない。ディミトリは街の外周を歩きながら、頭の中にパズルピースの如く散らばった今までの情報を全部整理し始める。

 ディミトリの記憶に、ある言葉が浮かび上がった。


「街の人を助ける間にそこで見たもの、聞いたもの、体験したことが、ソフィアの件にも繋がっていくことにきっと、なる」


(イスラ様はわざわざ『ピルロへ行け』と言った。そして、ここで俺が行動をすれば自ずと何かが見えてくるって)

 ピルロで何が起こったかを調べていけば何かわかるはずだ。同じように、マイヨが言った、「ピルロが焼かれた地獄はその結果だ」の意味も。そして──。

(マイヨのあの言い方……焼かれた件に、『髭面の男』も絡んでいた!)

 ディミトリはここでハッとする。

(あっ!)

 最初にピルロへ来たとき、市庁舎あたりで無事だった職員と話したときのことをディミトリは思い出した。


「ああ。赤い外套を着ていて、周りに花びらがびゅんびゅん舞うんだ。で、歩いた先からどんどん火事になっていったんだ! それだけじゃない。衛兵が火矢を打ったんだが、その男に届く前に、火矢が折れて足下に落ちていったんだ」


(そうだ! 火を放ったのは!)

 ディミトリの中で少しずつ、まだ見ぬ存在『髭面の男』をめぐる関係性が見え始める。

 話を聞いた限り、火を放ったのは会長、そう、RAAZだ。

(んで、会長とマイヨは)

 再びフランチェスコでのやりとりをディミトリは思い出す。あのとき、RAAZがマイヨを排除するために動いていたと明かしていた。

(けど)


「俺は正直、RAAZにもアンタらにも、どちらにもつくつもりがなかった。」


 マイヨはRAAZへ敵対している風には見えなかった。ディミトリもマイヨの言う通りの印象を抱いていた。

(あのとき確か!)

 同時に、フランチェスコで見届けた別のやりとりを思い出す。

(会長はあのとき、『妻を殺した』と言ったけど……けど……)


「私の妻を殺したお前が、妻の名を軽々しく口にするな……!」


「アンタにそんな言葉を言われたくはないな」


(あの返しはどう考えても)


「言っただろう? その子のことがある。今日アンタとやり合う気はない。それともう一つ。アンタ、勘違いしない方が良い。ドクターはアンタが思っているよりたくさんのものを俺にくれた。今さっき潰された端末も含めて」


 ディミトリは冷静に、さしたる感情も見せることなくRAAZへ反論していたときのマイヨの声を思い出していた。本当に殺したのか否かはわからない。それでも、RAAZがマイヨへ抱く感情と、マイヨがRAAZへ抱くそれが非対称なのをディミトリは理解した。

 ディミトリの頭の中で、バラバラのパズルのピースが一つずつ埋まり始める。完成にはほど遠いが、一部だけでも何となく組み上がっていく。


「……『髭面の男』に協力するな。ピルロが焼かれた地獄はその結果だ」


 マイヨの話とこれまでの諸々を合わせると、ディミトリの中で一つ、推論が浮かぶ。

(『髭面の男』に協力したから会長がピルロを焼いた!)

 『髭面の男』はRAAZと敵対関係ということか。一方、副会長とは詳細不明だが、完全に敵対とまでは言えなさそうだ。さらに言葉の端々から察するに、マイヨとも関係が良好とは思えない。今わかる情報から導き出せるのはこんなところだ。

(これからどうする?)

 市庁舎へ行くにはあまりに遅い。朝を待つしか無い。今やれることがあるとすれば、寝る場所を探すくらいだ。ディミトリは市庁舎や広場のある方へ向かって歩き始めた。


152:【Pirlo】「誰かの絶望は、別の誰かの希望」マイヨは人間の残酷さを良く知っている2025/07/01 00:52

152:【Pirlo】起死回生の道の先に(0)2020/06/22 20:00



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 6月下旬に入り、何と言うか、世の中もう「新コロは終わったもの」みたいな感覚になっていて、ナンダカナァな今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 YouTubeとニコニコ動画で、麗しいイラストでDYRAワールドを表現して下さる、みけちくわさんがチャンネルを開設をいたしました。

 DYRAイラストのメイキング動画が紹介されておりますので、この機会に是非ご覧いただければと思います! どうぞよろしくお願いいたします。

 っていうか、絶対チャンネル登録してね!


 さて、DYRA姉さん、復帰準備に入りました。足問題をぶっ飛ばす秘策をRAAZがちゃんと言っていたり、アレですなぁ。

 物語がドラスティックに進みそうです。


 次回の更新ですが──。


 6月29日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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