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151:【Pirlo】ところで、タヌは無事に逃げたのか?

前回までの「DYRA」----------

ハーランはマイヨへ取引を持ちかけるが、断固たる姿勢で断る。そのとき、知り合った市役所の人間が、ハーランを見たことがあると証言する。

 逃げるようにクリストと別れたタヌは、部屋に戻ってからも落ち着かない時間を過ごしていた。

(もうそろそろ、植物園へ行っても大丈夫かな)

 落ち着かない理由は、突然のクリストとの再会もある。そしてそれ以上に、生体端末とマイヨが呼んでいた、彼と同じ姿の存在がまたピルロにいたことにタヌは動揺していた。しかも、先ほど広場でロゼッタと対峙していたではないか。その上、広場から戻り際に耳にした、二つの乾いた音。似たような音を聞いたことがある。あれは子どもの頃、レアリ村から山の方へ狩りに行く猟師たちが持っていた鉄砲の音だった。どこかで誰かが鉄砲を撃ったのかも知れない。

 見たものや聞いた音や会話、気になることを早くマイヨに伝えたい。なのに、こんなときに限って時間の進みが恐ろしいほど遅い。時折、窓の外に目をやると、ラピスラズリ色の星空が広がっているはずが、山の陰に覆われて真っ暗になっている。言い知れぬ不安を抱えたまま、タヌは考えがまとまらぬ時間を過ごしていた。頭では、動かないことが一番悪くて、どんどん行動を起こした方が良いし、そうするべきだとわかっている。が、同じくらい、考え無しに動くことは悪い結果しかもたらさないという予感がしている。

 少しでも落ち着こうと、タヌは部屋の中をぐるぐると歩き回った。

 そのとき、扉を三度ばかり、不規則に、それも殴るように叩く音がタヌの耳に飛び込んだ。タヌはすぐさま何かがおかしいと気づいた。

(何!?)

 開けない方がいい気がする。けれど、何が起こっているのかも気になる。そんなことを思いながら、タヌが扉の取っ手に手を伸ばそうとしたときだった。

 タヌが触れるより早く、扉が上から倒れてきた。タヌは悲鳴とも奇声とも言えぬ声を上げながら反射的に避けた。しかも、扉が倒れてきただけではなかった。

「ええっ!?」

 人も扉に重なるように倒れ込んできた。スカートやエプロン、ブラウスなどがそこかしこ破れたメイド服姿が痛々しい、ブルネットの髪の女性だった。

「ロゼッ……」

 タヌの言葉は続かない。すぐ近くにもう一人、細い鉄の棒を手にした人物が立っているのが目に入ったからだ。

「ああっ!」

 マイヨと同じ姿をしたメイド服の人物だった。ロゼッタが後転しながら立ち上がってタヌの側に立つと、破れてもはや使い物にならないメイド服を自ら力ずくで引っ張って脱ぎ捨てる。露わになったボディスーツ姿で、太い刀身のナイフを取り出して構えた。

 タヌは突然の出来事に、何が起こっているのか理解が追い付かなかった。わかることがあるとすれば、逃げなければならない場面であることだけだ。

「タヌさん」

 ロゼッタはタヌに一言、二言耳打ちする。

「わ、わかりました!」

 ロゼッタとメイド服の人物が対峙し、タヌはすぐさまロゼッタの後ろに隠れる。

 メイド服の人物が手にした鉄の棒をロゼッタへ向けたそのときだった。

「──!」

 突然、白い塊が廊下にいたメイド服の人物の右腕に飛び掛かった。

「タヌさん!」

 ロゼッタが白い塊に右腕を取られたメイド服の人物に体当たりを喰らわせる。その間にタヌは手提げ鞄を手に全速力で部屋を飛び出すと、廊下を走って階段を駆け下りた。

「ぐっ」

 白い塊がメイドの右腕から離れるや、廊下へ転がるように落ちてくる。続いて、甲高い吠え声が響いた。

「い、イヌ!?」

 白い塊は、翡翠色のペンダントトップがついた首輪をした毛深い子犬だった。犬はすぐにタヌを追うように階段を駆け下りる。

 ロゼッタも相手が怯んだ隙を逃さない。ベルトでくくりつけてある小物入れから何かを取り出すと、すぐさまそれを床へと投げた。途端にその場に猛烈な勢いで煙が広がっていく。そしてロゼッタもすぐにタヌたちを追うように階段を駆け下りた。


「は……はっ……はぁ」

 全速力で走って、裏口から学術機関の建物を抜け出したタヌは、一目散に山の方へと走った。子犬も全速力で追ってくる。一体どれだけ走っただろうか。さすがにもう追って来ないだろう。タヌは足を止めた。

「はあ……はぁ」

 タヌが両膝に両手を置き、肩で息をしたときだった。

(ここは……あれ、確か)

 星明かりのおかげでタヌは辛うじて、今立っている場所がどこか、何となくわかった。いつだったかDYRAと共に山へ入ったときの入口あたりだ。

 そのとき、タヌの耳に甲高い犬の鳴き声が聞こえた。続いて、足首のあたりにふさふさした感触が伝わってくる。

(犬? 確か、えっと、そうだ!)

 僅かな星明かりが足下のふさふさした感触の正体を伝えてくる。タヌはようやく思い出す。アントネッラと一緒にいたあの犬だ。

「あっ」

 タヌが足下にいる犬の方へ膝を落とすなり、犬が軽やかな足取りで走り出す。タヌは慌てて追いかける。犬は時折、タヌがついてきているか確認するように止まった。

(どこ行くんだろう?)

 タヌは犬についていくうち、小さな灯りと人影二つを見つけた。一つはかなり大柄で、もう一つは中肉中背の男と言った感じだろうか。タヌは、もしかしたら犬は二人のもとへ向かっていたのかもと察する。

「……お? 誰か来たぞ」

 灯りのある方から男の声でのやりとりが聞こえてくる。タヌは歩く速さを落とすと、耳を澄ませた。

「……アントネッラ様の犬じゃないか」

「……よしよしよしよし。大丈夫か?」

「……アントネッラ様も、絶対にお助けするからな。安心しろ」

 子犬の嬉しそうな鼻声が聞こえると、タヌは灯りのところで話している人物が自分に危害を加えたりすることはないかも知れないと判断する。聞こえてくるやりとりだけなら、彼らが本心から話しているのかわからないが、アントネッラの飼い犬が懐いているのだ。少なくとも、彼女へ悪意があるなら子犬が気づかないとは思えない。

「あ、あの」

 タヌは近づき、おそるおそる声を掛けた。

「どうした? こんな時間に、迷ったか?」

「いえ。そうじゃなくて。ボク、その犬に助けられて、逃げてきたんです」

 逃げてきた、の一言で、男たちが顔を見合わせているのが影の動きでタヌにもわかる。

 タヌが近づくにつれ、灯りに照らされた二人組の男たちの顔や体格、そして様子が見えるようになる。怪我をしているか、そうでないならひどく疲れている感じの中肉中背の男を大柄男が支えている風だ。

「犬に助けられたって、何があったんだ? 大丈夫か?」

 大柄男はタヌを手招きした。

「名前は? 俺はパルミーロだ。こいつはジャンニ」

「ボクはタヌ」

 パルミーロはタヌにランタンの灯りの近くに腰を下ろすように伝えた。

「ん?」

 パルミーロがタヌの顔をマジマジと見る。

「見かけない顔だな」

「えっ」

「お前、人違いだったら申し訳ないが、サルヴァトーレって奴、知っているか?」

 まさかここでその名前を聞くことになるとは思わなかったタヌは、一瞬だが、心臓が飛び出そうになるほど驚く。ピルロに来ているのだろうかとも考えたが、すぐにその考えを頭から追い出した。来ているのであれば、ロゼッタが知らないとも思えないし、知っているなら教えてくれそうなものだ。何より、今、彼はDYRAの側にいるはずなのだ。

「サルヴァトーレさん?」

 タヌはどう答えていいのか悩む。

「さっき、『弟の様子を見てくる』みたいなことを言っていたからな」

「あ、はぁ……え?」

 ここまで聞いてタヌはハッとする。有り得ないとは思うが、念のため確認だけはしようと思い立つと、それを口にする。

「あの、それって、有名な赤毛の洋服屋さんですか? それとも、三つ編みの……」

「そう、その通りだ。三つ編み!」

 パルミーロの答えを聞いて、タヌは驚きつつも、何となく合点がいった。

(マイヨさんがサルヴァトーレさんの名前を!? 何かあったのかな)

 タヌは、そんなことを思いながら、少しの間だけ、話の輪に入った。


151:【Pirlo】ところで、タヌは無事に逃げたのか?2025/07/01 00:48

151:【Pirlo】探し物は何ですか(3)2020/06/15 20:00



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 6月も中旬。もうすぐ1年の前半終了ですよ隊長! な今日この頃ですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 C98の新刊、DYRA7巻。

 現在BOOTHで頒布しております。限定装丁バージョンはあとわずかです。是非よろしくお願い致します。

 なお、6巻まででしたらメロンブックスさんでも取扱がございます。


 ハーラン現る!

 マイヨとこの世界での直接対決は初めてでしたね。それにしても彼は何をしたいのでしょうか。『トリプレッテ』の『鍵』とは一体何なのでしょうか? タヌのアレなのか。それとも他に何かあるのか。だいたいそもそも『トリプレッテ』とは何なのか。物語は動きまくっております。


 次回の更新ですが──。


 6月22日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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