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150:【Pirlo】マイヨは思わぬところで陰謀の絵図を把握する

前回までの「DYRA」----------

マイヨはかつて利用した『人捜し屋』の正体を暴くべく、貧民窟を再び訪れていた。そこで街の人から『人捜し屋』にまつわる重要な話を情報を得る。そして、そこにハーランが、いた!

「お。お。俺、ア、アイツを見たことあるぞ……!」

「えっ!?」

 ジャンニの言葉を聞いたマイヨは、彼が自覚していない重要な情報を持っているかも知れないと確信した。早く聞き出すためには、まず、聞き役に徹することが大事だ。彼が落ち着いて話せる環境を提供しなければならない。

「誰だアイツぁ! アイツがさっき言ったこと聞いただろっ!!」

 一方、ジャンニの思わぬ言葉にパルミーロが彼の両肩を掴んで揺さぶりながら、首をガクガク振るように頷いていた。

「アイツぁ、『アントネッラ様を吊し首にする』と言ったんだぞ!」

 吊し首、などとは言っていなかったと思うが、この際気にするべきはそこではない。二人のやりとりする様子を見ると、マイヨは軽く手で制する。

「ねぇ。こんな、死体が転がっている場所で話すのはどうなの?」

 二人がハッとしてマイヨを見る。

「あ、そ、そ、そうだな」

 パルミーロが二度頷いてから思い出したように切り出す。

「内緒話に良いところがある。案内するぜ」

「その前に一つだけ」

 マイヨは先にやらなければならないことを思い出した。

「用足しをしてきて、いいかな?」

 マイヨが告げると、パルミーロは頷く。

「そしたら向こうの、因縁の『人捜し屋』の仲介先で待ってらぁ。尾行されるなよ?」

 パルミーロはそう言い残して、ジャンニと共にその場を去った。

 その場に一人になったマイヨは、周囲から完全に人の気配が消えたことを察すると、目を閉じ、意識を集中する。ほどなくして、マイヨの脳内に日常の記録映画よろしく映像が流れ込んでくる。生体端末が得た情報だ。脳裏でその映像を早回しするように一つ一つ確かめていく。

(って……!)

 マイヨは流れ込んできた二つの場面を見るなり、眉間に皺を寄せた。

(最悪の展開じゃないか! どうしてそうなるよ!!)

 得るものを得た。マイヨは情報の回収を止めると、忌々しげな表情で燃えさかる焚き火の薪を蹴飛ばした。

(くそっ!)

 一体どうすればいいのだ。手をこまねいているわけには行かない。マイヨは反射的に懐中時計を取り出すと、時間を確かめる。八時だった。意外に時間が経っていないことを知ると、少しだけ安堵する。

(そっか。夜遊びできない街じゃ、ね)

 RAAZ、いや、DYRAへこのことを伝えようと思うが、今、彼らが何処にいるのか。どうやって捜せばいいのか皆目見当もつかない。マイヨは焦りそうになる気持ちを堪えた。連絡がとれないなら、今できることをやるしかない。まずは、もらえる情報をもらいに行こう。タヌと一度合流して情報交換をしたいが、聞くことを聞いてからの方が良いだろう。マイヨは焚き火の薪を一本手にすると松明代わりにし、パルミーロたちが待っているであろう場所へと走り出した。ここからかつての繁華街があった場所はそう遠くない。

(ここ、か)

 マイヨはパルミーロが言っていた、『人捜し屋』の仲介役がいた酒場の跡地らしき場所にたどり着くと、周囲に目をやる。瓦礫の奥の方に人の気配があった。被せものをしてランタンの灯りを目立たないようにしているのも見える。別の人物だったりしたら面倒だ。マイヨは静かに近寄ると、物陰から覗いた。

 見覚えのある顔がいることを確認してから、マイヨはゆっくりと近寄る。

「お、サルヴァトーレだ」

 最初に聞こえたのは、ジャンニの声だった。

「来たか!」

 マイヨはパルミーロの声が聞こえたところで、もう一度周囲を見回してから二人のいる場所へと向かった。

「おう。さっき大丈夫だったか?」

 マイヨは、二人がいる場所にテーブルが置かれていることに気づいた。どうやら、焼け跡から無事だったものを見つけ出して使っているようだ。テーブルには飲み物の入った瓶も四つ置かれている。

「酒?」

 マイヨが問うと、ジャンニが首を横に振った。

「んー。酒は飲みたいし、ここの酒蔵が無事だったことも知っている。けど、それは『再建の目度が立ってから街の皆で飲もう』ってな」

 パルミーロの説明に、マイヨは納得した。

「なるほど」

 マイヨはそのとき、ふと、あることに気づく。

「あれ? もう一人いなかったっけ? マッティア、だっけ」

「実はそのことで」

 パルミーロがジャンニを複雑な表情で見てから、マイヨに向かって口を開いたときだった。突然、ガラガラと、瓦礫を蹴るような音が聞こえた。マイヨは音のした方へ目をやり、パルミーロとジャンニが星明かりを頼りに走り出した。

「お、マ、マッティア!」

 息を切らせ、今にも膝から崩れそうなマッティアをジャンニが抱きかかえ、マイヨとパルミーロのいる方へ連れて行く。

「おい! 大丈夫か!? 何があったんだ」

 パルミーロがランタンの被せものを外し、化け物でも見たような真っ青な顔をしたマッティアへ問うた。マイヨもマッティアを見る。服がそこかしこ破れてボロボロな上、血で真っ赤になっており、かなり手ひどい暴行を受けたような印象だ。

「た……た、たた、大変だ!」

 震える声で切り出したマッティアを、ジャンニがパルミーロへ預ける。

「パルミーロさん、ア、ア、アントネッラ様が……!」

 マッティアの第一声で飛び出した名前に、マイヨは表情を一気に硬くする。

「おい! アントネッラ様が何だって!?」

「し、し、市庁舎……、ア、アントネッラ様をお見掛けし……れ、例の、背の高い小間使い、あ、あれ……」

 苦しそうに話すマッティアに、パルミーロもジャンニもすぐにわかったのか、頷きながら続きを促す。マイヨは冷静に、少し引いた立ち位置で話を聞いている。

「い、嫌がる、アントネッラ様……引きずって、市庁舎の、お、奥の方へ……!」

「それで!?」

「アントネッラ様はご無事なのか!?」

 急かすように尋ねる二人へ、マッティアの話が続く。

「そのとき……髭面が……て、アントネッラ様を……」

 ここでマッティアの言葉が切れた。

「おい! おいっ」

 慌てるパルミーロの脇で、まさかと思ったマイヨは、マッティアの血だらけになった格好をもう一度見た。傷跡を探すと、答えのすべてが背中にあった。

(ハーラン! 後ろから撃ったのか!!)

 背中に二つ、銃で撃たれたとわかる痕と、それを覆うように赤いものが広がっていた。マイヨの中で、怒りがふつふつと込み上がる。

 どうしてアントネッラが外に出ていたのかも気になるが、今考えるべきはそこではない。加えて、先ほどのハーランの話でいけば、展開如何では明日の午後には彼女の命が危ないのだ。マイヨはタヌへすぐに知らせつつ、彼女の救出作戦を練る必要に迫られた。

(信じていいのかさえわからない奴に直球を投げるのは気が進まない。けれど)

 今は背に腹を代えることができない。マイヨは今すぐ動くにあたり、ここで決断を迫られていることに気づいた。

「おいサルヴァトーレ」

 パルミーロだった。

「お前、さっき、あの貧民窟のところで、髭面の男に脅されていたな? アントネッラ様のことか」

 どうせ自分の身体は一つしかないのだ。一人では身動きが取れないし、選択肢がないことは紛れもない事実。マイヨは賭けるしかないと腹を決めた。

「……ああ。脅された」

「なんでお前が脅されるんだ?」

 納得できないと言いたげな表情で見つめるパルミーロとジャンニを前に、マイヨはどう説明すれば彼らを動かすことができるか考える。そして、一計を案じるとすぐに実行へ移した。

「その、アンタらが言った小間使いだが、あれは俺に変装した、要するにニセモノだ」

 そう言うなり、マイヨは帽子を脱いだ。三つ編みが露わになる。

「あっ……!」

「アンタ、アントネッラ様の傍に居た小間使いの!?」

 三つ編みだけが長く、後ろ髪の短いマイヨの姿が露わになったことで、二人が仰天した。

「実は明け方、後ろから襲われるわ、髪を切られるわ、貧民窟に放られるわで、このザマだ」

「えっ!」

「な……っ」

 マイヨは二人が期待通り、いや、それ以上に完璧かつ理想的な形で喰いついてくれたと判断すると、いかにも信じてもらえそうな説明を考え、開陳する。

「そもそもあの格好をしていたのは彼女に頼まれたからだ。行政官サンを『信用できない』って。けど、用心棒を表立ってってわけにもいかないから、アントネッ……」

 言いかけた言葉は続かなかった。

「ずっと胡散臭いと思っていたけど、そっか! アレッポの目を誤魔化すためにアントネッラ様が直々に、だったのか!」

「小間使いのフリした護衛だったのか! どおりで今まで一言もしゃべってくれなかったわけだ! それにしてもアレッポの野郎! どこのどいつか知らない奴らとグルになって、ルカ市長だけじゃない、アントネッラ様まで! マッティアが命懸けで教えてくれたんだ! どんな手を使ってでもアントネッラ様をお助けしないと!」

 二人が激しく憤る。筋道も何もあったものではない気がするものの、今はアントネッラを助けるために力になってくれるなら問題ない。マイヨはそう判断する。

「おい、サルヴァトーレ。アントネッラ様をお助けするなら力を貸すぞ! 任せろ!」

「わかった。ありがとう」

 これで多少ではあるが動きが取れるとマイヨは安堵する。

「そうしたら、頼みがある。これから忍び込めるか?」

「もちろんだ」

「そうしたら、彼女へ伝えてほしい。『必ず助ける』と」

「うし! 必ず伝える」

「頼む。俺の方もちょっと下準備をしてくる。あと、弟が身を隠しているから『忙しくなる』って伝えておかないと」

「ああ。情報交換は明日の夜明け、ここで」

「わかった」

 パルミーロたちがランタンを持って、瓦礫の向こうへと歩いて行った。彼らの後ろ姿を見届けてから、マイヨはあたりに誰もいないのを確認して星空を見上げる。

(タヌ君に伝えて、それからRAAZかDYRAへも何とかして繋がないと。それから……)

 先ほどハーランと遭遇した際、本格的な戦闘に入らずに済んだものの、取り急ぎ分だけしか補充していなかった貴重なナノマシンを使ってしまった。気休めでもいいから充填したい。マイヨはそんなことを考えながら、広場の方へと歩き出した。

 すっかり夜の帳が下りた広場が視界に入ると、あちらこちらで焚き火を囲んで食事をする者たちや、小さな声で何やら話をする一団など、思い思いに過ごす様子が見えた。

(明日には復興どころじゃなくなるかもな……って、あれ?)

 マイヨがこの場から立ち去ろうとしたときだった。視界に、見覚えのある金髪の男の姿が飛び込んだ。

(あれあれ? 力を借りるのに、ちょうどいい子……かなぁ)


150:【Pirlo】マイヨは思わぬところで陰謀の絵図を把握する2025/07/01 00:45

150:【Pirlo】探し物は何ですか(2)2020/06/08 20:00



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 6月に入っていきなり真夏日到来、身体が到底ついてこないで参っている今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 C98の新刊、DYRA7巻。

 現在BOOTHで頒布しております。限定装丁バージョンはあとわずかです。是非よろしくお願い致します。

 なお、6巻まででしたらメロンブックスさんでも取扱がございます。


 さて。

 タヌも際どい状態だけど、それ以上にアレです、マイヨがヤバイ状況に陥っております。アントネッラが無事なのかも気になるし、どうするのよ、どうなるのよ状態。彼らの運命や如何に。


 次回の更新ですが──。


 6月15日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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