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149:【Pirlo】マイヨは裏方に徹し、闇討ち返しを敢行する

前回までの「DYRA」----------

タヌはクリストの話を聞くにつれ、彼が純粋な厚意で自分と出会ったり近寄ってきたのではないかと確信めいた思いを抱くと、彼から離れる。

 夜になり、真っ暗闇同然だったかつての貧民窟界隈の一角を、焚き火が照らしていた。

 焚き火のすぐ側に、帽子を目深に被った黒ずくめの格好をした男が腰を下ろしている。男の座っている周囲の地面には、彼を囲む金色の小さな輝きがいくつも照らし出されていた。

 朝から貧民窟の一角にある『人捜し屋』のあった場所を中心に調べ物や探し物をしていたマイヨがいよいよ仕上げとばかりに、焚き火を起こし、その周囲にアウレウス金貨をバラ撒いて貧民窟を縄張りにするゴロツキやガラの悪い面々が姿を現すのを待っていた。

(そろそろ、来るかな)

 近くに何人もの気配を感じ取ると、マイヨはおもむろに立ち上がり、両手のひらの周囲に黒い花びらを舞い上がらせる。黒い花びらの嵐が起こるとマイヨの両手に、ブラックダイヤモンドのような輝きの刃を持つ細身の双剣が顕現、その手に握られた。

 マイヨと焚き火の周囲に、一体どこから現れたのか、七人の男たちが立っている。いずれも目つきは鋭く、獲物を狙う獣のようだ。

「質問に答えてくれるなら、カネは全部くれてやっていいよ。けれど、奪い取る気なら、痛い目を見てもらうけど」

 マイヨが言い終わったとき、彼の足下には既に四人の男が倒れていた。飛び掛かった男達はそれぞれ肩の辺りを斬られたようで、地を這いのたうち回っている。

「いくら俺が弱そうに見えるからって、ナメすぎでしょ?」

 マイヨが握る双剣の刃からは血が滴っていた。

「ひっ……」

 焚き火だけが唯一の灯りで視界が悪かったことを差し引いてなお、剣を振るう速さを見切れなかった男たちが怯えた表情でマイヨを見る。

「俺の質問に正直に答えてくれるなら、落ちている金貨は全部あげる。俺にはいらないものだから。ただし、嘘をついたら最初の四人と同じ運命をたどるよ?」

 マイヨは冷たく言い放った。すると観念したのか、それでもカネが欲しいのか、残った三人の男たちが両手を頭の高さに上げ、抵抗しない姿勢を示した。

「お?」

 三人のうちの一人をマイヨはじっと見る。見覚えのある顔だった。マイヨは件の人物の顎先に切っ先を突き付ける。

「あれまぁ。面白い巡り合わせだなぁ」

「ひっ!」

 その人物は、マイヨが飲み屋で『人捜し屋』を紹介したバーテンダーだった。

「アンタは俺が一番に探していた人物だ」

 マイヨは剣の切っ先を下げることなく、残りの二人に告げる。

「お二人、地面の金貨を拾っていいよ? でも、もうちょっと欲しかったらお互い、逃げないようにしてほしいんだけどな」

 カネをちらつかせ、マイヨは二人に相互監視をさせる。

「お、俺は? ってか、アンタ誰だよ?」

 剣先を突き付けられたバーテンダーがマイヨに震える口調で尋ねる。マイヨはニッコリと笑みを見せた。

「あれ? 忘れちゃった? 俺、アンタを利用した客なんだけどなぁ。って、それはいいや」

 マイヨは言葉を続ける。

「あのさ、アンタ、ここの『人捜し屋』サンの顔を見たことがあるかな?」

「いや、ねぇ」

 このとき、残った二人がバーテンダー男を睨み付けている様子をマイヨは見逃さなかった。

「嘘をつかない方が良いよ?」

 言うなりマイヨは剣の切っ先を軽く上げた。バーテンダー男の顎のあたりに傷ができる。

「ひっ! 痛っ!」

「次は顔だ。腕でもいいけど、仕事できなくなるか」

「や、やめっ! 止めてくれ! 話す! 話すからっ」

 バーテンダー男は膝を落としてうなだれた。

「一年とちょっと前のことだ! 俺、カネもらっていた女に逃げられて、そうしたら、変なオッサンに酒場で声を掛けられたんだ!」

「変なオッサン?」

「ああ、そ、そうだ!」

 バーテンダー男の脇にいる、残った二人もこれは嘘ではないとばかりに頷いている。

「そしたら、そのオッサンが女の居場所を教えてくれた。俺はそれで逃げた女捕まえて折檻できて、無事にカネも手に入れた」

 生活費を出させていた女に逃げられたからという動機と顛末はあまりにも胸クソ悪い内容だが、マイヨは意図的にそちらに意識をやらないようにした。

「で、オッサンはこのあたり一体を縄張りにしてぇと言ってきた。まぁ、普段は顔出さないし。俺が用心棒の取りまとめになるってことで……ぐあ!」

 言いかけた言葉は続かなかった。遮ったのは三回、手を拍手のように叩いたような音だった。

「あ!」

「ぶ!」

 三人の男たちはバタバタバタとうつ伏せに倒れた。彼らの後頭部やうなじのあたりは血だらけになっていた。

「……っ!」

 突然の出来事だったが、マイヨはこのことで驚いたり、動揺の舌打ちをしたりする暇を与えられなかった。

(どうしてそういう展開になるかなぁ)

 マイヨの正面、骸に変わった三人の男たちの後ろにあたる位置に、一人の人物が立っている。マイヨはその人物が誰かわかると、剣を手放すことなく、帽子を取る。青色とも金ともつかぬ不思議な色の髪と三つ編みが露わになる。そして、金銀の、左右が異なる色の瞳も。

「いつの時代も雄弁は銀にして、沈黙は金」

 赤い模様入りのガラス玉を彷彿とさせる瞳を持った、アッシュグレーの髪と髭を持つ男が手にした銃口を下ろすことなく告げる。マイヨは、苦い表情をしたくなってもグッと堪え、何事もなかったように目の前の男を見る。

「本当の悪党が俺の前にお出ましか。どの面下げて……ハーラン」

「この街でなら会えると思っていたんだ。ヤマを張ってよかったよ」

 満面の笑みを浮かべて話しかけるハーランを、マイヨは氷の矢か何かで射るような視線で無表情のまま見つめ、流れるような動きで双剣を構える。

「おいおいアレーシ坊や。ちょっとは話を聞けって」

 余裕綽々とばかりに笑みを浮かべるハーランに対し、マイヨは脳裏を掠める過去の出来事と、そのことで自らの中で泉のようにわき上がる感情を見せまいと、意識して無表情を保つ。

「は? アンタの言い訳は地獄で聞いてやる。特に、あの日のことはな」

 マイヨが吐き捨てるような口調で告げ、ハーランへ斬りかかろうとしたときだった。

「今日は仕事の話だ。取引だよ」

 言うなり、ハーランがおもむろに手にしていた銃をしまう。ハーランの手の中にある武器は、この文明ではまだ存在しないが、本来属していた方ではあまりにもありふれた平凡なオートマチック式拳銃だった。

「取引? 懺悔の間違いだろうっ!?」

 話すことなどない。マイヨは抑え込んでいる感情を手にした双剣にのせてハーランへ斬りかかった。

「両腕と両脚の件なら謝るさ。あれは仕事だった。それに、優男君のキミにあそこまで抵抗されるとは思わなかったんだ」

 マイヨの刃をギリギリで避けながら、笑いながら謝罪らしき言葉を放つハーラン。それは明らかに、取り敢えず謝るという表現ですらマトモに聞こえるほどの小馬鹿にした口調だ。マイヨはさらに踊るような動きで斬りかかる。

「アンタが懺悔すべきは俺じゃないだろうがっ!!」

 体を反らして鼻先からほんの数ミリ差で第一撃を、さらにその状態から腰をひねって第二撃をもハーランが逃れる。マイヨはさらに第三撃を加える。

「ってぇ!」

 回避しきれないと判断したハーランがすかさず、左腕の肘下を楯代わりにして刃を受け止める。長袖の裾が破れ、手甲が填められた肘下が露わになる。

「マッマを奪ったクソガキにかぁ」

 マイヨは反射的に左足でハーランの太腿に蹴りを入れるとその反動で間合いを取るなり、すぐさま自らの周囲に黒い花びらを舞い上がらせる。その刹那、ハーランの右手首のあたりが光った。さらにその一瞬後、黒い花びらが舞っているはずのマイヨの周囲で、黄金色の粉を彷彿とさせる輝きが広がる。

「二度、同じ手は喰わない、か」

 ハーランは笑いながら両手を胸の高さで広げ、丸腰をアピールすると、一転、真顔になる。

「そしてマッマの力で身を守る、と。ナノマシンを利用して抱え込んだエネルギーを放出、阻害シールドを展開、か」

「ポンコツのケミカロイドにすぎないアンタにはできないもんなぁ」

 マイヨは、あからさまに羨望感をあおるような口調で言い放った。しかし、ハーランは意に介する様子も見せない。

「アレーシ坊や。時間がない。続きはまた次回だ。『取引』内容を伝える」

 ガラス玉のような瞳で真っ直ぐ見つめてくるハーランに、マイヨも真っ直ぐ、睨み返す。

「こちらの要求は『トリプレッテ』の『鍵』とあのDYRAってお嬢さんだ」

「悪いが、俺はこの世でアンタとだけはどんなディールも成立させる気がない! それはアンタが一番良く知っていると思ったんだがな」

 マイヨは即答した。ハーランが一笑に付す。

「それは残念。なら、タヌ君とあの双子の小娘に死んでもらうか。……お嬢さんが知ったらきっと嘆き悲しむだろうなぁ」

 ハーランの言葉を聞いたとき、マイヨは我が耳を疑うと同時に、やはり目の前の男は本気で頭がイカレていると確信する。

「本気か虚仮威しかは、キミなら今、一瞬でわかるはずだがね」

「はぁ?」

「期限は明日の正午だ」

 だが、マイヨはしれっと切り返す。

「何か勘違いしていないか? 人質を取って脅迫しているつもりなら、無駄なことだ」

「じゃ、あの小娘は俺のコレクションに加えた上で、最高の見世物にさせてもらうよ」

 聞いた瞬間、マイヨのこめかみがピクリと動く。しかし、ハーランはもう用は済んだとばかりに、空気に溶け込んでいくようにその場から消えた。

「ちっ!」

 マイヨは舌打ちすると、その身の周囲に黒い花びらを舞わせ、剣を霧散させた。

(『トリプレッテ』の『鍵』ときたか。やっぱり『トリプレッテ』はあるってことか)

 マイヨは一瞬だけホッと安堵の息を漏らした。そしてすぐに厳しい表情で焚き火に目をやる。

(くそっ! タヌ君とアントネッラを! けど、ハーランはアントネッラと俺が繋がっていることは知らないはずだ。どうして)

 焚き火にくべていた薪がガタリと音を立てて崩れる音がした。

「!」

 マイヨは人の気配を察知した。とっさに帽子を被り直してから鉄扇を取り出し、身構える。

「サルヴァトーレ!」

 聞き覚えのある少年のような声だった。マイヨは構えを僅かに解いた。昼間に遭遇した、確か、パルミーロと名乗った大柄な中年男だ。

 瓦礫の陰の一角から人影が姿を現した。確かにパルミーロだ。彼だけではない。昼前に一緒にいて、情報を提供してくれたジャンニもいる。二人がマイヨへ近寄った。

「おい。大丈夫か?」

「ああ。まぁ、ね」

「おい、嘘つくな。話は全部聞いたぞ」

 藪から棒にパルミーロが言った言葉に、マイヨは全部見られ、聞かれた以上、どうしたものかと思案する。いきなり殺すなど物騒なことをする必要はないが、追求された場合、何をどこまで話せば良いのか。

「パルミーロさん! そ、そうだ。ア、アイツ、さっきのあの、幽霊みたいな奴!」

 ジャンニが何かを思い出したのか、青ざめた顔で叫ぶように話す。


149:【Pirlo】マイヨは裏方に徹し、闇討ち返しを敢行する2025/07/01 00:20

149:【Pirlo】探し物は何ですか(1)2020/06/01 20:00



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 緊急事態宣言が全面解除したら罹患者がポコポコ出てきてしまったとのことで、悪夢の第二波の予感がしてならない今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 C98の新刊、DYRA7巻。

 現在BOOTHで頒布しております。限定装丁バージョンはあとわずかです。是非よろしくお願い致します。

 なお、6巻まででしたらメロンブックスさんでも取扱がございます。


 ピルロ再来訪編。次回からタヌがまたバタついてくれて、大きく動きます。

 え? 皆待っているんですよね? 2巻以来……げふんげふん。

 そういうことですよ。

 これからも応援どうぞよろしくお願い致します。


 次回の更新ですが──。


 6月8日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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