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139:【Marotta】タヌがもう一度行きたい場所、マイヨがもう一度行きたい場所

前回までの「DYRA」----------

マイヨとRAAZは二人だけで話をする。RAAZの妻が殺された件をめぐり、自分の濡れ衣を主張しつつも、感情的にならず、理詰めで説明するマイヨ。それを聞きながら、RAAZは状況証拠的に彼のシロを信じるようになる。

 DYRAとの再会まで、今日を入れてあと一一日となった朝──。

「あ……おはようございます」

 ソファベッドから上半身を起こしたタヌの視界に、サルヴァトーレとマイヨの姿が入る。二人の男は向かい側のソファに座ってタヌの様子を見ていた。

「おはよう。タヌ君、眠れた?」

「あ、はい。サルヴァトーレさんすみません。ボク、いきなり寝ちゃったみたいで」

「いいよ。疲れていたんだろうし」

 タヌを笑顔で見つめていたサルヴァトーレが立ち上がり、台所のある方へ歩いて行く。

「タヌ君が寝ている間に、事情はマイヨさんから聞いたよ。シニョーラが大変なことになっているとかね」

 タヌはサルヴァトーレの話を聞きながら、内心、彼がRAAZではなかったのか、と困惑する。だが、悟られないよう、タヌは平静を装った。

(そっか)

 サルヴァトーレの姿をこれまでマイヨに見せたことがなかったなら、マイヨには知られたくないのだろう。タヌはそんな風に思い直した。

「タヌ君」

 次にマイヨが口を開く。

「すごいね。サルヴァトーレさんのおうち。ソファでもベッド並みの寝心地とはね。この数日の身体の重さが嘘みたいだ」

 タヌの目にも、マイヨの顔色が良くなっているのがわかった。

 そこへ、サルヴァトーレが銀の盆に載せて、コーヒーが入ったマグカップを三つ持って戻ってくると、テーブルの上に置いた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「どうも」

 タヌは、マイヨがマグカップを取ったのを見てから、自分も手にした。

「で、タヌ君。君はこれからどうするのかな? シニョーラはその、RAAZさんのところなんだろ」

 サルヴァトーレが尋ねたとき、マイヨはレースのカーテンが掛かった窓の方を見ながらコーヒーを流し込むように飲み、タヌの顔を見ないようにしていた。しかし、タヌは気づかなかった。

「はい……」

 今日を入れてあと一一日。一体何をどこから手を付ければ良いのか。父親に繋がる手掛かりを探そうと、昨日錬金協会を訪れたことをタヌは思い出した。そこで聞いた話で行けば、可能性がある場所はネスタ山の向こうだ。そう。ハーランに案内されたあの廃墟。しかし、そんなところへ行きたいなどと簡単に言ってしまっていいのだろうか。タヌは考える。

(でも、何もしないのはもっとダメだ)

 タヌが意を決したように声を出す。

「あ、あの」

 サルヴァトーレとマイヨが注目する。

「ボ、ボク、昨日、錬金協会の副会長さんから父さんの話を聞いて。それで、教えてくれた場所、『ここかも』って思い当たるところがあって、できればそこを……」

 タヌが言い掛けたときだった。

「タヌ君。それはダメだと思うよ」

「ダメだよタヌ君」

 サルヴァトーレとマイヨはほぼ同時に告げた。

「そういういかにも面倒なところに行くなら、俺に任せてくれないかな? 君が行って、何かあったらどうするの? それに何より、昨日も言ったと思うけれど、タヌ君。君は自分が思っているよりもずっと大変な状況にあるんだから」

「でもっ」

 タヌがマイヨへ反論しようとしたときだった。

「ねぇ。気持ちはわかるけれど、『いかにも面倒な場所』以外で回れるところがあるなら、先にそっちから回るのは、どう?」

 サルヴァトーレからの折衷案に、タヌが耳を傾ける。

「タヌ君。外堀から埋めていって、少しでも動きやすいように地ならしをするのも立派な作戦だよ?」

 聞きながら、タヌは他に回れる場所があるかな、と考え始めていた。

「気になる場所は……確かに」

 タヌの中で、先日ハーランと訪れた場所の他、もう一か所、確かめておきたい場所があった。というより、今、サルヴァトーレから言われた言葉で気がついた、思い出した、と言うべきか。

(そうだった。父さんを捜すのに)

 自分はもしかしたら、一番根本的なことを見落としているのではないか。そこはもうわかったつもりになっていた場所だが、今になって思い返してみると、実は何もわかっていないような気がしてくる。タヌの脳裏にそんな思いが駆け巡っていく。

「他にあることに気がついた、って顔だね。それじゃ、そっちから行こうか?」

 サルヴァトーレの助け船に乗るように、マイヨがタヌへ声を掛けた。

「はい」

 タヌは返事をした後すぐ、言葉を継ぎ足す。

「あと、あの、マイヨさん」

「ん?」

「ボクは、マイヨさんが来てくれるの、すごくありがたいって思っています。けれど、マイヨさんがやっておきたいこととか、そういうの、大丈夫ですか?」

「あるよ」

 マイヨの返事に、タヌは「やっぱり」とでも言いたげな顔をする。

「正直、個人的に気になることもあるし、確かめたいこともあるから」

「それ、場所はどこですか? 山の向こうですか?」

「山の向こうもあるし、こちら側もある。ただ、今俺がタヌ君に言ったのはあくまでもこちら側での話だ」

「もし、ここから近いなら、先にそっちへ行きませんか? ボクの都合ばっかりっていうのも」

「本当にいいの? タヌ君」

 タヌはこのとき、マイヨの視線が一瞬だけとは言え、サルヴァトーレの方に向かったことに気づいた。

「確かに、俺が行こうと思っている場所も、もしかしたら多少はお父さんに関係があるかも、とは思うけど。ただ、今タヌ君が寄っても大丈夫かどうか。泊まるところもない有り様だし」

「それってもしかして……」

「多分、タヌ君が思っている通りの場所だよ」

 泊まるところもないようなと言われてタヌが最初に思い浮かべたのは、レアリ村と火薬で町そのものが吹き飛ばされたピアツァだった。しかし、どちらも村なり町なりの機能を完全に失っている。だとすれば、考えられるのは数日前に徹底的に焼かれたピルロ。タヌは、マイヨがわざわざどうしてピルロへ行きたいと思うのか、その理由が気になった。

「あの街が父さんと」

 タヌは、マイヨの反応をじっと見つめる。マイヨは、空になったマグカップをテーブルに置き、天井を仰ぎ見ると、今度はうつむき、小さな息を漏らしてから頷いた。

「ちゃんと話していなかったことだけど、俺、実はタヌ君がハーランに攫われた騒ぎの間、い摘まんでだけど、あの街で何が起こったのか、調べて回ったんだ。火を点けたとかそういう話じゃなくて、そもそも、ピルロって街だけがどうして突然、あんなに発展したのか、とかね」

「まさか、そこで父さんの名前が出たとか、ですか!?」

「直接的には何とも言えないけど、昨日錬金協会で聞いた話とか、色々な内容を合わせるとね」

 言葉を選ぶように慎重に話すマイヨの姿に、タヌは、できることなら自分もマイヨと話した人物に、直接父親の件を聞いてみたいと思うようになっていた。

「あのお嬢さんに会いに行くのも兼ねて、もうちょっと踏み込んで聞いておきたいことも、あるかなって」


 タヌとマイヨがサルヴァトーレ邸で朝を迎えていた頃──。

 冴えない灰色の上着に身を包み、黒い四角い鞄を持って姿を見せた髭面の男が、視界に広がる麦畑を見つめていた。すっかり枯れ落ちている上、穂を付けたまま茶色くなっている。麦自体に生命力がなくなっているのが明らかだ。麦だけではない。土も、すっかり干からびており、砂のようになってしまっている。この畑を再生させようとすれば土から作り直す必要があるため、何年も掛かるだろう。

(すごいな。これはひどい)

 髭面の男──ハーラン──は、一眼型の色付きメガネを外すことなく、笑みを浮かべて畑を見つめていた。

(『トリプレッテ』に必要なアレは、一体どこにあるやら)

 枯れた麦畑など見飽きたとばかりにハーランはくるりと背を向けると、山と麦畑とを背に、村らしきものがある方向へと歩き出した。

 村の入口近くでハーランは足を止めた。建物が一軒を残して灰になっているのが見えたからだ。

 ハーランはにやにやと笑った。

(この時代の奴らにとっては『徹底的な焼き討ち』だろうが、俺に言わせれば、どうせやるならすべて更地にして、ゴミも残さず綺麗に焼き払えって感じだな)

 ハーランはおもむろに、村の方へと足を踏み入れた。

 村の入口を潜るとき、煤と埃まみれになった小さな看板がハーランの目にちらりと見えた。

 看板には「LEARI」という文字があった。


139:【Marotta】タヌがもう一度行きたい場所、マイヨがもう一度行きたい場所2025/06/23 00:32

139:【Marotta】もう一度(1)2020/03/16 20:00



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 文字通りの三寒四温な日々ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 さて、無事に連載再開と相成りました。

 前回までの分が、事実上、新刊7巻収録分となりますが、かなりの編集が入ることになります。頃合いを見て準拠する増補をしていく予定でいます。

 なお、即売会の参加予定ですが、今年はコロナウィルス騒ぎのせいでオリンピックが流動的になっています。そのため、コミケを含め、どうなることか見えません。


 現時点では、5月のコミケ、コミティア132、9月のコミティア133、11月の第三十一回文フリ東京、コミティア134へ参加予定です。

 7巻が5月コミケ初売り不可能な場合はどうしたものかという感じです。


 さて。

 物語はいよいよ15日エピソードの後半へ。タヌとマイヨはピルロへ行くことにしましたが、この先一体、何が起こるのか、恐ろしいやら楽しみやら。

 読者の皆様、どうぞ楽しみにして下さい。


 これからも応援どうぞよろしくお願い致します。


 次回の更新ですが──。


 3月19日(木)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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