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136:【Marotta】また、「アレ」か。タヌもマイヨも嫌な予感を浮かべる

前回までの「DYRA」----------

情報があってないようなものだった。だが、マイヨは決して「ない」とは思っていない。「話す気が【ない】」とわかったことを収穫とする。そして、タヌにまだ希望を捨てないようにとも告げる。

 待合所の前に、一台の乗合馬車が停まった。

「ん?」

「あれ?」

 停まった乗合馬車には行き先の表記がない。タヌとマイヨは顔を見合わせた。

 タヌは乗合馬車に近づくと、ぐるりと歩いて見回した。その間、馬車から誰も下りてくることはない。

「時刻表だと、今の時間は来ないみたいだし、車庫に戻るのかな?」

 マイヨが呟いたのと、乗合馬車の御者が「出発するよ」と声を掛けてきたのはほぼ同時だった。言い終わるなり、御者が馬に鞭を打つ。馬車がゆっくりと走り出す。タヌは馬車から離れて、見送った。

 馬車の後ろ姿を見つめていたときだった。

「あれ?」

 タヌは、馬車の後ろ小窓の向こうに、青とも金髪ともつかぬ色が印象的な長髪と三つ編み姿の、見覚えある後ろ姿を見た。

「どうしたの?」

 タヌが声を上げたことに気づいたマイヨも去って行った馬車の後ろ姿を見る。しかし、マイヨが捉えたのは、人が一人乗っているらしいということだけだった。

「マイヨさん! 今の見た!?」

「人が乗っているようだったけど、具体的な見た目は反射で……」

「マイヨさんと同じ髪の色の……あれってもしかして」

 タヌの目に、マイヨの表情がみるみるうちに厳しいものへと変わっていくのがわかる。

「それホント? 間違いなかった?」

「後ろ姿しか見えなかったから。でも、あの髪の色は」

 マイヨの表情を見ながら、タヌは自分の言葉をマイヨが信じていないだろうと察する。無理もなかった。誰よりもタヌ本人が突然のことで信じられなかったのだから。

(って、またマイヨさんと同じ姿をした人が出てくるってこと?)

 タヌの記憶にある限り、フランチェスコで出会ったアレーシと、ピルロで見かけたメイドの格好をした二人がマイヨとそっくりだった。後者は二度ほどほんの少し見ただけなので何とも言えない。それでも、砂のように消えていく瞬間を見ている。

(セータイタンマツ? だっけ? マイヨさんのものなら、マイヨさんの力で何とかすることできないのかな)

 マイヨが疲れている様子なので今すぐ聞くのは忍びない。休んで回復したようだったら、そのときに聞こう。タヌは心に決めた。今はとにかく、DYRAが戻ってくる前に面倒なことに巻き込まれないように、自分で自分の身を守る必要がある。

「マイヨさん」

 タヌは改めてマイヨに声を掛ける。

「気になっていたんですけど……実はものすごく疲れているんじゃ?」

「山を無事に越えて、逃げ切れたと緊張の糸をほんの少し緩めただけでこのザマとはね」

 タヌの声かけで、マイヨの表情が少しずつ和らいでいく。

「心配掛けてゴメンよ。けれど、タヌ君を一人にするわけにはいかない」

 マイヨの言葉を聞いて、自分のせいでマイヨが休めないのではないかとタヌは心配する。

「あの、マイヨさん、お願いだから、休んで下さい。ボクはその、少しくらいなら一人でも……っていうか、DYRAやRAAZさんがあんなことになっちゃって、この上マイヨさんまで倒れたりしたら」

「ありがとう。タヌ君。けれど、俺もタヌ君を一人にはできないよ」

「ボクはDYRAが戻るまでの間くらいな……」

 タヌの言葉は続かなかった。

「ダメだ。それこそ俺がDYRAやRAAZから半殺し、じゃ済まされない」

 マイヨがここで言葉を切ると、落ち着きを取り戻そうとするかのようにあたりを見回す。人どころか小動物の気配はもちろん、馬車の蹄の音も聞こえない。聞こえてくるのは風で待合所の周囲の木々が微かに揺れる音だけだった。その後、深呼吸をしてから改めてタヌを見る。

「タヌ君。こういうことを言ってタヌ君を怖がらせたり不安がらせたりするのは俺も本意じゃない。けれど、この先を考えると、多少はハッキリ言った方がいいんだろうね」

 余計な圧を掛けないために、マイヨは無理矢理いつもの柔らかい表情に戻そうと努めたのではないか。そして、これからマイヨが話すことは、自分にとても厳しいことかも知れない。タヌは内心、覚悟を決める。

「タヌ君。君はこれから、今まで以上に大変な思いをするよ?」

「今まで以上に大変?」

「ああ。ハッキリ言う。この先、DYRA以外の全員から狙われると思った方が良い」

 タヌは我が耳を疑った。特に、DYRA以外の全員から、というくだりは、言い方を変えればマイヨですら狙うと言っているようにも聞こえる。

「ど、どうして!? ど、どういうことですか!?」

「どうしてと聞きたい気持ちはわかる。けれど、今はまず、そういう立場になったことだけ、覚えておくんだ。まだ、詳しいことは知らなくて良い」

 タヌはマイヨへ、話して欲しいと視線で訴えた。自分に関わる問題なのに自分自身が知らなくて良いなど、有り得ないのだから、と。

「うーん。どう説明すればいいのかな。……タヌ君。前にフランチェスコでお母さんがあんなことになっちゃった理由、覚えている?」

 マイヨからの質問を受けたタヌは、フランチェスコでの問題の瞬間を思い出していた。母親が、母親であることを捨てた瞬間のことだ。


「タヌ。『鍵』を渡しなさい。お父さんの書斎から箱がなくなっていたことは知っているのよ? 数日前、西の外れの小屋で箱とメモだけが見つかっているの!」


「そうだ。ボク……」

 タヌは空を見上げてから、今度は深い溜息をついて俯いた。

「……そうだった。ボク、色んなことがありすぎて……」

 母親がどうして死んだのかはもちろん、死んだ事実さえ忘却の彼方にやってしまうところだった。しかし、タヌの言葉は最後まで続かなかった。

「タヌ君。そのこと自体は、結果的に俺にも多少の責任がある」

 自分の意思で手を下したわけではない。だが、マイヨは自分自身より先に生体端末が起動していたことを奇貨として、外の世界の情報を集め続けていた。その点について管理責任がないと言えば嘘になる。

 それでも、タヌは決してマイヨを責めなかった。

「マイヨさんのせいじゃないです。マイヨさんはむしろ、『自分じゃない』って身の潔白を証明しようとして、同じ姿の、そう、母さんを殺したアレーシを自分で殺した。何て言うか、自分の身内みたいなものを、その」

 そのとき、タヌの両肩にマイヨが手を置く。

「タヌ君は……悲しむ時間が、あの後から未だになかったんだね」

「ええ、はい」

「……俺はそんなタヌ君に追い打ちを掛けるようなことを言うかもね」

「だ、大丈夫です。言って下さい」

「あのときお母さんが君から奪い取ろうとしたものは、皆が欲しがっているものなんだ」

 錬金協会の人間が狙っていることはタヌも何となくわかっていた。しかし、それを皆と言われるとピンとこない。

「どういうことですか?」

「DYRA以外、全員、だよ」

「皆って?」

「そう。錬金協会だけじゃない。RAAZも、そしてハーランもだ」

「ハーランさんも!?」

 マイヨからの指摘にタヌは声を上げてしまったが、信じられないなどの感情を抱くことはなかった。


「この少年の父親が、『鍵』を持っていたんだよ?」


 RAAZと一戦交えた後のハーランが去り際に言い残した一言を思い出したタヌは、何となく納得する。

「マイヨさん。知っているなら、教えて下さい」

「ん?」

「『鍵』って、何の『鍵』なんですか? 錬金協会の印くらいにしか……」

「タヌ君。今はまだ知らない方が良い。ただ、お父さんの持っていた大切なものだから、お父さんを見つけるためにも絶対他人に渡しちゃいけない。今はそれだけわかっていれば良いよ」

「でも、じゃ、どうしてRAAZさんは」

 特にRAAZなら『鍵』を奪い取る機会が何度かあったはずだ。だが、RAAZはそんなことをしていない。タヌは不思議に思う。

「これは俺の想像だけど……。ハーランが出てこなければ、DYRAと一緒にいる限り、タヌ君が持っている分には、って気持ちだったんじゃないかな」

「ボクなら?」

「多分ね。俺の勝手な想像だよ」

 しかし、タヌはまだ食い下がる。

「あの、マイヨさんはこの『鍵』が何か知っているんですよね?」

「あくまでも何となく、だけどね」

 マイヨはにこやかな表情で頷いた。だが、タヌはマイヨの表情を冷静に見ていた。その表情とはおよそ不釣り合いな視線の冷たさを。

(マイヨさんは多分、『鍵』が何かを正確に知っている!)

「さ。そろそろ戻ろうか。何か、結構外れの方まで歩いちゃったしね」

 マイヨは何食わぬ顔で話題を変える。

「お昼ごはんも食べそびれちゃったし、時間も時間だ。戻ったら早めの夕ご飯にしよう」

 言われたタヌは、空を見上げた。気がつけば、ここに来たときアクアマリン色だった空に、いつしか微かなカーネリアン色が混じり始めている。

 タヌとマイヨは、この後ほどなくして姿を見せた乗合馬車に乗ると、来た道を戻った。


136:【Marotta】また、「アレ」か。タヌもマイヨも嫌な予感を浮かべる2025/06/22 23:50

136:【Marotta】実質6時間(1)2020/01/30 22:00



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 寒くなったり、妙に暖かくなったり、三寒四温が早まってしまったのかと狼狽えている今日このごろです。

 皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 いやぁ、「そっちのシュミ」はないと言いつつ、君たち一体何やってンの状態の今回。来月はちょっと、珈琲を飲みながらとか、モノを頬張りながら読むのは避けた方がいいかも知れません(うそです)。


 あと、重要なお知らせです。

 現在、「小説家になろう」の方では、22時の更新とさせていただいておりましたが、次回、2月からは、20時更新とさせていただきます。

 つまるところが2時間早まりますよ、ということです。

 大事なことなので、お知らせしました。


 さて。来る2月9日のコミティア131にサークル参加することになりました。

 サークルスペースは 西1ホール 「け」06b サークル名は「11PK」でございます。

 当日東京ビッグサイトへ訪れるご予定の皆さまにおかれましては、是非当サークルへも足を運んでいただければと存じます。

 なお、当日は、文庫本6冊、全部持ってきます。



 次回の更新ですが──。


 2月3日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆最新話更新は、「pixiv」の方が12時間ばかり、早くなっております☆


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