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133:【Marotta】タヌ、思い切って錬金協会の建物を訪れる

前回までの「DYRA」----------

タヌとマイヨは動き出すにあたって、リフレッシュを兼ねて食事を取る。もちろん、これからどうするかを考えるためなのは言うまでもないが、これが「本当の腹が減っては戦はできぬ」とも。


 翌朝。

「ここが錬金協会の支部、ね……」

 タヌはマイヨと共に、マロッタの中心街の一角にある錬金協会を訪ねた。

「立入禁止みたいな物々しいところかと心配したけど」

「図書館も博物館もあるし、堂々と入っていいってことだ」

 マイヨが指差す入口の看板を読む。タヌは、入ろうと視線でマイヨに訴えた。

「んじゃ、行きますか」

 マイヨの言葉を合図に、二人が門を潜ったときだった。

 突然、門から見て真正面にある二階建ての建物の大きな扉が開き、中から人が出てきた。

 出てくる人物がちらりと見えたとき、タヌは声を上げそうになった。そのときだった。

 突然、タヌは口を塞がれ、身体を引っ張られると、そのまま敷地の外、角の路地裏へ引き込まれた。マイヨさん、と声を出すこともままならない。

「ん……!」

 タヌの口を塞いだまま、マイヨがそっと路地裏から覗き見る。扉から出てきた小柄な人物が敷地の外へ出ると、タヌやマイヨのいる方向とは逆方向へ去った。

「ごめんごめん」

 口元を押さえていた手を離してから謝罪するマイヨに、タヌは困惑した。

「マイヨさん。ボク、あの子のこ……」

 タヌの言い掛けた言葉は続かなかった。

「ごめんね」

 マイヨが自らの人差し指を口元において、静粛を乞うてきたことに、タヌが不思議そうな顔をしてみせる。

「タヌ君。お父さんを捜したいんだよね?」

「え、うん」

「今日はやることも考えることも多いよ? 油売っている暇はないからね」

 タヌはマイヨの表情に目を疑った。口調は柔らかいが、有無を言わせない響きがある上、マイヨの視線が明らかにいつもと違う。感情がまったく見えない。

(えっ!)

 マイヨの瞳の輝きが恐ろしく冷たい。ハーランのそれとは違うが、初めてDYRAと出会ったときを思い出してしまいそうなほどだ。

「さ。調べるものを調べないと」

 一瞬前までが嘘のように、マイヨはいつも通りの穏やかな姿に戻っていた。タヌは、何だったのだろうと思いつつも、今、それを聞くのは時間の無駄になると、頷くだけに留めた。

「タヌ君。それじゃ、改めて」

 改めて、タヌはマイヨと共に錬金協会の正門に立つと、中へと踏み込んだ。二人は正面の建物へと歩いて行き、タヌが扉の取っ手に手を掛ける。

 タヌが扉を引いてみると、鍵などは掛かっておらず、あっさりと開いた。

「マイヨさん」

 扉が開きましたよ、と口を動かすだけで声に出すことなくタヌは告げた。マイヨが二度ほど頷いたので、タヌはゆっくり建物の中へ入った。マイヨも続く。

 ひんやりとした空気が二人を迎えた。

「いらっしゃいませ」

 入って正面はホールになっており、扉が三つと、上へ行く階段とがあった。また、三つの扉を遮るようにテーブルが置かれており、そこに若い女性が一人座っている。テーブルの上には「受付」というプレートが載っていた。

「あの、すいません。図書館を利用していいですか?」

 タヌが小さな声で尋ねると、受付の若い女性は「こちらです。扉を潜って廊下を通り抜けて下さい」と言いながら、左手で彼女の後ろにある扉の一つを指し示した。

「ありがとうございます」

 タヌとマイヨが進もうとしたときだった。

「あれ?」

 突然、頭の上から若い男の声が聞こえた。タヌとマイヨは反射的に声のした方を見る。上の階からまさに下りようとしている、黒い上着に身を包んだ、金髪の男が立っていた。

(あっ!)

 タヌは、金髪の男に見覚えがあった。フランチェスコからメレトへ逃げたときに世話になった人物だ。

 マイヨもまた、数日前にピルロであった男だとすぐにわかる。

 タヌにとっても、マイヨにとっても、思わぬ再会だった。

「あっ」

「ああ」

「あー!」

 タヌとマイヨ、そして階段のところに立っていた金髪の男はほぼ同時に声を上げた。

「た、確か、ディミトリさん」

「この間、ピルロではどうも」

 先に声を掛けたのはタヌとマイヨだった。

「タヌ……と、アレーシ、いや、マイヨ・アレーシだっけか」

「マイヨでいいよ」

 マイヨはニッコリ笑って告げる。マイヨとディミトリが顔見知りだったことを知らなかったタヌは目を丸くするばかりだ。

「マイヨさん、知っていたの?」

「んー。この間、ピルロで会って色々とお話をしたんだ」

 タヌが意外だと言いたげな表情をしてみせた。その間、マイヨはディミトリに下りてくるように手招きする。

「おいおい。誰に向かって指図するかなあ」

 ディミトリが困った顔をしながら下りてくる様子がタヌの視界に入る。

「ったく。いちおーさー」

 下りてきたディミトリがマイヨに軽く毒づく。しかし、マイヨは意に介する風もない。

「知らないことばっかりの坊やが、何を言っているのかな?」

 マイヨがディミトリの背中にさっと手を回し、小声だが勝ち誇ったような口調で耳打ちした。

「だーっ。ったく、足下見やがって」

 ディミトリの表情がくるくる変わっていく。タヌは笑いそうになるが、必死に堪えた。一方、受付の若い女性もちらりと見ては、笑うまいと堪えている。

「今日はちょっと、縁ある男の子のことで調べ物があってここに来たんだけどね。いや、ちょうどいいところに。俺、運がいいなぁ。はははは」

 わざとらしいくらい大げさに、思わせ振りに切り出すマイヨ。ディミトリは渋い顔をしている。タヌは、ディミトリに悪いことをしているかも知れないと少しだけ申し訳ない気持ちになる。

「マ、マイヨさん……」

 タヌがマイヨに声を掛けようとするが、できなかった。

「わーった、わーったっ! 聞いてやっから」

「助かるな。有り難い」

 この後、タヌの目の前で、マイヨはディミトリとあれよあれよという間に話をまとめてしまった。

 タヌとマイヨは二階にあるディミトリの仕事部屋兼応接室へと案内された。テーブルに三人分の紅茶が注がれたティーカップとケーキが載った皿、それに大きなティーポットが置かれた。

「今日はそっちが聞きたいことがあるって来たんだ。じゃー、俺も聞きたいことを聞くからな?」

「もちろん、いいよ」

 マイヨは質問されることなど折り込み済みと言いたいのか、余裕ある表情を見せている。

「じゃ、そういうことで」

 タヌはここで、マイヨが自分を見ていることに気づいた。

「タヌ君。彼は錬金協会のそこそこ偉い人だから、何でも質問していいよ?」

 笑顔でマイヨが告げると、タヌは心底申し訳なさそうな表情でディミトリを見る。

「あの、この間は、ありがとうございました。ディミトリさん」

 ぺこりと頭を下げたタヌの表情と第一声に、マイヨが意外そうな表情をしてみせる。

「直接面識、あったの?」

「はい。えっと、ボク、錬金協会の人に助けてもらったことがあって、そのときにいたのが……」

「そうだったんだ」

 やりとりが一区切りしたところで、ディミトリが頷く。

「俺も聞きたいことがあるから、ちょうどいいや」

「あのっ」

 タヌは一呼吸置いてから切り出した。

「ボクの父さん、いえ、ボクの父は錬金協会と縁があったんでしょうか?」

 のっけから核心を突く質問を発したタヌ。

「おいおい、いきなりかよ」

「あっ! ご、ごめんなさい」

 タヌは、ディミトリへ一番大事なことを言っていなかったと気づき、言い直す。

「あの、ボクの父さんは学者みたいな人で、錬金協会とも縁があったかなって思って。父さんの名前はフィリッポ・クラウディージョ。村では『ピッポ』って呼ばれてました」

 しばしの沈黙の後だった。

「……ああ」

 ディミトリが小声で答えて、頷いた。

「俺も最近知った。ぶっちゃけ、昨日一昨日レベルだ」

 タヌは、何と返せばいいのか一瞬、言葉が思い浮かばない。

「まぁ何だ。正直、俺も実のところ、イスラ様から聞いたばっかりなんだ。イスラ様ってのは、お前のことを気に掛けていた副会長な」

 ディミトリの言葉で、タヌは誰のことか理解した。フランチェスコの図書館で出会い、その後、脱出したときには馬車でメレトまで連れて行ってくれた老人のことだ、と。

 ここで、ディミトリがマイヨに視線をやる。

「本当なら、お前に俺が聞きたいことをぶつけてから話す方がいいんだけどよ。けど、俺も色々話しながらでないと、質問したいことさえまとめられないんだ」

 タヌは聞きながら、内心、ディミトリの質問にマイヨが答えないようなことになれば何も話してもらえないかもと危惧していた。それ故、ディミトリの言葉を聞いて安堵した。

 ここで、マイヨがディミトリに、話してほしいと視線で促した。タヌは、マイヨが答える気がないとか言い出したりする心配がなさそうだとも思った。

「イスラ様の話の受け売りだけど。お前の親父さんは、俺が錬金協会に入るずっと前に、協会とは関係があった……」

 ディミトリの言葉は、扉の開く音に遮られた。


「失礼するよ」

 開いた扉の向こうに立っていた男性は、ウェーブがかった短いシルバーグレーの髪が特徴的な、眼光鋭い老人だった。部屋へ入ってくる足取りは非常にしっかりとしており、皺が刻まれた顔から想像できるほど老いているとは思えない。

「あっ」

 タヌはその人物が誰かわかると、すぐさま立ち上がり、頭を深々と下げた。タヌだけではない。ディミトリも立ち上がって、頭を下げている。マイヨだけは座ったままだ。

「いやいや、気にせずに。今、受付さんからディミトリに約束無しのお客が来ていると聞いてね。どんな人かと聞いて、もしかしたらと思って顔を出させてもらったよ」

 老人は次に、マイヨを見る。

「おや。髪を切って随分雰囲気が変わったね?」

 自分たちが知っている人物とは別人であることをディミトリが老人に説明をしようとするが、できなかった。マイヨが自分で告げると言いたげにディミトリを軽く睨んだからだ。

「いえ。初めまして、ですよ」

「そうだったかな?」

「ええ。貴方が会ったその人は、俺のそっくりさんじゃないのかな」

 金色と銀色、左右異なる色の瞳が睨むとも見下すとも取れる輝きで、老人を捉えて離さない。

「改めて。自分の名前はマイヨ。お見知りおきを」

「……マイヨ君、か。ふむ。君から聞きたいことがたくさん出てきそうだ」

 タヌは、老人とマイヨのやりとりを聞きながら少しだけ緊張する。老人の言葉の端々に、マイヨの視線と同じか、それ以上の鋭さを感じ取ったからだ。

「俺も貴方に聞きたいことがある」

「全員、互いに聞きたいことがある状態、か」

 扉を閉めてから、老人が三人のいるテーブルのあたりまで近づくと、ディミトリがすぐさま席を譲る。

「まずはそう……この子の、お父さんのことから、かな?」

「はい」

 ディミトリが答えながら、老人の分の紅茶を用意する。

「じゃ、私が答えた方が良いね」

 老人が腰を下ろすと、タヌも座り直す。

「あまり多くはないかも知れないが、知っている限りのことは教えてあげよう」

「ありがとうございます」

 タヌは謝意を伝えてから質問を始めた。

「あの、父さんは錬金協会と関係があったそうですけど、一体何をやっていたんですか? どうして、レアリ村に来たんですか」

 タヌは無意識に、まくし立てるように質問をしていた。

「タヌ君。色々なことを聞きたい気持ちは良くわかる。でもね、一つずつ、だよ」

「ご、ごめんなさい」

「びっくりするかも知れないけれど、お父さんは、君とそう変わらないくらいの年の頃、錬金協会へやってきたんだ。大変な勉強家で、おまけに行動力もあった」

 老人は懐かしそうに話を始めた。タヌは意識を集中して聞き入る。


133:【Marotta】タヌ、思い切って錬金協会の建物を訪れる2025/06/22 23:18

133:【Marotta】『真実』という名の真実(1)2020/01/20 22:00



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 喘息が治らず、朝8時前まで寝られない日々が続いたこともあり、とうとう医者に相談、薬を変えました。ようやく落ち着きを取り戻し始めた今日このごろです。

 皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 来る2月9日のコミティア131にサークル参加することになりました。

 サークルスペースは 西1ホール 「け」06b サークル名は「11PK」でございます。

 当日東京ビッグサイトへ訪れるご予定の皆さまにおかれましては、是非当サークルへも足を運んでいただければと存じます。

 なお、当日は、文庫本6冊、全部持ってきます。



 次回の更新ですが──。


 1月23日(木)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆現在、最新話更新は、「pixiv」の方が14時間ばかり、早くなっております☆


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