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132:【Marotta】食事をしながら、タヌとマイヨは小休止

前回までの「DYRA」----------

タヌとマイヨがマロッタへたどり着いた頃、RAAZもハーランもそれぞれ、次手を考え始め、動き出す。


 陽がすっかり落ちたところで、マイヨと共にタヌは宿屋を出ると、マロッタの中心街の方へと歩いて行った。

「マイヨさん。ごはん、どこ行くんですか?」

「おしゃべりしやすいところで、これからのことを話せるところ」

 中心街の近くまで着くと、通りは人で賑わっていた。

「何か、お店がいっぱい出ていますね」

 タヌはあたりの風景をきょろきょろと見回していた。ペッレやフランチェスコも賑わっている街だったが、目抜き通りにひしめくほどにたくさんの店はなかった。

「タヌ君。もうすぐ着くよ」

「はい」

「そこの、あのお店」

 タヌは、マイヨが示した先に視線をやった。『アセンシオ』と書かれた看板が見える、洒落た雰囲気の外装が見えてきた。

「あそこは、話しやすそうだ」

 テラス席を指差しながら、マイヨがタヌへ告げた。

 店の入口の周囲には四つのパラソルの下にそれぞれテーブルがあり、それぞれに椅子が四つずつ。どの椅子にも膝掛けが掛けられており、さらにテーブルごとに足下に薪ストーブらしきものまで置いてある。晩秋の朝晩は冷えることから、少しでも快適に過ごせるようにと用意しているのだろう。

 マイヨが入口の脇のテーブル席を指すと、タヌは笑顔で頷いた。

 タヌとマイヨは、店の入口の扉から一番近くにあるテラス席に腰を下ろした。

 二人が着席すると、ほどなく店の扉が開き、黒いエプロンを着けた金髪の中年男の給仕がメニューらしき紙を手に現れ、明るい声で出迎えた。

「いらっしゃいませ」

 金髪の給仕がメニューらしき紙を提示しようとしたときだった。

「おや? お兄さん、昨日も来て下さっていましたよね?」

 その台詞に、タヌは、マイヨと給仕とに視線を行ったり来たりさせる。

「あ、ああ。昨日はありがとう。いいお店だったから、今日はツレを、ね」

「ありがとうございます!」

 金髪の給仕は、笑顔で謝意を示した。

「温かくて、美味しそうなもの、用意してもらえるかな?」

「今日は豪勢に行っちゃっても、いいんですかね?」

「むしろ、この子の分はそうして欲しいな。任せるから。温かくて、美味しいものを」

 マイヨはタヌが事実上、何も食べていなかったことを思い出すとそう答えた。

「かーしこまりましたー!」

 金髪の給仕は笑顔で大きく頷くと、軽い足取りで店内へと戻っていった。そして入れ替わるように若い給仕が現れると、二人のテーブルに温かい紅茶が入ったポットと厚みのあるガラス製カップ二つを置いていった。

「サービス、いいね」

 マイヨはカップに紅茶を注いでいった。

 タヌの前にカップを置いたマイヨは周囲をざっと見回す。

(えっ?)

 周囲を見回すマイヨの視線の鋭さに、タヌは何かあったのだろうかと気になった。

「タヌ君」

 マイヨの声が半トーンほど低い。タヌは、マイヨがこれから話すことが大事な話かも知れないと本能的に察知した。

「さ。今日を入れて一三日、でももう夜だから、事実上一二日しかない。動かないとね」

 タヌは気持ち大きく頷いた。

「それで聞きたいことがあるんだ。お父さんのことだ。大事なことだから答えてくれるかな」

 父親にまつわる話と言われ、タヌは気持ち前のめりの姿勢になってマイヨの言葉に耳を傾ける。

「タヌ君。君のお父さんは、何をしていたかとか、お父さん自身の口から聞いたことはある?」

 マイヨからの質問に、タヌは首を小さく横に振った。

「全然ないです。父さんはそういうことをあまり話したがらなかったから」

「じゃ、質問を変えるよ。タヌ君と話すときって、お父さん、どんな話をしていたの?」

 タヌは一瞬、きょとんとした顔でマイヨを見る。

「どうしたの?」

「言われて見れば……」

 タヌにとって、マイヨからの質問は思ってもみないものだったので、視線を宙に泳がせ、懸命に返す言葉を探すことしかできなかった。

「もしかして、タヌ君。お父さんとは、あまり話さなかった?」

 タヌは考える仕草をしてから、小さく頷いた。

「思い出してみると、ボクが話して、父さんは聞き役みたいな」

「聞き役?」

「はい」

「全然、お父さんは自分のこととか仕事のこととか話してくれなかった、と?」

「はい」

 タヌが返事をしたときだった。

「はい、おまたせいたしました! 今日のオススメはキノコのアヒージョと、子羊の石焼きもも肉、それに大麦とトマトのスープになります! 熱いので、お気をつけて召し上がって下さい」

 金髪の給仕が再び二人のテーブルに姿を見せると、慣れた手つきで配膳を済ませ、風のように去って行った。

「美味しそう!」

 沈みそうになっていたタヌの表情がパッと明るくなった。

「温かいモノは、温かいうちに食べよっか」

「はい!」

 二人は出された料理を食べ始めた。

「美味しい!」

 タヌは猛烈な勢いで肉を頬張った。思い出してみれば、ネスタ山を歩いたときから今まで、何も食べていなかった。肉の味が五臓六腑にしみわたる。

「作った人にも周囲の人にも『美味しい』って伝わる食べ方はマナーの善し悪しに勝る、か」

 幸せそうに食べるタヌの様子を見ながら、マイヨはクスリと笑みを浮かべた。タヌが肉とアヒージョを半分以上食べるのに時間は掛からなかった。

「もっと食べる? タヌ君」

 マイヨは言っている先から店内の見えるガラス戸を見ながら、手を上げる。すると、ほどなくして先ほどの金髪の給仕がすぐに姿を見せた。

「はい。いかがされましたか」

「追加で注文していいかな。この子、すごいお腹空いているみたいなんで、美味しそうなサイドメニューも、二、三、持ってきてよ。温かいやつね」

「かしこまりました!」

 金髪の給仕はまたしても、軽やかな足取りで店内へと姿を消した。

(ハーランに攫われてからしばらく、タヌ君は本当に大変だったんだな)

 タヌは、そのままの勢いでスープまですべてたいらげた。それから、一息ついた表情でマイヨに告げる。

「攫われちゃったとき、正直、『これからどうなっちゃうんだろう』って心配で、食事、あまり食べられなかったんです」

「言われてみれば、そうだよね。DYRAが助けに来るまで、心細かっただろう」

「はい」

 マイヨはタヌと対象的に、味わうようにゆっくりと食べている。

「そうだ。タヌ君。お父さんのことに話を戻すけど、お父さんって、ずっと調べもの、そう、研究みたいなこととかしていたの?」

 タヌは、今度は沈みそうになることなく、頷いた。

「ボクが生まれるずっと前からだって、聞いています」

「そうなんだ……」

 聞いた瞬間、マイヨはハッとした。

「タヌ君。それってもしかして、お母さんと結婚する前からってこと?」

「母さんの話では、そうみたいです。母さんもあんまり詳しくは……」

 タヌの言葉は、マイヨの耳に入っていなかった。

(おいおい。ちょっと待てよ)

 マイヨの脳裏に、フランチェスコで聞いたある言葉が蘇っていた。


「お前の父親は、ラ・モルテと呼ばれる者が青い花びらを舞わせるたびに周囲が枯れ落ちていく現象の研究をしていた。平たく言ってやる。DYRAの不老不死を断ち切り、殺すための研究だ」


 マイヨの中で、一つの仮説が立ち始めた。

(殺す相手が、DYRAじゃなくて、RAAZだったら?)

 タヌは、食事中とは思えない厳しい表情で考えごとを始めたマイヨを心配そうに見つめた。

(マイヨさん。何か、ボクの父さんのことで、思い当たることとかあるのかなぁ)


 マイヨは、タヌに踏み込んで確認しようと思うと同時に、答え如何で次に何をするべきか見えるだろうと思う。追加注文した食べ物も含め、すべて食べ終わったのを見計らって、タヌに問いかける。

「タヌ君。お父さんとお母さんは研究で知り合ったの?」

「多分、そうだと思います」

「ってことは、何だっけ? お父さんも錬金協会にいたってことでいいのかな?」

(正直……)

 思い返せば、両親のなれそめなどタヌは聞いたことがない。知らないと答えればいいだけのことだ。しかし、本当にそう答えていいのだろうかともタヌは考える。考えなしに答えてしまえば先に進めなくなるような気がしてならなかった。

(母さんはともかく、父さんは無関係だろうか?)

 タヌが記憶の糸をたどる。しかし、覚えている限りの記憶を探っても、どちらとも言えなかった。

「父さんが錬金協会にいたかどうかは、正直、ボク、わかりません」

 ウソをついても仕方が無い。タヌは、答えた。

「父さん、そういう話をボクにほとんどしていないし」

 タヌがマイヨの表情をじっと見る。失望したといった風ではなかった。むしろ、そこから別のことを考えているような感じだ。

「タヌ君」

「は、はい」

「この機会に、お父さんのことを調べられる限り、調べてみない?」

 マイヨがいたずらっ子のような笑みを浮かべてタヌに提案する。

「え!」

 そんな提案をされると思っていなかったタヌは驚いた。

「タヌ君にできることをやろうと思ったら、DYRAが戻ってきたとき、お父さんを捜しやすいように、少しでも手掛かりを集めておくことじゃないかな」

 マイヨの言葉に、タヌはその通りだと心から思う。ここまで旅を続けてきたタヌには、どうしても気になることもある。


「お前の父親は、ラ・モルテと呼ばれる者が青い花びらを舞わせるたびに周囲が枯れ落ちていく現象の研究をしていた。平たく言ってやる。DYRAの不老不死を断ち切り、殺すための研究だ」


 マイヨと同じ姿をした男、アレーシが言ったこの言葉の真偽のほどだ。

(父さんが……)

 果たして、父親が本当にDYRAを殺そうなんて研究をしていたのか。もし事実なら何のためにやっていたのか。砂になった場所を再生させるとかならともかく、ズバリ「殺すため」にと言い切られてしまうと、なおさらその理由を知りたい。タヌは、DYRAと共にフランチェスコを脱出した後、しばらく考える余裕がなかった。だからこそ、マイヨからの提案に、調べるなら今しかないと考えるようになっていた。

 そのときだった。

「はい。お口直しのデザートとコーヒー、お待たせいたしました」

 金髪の給仕が姿を見せると、二人の前に、洋梨のオーブン焼きと、ココアが置かれていった。

「いい匂い」

「どうぞどうぞ。今日のデザートはサービスにしておきますんで」

 言いながら、金髪の給仕はマイヨの前にそっと伝票を置いた。マイヨがそれをちらりと見ると、財布からアウレウス金貨二枚を取り出し、支払を済ませる。

「お釣りはいらないよ。多分、数日ばかり、お世話になると思うから」

「お客さん。ありがとうございます。今後ともご贔屓に」

 金髪の給仕はエプロンのポケットに金貨を収めると、軽やかな足取りで店内へと戻り、窓際の席での接客に入った。

 顛末を見届けたタヌは、目を丸くしていた。サルヴァトーレのようなことをする人が他にもいるとは思わなかったからだ。

「それじゃ改めて。タヌ君。明日のアサイチで錬金協会の建物へ行ってみようか」

 父親にまつわる真実を求めにいく。タヌは前向きな気持ちを取り戻していた。


132:【Marotta】食事をしながら、タヌとマイヨは小休止2025/06/22 23:07

132:【Marotta】父を知る人(2)2020/01/16 22:00



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 風邪だと思ったら実は喘息でした。いまなお、咳が治まらない今日このごろです。

 皆様いかがお過ごしでしょうか。


 今回もお読み下さり、心から感謝いたします。ありがとうございます。

 ブックマークしてもらえたり感想とかいただけるととっても嬉しいです。


 来る2月9日のコミティア131にサークル参加することになりそうです。

 サークルスペースは 西1ホール 「け」06b に決まりました。

 当日東京ビッグサイトへ訪れるご予定の皆さまにおかれましては、是非当サークルへも足を運んでいただければと存じます。



 次回の更新ですが──。


 1月20日(月)予定です!

 日程は詳しくはtwitterでお伝えします。よろしくお願いいたします。


 次回も是非、お楽しみに!


 愛と感謝を込めて


 ☆現在、最新話更新は、「pixiv」の方が14時間ばかり、早くなっております☆


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