115:【CHAMBER】DYRAは無事に、マイヨやRAAZと合流する
前回までの「DYRA」----------
DYRAは「死んだ土地」で目を覚ます。RAAZからの手紙での最後の忠告を振り切ると、手掛かりとなる場所へ行くべく、山を上り始めた。
「マイヨか?」
白い立ち襟服に鉄扇を手にした男がDYRAの前に姿を現した。マイヨ・アレーシだ。
「待たせてもらった」
まさかマイヨの口からそんな言葉が飛び出すとは夢にも思っていなかったDYRAは持っていた白い四角い鞄を手放す。空いた手の周囲に青い花びらが大量に舞い、鞄が地面に落ちるより一瞬早く、蛇腹剣が顕現した。
「どういうことだ? そうだ。お前、知っているなら教えろ。タヌはどこにいる?」
DYRAは素っ気なく告げた。
「待ってくれ。俺は君とコトを構えに来たんじゃないんだけど?」
「ならば、答えろ」
DYRAは剣状の蛇腹剣の先端をマイヨへ向ける。夜だというのに、サファイア色の輝きを放つ刀身にマイヨの姿が映る。
「あのさ。ピルロでタヌ君があんなことになったから、助けに行きたいのはわかる。でも、俺は君を一人で行かせるのは賛成できないんだけど?」
言いながら鉄扇を仕舞ったマイヨの両手の周囲に黒い花びらが舞い上がり、双剣が形成されていく。
「力ずくでも止める、ということか?」
「一人で、何一つ事情も知らずに突っ込むつもりならね」
「時間が惜しい。邪魔だ」
「タヌ君は大丈夫だ」
「どうしてお前にわかる?」
DYRAが問いかけたとき、マイヨは両手に持った剣を上げて交差させ、蛇腹剣を挟むように構える。
「ハーランは君とRAAZに用があるから、タヌ君を押さえたんだろう? 君が考えなしに行けば、逆にタヌ君は用無しになって処分される」
「ならば何故、奴はピルロで私を連れて行かなかった?」
マイヨの双剣から自らの刃に自由を取り戻そうと、DYRAは蛇腹剣の切っ先を一度上げてから、すぐさま構え直す。
「あの場所は、奴にとってアウェーだったからさ」
マイヨも双剣を構え直した。
「要するに、奴も自分に不利な場所では戦いたくないってこと」
「どういうことだ? それに、誰であろうが、自分に不利なところで戦いたくないのは同じだ。わかりきったことを言って、バカにしているのか?」
「俺に言わせれば、今の君がバカだよ。君は、場所もそうだけど、相手のことも何も知らないじゃないか」
指摘があまりにも正しいため、DYRAは言い返すことができない。
「DYRA。言っておくけど、俺でさえ、奴に両手両足をバラバラにされかけたんだ」
マイヨの言葉に、DYRAは一瞬、目を見開いて驚きの色を見せる。
「それでも、タヌを助けに」
「どんな奴かも知らないで、闇雲にタヌ君を助けに行こうというのはオススメしないよ」
DYRAとマイヨは剣を構え、睨み合う。
「そこを退け」
「DYRA。いったん、現実を見ようよ」
マイヨの、DYRAを諫める言葉は続く。
「こういう言い方はイヤだけど、君を奴に取られるのは、RAAZにとっても不利なんだ。まあ、君にとってRAAZの有利不利はどうでもいいのかも知れない。でも、君を奪われたとかいう腹いせでまた文明をズタボロにされちゃ、この時代の人たちはたまったもんじゃない」
このときDYRAは、決断を下そうとしていた。
「お前も、RAAZの都合で私を止めるというんだな?」
「『考えなしに行くな』と言っている。自分と相手と環境を全部突き合わせてからやってくれ、そう言っているんだ」
DYRAが蛇腹剣をマイヨに振り下ろそうとしたときだった。
「言い草は気に入らないが、本当に、それだ」
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「RAAZ?」
「RAAZ、か? いたんだ?」
DYRAもマイヨも、剣先を互いに向けたまま、姿見せぬ三人目に警戒する。
「そんな甘っちょろい警戒しかできないから、バラバラにされかけたんじゃないのか? ぁ?」
声と同時に、大木がざわついた。
「!」
マイヨが反射的に横へ飛んで回避しつつ、双剣を振るう。対象的に、DYRAは剣を構えたまま、一歩たりとも動くことはなかった。
先ほどまでマイヨが立っていた場所に、今はRAAZがいる。
「隠れて聞いているなんて、悪趣味の極みだな」
木の上から全部見ていたとは。毒を込めた口調でマイヨが呟くと、柄を握っていた両手を開く。双剣が黒い花びらが織りなす小さな嵐に包まれ、霧散していった。
RAAZはDYRAの方を見る。
「随分遅かったなと言いたいが……ここにたどり着いたということは、キミの本気は本物だったということか。こんな見つけにくい場所を見つけ出したとは」
DYRAもマイヨと同じように、蛇腹剣を握る手を離した。青い花びらが剣の周囲に舞い、木枯らしのように剣を包み込んで、その姿を霧散させた。
「じゃ。揃ったようだし彼女に色々話しておこうか」
「そう、だな」
RAAZが笑みを浮かべると、マイヨは対象的にやれやれと言いたげな表情をして見せた。
「ISLA。ここは場所が悪い。少し、場所を変えよう」
場所が悪いの一言が意味するところを察し、マイヨはすぐに頷いた。
「ああ。俺もそれは賛成だ」
マイヨの返事を聞くと、RAAZはDYRAの鞄を手に取り、ついてくるよう手振りで告げた。
「陽が落ちている。どこへ?」
「すぐそこだ」
RAAZについていく形で、DYRAとマイヨは木々が生い茂る森の中を歩いていく。
「おいおい。どこへ行くんだ?」
「すぐそこだと言っただろう?」
森の中を半時ほど歩いた三人は、広いとは言えないものの、野営地に使えそうな一角にたどり着いた。
「結構歩いたぞ?」
「偵察のときはこの一〇倍は歩いただろ?」
「まぁ、ね」
男二人の会話に、DYRAが割って入る。
「ここならランタンをつけても、木々の背が高いから、見つからないんじゃないか?」
DYRAが告げると、男二人は相次いで頷いた。
DYRAは鞄をRAAZから受け取ってランタンを取り出し、火を灯した。
三人がそれぞれの位置でランタンの灯りを囲む。男二人は手近な大木を背もたれ代わりにして立った。DYRAは鞄を敷物代わりにして座ることにした。
「じゃ、本題に入るか」
最初に切り出したのは、RAAZだった。
「ハーランが出てきたのは、私にとって大きな計算外だった。実のところ、お前が黒幕だと思っていたからな」
マイヨが首を軽く横に振った。
「ひどい言われようだ。悪いが、俺もハーランに叩き起こされたクチだぜ?」
そこへ、何となく状況を呑んだDYRAが口を挟む。
「長い話に、なるのか?」
マイヨは頷いた。
「DYRA。本当にタヌ君を助けに行くつもりなら、これから話すことを予備知識として知って、いや、頭に叩き込んでおく必要がある」
改訂の上、再掲
115:【CHAMBER】DYRAは無事に、マイヨやRAAZと合流する2025/01/15 13:34
115:【CHAMBER】廃墟と真実(1)2019/08/29 22:00
CHAPTER 115 再会した男たち2018/02/26 23:00